機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結>   作:水冷山賊1250F

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オデッサ作戦開始です。


第40話  オデッサの日

 ホワイトベースブリッジ

 ブライト・ノア

 遂に、オデッサ作戦が開始された。我々はオデッサの東ムィコラーイウ方面から進軍する。今回の我々の陣形は変則的な物となっている。

 フロントマンはアレックスとスプリガンのツートップ。その後ろに強襲型ガンキャノン、さらに後方はリュウのガンキャノンのY字隊形だ。ハヤトとカイは、ホワイトベースの直援に回っている。さらにアグレッサー部隊が遊撃に回り、敵を引っ掻き回す。

 圧倒的と言って良い。何の障害もなく、ジオン軍の勢力圏を進んでいる。まず、フロントマンの2機が可笑しい位の戦果をあげている。隠れているMS等お構い無しに攻撃を加えている。何で分かるの?と思う位だ。遠回りして直接ホワイトベースを狙う敵機も、数を減らされて居るため、一度に2機をハヤトとカイが危なげなく沈めている。この二人も成長したんだなと感心させられる。全てはカシマ大尉の教育の賜物か。冗談抜きでこの部隊はエース部隊に成っていると確信させられる。内訳は、サイド7の避難民とパイロット候補生の寄せ集めとはとても思えない。あのハヤトとカイすらも頼もしく成っているのだ、戦後は教導隊を率いるべき人材だな、カシマ大尉は。

 「3時の方向、ドップの3機編隊です。」

 「対空砲火用意!よく狙って撃て。カイのガンキャノンに通信送れ。そちらでも狙い撃てとな。」

 「了解です。」

 「ジョブ機、補給に戻ります。MS7機撃破の大戦果です!」

 「よし、MSデッキに補給作業を急がせろ!ジョブは、その間暫し待機室で休憩を取れ!」

 あのジョブが今ではエースの仲間入りだ。世の中分からんものだな。

 「フロントマンの2機はまだ補給は、大丈夫か?」

 「ジョブ機が戻り次第、アレックス、スプリガンの順で補給を受けに戻るそうです。」

 「了解、その事をメカニックに伝えてくれ。彼らには悪いが、一刻も早く戦線に戻って貰わなくてはならん。」

 「了解です。」

 MS隊のスーパーエースはフロントマンの2機だからな。今も効率よく敵のMSを墜としている。敵にしてみれば鬼か悪魔だな。

 彼らがジオン軍で無くて良かったと心から思うブライトだった。

 

 オデッサ作戦旗艦サラブレッドブリッジ

 キルスティン・ロンバート

 「艦長、ガンダム両機とも補給に戻ります。」

 「よし、本艦は一時前線から後退する。MSデッキ、ガンダムの収容後補給を急がせろ。直ぐに戻って来るぞ。」

 「了解。」

 「将軍、後方のビッグトレーに移動された方がよろしいのでは?」

 「いや、この位置からが敵の状況がよく分かる。うちのMS部隊はよくやってくれているよ。エース部隊が戦線の硬直した場所に突入し、敵の戦線を崩壊させて回っている。一般の部隊もよく持ちこたえている。無理に攻めなくても、エース部隊が来ることが分かってるから時間稼ぎに回れるんだな。お蔭でジムの損耗も少ない。よく訓練されているよ。一部ジムでも突出した動きを見せるパイロットもいる。生き残って欲しいものだな。」

 「はい。この戦いに参加したパイロットは、後に大規模攻略戦の貴重な経験者となります。一人でも多く生き残り、今後の指針となって貰わなくては。」

 「そうだな。」

 流石はレビル将軍だ。もう既に次の戦いの事を考えていらっしゃる。それだけでは無く友軍のMSの動きもチェックしているとは。

 「艦長、ガンダム2機とも戻りました。」

 「よし、微速後退後に艦首180度回頭、これより一時前線から後退する。」

 「了解。こちらの抜けた穴は第41MS小隊がカバーに入りました。こちらが戦線に復帰次第、あちらも補給に入るそうです。」

 「了解。」

 ユーグ・クーロ中尉だったな。これで少しは一息入れれるな。

 「うん、あの試作型ガンタンク部隊も良い動きをしているな。地上戦限定だが、効率良く敵を倒している。それに無茶をせず上手く距離を取っている。戦車部隊は今後あの試作型ガンタンクに機種変換しても良いかもな。」

 「そうですね。」

 確かに、あのMSのなり損ないのような機体は、戦車として見ればかなり有効だ。あれなら、MS適性がないパイロットでも戦える。

 補給が終わり、我々が戦線に復帰した時、戦況はこちらに大きく傾いていた。しかし、何か変だ。順調に行きすぎている気がする。

 「レビル将軍、些か順調に行きすぎている気がします。敵は何かを狙っているのでは?」

 「例えば、シマヅの《釣り野伏せ》の類いかね?」

 「いえ、それにしては両翼の戦力が崩壊し過ぎています。しかし、オデッサ基地方面に簡単に進軍出来すぎている気もします。まるで誘き寄せられているような。このままでは、1日で作戦が終了してしまいます。宇宙への殿軍にしても抵抗が弱い。」

