「月落とすと言われてどんな顔をすればいいか困るんですが」
「笑えば良いと思うわ」
「なんで?なんでサイコ思考寄りの表情を浮かべなきゃいけないんです?(疑問)」
「…で、どうかしら?答えは出たのかしら?」
「うーーーーーん………すみません。小1時間頂けません?それまでには答えが出ると思うので」
「そりゃ無駄に時間も費やせば答えは出るでしょうね(半ギレ)」
しかしなんでさ。何で月を落とすのさ。もしかして集団心中でもしたいワケ?コロニー落とし的なヤツを再現したいワケ?しかもあの方って誰だよ(真顔)
奏さんは分かる?
『あたし あたまゆるゆる わかんない』
あぁ可哀想に、情報量の暴力で脳内が燃え尽きている……。
はてさてどうしたものか。とりあえず分かるのはこの櫻井さん?あ、いや今はフィーネって名乗ってるんだっけ?
とにかく分かるのはこの人が
だとして、俺のやる事は……!
「……あー、分かりました。とりあえず、理解出来る部分は理解しました」
「そうか、それでは答えを聞k「おおっと!手が滑って俺の父さんをスパーキングッ!」ファッ!?」
手に収まったそれを櫻井さんに向かって投げる。人の身であるならば顔に向かって飛んで来るものを反射的に腕を使って防ぐようになっている。
その瞬間、人間と言う生物の殆どは必ず隙が生まれるものだッ!
「小癪な!
ごしゃ(鈍い音)
「グァアーーーーーッ!?」
「人の身であればッ!重要器官の寄せ集めである頭部への攻撃が有効ッ!古事記にもそう書かれている(偏見)」
『マ、マジかよ…!女の顔に蹴りをブチ込みやがった!!しかも!義脚の方を使って膝蹴りッ!?』
ごめんよ櫻井さん。でも仕方無いんだテロリストに拉致されたりネクロ的邪神宗教団体に生贄にされそうになったりと、海外の経験から分かるんだ。気絶させておかないと後々ヤバい事になるって。
と、言うわけで……。
「じゃあ、俺
『窃盗!?』
だ、大丈夫だ問題ない。それにコレ(杖)の製作者が櫻井さんってワケでも無いしどうせ盗品だろうから大丈夫やろ へーきへーき(震え声)
『い、いやそれは百歩譲ったとして膝蹴りはどうなんだ?死んでないよな?殺人を犯してないよな!?』
「黒幕が黒幕たらしめる所以こそ、その実力だ。あの程度で死ぬような人じゃないと思うんだ。あと先史文明の巫女って自称してたから大丈夫でしょ(暴論)」
『そ、そう言うものなのか……?』
「そうだよ(便乗) それに加えてあの蹴りの威力ではひとたまりも…おおおおおおおおおおおッ!?」
な、何ィィー!?脚に藤色の鎖が絡まって、後ろへ引き摺られて行くだと!
背後に視線を向ける。するとそこには先程、確実に膝蹴りによってダウンした筈の櫻井さんが立花さん達が纏うシンフォギアシステムに酷似した鎧を装着して立っていたのである。
『この姿はッ!?』
「
そのまま陸に打ち上げられた魚類の尾鰭部分を掴み吊すが如く、脚を掴まれた俺は逆さの状態で会話の続きを口にした。
「残念だが、我が肉体は既に人類と言う枠から超越している」
「馬鹿な…跳び膝蹴りが完全に入ったのに……!」
「フ…小僧如きの蹴りで我が肉体に傷を刻み込む事が出来ると思い
えーと、その割にに思い切り目元の部分に痣が残ってますけど?それについてはどうなんですか櫻井さん?
「…ソロモンの杖を返して貰おうか!」
「(あっ、誤魔化した)こ、断る!変態白タイツの亜種めいた格好しやがって!」
「えっ、なにそれ知らない…白タイツじゃなくてネフシュタン。ネフシュタンの鎧だから」
「ネフシュタン……旧約聖書に記された青銅の蛇…?」
『おい!フィーネの顔をよく見てみろ!』
吊るされた状態で奏さんの言う通り、櫻井さんの顔へ視線を向ける。
……と、言われてもいつも通り不気味なくらい透き通るような綺麗な肌をしている事しか分から───えっ?"綺麗な肌"だとッ!
