未知との遭遇〜アルトリウムを添えて〜   作:ゴランド

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 当初はもっと長かったのですが2万字越えそうだったので分割して投稿します。



17話 復活のG

 

 少女は星となりて滅びの光を真向から受け止め、その砲塔を破壊した。その命を炉心の如く燃やし、輝き、果てる。

 

『なんで…なんでそこまでやって……!?』

 

 何がお前をそこまで掻き立てる?

 何がお前を突き動かした?

 その命は誰が為に?

 

「……そんなもの決まってるよ」

『え?』

「明日を守ってくれたんだ」

 

 今日より明日を、今よりも楽しい先を、現在よりも幸せな未来を信じて彼女は戦った。そしてヒロインXはその身を呈して教えてくれた。

 

どのような困難が降りかかろうと、いつしか雨は止みそこには虹がかかる。暗い闇夜に包まれようとも明日もまた()は昇る。

 

それはまるで───

 

『私と同じ……』

「同じだって?ハハ、馬鹿だなぁ奏さんは」

 

 

 

 

「それじゃあ、まるでエックスが本当に死んだみたいじゃないか」

『……っ!』

 

 涙を流している。彼はその心を、想いを、押し殺して笑みを浮かべていたのだ。

少年が大切なものを失ったのはこれが初めてでは無い。既に失った事を経験しているからこそ耐えられる。

 

友人の女の子の言葉を借りるなら、そう……。

 

「でも"平気へっちゃら"だ。X(エックス)の事だ、きっとその内ひょっこりと姿を現す筈だよ」

 

 彼は強がる。きっと戻って来る事を信じているから。何気ない顔をしながらひょっこり戻って来ると信じているからだ。

両親は戻って来なかった、でも彼女ならきっと………。

 

「平気…へっちゃら…平気へっちゃら……」

『……お前』

 

 近くに居た小日向未来は彼に視線を送る。家族のような関係だったヒロインXが目の前で命を散らす行為は少年の心に確かな傷を遺してしまった。

自分では彼を癒す事は出来ない、自分は何も出来ない。

 

……いや、まだやれる事がある。

 

『そうだ、私はまだ…戦えるッ!』

 

 

 

「奏さん?」

 

 気付いた時には、泡沫の如く天羽奏の姿は消え去っていた。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

カ・ディンギルが爆ぜる

 

「ふざけるな」

 

カ・ディンギルが崩れ行く。

 

「ふざけるな」

 

カ・ディンギルが無に帰される。

 

「巫山戯るなぁあああああああああああッ!!カ・ディンギルだぞッ!我が悲願の達成をッ!あんな、あんなッ!あんな贋作風情にぃぃぃいいいいいいいいいッ!!」

 

フィーネが叫ぶ。慟哭を、悲しみを、怒りを、全てを吐き出すように声を荒げた。

 

「殺してやる」

 

呟く。

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」

 

 ヘドロのように滲み出る憎悪。悪霊としての本性を表に出した先史文明の巫女"だった"モノ。

 

「アイツが大事にしていた小僧を殺す、そして次に友達面をしている娘達を殺す、次に周りの奴等を殺す、他の奴等も殺すッ!!」

 

 もう既に居なくなった相手への八つ当たりをするように呟く。もはやバラルの呪詛なぞどうでも良い。腹の底で渦巻く黒い意志を鎮める為に別の者達へ狙いを定めた。

 

「装者達よ、その姿を見せるが良い!もし怖気付き姿を現さぬと言うならば……ッ!」

 

 

 

「此処一帯を焦土に変えようッ!それによってシェルター内の人間達が崩壊に巻き込まれる事になるだろうがなッ!」

 

 形成したエネルギーを片手に声を上げるフィーネ、それは人類への絶対強者である己自身を使った脅迫。姿を現さなければ殺す。姿を現しても殺す。

そんな理不尽を前に、人類の守護者たらんシンフォギア装者は……。

 

「はあああああああああああッ!!」

 

 考える間も無く飛び出した。

 

「たった1人でノコノコと来たかッ!」

「だとしてもッ!」

 

 巨球エネルギーを真正面から受け止める立花響。

持ち前の根性でそれを無理矢理突破しつつ、フィーネに向かって拳を振り上げる。

 

「馬鹿正直に来るか────ッ!?」

 

 瞬間フィーネの目の前が白に染まると同時、何も聴こえなくなった。

そして頬に伝わる衝撃。

殴られた。外部からの何かしらの要因によって無防備になった所を思い切り殴られた。

 

如何にして私を無防備にした?この立花響はそこまでの技術を備えているとでも言うのか…!?