 「そうだな。もうそろそろ、降伏勧告を出してみるか。艦長、オープン回線を回して貰えないか?あと、この映像を記録してくれ。我々が不当な要求をしていない証拠としてな。」

 「了解です。通信員、ブリッジの記録開始。あと、オープン回線を回してくれ。」

 「了解、準備できました。どうぞ。」

 「了解。将軍、どうぞ。」

 「ありがとう。」

 将軍はマイクを持ち、暫し瞑目する。

 「こちらは、地球連邦軍、オデッサ攻略艦隊大将のレビルだ。オデッサ防衛中のジオン軍に告ぐ、ただちに武装解除し降伏せよ。こちらは、南極条約に基づく待遇を約束する。貴君等は良く戦った。これ以上命を無駄にするな!」

 暫くすると、戦線の動きが止まった。もう暫くすると、映像付きのオープン回線であちらから通信が入って来た。

 「こちら、オデッサ基地司令のマ・クベ大佐だ。連邦軍に告ぐ。直ちに武装解除して降伏せよ。こちらには、そちらを全て焼き払う用意がある。こちらの映像を見たまえ。水爆をセットされたミサイルだ。これ一つで我々はもちろん、貴様等も焼き払う事が出来る。」

 「ほう、水爆とな。確か南極条約では禁止されていたはずだが?」

 「こと、ここに至っては致し方ない。レビル、貴様が死ねば連邦軍は瓦解する。貴様を道連れなら、私の命でもお釣りが来るだろうよ。死にたく無ければ降伏するのだな。」

 「貴様一人が死ぬのは構わんが、他の将兵はどうなる?」

 「全て死ぬな。だが、それで良い。貴様ら連邦軍の主力を道連れに出来るのだからな。名誉ある戦死となろう。死して名を残せる事に成る。」

 「ふざけるな。自分の命すら大事にしないから、人の命を奪う。部下の命をすら切り捨てられる男がなぜスペースノイド全ての事を考えられると思う!死を強いる指導者のどこに真実がある!寝言を言うな!!」

 「流石はレビル、いつもの綺麗事をこの状況でも吐ける胆力、驚嘆に値する。そのような貴様だからこそ殺さねばならん。貴様がもう少し早く、連邦軍内を掌握し無能な者を排除出来ていれば、あのような事故も起きず、あのような抑圧も無かった。そしてこの戦争も起きなかったのだ!貴様は、全てが遅すぎたのだ!」

 「私が死んでもティアンム中将がいるぞ。」

 「ふん、奴など貴様の下位互換に過ぎん。貴様と戦えたこと、あの世の鬼に自慢しよう。去らばだ。」

 マ・クベ大佐が何かのスイッチを押した。オデッサ基地の後方で何かが動き出そうとしている。いかん!ここでこの名将を失ってしまう事に成る。やはり後方に下がって頂くべきであった。己の不甲斐なさに腹が立つ。

 しかし、レビル将軍はこの状況でも慌てること無く、毅然とした態度を取っている。

 「第13独立戦隊のブライト・ノアです!レビル将軍、アレックスが、敵の水爆が装填されたミサイルをキャッチしました。アレックスにミサイルの破壊を命じました。暫く結果をお待ちください。」

 「うむ、任せたよブライト艦長。」

 「ありがとうございます。何?よし!レビル将軍、アレックスがミサイルの破壊に成功しました!ビームサーベルで起爆装置を破壊し空中で切断したそうです。」

 「良くやった!ジオン軍の将兵全てに告げる!直ちにマ・クベ大佐を拘束した後、降伏せよ。我が方は貴君等を虐殺するつもりは毛頭無い。貴君等を道連れに自爆しようなどと言う、狂った者に貴君等の命を預けるな!連邦軍全軍に告ぐ。直ちに行軍停止。MS隊は警戒体制を維持せよ。」

 こ、これは、いや、この戦いは歴史になる。この名将の全てをこの目で見れた感動にうち震えてしまった。なんと言う胆力の持ち主だ。自軍の戦力を理解し、信用しきっている。彼らがミサイルの破壊に成功することを初めから分かっているとも思わせる態度だ。

 暫くすると、ジオン軍の方からマ・クベ大佐の拘束完了と降伏を申し出てきた。直ぐ様、連邦軍全軍にジオン軍捕虜を丁寧に扱う命令が出され、また彼らもこちらの指示に素直に応じた。後に一年戦争の最大の転換期と為ったこの作戦は、連邦軍、ジオン軍共に余計な血を流すこと無く粛々と終了するのだった。

 私は、この光景を生涯忘れることは無いだろう。ジオン軍将兵全てが胸を張り、縄についていく。彼らは一様にサラブレッドに向かって頭を下げるか、敬礼して憲兵に連れて行かれるのだ。この戦争の終わりが見えた気がする光景だった。

 後に判明したのだが、ミサイルに水爆は装填されており、やはり彼らがいなければ我々は全滅の憂き目にあっていたのだ。背筋が凍ったと共に、やはりレビル将軍の胆力に感嘆したのだった。

 

 




 ハイスピードオデッサでした。レビルさん、キンケドゥさんの台詞を奪うの回でした。

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