機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結> 作:水冷山賊1250F
トリントン基地 ジム・トレーナー
コウ・ウラキ
「これでダウンだ!」
急制動から突然、縦方向にジャンプしながらペイント弾をばら蒔く。対応出来なかった基地守備隊のジム・トレーナーがピンク色に染め上げられた。
「状況修了、各パイロットはMSを格納庫に移動後、ミーティングルームに集合。」
「「「了解!」」」
ふう、やれやれ。あれからはや一年。第13独立戦隊の増隊が公示された。僕もあの部隊に・・・っ!選抜試験までは後二カ月と少し。訓練にも気が入ると言うもんだ。
「コウ、気合いが入っているのは良いが、走りすぎだぜ?整備員さん達が悲鳴をあげてるぜきっと。」
「仕方ないよ。元々この機体じゃ、基礎設計が古すぎるよ。一年戦争の時の機体だろう?」
「コウ、一年戦争ってまだ5年も経って無いんだぜ?まあ、言いたいことは分かるけど。まあ良いや。早く行こうぜ。」
「了解。」
第13独立戦隊と合同作戦に参加させて貰って、貴重な経験が出来た。あの6カ月間で、自分の操縦技術が凄まじい速さで上がったのを今になって実感できている。今では俺達の部隊は、この基地のエース部隊だ。あそこに居た時には気付かなかったが、作戦から帰って基地内で他のMS部隊の動きを見て初めて気付いた。
アレン隊長は気付いていた様子で、重々調子に乗るなよと注意を受けていたっけ。なるほど、他のMS隊と模擬戦をすると良く分かる。あの人達が、各基地に引っ張りだこになる筈だよ。今になって考えると、なんで俺達が集中的に鍛えて貰えたのかは分からない。だが、それを無駄にする訳にはいかない。俺もあの人達のようになりたい。今も地球圏を飛び回っているあの人の力に成りたいんだ。MS格納庫へ向かいながら、二カ月後に迫った選抜試験に向けて決意を新にしていた。
ジャブロー近郊住宅地
セイラ・カシマ
うちの旦那様は新婚以来、家を留守にしがちだ。その旦那様が急に電話をしてきた。
「暫くは、ジャブロー勤務なの?」
「あぁ、選抜試験の準備と、本試験。それから、隊員の選抜と部隊調整。新設部隊の訓練と半年はジャブローで勤務することになるな。やっと暫くは一緒に暮らせるよ。今まで寂しい思いをさせたな。正直すまなかった。」
まぁ、旦那様が私に謝るなんて。なんか新鮮だわ。
「良いんですよ。事情は私も理解しています。貴方は地球圏の人達の為に頑張った事も。」
「ありがとう。理解の有る嫁で助かるよ。」
テレビ電話の向こうで微笑む旦那様。本当にずるい人ね。こんな顔されたら許さざるをえないじゃない。
でも半年は一緒にいれるのね。少し位は甘えさせて貰おうかしら。
「良いんですよ。でも、こんな物分かりの良いのは私ぐらいですよ?大事にしてくださいね?」
「あぁ、分かってるよ。」
「よろしい。ではいつ頃帰ってこれるの?」
「今週の土曜の夕方にはそちらに到着予定だ。」
「ではご馳走作って待ってますね。」
「ありがとう。楽しみにしておくよ。じゃあ、また。」
通信が切れた。来週からは、やっと二人の生活ができるのね。少し心が浮わついてしまう。あら?電話だわ。
「はい、カシマです。」
「社長、大変です。アナハイムが遂に破産申告を出しました!」
「そう。でも、アナハイムの株は2年前には全て売り捌いた筈よね?どうしたの?」
「アナハイムの技術者ですよ。彼等が一斉に失業者になったんです。これから市場は混乱しますよ。」
「大丈夫よ。その辺りは抜かりないわ。ケース17のフローに沿って対応して頂戴。ヤシマさんには、週明けにでもこちらから連絡するわ。」
「ありがとうございます!では失礼します!」
ふう、やれやれね。株でお小遣い稼ぎのつもりが、会社を経営することになるなんて。お蔭で、旦那様の扶養家族になれなかったわ。専業主婦にも憧れてたんですけど、あまりに暇なんでのめり込み過ぎた結果がこれとは、旦那様が苦笑いする筈よね。ミライさんは、子育てで手伝って貰える状況じゃないし。誰か優秀なスタッフ知らないかしら?これからはなるべく、家に居たいのよねぇ。
他人が聞いたら血を吐いて発狂しそうな贅沢な悩みで頭を悩ませるセイラであった。
