機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結>   作:水冷山賊1250F

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 久々登場のレビルさんです。


第54話  老将と赤い彗星

 ソロモン宙域近海 連邦軍合流ポイント

 連邦宇宙軍旗艦ペガサスブリッジ

 ヨハン・イブラヒム・レビル

 

 第13独立戦隊及び第11独立機械化混成部隊と合流した。いやはや、凄い戦果ですな。正直、笑いが止まりません。サイド6のジオン軍ニュータイプ研究所に強襲をかけて、被験者を救出。いや~ユウさんとマサキ君やるね~。ユーグさんも地味に活躍してるみたいだし。

 そして、なんと言っても第13独立戦隊だ。リビング・デッド師団の殆ど全員を拘束したなんて。まぁ奴等の中にはバリバリのザビ家信望者もいるが、戦後の混乱を治める意味でも捕まえられて良かったよ。ダリル君なんて、アホみたいに此方に被害を与えるからな。

 南洋連合か。今は静観しているみたいだし、此方から手を出して無いけど、牙を剥いたら潰さなきゃな。まぁ、モニカおばさんは取っ捕まえて終身刑にしたから、少しは此方を信用しているのかも知れない。

 本当、あのおばさん最低のマッドサイエンティストだったよ。クルスト博士と言い、なんでニュータイプ研究者ってろくな奴いないんだろう?頭が痛いわ。何時に成ったらマサキ君達の記憶が戻るのやら。誰か良い医者か研究者知りませんかね?

 「将軍、如何されました?ご加減でも?」

 「ん?ヘンケン艦長か。なに、大したことは無いよ、いつもの頭痛だ。それよりどうかね、この艦は?もう慣れたかね?」

 「いやはや、この前までフジ級に乗っていましたが、ここまでの艦の艦長を任されるとは。正直身に余る光栄です。ブリッジクルーも、初めの内は戸惑っていましたが、今は充分に訓練を重ねられましたからね。何時でも戦えますよ。」

 「それは心強い。しっかり頼むよ。やはり若い者に任せて良かった。」

 「ホワイトベースの教訓ですか?」

 「それも有るな。彼等は見事にやっている。新しい戦術ドクトリンを作れるくらいにな。しかし、あれは特別だよ。奇跡と言って良い。MS部隊の指揮官と艦長の意志疎通がバッチリ嵌まった好例だろう。この先の時代は、戦艦だけ又はMSだけと言う時代ではない。両者がガッチリ連携しなければ、戦えない時代になる。若い連中は、適応が早い。そういう意味でも君をこの艦の艦長に推薦したんだ。バニング君達と上手くコミュニケーションを取れているようで安心したよ。」

 「いや、此方が教えられてばかりですよ。」

 「ハハハ、それで良いのさ。もうすぐチェンバロ作戦だが、まだ時間はある。シナプス君もブライト君を高く評価していた。一度会って見てはどうかね?もうすぐ、報告に来る予定だ。その後に時間を作ろう。」

 「はっ。ありがとうございます。」

 「ウンウン。」

 若い者は良いね、何でも直ぐに吸収する。優秀な人材はいくら増えても良い。どんどん育てなくっちゃな。シナプスさんもまだまだ働いて貰わなくちゃな。

 「艦長!10時の方向からザンジバル級戦艦1、敵大型のMA1が近付いてきます!停戦信号を出しています!」

 「なにーっ!将軍!」

 「落ち着きたまえ、艦長。何か通信を入れて来てはいないかな?」

 「すいません、通信を傍受。モニターに映します。」

 「うむ。」

 「お初にお目にかかります。レビル将軍でよろしいでしょうか?」

 「うむ、そういう貴官は?」

 ウワッ!シャアだよ!!どうなってんの???

 「はっ。申し遅れました。私はジオン公国軍特別機動艦隊の一部を任されております、シャア・アズナブルと申します。階級は大佐を拝命しております。」

 ブリッジがざわめく。そりゃ赤い彗星だ。ヘンケン君が直ぐに静めてくれた。

 「フム、その赤い彗星が私に何の用だね?開戦前の挨拶かい?」

 「いえ、我々は連邦軍に投降に参ったのです。一度直接会って話を聞いては頂けないでしょうか?」

 ブリッジが更にざわめく。私は表情を崩さないだけで精一杯だ。

 「何か有ったのだろう。よし、話を聞こう。こちらの艦で良いかね?」

 「結構です。私が伺います。」

 どうなってんの???ちょっと個人回線でキイチ君に確認だ。

 「ヘンケン君、私は暫く私室に戻る。彼は会議室に通してくれ。彼が到着したら、誰かを此方に寄越してくれ。」

 「了解しました。」

 「うむ、頼むよ。」

 早速連絡だ。もう、何か有ったら早く言ってよキイチ君~。

 

 連邦宇宙軍旗艦ペガサス 会議室

 シャア・アズナブル

 私一人でも良かったのだが、シャリア・ブル大尉が一人では行かせてくれなかった。連邦軍も気にした様子は無い。そういうものなのだろうか?会議室に通され、暫く待つ。女性士官がドリンクを勧めて来たのでありがたく貰う。