 

……いや、違う!

 

「GO GO GOッ!」

「撃て!撃てッ!踏み込み過ぎるなよ、俺達は装者と違って貧弱だッ!一定の距離を保てッ!」

「奴に反撃の隙を与えるなッ!」

 

 そうか二課の職員共(取るに足らない蛆虫)と手を組んだか…ッ!

苛立ちを見せるフィーネ。

腕を振り払えば死に絶える脆弱な生命。そんなちっぽけな眼中に無い下等動物が自分に立ち向かって来る事実に怒りが込み上げて来る。

 

「この…ッ!」

 

 職員達が手に持つ銃から放たれる弾丸の雨。それらを鞭を回転させ、盾のように扱い防ぐ。

この程度の攻撃、羽虫が集るのど同義。自身にとっては鬱陶しいだけ。

 

「はぁあああああッ!!」

「う、ぐうッ!?」

 

 他愛も無い有象無象のソレは着実にフィーネに対しての有効打を与える為の道標となっていた。

 

「馬鹿な…ッ!この私が押されているだと……ッ!?あり得ぬッ!」

 

「たかだか、雑魚如き(大切な仲間)に私が遅れを取るなど……ッ!?」

 

 待て、自分は何を言った?

己でも意図しない事態にフィーネは混乱する。自分は……自分は未だにあの者達を仲間だと思っているのかッ!?

 

「馬鹿なッ!…まさか今になって櫻井了子としての人格・記憶が表に露出したとでも言うのかッ!?」

「……フィー子さん?」

 

 

「違う、私は櫻井了子…いや、違うッ!?私は───ッ!?」

 

 

「なんだ…何が起きている……?」

「これは…撃って良いのか?」

「いや待て、演技である可能性だってあり得るうかつに近寄るな!」

「だ、だからと言ってあの様子は…!」

 

 今までとは打って変わって様子が激変するフィーネ。戦っていた響達以外にも少し離れた場所でソレを見ていた未来達も困惑の意を隠せなかった。

 

「何が起こっているの…?」

「分からない…けど、これってアニメ的にはチャンスなのではッ!?」

「チャンスって…何の?」

 

「まさか…解離性同一性障害ッ!?」

「知っているんですかバイトさん!」

 

 少年の言葉に未来は驚きの声をあげる。

 

「別名『多重人格』フィーネの根幹にあったカ・ディンギルが破壊された事によって現在に至るまでのフィーネ(基盤)が崩れ、統合・還元されて来た偉人達の人格・記憶が彼女の中でごちゃ混ぜになってるんだ……と、思う」

「そんな事…!?いや、でも元は同じ人間だしあり得るの…かな?」

「凄いですわね人体」

「そのまるでアニメみたい…いや、フツーに現実的だったわ」

 

 人間それらしい言葉で説明されると納得してしまう生物。しかし彼の言葉はあながち間違いでも無かった。

フィーネの記憶、人格、肉体はありと凡ゆる者達と融合こそしたものの、その中でモルガン・ル・フェとしての側面がエックスとの接触により強く出て来てしまった。

 

その結果、比較的新しく融合を果たした筈の櫻井了子としての側面が乖離し表に現れ始めたのである。

 

「ぐ……あ、あ…ッ!」

「…っ、了子さん!負けないで!」

 

「ひ、びびき…ちゃん……?」

「そ、そうですッ!立花響です!皆さん!了子さんが正気に!」

 

 苦しむフィーネの口から発せられた言葉。その光景に響はまだ櫻井了子が生きている希望を見出し周りの皆を呼び掛ける。

 

 

「駄目だッ!目を離すなッ!」

「えっ?」

 