中東アデン宇宙港 ホワイトベースブリッジ
ブライト・ノア
ジオン公国残党軍に占拠されていた宇宙港の奪還から一年。なるほど、この地域の人々は連邦軍自体に非協力的で、その敵である残党軍に協力していた節が有る。地球連邦統一戦争の恨みがまだ残っているらしい。だからと言って、利敵行為を見逃すわけには行かない。アラーとか言いながら、ジオン製MSで突撃してくる彼等を一網打尽にし、彼等の本拠地を潰して回って一年が過ぎた。
「アラーって奴等の信じる神様だろう?俺達、その教えを禁止にしてないのに、何故奴等は俺達に牙を剥くんだ?」
つい、疑問を口にしてしまった。
「あぁ、奴等は土地に執着してるのさ。だから、俺達は侵略者と見ているんだろう。政治体制や考え方が根本から違うんだよ。」
「だからと言って、彼等の神は、人殺しや戦争を是とするのか?」
「それは違うよ艦長。神は人殺しを是としない。いつも人を殺すのは、人だよ。素晴らしい教えをわざと間違って、いや、自分達の都合の良いように解釈してね。まぁ、俺は神の存在を熱心に信じている方では無いから、良くは分からんがね。ただ、奴等は大量虐殺の片棒を担いだ。許されるべき事では無い。曲がりなりにも、彼等は連邦政府の一員だ。外患誘致罪であるし、それ以前に内乱誘発罪と、罪状てんこ盛りだ。どこから突っ込んで良いのか分からん程、罪を重ねている。只では済まさんよ。」
「地球に住む人間同士で足を引っ張るか。なんともやるせないな。」
「20世紀から続く因縁めいた呪いだよ。デラーズは、奴等の上にも核を落とす気だったんだけどな。証拠隠滅も兼ねて。知らぬが仏とは良く言ったもんだ。」
「彼等はその事実を知らないのか?」
「信じて無いんだよ。人は己の見たいものを見る。こちらが流した情報は、端から疑ってかかってるのさ。」
「全員が全員そうじゃない事を祈るばかりだな。」
「あぁ。」
彼等は、優秀な人材をこんな不毛な戦いに、これからも消費するんだろうか。地球連邦政府内でもこんなに解り合えないとは。
しかし、私達は知っている。あんなに憎しみあい、殺し合いをしていた相手と歩み寄ることが出来る事を。この地域の人達ともいつの日か、歩み寄り、解り合えるんだろう。きっと。
連邦軍本部ジャブロー レビル将軍執務室
ヨハン・イブラヒム・レビル
「本当にお辞めになるんですね?」
「あぁ、漸く退職の許可が降りたよ。実際問題、私のような老人がいつまでも軍に居座る訳にはいかんよ。定年の先伸ばしもこれで終わった。アクシズの件は君達に引き継ぐ事になるが、慎重にやってくれ。宇宙移民者を虐殺した等と言われてはたまらんからな。共和国側と、連携を取り気長にやってくれれば良い。だが一つ、これだけは頭に入れておいてくれ。アクシズの地球圏への移動は決して許すな。あの小惑星は、地球に落ちれば核の冬が来ることになる。」
「はっ!心して監視を続けます。」
「よろしく頼むよ、ティアンム大将。コーウェン中将も、ティアンム大将を支えてやってくれ。私は、戦いの舞台を政治の世界に変える。連邦政府を少しでも、民衆の為の組織にしなくてはな。」
あの大きな戦いも、政治家の眼を覚ますことにはならなかった。戦争に勝ち、アースノイドの権利拡大を望む声が大きくなる始末だ。誰のせいで、あの戦争が起きたのか分かっていない輩が多すぎる。誰かが正さなくては、また同じ事の繰り返しだ。Vガンの時代まで戦乱を続かせる訳にはいかない。
「任せて下さい。アクシズには常に眼を光らせておきます。他の勢力の監視も抜かり無く。」
「あぁ、任せたよ。最後にブッホコンツェルンにも眼を光らせてくれ。彼等は独自にMSを造りかねん。何らかの理由を付けてな。最悪、木星の動向も気になる。まぁ私は退役する身だ。後は任せた。」
「「はっ!」」
二人に向かい静かに頷く。ティアンム大将とコーウェン中将が居れば問題無いと思う。ティアンム大将は先の戦役で地球衛星軌道上でソーラ・システムを展開して貰った。結局無駄になったが、無駄を厭わない姿勢は軍人として信頼出来る。未来の宇宙世紀を少しでも良くするべく、決意を新たにしたレビルであった。
今回でデラーズ編を終わります。
すいませんが、暫く休ませて戴きます。
m(._.)m