……いや、待てよ?ネフシュタンと言えば古代イスラエルの預言者である民族指導者モーセが作った青銅の蛇!その力は旗竿の先に掲げられた
「そうか、確か蛇は『不死・復活』の象徴とされている!これは無傷なんかじゃない、ネフシュタンの鎧による聖遺物特有の効果で驚異の再生・治癒を与えているのかッ!」
「御名答、ネフシュタンの能力を"名前"と"状況証拠"から一発で当てた事に賛美しよう……ますます手元に置きたくなった」
そう告げると俺の手から無理矢理ソロモンの杖を奪い取り、銀色のブレード部分を伸長させこちらの首に突き付けて来た。
「さて、このまま殺しても別段問題は無いが───これでも私は貴方の両親を尊敬しているのよ。考古学者として、聖遺物研究者として、人としてもね……」
「何を言って───!?」
再び提案を施して来た櫻井さん。その声はとても優しく───
「
───とても悲しそうだった。
「………」
『了子さ──』
「それに加え、曲がりなりにもあの夫妻から産まれ出でた仔。利用価値は十分に有ると言う訳だ」
先の雰囲気が嘘のように元の冷酷なフィーネの口調に戻る。
一瞬だけ浮き出た櫻井了子としての側面がフィーネに塗り潰されるように。かつての善性がソレに抗うように……。
『どっちなんだよ…了子さん、どっちが本当の言葉なんだよ……』
側にいる奏さんもまた己が相反する2つの感情に潰されないよう抗っていた。5年前、彼女の家族はノイズによって殺され
しかし目の前に居る櫻井さんことフィーネがその復讐を果たすべき対象であるノイズそのものを操っていた元凶。
今まで頼りになる心強い味方であった櫻井了子は怨讐向けるべき相手でもある。その事に奏さんは……。
「櫻井さん…」
「私はフィーネだ」
「それじゃ櫻井フィーネ」
「一括りにして呼ぶのやめろ」
どうやらこの呼び方はお気に召さないらしい。まぁ、そんな事はどうでもいい。
「それじゃぁ…お前は誰だ」
「………」
眉を、顔の筋肉、表皮でさえも一切動かない無機質な表情。とぼけていない、図星を突かれたワケでは無い。
これは──無自覚、或いは当然から来るモノだ。
「フィーネでも、櫻井さんでも無い……。2人を唆して、ずっと奥で閉じ籠っている
「───愚図が、貴様は黙って人質としての役割を果たしていれば良い」
ドス黒い怨念が、憎悪が、鬱憤が具現化されたような雰囲気を醸し出す"ソレ"が姿を見せる……なんだコレは?まるで亡霊が取り憑いているかのような……?
『ぐ、ち、違う…!違うよ。コイツ、亡霊なんてレベルじゃない!』
奏さんが苦しんでいる!?馬鹿な、霊体に影響及ぼすなんてそんなの呪いに等しい芸当が出来る筈……いや、待てよ?亡霊…呪い……ぐッ!?首をいきなり掴んで……ッ!?
「これ以上、貴様と論じ合うつもりは無い。舐めるのも大概にしておけよ小僧。私から見れば貴様は気紛れで生き延びただけに過ぎない。風を煽げばすぐに消え逝く灯火だ……このようにな」
ぼぎり
「ぎ、い────ッ!?」
『ッ!お、おい!しっかりしろ!』
「そうだ、そのまま大人しくしておけ。腕の一本で良い学びになっただろう」
片腕に尋常じゃない無い痛みが走り、話か頭の中に入って来ない。それに加えて首がギリギリと締め付けられ意識が遠のいて行く。
ああ、くそ…まず……い、もう少……し…な……の…に────
がっ
「………娘、何処から沸いて出て来た?」
「その人を離してッ!」
首に対する圧迫感が緩んだ直後、そこにはアグレッシブに消火器を両手に持った小日向さんが立っていた。
……え゛っ。アグレッシブ過ぎない?
そうのように俺が呆気に取られた直後にポケットからスマホが落ちる。あ、やべ。
「───む?何を落としt」
「義脚パージ!」
櫻井フィーネが掴んでいた義脚が取り外され、俺が地面に落ちるとすかさず側に落ちているスマホを拾い距離を取る。
「小癪な、逃げるつもりかッ!「いいえ、違いますよ。そうしてくれないと貴女に当たりませんからね」っ!?」
瞬間、数発の弾丸が彼女に襲い掛かる。咄嗟に藤色の鞭を振り払う事で弾くが、その弾丸の影から来るソレに気付くのが遅れた。
「おおおおおおおおおおおおおッ!!」
「な───にぃッ!?」
フィーネの目の前には漢が居た。人類の防人として常に最前線で戦う子供達を陰ながら支えるOTONAが拳を握り目前の敵に向かって振りかぶっていたのだ。
「風鳴弦十郎ッ!貴様何故此処に!?」
「フィーネ…いや、櫻井了子!お前の行動は上層部との連携によって前々から察知していた」
「成る程、つまり泳がされていたと言う訳か……しかし解せぬな、私以外が知る由も無い秘密裏に設置したエレベーターを使ったと言うのに何故、此処に居るのが分かった?」
「フ、こちらには心強い外部協力者が居たのさ」
「協力者───ッ!そうか、貴様か!」
と、櫻井フィーネが俺を睨み付けて来る。その通り、実は櫻井さんと会った時に弦十郎さんには既に『櫻井了子さん発見伝』と言うメールを送っておいたんだよね。
そしてエレベーターで正体が発覚した瞬間、スマホを操作。恐らく本部に居るであろう小日向さんへ電話を掛けっぱなしにしておいたと言う訳だ……うん、端的に言ってもしかし無くても俺って捜査官の天才的才能があるのではないのだろうか───って痛ッ!?