 その瞬間、フィーネは駆け出した。立花響を、職員達を、ましてや弦十郎の横さえもあっという間に通り過ぎた。

彼女は狙いを定め、ただ真っ直ぐに走る。その目標は───。

 

手負いの少年とそんな彼に肩を貸している少女の2人だ。

 

「未来さんこれをッ!」

「えっ!?」

 

 懐にしまっていた"それ"を咄嗟に小日向未来に押し付けると同時にその場から突き飛ばした。

 

「っ、いきなり何……を……!?」

 

 小日向未来は目を見開く。気付けば自分を押し除けた彼の首にネフシュタンの鎧から伸びる鞭の尖端が突き刺さっていたのだ。

 

「バイトさんッ!!」

 

「あ……が、……あ」

「馬鹿め、既に貴様を守る者はこの世に存在しない事を遺却したか」

 

 いや、違う。アレはワザと急所を外している。あえて頸動脈数ミリ横にずらして突き刺し生かしているのだ。

 

「さて…小娘、その手に持つ()()()()()()と交換だ。この小僧の命とな…ッ!」

「バイトさんの……!?」

 

 先程押し付けたモノ。それはソロモンの杖。彼が偶然フィーネから奪取した完全聖遺物の一つを敵の手に渡らないよう小日向未来に委ねたのだろう。

しかし、状況は最悪だ。

 

「この場にいる小日向未来以外の全員は決して動くな。動けばこの小僧がどうなるか分かる筈だ………無論、そこで隙を窺っている忍者もだぞ」

「ッ!」

 

 後方で景色と同化していた小刀を手にする緒川は動きを止めた。

 

「どうやら、そちらの立場が理解出来てないようだ……おっと、手が滑った」

 

 "ぶしゃり"と血が噴出した。透き通るような赤い動脈血。生命体を生かす為のそれが迸ったのだ。

 

「─────ッ!?」

「ひっ!?」

 

「ッ!……職員、全員共武装を解除だ」

「司令……」

「分かっている。だが、今は目の前の命の方が大切だ…!」

 

 刃を僅か横にズラせば確実に殺せると言う意思表示。

大人である風鳴弦十郎には目の前の命を捨てると言う選択肢を取る真似はしなかった。

 

「駄目だ…!渡しちゃ…駄……!」

「喋らない方が良い。傷口が広がるぞ」

 

 首に突き刺さった鞭から血が垂れる。それでも尚、彼は口を開き続ける。

 

「単純な計算問題…なんです……!人類70億有る内の…1つの命と、数百万の命を奪う特異災害……重要なのは……後者だ……ッ!」

 

 生命を炭に変え死に至らしめる最悪の聖遺物。それは使い手によって悪にもなれば正義にも染まる。

古来より恐怖の象徴として言い伝えられて来たノイズを操る術は人の手には余るのだ。

 

「俺なんかよりも、ソロモンの杖を選べッ!そんなもの壊すんだッ!」

「でもッ!」

「貴様は黙っていろッ!」

 

 首の肉に刃がグリグリと押し込まれる。痛みが走り、熱い液体が己の体に滴るのを感じる。

 

「強く言い出せる身分だと思うなよ、貴様なぞエックスが居なければただの足枷に過ぎん!」

「……っ!!」

「ほう、怒っているのか?ヤツが死ぬ直前、何も出来なかった小僧(役立たず)が偉そうに怒っているのか?」

 

 目に見える挑発。恐らく、どう足掻いても自分を殺すに違いないと少年は考える。ソロモンの杖を手にした後、真っ先に狙うのは自分では無く小日向未来の可能性もある。

 

だとして、どうすれば良いか。少年はとある考えに辿り着いた。

 

「……いいや、貴女程には怒ってはいないさ」

「……なに?」

 

「いいや、やっぱり忘れてくれ。結局ブリテンの王座に座る事が出来なかった元"敗北者"には何を言っても無駄だろうしね」

「はぁ…はぁ…敗北者……!?」

 

「よせッ!挑発するな!殺されるぞッ!」

 

 弦十郎の制止を振り切り、バイトの彼は言い放つ。

 

