機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結>   作:水冷山賊1250F

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 生き残った彼からの話です。


第84話  宇宙世紀狸合戦

 コロニー移送宙域 ザンジバル尋問室

 ギー・ヘルムート

 セベロが死んだ。本当に呆気なかった。あんなにジオンの理想に燃えていたのに。俺を誘いに来た時、俺が二つ返事でOKの返事をしたとき飛び上がって喜んでたっけな。あの頃はこんな事に成るとは思わなかった。今回の作戦でニムバス少佐と一緒の隊になれることに大はしゃぎで喜んでたな。

 そのニムバス少佐も連邦の蒼鬼に殺られた。今まで奴等の事は、連邦のプロパガンダと思っていた。どうせ、たいしたパイロットでは無いだろうと。今度こそはニムバス少佐に殺られるだろうと安易に思っていた。どうしてだろう?敵の戦力を甘く見るなんて、絶対にやってはいけない事だ。いつから俺は、そんな楽天的な性格に成ったのだろうか?

 分からない。何も分からない。俺が今まで信じていたジオンの理想ってなんだ?スペースノイドの真の自治独立。これが間違っているとは思わないのだが。

 「聞いてるのかね?おい、君!」

 「え?はい。いや、聞いてませんでした。何ですか?」

 「あのMSだよ。あれは、一年戦争時に造られたリック・ドムⅡではない。明らかに、新造され性能も上がっている筈だ。それに、足が無いようなMS。あれは、今まで見たことがない。君達の拠点には、MSを開発し製造する施設が有るのかね?」

 「製造施設は有りますが、開発はなんとも。足の無いMS?ドラッツェはうちで開発したって言ってましたけど?有るんじゃ無いですかね?自分パイロットなんで詳細は知りませんが。」

 「そうか。ではもう一つ。あのジオンの騎士を名乗る奴が搭乗していた機体はなんだね?あれは、ジオンのMSではないだろう?」

 「さあ、デラーズ閣下が、何処からか入手したとは聞いてますが、何処からかなんて聞いたことは有りませんから。ただ、我々を支援してくれる組織としか。」

 良く考えると、連邦を敵に回しても平気な組織ってどこだ?何故彼等は、俺達と一緒に戦ってくれない?

 何も分からない。何も考えられない。

 

 尋問室別室

 カート・ラズウェル

 ありゃあ、今は尋問は無理かな。心ここにあらずって感じだ。

 「どうだ?なんか喋ったか?」

 「ロビンか。ありゃぁ、ダメだな。呆けてやがる。」

 「じゃあ、あの質問をすれば簡単に口を割るんじゃないか?」

 「あぁ、試してみるか。」

 マジックミラーを二回叩く。デラーズの企みを聞き出す時のサインだ。

 「デラーズフリートは、コロニーの奪取以外に何を企んでる?」

 「さぁ?確か水天の涙とか言ってましたけど、俺達には何の事やら。何やら連邦軍を迂回して月に向かうとかなんとか。」

 「何処を攻めるとかは聴いてないのか?」

 「さぁ?あぁ、もしかして俺達は囮かな?」

 「囮とは、どういう意味だ?」

 「いやね?旧式の戦艦やら、デブリに混ざった機体やらを集めていたんですよ。後、連邦軍の戦艦から核融合炉を抜いてたなぁ。真の星の屑はあっちかぁ。ハハハッ。俺達はまるっきり無駄死にではなかったんだな。フフフフフッ。」

 「どういう事だ?」

 「俺達はコロニーのミラーを爆破してコロニーの回転軸を歪め、コロニー同士が衝突。反動で一方のコロニーが月に向かうようにしようとしてたんですよ。その後、月からレーザー照射を受け、月をスウィングバイして加速し地球に落とす。でもデラーズ閣下は連邦に読まれていると思ってたんだな。」

 「何を企んでいる!」

 「そりゃあ、星の屑でしょう。俺達は連邦軍を潰す積もりだったんだから。」

 

 隣の部屋の会話を聞いて、嫌な予感しかしない。

 「何を言っているんだ?」

 冷や汗を流しながら、ロビンが呟く。おそらく、とんでもない事を企んでることに気づいたのだろう。

 「星の屑・・・、地球に落とす筈だったコロニー。それが囮だとするならば、少数精鋭での地球への核攻撃か!奴等、どこまで血迷っているんだ!スペースノイドが弾圧の対象にされかねないぞ!」

 「ちょっと待て。水天の涙が月に向かうとか言ってただろう?」

 「今、真の星の屑と言っていただろう。おそらく、水天の涙とやらも囮だ!下手すると、茨の園はもぬけの殻だぞ!」

 ロビンの顔色が蒼白に成っている。おそらく、俺の顔色も似たような物だろう。

 「早く艦長に伝えなければ!」

 別室の受話器を取り、艦長にこの事を伝える。俺達の艦隊は位置的に微妙だが、間に合わない事も無い筈だ。連邦のサラブレッドならば、尚更。ここからは一刻を争う。隣の部屋から若いパイロットの高笑いが聞こえた。ぶん殴ってやろうかと思ったが、そんな場合では無い。無視して行動を起こすのみだ。

 

 同宙域 サラブレッドブリッジ

 キルスティン・ロンバート

 共和国の艦から、捕らえたパイロットからの情報が伝わった。これは不味い。奴等に一杯食わされたか!

 「まさか、こっちの予想が当たるとはな。保険を持って来て良かったな。」

 「はい。レビル将軍はここまで読みますか。少し寒気がします。」

 「これが英雄だよ。我々凡人には想像も付かない事が見えてるんだ。自分と比べるな。自信を無くしてしまう。あれらは、ああいう生き物だとでも思ってた方が丁度良い。我々は与えられた任務を全力でやるのみだ。外部ロケットブースターの取り付けは終わったか?」

 「後、30分で出来ます。戦闘中も作業していた分、時間を稼げました。」

 コロンブス級輸送艦を一隻付け、到着後から作業を開始するよう指示を受けていた。まさか、ここまで読まれていようとはデラーズ達も思うまい。

 「ルナツーの艦隊も地球の衛星軌道上に展開されている。ティアンム中将が指揮を取られているから、大丈夫だとは思うがな。あちらは、核の存在に気付いていないおそれがある。最悪、接敵までに核の情報を伝えられれば。」

 「そうですね。彼方のザクは2機まで搭載可能です。伝えますか?」

 「そうだな。載せれる戦力は載せれるだけ連れていこう。」

 「了解です。作業の進捗状況と共に伝えます。」

 「そうしてくれ。」

 大丈夫だとは思うが、思わぬ被害に遭う可能性がある。なんとか間に合わせなくては。

 逸る気持ちを抑え、宇宙を見詰めることしか出来なかった。




 ユウ達のデラーズ艦隊戦への参戦が確定です。

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