 暫くすると、レビル将軍が会議室に現れた。起立しようとしたところ、待ったをかけ話しかけられる。

 「あぁ、そのまま、そのまま。すまないね、待たせてしまったようだ。何分、報告が上手く取れてなくてね。」

 「いえ、突然の訪問に応えて頂けただけで光栄です。」

 「そう言って貰えれば此方も助かるよ。」

 随分と話し易いご仁だ。キイチと繋がるものが有る。

 「今さっき聞いたよ。サイド6でうちの若いパイロットと会ったそうだね。どうだったね彼は?面白い男だったろう?」

 「はあ、確かに面白い男でした。まっすぐに敵である私に対応し、どうやら心配までしていたようです。貴方の差し金ですか?」

 「いや、偶然だよ、君達が出会ったのは。私は何も指示していない。恐らく、力の有る者が引かれあっただけなのかも知れないな。」

 「引かれ合う?」

 「あぁ、そうさ。歴史上いくらでも有るだろう?力を持つもの同士が引かれあったように出会う。宿敵となるか、生涯の友又は後継者になるなど結末は様々だがね?」

 「そうですね。歴史上の英雄に例えられるのは面映ゆいのですが。」

 「それでどうだね?彼からの問いに、答えは出たかね?」

 「はい。今まで自分が目を瞑っていた事、見ようとはして来なかった事に気付かされました。しかし、状況はそうも言っていられないようです。」

 「そうか。人類全体が、やり直さなくてはならない事になっている。あまりにも人が死にすぎた。このような歴史を繰り返さないよう、きちんとした枠組みを作らなければな。」

 「はい。私もそう思います。レビル将軍、私は今シャア・アズナブルと名乗っておりますが、本当の名前は他に有ります。」

 「と言うと?」

 私は徐に、マスクを外した。

 「かつて、キャスバル・レム・ダイクンと名乗っていました。ジオン・ズム・ダイクンは私の父です。」

 「そうか、苦労をしたんだな。君も、ザビ家の被害者と言うことか。」

 「いいえ、自分のしてきた過ちを全て押し付ける気は有りません。」

 「過ち?これは戦争なのだよ。その責任を若い者だけに負わせるような事はせんよ。しかし、それを名乗ったと言うことは、覚悟が出来たと見て良いのかね?」

 「えぇ、父の遺志を受け継ぐ覚悟は。」

 後ろでシャリア・ブルが震えている。感じいってくれたのだろうか。その期待にも応えなければな。

 「いや、違うよ。君のお父上は立派な人だったかもしれない。しかし、私が聞いているのは君の意志だよ。まさか、スペースノイドの人身御供にでも成ろうとしてるのでは有るまいね?そのような考えはダメだよ。」

 後ろからシャリア・ブルも何かを言いたそうな雰囲気を出している。

 「君はまだ若い、短絡的になってはいかん。この時代、野心を持つ者はいくらでもいる。野心を持つのは良い、それが人類の為に成るならな。だが、人の死に乗った世直しなど言語道断だよ、ザビ家のようなな。」

 彼は一息吐いた。

 「宇宙世紀が始まって、まだ100年も経って無い。それなのに人類は、既に半数をも死に至らしめる戦争を始めてしまった。もうこれ以上、宇宙に争いと悲劇を撒き散らす訳にはいかん。人類はいつしか外宇宙に飛び出さなくては為らない時期が来る。その時に人類全体がいがみ合っていてはいけないのだよ。君のお父上が唱えたニュータイプ理論な。素晴らしい発想だとは思う。だが、それだけに囚われてもいかんよ。君は君の感じたままで、より良い未来を探してみてくれ。なに、その礎はこの老人が造ろう。後ろの彼も君を手伝ってくれるはずだ。」

 「はっ。微力ながら誠心誠意力を尽くさせて頂きます。」

 「うん、頼んだよ。これからの時代、若い力が必ず必要になる。君達の力、人類のために役立ててくれ。投降の件は受け入れよう。軍を抜けたい者や、抜けさせたい者はいるかな?」

 「我々を兵力としては見ていないのですか?一応我々はニュータイプ部隊としての役割も担っていたんですが。」

 「うん?報告は受けているよ。フラナガン博士も此方に引き渡してくれたらしいね。だが、幼い子供や女性に好き好んで人殺しをさせたくはないんだよ。ジオンでニュータイプと呼ばれる人達がいることは知っている。連邦でも影でそういう者を研究していた者がいたからな。

 だが、彼等は等しく、人体実験等を繰り返す外道だったよ。ジオンの方はどうか知らないが、恐らく同じような目にあった者もいるようだ。現に我々はその被験者を保護しているからね。私はそういう者達を戦争の道具にしたくない。」

 「閣下。」

 言葉が出なかった。なんと言う大きな人だ。この時代、人はニュータイプを戦争の道具にしか使えないと思っていた。そして私も、そのように彼女等を使おうとしたのだ。

 しかし、目の前のこの男は違う。時代のせいなどにせず、自分の正義を貫こうとしている。器が違う。これが連邦軍を束ねる男の器。あの男が支えようとしている男か。

 「将軍閣下。再度部下達に確認をとります。」

 「うむ、そうしてくれたまえ。どのような結果に成ろうと此方は構わんよ。」

 「ありがとうございます。」

 こうして、レビル将軍との会談は終わった。ただ、己の小ささに気付かされただけのような気もする。

 「大佐、気を落としてはいけません。相手が大きすぎたのです。」

 「大尉。やはり気付かれたか。」

 「えぇ。でも大佐はまだお若いのです。今から多くの事を学び、感じ取ることができれば。」

 「そうだな。あの人から学ぶ事も多いだろう。付いてきてくれるか?」

 「喜んで!」

 前途多難では有るのだろう。だが、人類の未来には明るい兆しが有るような気がした。

 




 シャアさん、キシリアおばさんだまくらかしたの巻。直接バズーカ撃ち込むより良いですよね?

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