「幾千もの年月が経ち、結局は王にもなれず何も得ず。しまいにはエックスに頼みの綱であるカ・ディンギルを破壊される……お前は馬鹿丸出しだッ!Xに勝ち逃げされてッ!負けそうになると人質を取る卑怯者だこのサイコ恋愛脳ッ!いつまでもズルズルと引きずっているんじゃあないッ!」

「ッ!!!!」

 

 彼の放った言葉。それ等は全てが逆鱗を撃ち貫き、フィーネの怒髪天を衝いたのである。

 

「黙れッ!そこまで死にたいのならばXと同じ場所へ送ってやろうッ!」

 

 首に突き刺さった鞭を引き抜いた直後、人質であるバイトを上空に放り投げる。そのまま剣のように硬化させた鞭を上へ向ける。

 

その光景を見た周囲の人間は咄嗟に動くが無駄だ。どう足掻いても助け出す前に少年が串刺しになるのが早い。

 

(…そうだ、これで良い。これで良いんだ)

 

だが、これも全て彼の思惑通り。

自身が人質の役割となり周りの人に迷惑を掛けている。それならば自身で無くなれば良い。

相手の怒りを買い、自身が死ねばソロモンの杖は二課の皆が保有する事となる。それに加えて小日向未来や板場達への危険も多少は少なくなる事だろう。

 

後は立花響達が何とかしてくれる事を祈って自分が死ぬだけだ。

 

(前々から生きる意味は有るのだろうかと考えていた。彼女と言う名の星が見えなくなった今、俺に生きる意味は無い……父さん、母さん、そしてX……俺も今、そっちに逝きます)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──生きるのを諦めるなッ!!

 

(えっ?)

 

その時、フィーネの身体に何かが突き刺さった。

 

「な────これは……ッ!?」

 

 地面から伸びた金色の刃と白い装甲。それのお陰か串刺しになる筈だった少年はその武器によって窮地を救われたのである。

 

「痛つつ……なんだ、この立花さんのヤツに似ている武器は…?」

「………これは奏の…!?」

 

 

 

 その時、藤尭朔也の持つタブレットからブザーが鳴り響いた。

 

 

「ち、地下層から何か競り上がって来ますッ!パターン波形照合…おい、どうなっているんだ…!?」

「これって……まさかッ!?」

 

 

GUNGNIR

 

 

「ガングニールだとぉ!?」

 

 タブレットに表示されたそれに声を上げる弦十郎。そして、フィーネの足元から飛び出したもう一刃の槍が回転しながら彼女の肉体を捉え、空中へ打ち上げた。

 

「こ、これはああああああああッ!?」

 

『ドリルッ!?』

 

 

 

 地中の奥底で数年もの眠りに着いていたそれは目覚め、高らかに叫ぶ。

 

 

 

復活の───ガングニールだああああああああああああああああああッッ!!

 

 

 眠れる片翼。かつて数年前に折れ堕ちた翼は、再び空へと羽ばたいた。

 

「待たせたな……地獄の底から蘇って来たぜ」

 

 彼女の名は『天羽奏』。第3号聖遺物との適合を果たした戦士にして、始まりの装者。

勝利必中の槍を手にした彼女がそう呟くと、後方でこちらを見ている彼女に振り向いた。

 

「よ、翼。久しぶりだなぁ〜〜!」

「……か、なで?」

 

「ん?オイオイ、もしかして私の顔を忘れちまったのか?」

「…だって、……奏は……もう…!」

 

「あ、あのッ!」

「ん?……おー!あの時助けた子がこんなに大きくなってまぁ〜!」

「え、うわわ!?」

 

 彼女の登場によって十人十色の反応を見せる。

そんな中、串刺しになり掛けた少年に未来は肩を貸しながら口を開いた。

 

「バイトさん…あの人って…!?」

「…うん間違い無い。かつてツヴァイウィングの片割れの天羽奏は仮の姿。その実在は────!」

 

「シンフォギアの装者。その中でも先輩的なポジションのな……と、言う訳でだ、ちょっと良いか?」

「え、何?何でs「歯ァ食いしばれぇッ!!」

 

 刹那、少年の顔面目掛けて奏の鉄拳が放たれた。

 

