機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結> 作:水冷山賊1250F
第62話 戦後の混乱期の終わりに
一年戦争と呼ばれる戦争が終わり、地球と宇宙で復旧による好景気が始まった頃。
宇宙の片隅で息を殺し、反撃の機会を窺っていた勢力が、某大企業の支援を受け、牙を剥くことに成る。
その名はデラーズフリート。亡きギレンの使命を受け、狂信者達が再び地球圏に戦乱を呼び起こすのである。
宇宙世紀0083 4月1日 トリントン基地
サウス・バニング
あの戦争から3年が過ぎた。各地で暴れ回っていたジオン軍残党のテロリスト共も、ここ最近は大人しくなっている。今年から俺は、トリントン基地の試作MS運用試験及び新米パイロットの訓練に携わる事になった。
ここには士官学校出の2名の若者がパイロットとして配属されている。まぁ、筋の良い奴もいるが、現段階ではドングリの背比べだ。一年戦争時の彼等のような鋭さも輝きも無い。
いや、彼等と比べては可愛そうか。彼等は避難民という立場から、生き残るために必死であったのだ。そこに稀代のMS指導者が付いていた。強くならない訳が無かったのだ。
今は、試験運用機体のパワードジムに対し、ザクⅡ後期生産型3機で模擬戦中である。
「どうした、キースがいないぞ!?」
「キースの奴はコロニーの残骸に嵌まり身動き出来なく成ってます。どうします?」
カークス少尉が報告してくる。頭が痛い。お前が隊長としてリードしてくれよ。何時までも若手じゃ無いんだぞ?
「分かった、そのまま続けろ。アレン中尉!ザクは1機自爆したことにする!ザク2機を相手に訓練続行だ!」
「了解。」
この基地にマトモな戦力は、アレン中尉だけか。俺と彼だけで何か有ったとき、守りきれるのか?凄まじい不安が胸をよぎる。ウラキ少尉がもう少し育ってくれれば、もう少し楽にはなるのだが。今回は二人とも良いところが無く、アレン中尉に墜とされてしまった。
フーッ、まだまだだな。
「訓練終了!キースを引っ張り出すぞ!」
キース少尉を引っ張り出し、そのままMS格納庫へ移動する。
「全員MSを出て整列!整備士に礼だ!」
「「「了解!」」」
カシマ少佐から教わった事は、一々ために成る。礼をした後、シャワーを浴びミーティングルームに集合する。今回の模擬戦の反省会だ。
「アレン中尉は流石だな。二人に良いところを出させること無く、上手い立ち回りだった。パワードジムの感じはどうだった?」
「無理っくりにパワーを足したような機体ですが、良い感じです。ジム改よりもスピードは出ますし。しかし、やはり燃費に難有りですね。先程の模擬戦でかなりのエネルギーを消費しました。」
「やはりか。重量も増加しているからな。分かった、後日レポートを提出してくれ。次はザクの3人だな。言われる事は分かってるな?」
そこからは、本当の意味での反省会だ。取りあえずダメ出しの後、腕立て伏せをさせておいた。模擬戦でザク1機中破。こちらもレポート提出だ。頭が痛い。
基地司令にレポートを提出したところ、新型の試験予定の話が上がった。
「そう言えば、半年後になる予定だが、現在アナハイムで開発中の新型ガンダムの試験を依頼されている。」
「アナハイムの?あそこはジムの一部生産しか許可されていない筈ですが?」
「うむ。ジムで培ったMSのノウハウを活かし、より性能の高いMSを開発し、連邦軍にアピールするつもりだとの事だ。完全民間企業の底力をアピールする狙いだろう。数タイプのガンダムが建造中とのことだ。」
「分かりました。」
おかしい。MSの開発はサフリィが主導で行っている。大企業とは言え、民間でそこまでするメリットより、リスクの方が高い。司令室から出て、考えても何かキナ臭い感じが拭い去れない。これは、本隊に報告だな。
地球連邦軍本部ジャブロー レビル将軍執務室