「馬鹿なんじゃないんですかっ!腕を折られた上に殺されかけたんですよッ!?」
「怪我人を消火器で殴るのはやめたまえ小日向さん。いやマジで。あと馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
『いいや、お前馬鹿だろ。私、知ってるんだからな。電話かける前に「情報を最大限引き出すまで助けるな」ってメール送ったの知ってるんだからなこの馬鹿』
おう、それ以上俺に対して馬鹿と言うのはやめたまえ。2人して怪我人を痛ぶるのはやめたまえ(震え声)
まぁいい。ともかくこれで形成逆転。ノイズ以外ならば無敵の強さを誇る弦十郎さんと緒川さんが揃った今、勝てぬ者無し。
『勝ったな(確信)風呂入って来る』
風呂入れる身体じゃないでしょ奏さ───あれ?そう考えると数年間も身体洗ってない事になるの?
『ゆ、幽霊は綺麗だから!汚くないからな!いやマジで!…とにかくこれで5対1!負ける道理は無い!』
「いや、幽霊は戦力に含まれないから。これで4対1の間違いだからね?大人しく負けを認めるんだ櫻井フィーネ!」
「片脚が無い上に腕折れてる怪我人が何を言ってるんですか。3対1の間違いですよ」
「いや、何をサラッと自分等を戦力に数えているんだ⁉︎」
「戦いは司令に任せて下がりますよ」
『「「えー」」』
緒川さんに連れられ、俺たちは渋々下がる事となった。
いや、まぁ仕方ないか。
「さて……女に拳を振るうのは趣味じゃないんだがな…ッ!」
そう言うと弦十郎さんは己のネクタイを紐解き、緒川さんに投げ渡す。おー、決闘場面みたいでカッコいい(小並感)
「フ、舐めてかかると命取りになるぞ風鳴弦十郎」
櫻井フィーネもそう言って手に持っていたソロモンの杖をこちらに投げ渡し……えっ。
「行くぞッ!おおおおおおおおッ!」
「馬鹿め、正面からの攻撃など防いでくれるッ!」
【ASGARD】
弦十郎さんの正拳突きに対してフィーネは攻撃を防ごうとバリアのようなものを前面に貼り出した。
「ハハハ!何重にも重ねたエネルギーフィールドッ!破れるものなら破って────ぐおおおおおおおおおお!?」
「バリア破壊してそのまま殴り抜いた!?」
「人間技じゃない(震え声)」
『やべぇよ、やべぇよ旦那……!』
明らかに強固そうなシールドを難無く破砕した弦十郎さん。あの緒川さん、あの人って……え?生物学上は歴とした人間だと判明してるだって?
……凄いね人体(白目)
「くっ、こうも容易く砕くかッ!」
「発勁のちょっとした応用だ。エネルギーの流出を一点にする事で壁と言うのはそこから崩れるものだッ!」
発勁と言えば何とかなると思っているのだろうか?あの赤いゴリラ…あ、いや…ゴリラの枠すらも超えてるんだったあの人。
「肉を削いでくれるッ!」
転じて、フィーネの攻撃に移る。彼女の振るう二本の鞭が弦十郎さんに迫る……が、しかし。
「フンッ!」
「な、受け止め───あ、ちょっ待っ」
「どりゃぁああああッ!!」
「ウボァ」
攻撃を受け止める→鞭を引っ張ってフィーネを引き寄せる→腹パンのコンボが華麗かつ綺麗に決まった。
……うーん、おかしい。最終決戦の筈なのにほぼ一方的なんだけど。
「えーと、バイトさん。櫻井さん…じゃなくてフィーネさんって…もしかして弱い?」
「いや違うからね小日向さん。フィーネさんが弱いんじゃない、弦十郎さんが強いだけだから」
「ぐ、おおお……っ、ネフシュタンの鎧をここまで破砕するとは……ッ!」
あ、そうだった。確かネフシュタンの鎧は再生能力があるから少しのダメージじゃすぐ回復してしまう───と、思ったけど弦十郎さんの攻撃一つ一つが必殺技並だから回復が追い付いてないなコレ。
「だがッ!人の身であるならばノイズ相手には……あれ?ソロモンの杖は?」
「此処にありますよ」
俺の持つソロモンの杖を見せるとフィーネは驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿なッ!いつの間にッ!?」
「なんで?もしかして自分で投げ渡して来たの覚えて無い?記憶飛んでる?」
そう考えている内に弦十郎さんが縮地めいた移動でフィーネに迫る…えっ何その目にも止まらない移動!?