「「「ええええええええッ!?」」」

 

 少女達の驚愕を他所に錐揉み回転しながら吹っ飛んで行った少年に向かって駆け出し、胸倉を掴む奏。

 

「生きるのを諦めるなッ!むざむざ死にに行くなッ!自分の命を投げ出そうとするなッ!」

「……い、いや…たった今、その命を貴女に奪われかけたんですけど……」

 

 しかしして、そんな事知らんと言わんばかりに天羽奏は彼に向かって言い放った。

 

「いいかッ!お前のやった事はお前達を未来へ繋げたエックスに対する裏切りに近いんだぞッ!」

「…っ、それは……」

 

 否定出来なかった。彼女の言う事は正しい、かつて両親は行方不明となった。記憶の一部が欠け、肉体も欠けた自分に周囲の人間は同情し、哀れみ、「きっと見つかる」と慰めの言葉を投げかけて来た。

……それでも両親は帰って来なかった。

 

要は信じる事が怖かったのだ。

両親と同じく、エックスもきっと帰って来ない。そう思ってしまったから。

 

「……ごめん」

「私に謝っても仕方無いだろ。……それはエックスが帰ってから言ってやれよ」

 

そう言うと奏は振り返り、響と職員達に向かって声を掛ける。

 

「と言うわけで選手交代だ。こっからは私がやらせてもらうぞ」

「か、奏ッ!」

 

 次に声を上げたのは風鳴翼。しかし、そんな普段の彼女からは想像の出来ない、涙でグシャグシャの表情を浮かべながら奏に駆け寄って来る。

そんな翼にキシシと笑う奏。

 

「もしかしてまた泣いてるのか?……全く、翼は相変わらず泣き虫だなぁ」

「奏こそ……ッ…相変わらず意地悪だ……ッ!」

 

 泣きじゃくる翼を見届け、彼女は敵の前に立つ。

 

「皆との再会ってのは良いもんだ…随分と待たせちまったな」

「フン、色々と聞きたい事はあるがこれだけは言っておこう……如何にして復活を遂げたッ!」

「へっ、叩き起こされたんだよ。何年も寝たお陰でスッキリ。絶好調さ」

 

そんな奏の言葉にクク、と嘲笑うフィーネ。

 

「絶好調だと?そのような様で良く言えたものだなッ!貴様の肉体は衰弱し、痩せ衰え、立っているのもやっとだろうッ!」

 

 フィーネの言う通り奏の肉体は健康とは言い難い。

何年も寝たきりの状態で筋肉量は常人と比べ減少し、とてもでは無いが戦闘を行えるような身体では無いだろう。

 

「ああ、否定はしないさ……けどな」

 

 しかし、彼女は立ち上がり闘う。明日を守る為に、人々の当たり前の毎日を守る為に。復讐よりも大切なモノを見つけた彼女には、もう既に"逃げる"と言う選択肢は存在しないのだ。

 

「ンなもん、根性で補えば問題は無いんだよッ!」

「笑止千万ッ!腹皮(はらかわ)が捩れるわッ!」

 

 腕に装着された装甲が展開し、突撃槍へと変形する。そのまま備えて付けられたブースターの勢いに乗りフィーネ目掛けて突進して行った。

 

「幻、夢、優しい手に包まれ 眠りつくような優しい日々も今は」

 

 振るわれる鞭に対し槍を巧みに操り、攻撃を捌いて行く。

真っ向からの力比べでは確実にフィーネ側が有利だろう、こちらは決して真正面から拮抗せず、鞭の軌道を逸らし進んで行く。

 

「先まで死人同然だった者がッ!しゃしゃり出て来るなッ!」

「───っ、儚く消えまるで魔法が解かれ すべての日常が奇跡だと知ったッ!」

 

 身体のあちこちに切傷を負う。攻撃を捌くと言っても無傷でそれを成す事は不可能だ。コンディションは不良。ハッキリ言って、勝てる見込みは薄いだろう。

 

しかし、それを承知で彼女は戦いを挑む。

己が人類を守護する防人である限り槍を振るうのだ。

 

「曇りなき青い空を、見上げ嘆くより…ッ!」

 