トリントンのバニング少佐からブライト中佐経由で報告が上がった。アナハイムエレクトロニクスに新型ガンダムの建造を許可したが、運用試験はトリントン基地で行う予定だという。バニング少佐の小隊は、少佐以外、エースと言えるパイロットはいない筈だ。成長すれば、コウ・ウラキ少尉もエースとなり得るが、今はまだヒヨッコだと報告を受けている。
臭い。すごくキナ臭い。史実では、連邦軍のMS製造、開発を一手に受注していた大企業アナハイムエレクトロニクス。現在は、大半を半官半民のサフリィが行っており、民間への技術流出を抑えている。奴等の暗躍が史実の混乱の元であると思われるからだ。
グリプス戦役でも、エゥーゴ、ティターンズ、アクシズと、全ての勢力に関与している。拝金主義もあそこまで行くと、おぞましい。その後の歴史でも碌なことをしていない。恐らく、ハサウェイを唆したのも、裏にはあいつらがいる筈だ。でなければΞガンダムなど手に入る筈がない。
ムラサメ研究所や、オーガスタ研究所のニュータイプ研究にも首を突っ込んでいるし。
恐らく今回もMSを売るために、何らかの支援をデラーズ辺りにしているのかも知れない。情報部では、真っ黒で有るが、証拠を掴めていない。国家の情報部を欺ける時点で、奴等は敵だ。しかも政府の政治屋連中にも、息のかかっている奴がいる始末。敵ながら強かだ。
しかし、此方もある程度の動きは想定済みだ。だって転生者だもんね。水天の涙は、発生しなかったが、奴等はデラーズに飲み込まれたのかも知れない。そうだとしたら、奴等は何を考えている?月の方も要注意だな。
そうだ。彼等に協力してもらおう。彼をトリントン基地に送ってみるか。
アフリカ キリマンジャロ基地
ブライト・ノア
ミーティングルームのモニターにコーウェン少将が映し出されている。新しい任務のようだ。
「アナハイムエレクトロニクスが主体の、ガンダム開発計画ですか?」
「あぁ、MSの性能向上のための試験的な開発と謳っているが、サフリィへの宣戦布告とみてまず間違い無いだろう。まぁそれは良いんだが、問題はその後だ。」
コーウェン少将が渋い顔をする。
「運用試験先に指定されたのは、トリントン基地のMS隊。」
「トリントン基地と言えばバニング少佐が赴任していた筈では?」
「そうだ。だがな、指定された小隊は、他のパイロットはマトモなパイロットは一人だけで、やっと一人前になった奴が一人、後2名は士官学校卒業したばかりのヒヨッコが2名だ。」
「それは、何を考えているんですかね?ベテラン、中堅、新米パイロットの3パターンでテストする意味が有るんですか?」
「さあな。だが、キナ臭いのは確かだ。そこで君達の出番と言うわけだ。」
「我々?」
「あぁ、第13独立戦隊の第1中隊、通称ユニコーン隊に現場で指揮監督を任せたい。」
「現場で指揮監督を?どういった名目で?」
「簡単だよ。サフリィで開発された新型ガンダムのテストを同じ基地で行う。テストパイロットは、アムロ・レイ少尉。バックアップスタッフにクリスチーナ・マッケンジー君を付けよう。クリス君なら君達と一緒に戦った経験から、何かと協力しやすいだろう?」
「まぁ確かに。分かりました。では、トリントン基地には、いつから出向しますか?」
「そうだな。明朝0830に現場へ向かって貰いたい。」
「了解しました。」
「一つ質問なんですが、新型ガンダムとは?」
「あぁ、サフリィでアムロ君とレイ中佐達が組み上げた機体だよ。まぁ、何と言うか、相変わらず乗り手を選ぶ機体だね。第13独立戦隊の中でもスーパーエースしか、乗りこなせないだろうね。
まぁ、確認は現場でしてくれたまえ。」
「了解です。」
敬礼後にモニターが消えた。戦争が終わって3年。まだ世界中のどこかでは、ジオン軍の残党が暗躍していると言うのに。連邦軍内でも何か企んでいる奴等が居るのか。人の命を何だと思っている。
やるせない気持ちを胸に、慣れ親しんだホワイトベースへ向かうのだった。
お待たせしました。