リアルなヤムチャ視点を体感するとは思わなかった。
「破ァッ!!」
「待って!弦十郎く──ンンンンン゛ンン゛ッ!?」
『「「あっ」」』
ま、マジかよ…!フィーネが何か言い掛けている途中なのに掌底アッパーブチかました!?しかもその結果、首から上が天井に突き刺さると言うもの凄いシュールな絵面になった!
「櫻井さんの声色、表情で語られたと言うのに躊躇無く殴った!酷い!」
「まさか動揺も一切せず攻撃するとは……流石ですね司令!」
『やべーな弦十郎の旦那……うん、やべーな』
「お、おい!なんでそんな事になる!?」
あー、いやまぁ仕方ないですよ弦十郎さん。偶然でも必然でも掌底アッパーを撃つ直前に床を踏み砕いた音で相手の声を掻き消したのは凄いと思いますよ。いや、ホント。
「いや、違うからな!だからそんなチベットスナギツネのような顔をしながら見るのをやめろ!」
「───く、そがああああああああああああああああああああ!!」
と、そんな事をしている間に天井から頭部を引き抜いたフィーネが地へと降り立った。
「はぁ…はぁ……!おのれ…!ここまでやるとは…ッ!」
「もうやめるんだ了子君。これ以上君に拳を振るいたくない」
「情けを掛けるつもりかッ!人と言う種を侮辱する気かッ!」
気迫のある台詞吐いてる所すみません、その割には顔面がボロボロなんですが。人の域を超えた割にボッコボコなんですけど。そう考えている横で、小日向さんが口を開いた。
「……これ以上やめてください」
「小娘が…何を言うかと思えば……!」
「なんでこんな事をするんですか!貴女の言う願望はこんな事をしてまで叶えたいものなんですか!」
「恋すら知らぬ身の童がッ!"こんな事"とほざくか!」
小日向さんの言葉に反応するフィーネのその口ぶりは次第に苛烈さを増して行く。
図星だったのか、逆鱗に触れたか、それとも────
「幾千年もだッ!バラルの呪詛が掛けられたあの日以降ッ!私は
「想いを告げたいのならやる事が違うでしょう!皆を傷付けて…!そうまでして誰かを傷付ける必要があるんですかッ!」
「黙れッ!我が胸に秘めたる想いを虚仮にするか!皆を傷付けぬ方法などありはしない!最早、止まる選択肢は存在しないのだッ!」
その言葉と共に
「我が怨讐は留まる事を知らぬッ!」
「一体何をッ!!」
「2人共、早く逃げ───」
「もう遅いッ、吹き飛べ!アーマーパージッ!!」
刹那、目の前の景色が流転。周囲一帯が崩壊する。
▼▼▼
幾千も募った凄まじい怒号と間違えてもおかしくない轟音と爆発。特異災害対策起動部二課本部の一角にてソレは起こった。
「…っ、何が」
「痛つつ……。周りがよく見えな……!?」
少年少女は気付く。目の前に悠々と立っていた筈の大人が……目の前の敵を圧倒していた筈の風鳴弦十郎が地に伏していたのに気付いたのだ。
「司令ッ!?」
緒川慎次が血塗れになった彼の元へ駆け寄る。無数の弾丸で撃ち抜かれたような傷痕が残る弦十郎、こうもあっさりやられるとは二課司令官である彼を知る緒川にとって到底信じられるものでは無かった。
「無様だな。足手纏いの積荷を背負ったのが貴様等の敗因だ風鳴弦十郎」
黄金の弾丸となった鎧は再び、終わりの名を持つ巫女の元へと集い形を成して行く。
風鳴弦十郎の性格を知る櫻井了子の記憶を持っている彼女は怪我人・女子供を守る性格であると知っている。だからこそ"敢えて"彼等を狙った。己を盾にして守るだろうと考えて。
「弦十郎さ───!」
「撤退します!」
少年が叫ぼうとした直後、緒川の持つ拳銃から勢い良く弾丸が放たれる。
しかし、フィーネは金色の籠手によって払い除ける事により弾丸全てはあらぬ方向へ飛んで行ってしまう。
「それで足止めのつもりか?」
「ええ、それで十分です」