 アームドギアである突撃槍を二振りのスピアへと変形させ手数を増やし、怒涛の乱撃でフィーネを追い詰めて行く……が、しかし流石の完全聖遺物。

復活を遂げたばかりの奏の攻撃をものともせずに双槍を弾き飛ばした。体勢を崩した奏の腹に傷跡を残してやろうとフィーネが蹴りを入れ込む……その瞬間。

 

「本当の気持ちでッ!!」

「なにっ!」

 

 立花響が間に割り込み、フィーネの脚を掴んだのである。

 

「向かい合う自分で…いたいよおおおおおおおおッ!!」

 

 そのまま掴んだ状態で回転。竜巻のように勢いを付けてフィーネを投げ飛ばすと、地面に尻餅を着いた奏に手を差し伸べる。

 

「奏さんッ!一緒に行きましょう!」

「……ああっ!」

 

 1人の力が弱くても、それを幾つも束ねればより凄まじい力となる。ある程度の疲労が回復した立花響を加えて、ここに二振りの勝利必中の槍(ダブル・ガングニール)が揃った。

 

「「きっと、どこまでも行ける!見えない 未来へも飛べる!/翼に気付けば!」」

 

 立花響と天羽奏。2人の装者はフィーネ目掛けて駆けて行く。

それに対し先史文明より来たれし亡霊は特大のエネルギー弾を形成。2人に向けて投擲を行った。

 

「この気持ちと 君の気持ち 重なればきっと」

「悲しみには とどまらずに 高く舞い上がれ」

 

 しかし装者達はその脚を止めず…寧ろ、より一層スピードを上げる事によってエネルギー弾が着弾するより前にフィーネの懐へ潜り込んだ。

 

「な────っ!?」

 

「「We are one 一緒にいるから Hold your hand 心はいつまでも!/乗り遅れないで!時は 止まってくれない!」」

 

(何だッ、この想定以上の出力はッ!?)

 

 その力にフィーネは驚愕する。自分の知る限り、2人はギアの出力をこれ程までに引き出す事が出来なかった筈だ。

 

「響ちゃんと奏さんの出力が上昇していますッ!」

「これはまさか…ユニゾン現象!?」

 

 タブレットに表示された2人のデータに驚きを見せる藤尭と友里の2人。

ユニゾン現象。それは櫻井理論の一つとして提唱されており、ギア同士の旋律を奏で、響かせる事により出力を共鳴・増幅させる機能の一つとされている。

 

通常のギア同士ではユニゾンを引き起こすのは容易なものでは無いだろう。

それこそ干将・莫耶や素早丸(ソハヤノツルギ)・大通連と言った二刃一体の聖遺物が元となったギア同士で無ければ難易度は更にだ。

 

しかし立花響と天羽奏は違う。彼女達は同じギアを纏っている。

ガングニールとガングニール、槍と槍。想定外と想定外が組み合わさった事によりフィーネを追い詰めているのである。

 

 

私ト云ウ音響キ ソノ先ニ

君ト云ウ音奏デ 尽キルマデ

 

「おのれ、この私が────!」

 

「「微笑みを/止まらずに Sing out with us!!」」

 

 二人組から繰り出される同時の蹴りがフィーネの腹部に撃ち込まれた。

怯んだフィーネに生まれた隙を見逃す筈も無く、奏は己が持つ長柄の得物を手に詰め寄る。

 

「その腕、貰ったぁッ!!」

「ぐ────!?」

 

 繰り出される一閃。

振るわれた槍刃によってネフシュタンの鎧と一体化した肉体を、フィーネの左腕を斬り飛ばした。

 

「お、のれえ……ッ!!」

 

 クルクルと器用に槍を回した後、フィーネの眼前に突撃槍を突き付けると、奏は不敵な笑みを浮かべた。

 

「悪いな、エックスと同じ左腕を斬り落とさせて貰ったぞ。姉妹お揃いのペアルックお似合いだぜ」

「貴様……ッ」

 

「あのー、つかぬ事を伺いますが…何で奏さんがエックスちゃんが腕を斬られたのを知ってるんですか?」

「ん?いやなに。おっ死んだ後に化けて、お前達の事をずっと見ていたんだよ」

「えっ、なにそれ怖っ(引き気味)」

 

 ハハハと愛想笑いを見せながらも彼女は槍を下ろす事をやめない。何年ものブランクがあろうとも天羽奏はそれをものともせずにフィーネに向けて言い放つ。

 

「もうやめにしよう……アンタとはこれ以上戦いたくない」

「……この私に情けを掛けるつもりか?」

 

 いいや違うと答える。

 

「アンタと戦っていると、私が何で戦うのか分からなくなっちまうからだよ………了子さん」

 

 そして悲しい表情を浮かべる天羽奏。元はと言え仲間であった彼女をこれ以上傷付けたくないのと、両親の仇の大元を目の前にして漸く長い復讐劇に決着を着けられると2つの感情に挟まれ葛藤する。

 

「頼むよ。これ以上、アンタに槍を向けさせないでくれ」

 

 それは奏なりの譲渡だった。それは奏なりの仇に対する慈悲だった。

 

「何故貴様等はこうも……」

「……」

 

 例えどう思われようとも。私達は貴女を信じている。

……いや、違う。自分達には一度繋がった信頼を断ち切る程の力が無いのだ。

 

故に、足元を掬われる。

 

「何故、貴様等はこうも簡単に隙を晒してくれるのか…!」

「は?」

「え?」

 

「小日向さんッ!?」

「…えっ?」

 

 少年が叫んだ。視線の先は彼女の持つソロモンの杖。

そこには先程斬り飛ばした筈のフィーネの片腕がガッシリと杖を掴んでいる光景が広がっていた。

 

「斬り落とされた腕が勝手に!?」

「今こそ我が元に還る時だッ!」

 

 グン、とソロモンの杖が…否、斬り落とされた腕に誘引力が掛かる。

まるで何10kgもの重りを支えているような…そんな力場が発生する。

 

何とか堪えようとした小日向未来だが、奮闘虚しくソロモンの杖はフィーネの分割された腕ごと彼女の元へ行ってしまった。

 

「ハ、ハハハハハハ!!遂に我が手に戻って来たか、ソロモンの杖よッ!!」

「しつこい…しつこ過ぎるぞフィーネッ!」

「何という執念ッ!何が貴様を駆り立てると言うのだッ!」

「無論ッ!」

 

 

「貴様等への復讐だッ!!」

 

 

 愛を見失った巫女は杖を天高く掲げる。

直後、翡翠色の光の雨がその場に街中にその地一帯に降り注いだ。

その数はおよそ百、千、万を超す全てを炭に換える絶望の光景へと染まる。

 

「そんな…ッ!?」

「これって…全部ノイズなのッ!」

「ま、街に居る人達はッ!?」

「この地域全ての住民には既に避難勧告を出しています……が」

「ノイズ達には物理法則を無視する機能が備わっている。例え時間経過による自壊を待っていたとしても……!」

「シェルター内に、別地域に流れ込んで行くッ!」

「確実に死者が出るぞッ!それも過去歴代を越した最高最悪の被害人数がッ!」

 

 百鬼夜行にして魔獣戦線、魑魅魍魎による阿鼻叫喚が生まれる。

それは人が人である限り抗う事の出来ない殺戮と暴力の象徴である特異災害ノイズの概念。

フィーネは嗤う。嘲笑う。霊長類への無力さに彼女は笑った。

 

「この大軍勢ッ!どう対処するッ!?どう戦うッ!?どう散って逝くか見ものだなァ!」

 

 目の前に立ちはだかる絶対なる失われし望み。

誰もが終わりだと確信したその時───聴こえた。

 

「声……?」

「え?」

「いや、ほら。声が聴こえるんだ」

 

 少年のふとした言葉。それと共に破損したスピーカーから聞こえて来る声。それも1つでは無い。数百もの戦場に響き渡る声。

 

「なんだ…何処から聴こえて来る?この不快な──歌ッ!?」

 

「何故急に歌が……!?」

「これは…まさか地下シェルターに居る……」

「そうだよリディアンの皆だ…!皆が応援してくれているんだッ!」

 