「……なに?」
ふと、身体が動かない事に気付くと同時にハッと、とある事を思い出す。目の前に居る男こそ二課のエージェントであり古来より受け継がれる一族特有の技術を会得している防人の一人。
【影縫い】
「なん…だとッ!!」
「お二人共ッ!今の内に早く!」
「は、はい!立てますかバイトさん?」
「なんとか…!」
未来がそう言いながら肩をかしながら前へと進もうとする…しかし、彼女の片足にネフシュタンの鞭が絡まる。
「何ッ!?」
「馬鹿…め……!ネフシュタンの鎧と我が身は既に一心同体……!それに加えてこの程度の金縛りで私を抑えられると思うてかッ!誰一人として逃すかッ!」
フィーネ自身、
懸命に地を踏み踏ん張ろうとするが、相手は完全聖遺物との融合症例に加えて大怪我をした男性に肩を貸している。
最早これまでか…と諦めかけた次の瞬間。フィーネの動きが止まる。
「身体が…動かん…だとッ!?」
先程の影縫いが身体の芯がガチガチに固まるような感覚だとすれば今回のは外部から何かしらの力が加わっているような感覚。その光景に小日向未来や緒川慎次に加えフィーネ自身でさえ理解出来ていない様子だ。
……しかし、それを唯一視る事が出来る彼だけは理解出来た。
『今の内だッ!バイト!』
「これは…まさか…!?」
霊体である天羽奏。彼女がフィーネの身体に取り憑く事で動きを抑制していたのである。
『ぐ……、やばい…な、これ…ッ!フィーネの中身から伝わって来る。とんでもない恨み辛みの念が……ッ!』
しかし抑え付けられる時間はそう長く保たない。フィーネと言う亡霊が幾千にも渡って変質して生まれた瘴気が彼女を蝕んで行く……。
なら、そうなる前にいっその事───!
『抑えてる間に私ごとやれーーッ!バイトォォーーーーーッ!』
「委細承知ッ!」
『えっ、即決?決断早過ぎない?』
「櫻井フィーネの顔面にスパーキンッッ!」
「ぐっ!?なんだこれは?こんな詰め物を投げただけで私を倒せるとでも─────」
しばしの沈黙が流れる。フィーネの脳内にありと凡ゆる膨大な量の情報が津波の如く流れ込んで行く。
そして………。
「あ……あ゛ああぁああああああ゛あ゛あああ…う、ごっ!?ああああ゜ああああああああ゛ああッっ!?め、目がッ!?目に刺激ッ!?と言うか鼻にも…阿あああああああああ゜ああああああ゛あ゛あ゛ア゛ッっっっ!?」
フィーネの絶叫が響き渡った。
「なっ、なんですがあの絶命寸前のナマコが魂擦り減らしながら吹く黙示録のラッパの如き絶叫はッ!?」
「バ、バイトさん……!さっき投げたモノってまさかッ!?」
「ご存知!紅洲宴歳館泰山関東支店の激辛麻婆豆腐(持ち帰り用パック詰)だッ!」
「ヒェ、それって響でさえも一口で失神と苦痛の往生で地獄すら生温いとコメントさせたあの麻婆豆腐ッ!?」
見るからに地獄の釜で作ったような麻婆豆腐がフィーネの顔面にブチ撒けられた事により、先史文明の巫女は一人悶え苦しみ───
『ぐおおおああああああ゜ああああ゛ッ゛!!?み、水ッ!みずううううううう゛!ああおああおおおっ、お゛け゛っ(吐きかける)が、がああああああ゛あああああ゛あ゛あ゛ああ゛ああああああああああッッッ゛!!』
──訂正。その先史文明の巫女に一時的に取り憑いていた影響か、
「うわ……まじか…ここまでの威力あるか麻婆……」
「……ぐ、うう…っ!」
「司令!意識が戻ったんですか!?」
「…き、傷口に麻婆の刺激臭が……ッ!」
「最早テロの一種ッ!?」
こうして、無事……無事(?)に窮地を脱する事が出来た彼等であった。
義脚・義眼パージ、片腕骨折、片手麻婆豆腐。一番のお荷物はバイト君。サブタイトルから何人かの読者は内容を察したかもしれません。
次回から終盤に掛けて少しシリアス成分が多めに入る予定です。