「司令、各所のシェルター区域より通信が届いています!」

「何ッ!?よし、繋げろッ!」

 

 驚愕の展開に差し込まれる通信機越しの職員達の声。

 

『混沌渦巻く戦場に嘴を入れる真似をしてすみません』

『ですが…皆が言うんです。「私達も力になりたい」…と』

『そんな少女達の純粋無垢な願いを無下に出来ましょうか…ッ!』

『司令、このような身勝手な行為をお許しください…!』

 

 彼、彼女等は現場に出る事すら出来ない日陰者達。しかし、それでも役に立ちたい。前線で戦う者達に協力したい。その想いを届ける為に学校施設の動力を復旧。その後に全ての区画のネット同士とリンクし声を届ける事に成功したのだ。

 

 

「皆が見てくれている……!」

「私を、私達を支えてくれている…!」

「……そうだ。何がノイズだ、何が絶望だ…ッ!」

「その程度の障害、退ける事が出来ずして防人と言えようかッ!」

 

 

 そしてその声は確かに届いた。装者達の力となり、己を支える礎となり、戦う為の意思となった。

それと呼応するように4人全員のペンダントが輝き始めたのである。

 

「まさか、外部からの供給されたフォニックゲインによるギアのロック解除及び強制起動だとッ!?… だからと言ってぇッ!」

 

 苦し紛れにも見えるソロモンの杖の起動。奏者達を呑み込む程のノイズ群を召喚し彼女達に向け嗾けた。

 

「響ィィッ!!」

 

 眼前の光景に悲痛な叫びを上げる小日向未来。だがその絶望はそれは眩い光と共に覆される事となった。

 

「光が…ノイズを消したッ!?」

「あれは…星?」

「いや…三日月ッ!?」

 

「……違う。アレは…X(エックス)だ。エックスの一部が皆をノイズから守ったんだ…!」

 

 数年の付き合いだとしても、エックスの事を良く知る少年だから断言出来る。死して尚、彼女は皆を守る為に戦ってくれているのだと。

 

例えその姿が小さな欠片になったとしても、聖剣の極光で闇を照らすのだ。

 

「まさか…ヤツ(エックス)に組み込まれたドラゴンハート(ロンバルディアの心臓)の一部かッ!?それがフォニックゲインと呼応し局地的なバリアフィールドを展開したとでも言うのかッ!あり得ん!こんな、こんな都合の良い展開が…ッ!」

 

「ハハ、そうだよね。仲間外れはダメだよね」

「全くアイツらしい置き土産だ」

「共に戦おう、エックス」

「そうだ…そうだよな。どんな時でも私達は」

 

「「「「1人じゃないッ!!!!」」」」

 

 歌は光となり、収束される。

それはかつて魔女が見た騎士王が持つ輝きと同じ───

 

「なんだ…何なのだその輝きはッ!!何が支えに立ち上がるッ!?何を握って力に換える!?鳴り渡る不快な歌の仕業か!?そうだ、お前達が纏っている物は何だ?心は確かに折り砕いたはず…!なのに、何を纏っている…?それは私が作った物か?お前達が纏うそれは一体何なのだッ!?」

 

 

「「「「シンフォギアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」」」

 

 

 支えるは人々の意思。握るは極光。纏うは白き翼。これまでのギアとは一線を画す出力に加え備えられた飛行機能。

膨大なフォニックゲインを必要とする櫻井理論の中でも机上の空論でしかなかった筈の奇跡の産物。

 

これこそ限定解除によって姿を露わにしたFG式回天特機装束シンフォギアの決戦機能ッ!

 

その名を───エクスドライブッ!

 

 





 戦っているのは装者達だけでは無い。大人も少女達も、前線に出られない人達だって同じく戦っているんだ。


〜〜キャラ紹介〜〜

『天羽奏』
ツヴァイウィングの片割れにして、復活した第3号聖遺物(ガングニール)の適合者。地下施設に保管されていたギアのペンダントとリンカーを頂いて天元突破式登場で大人達の度肝を抜いた。


次回はなるべく早く投稿出来ればなと思います。



シリアス「急で失礼しますが休暇をいただきます」

……えっ

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