未知との遭遇〜アルトリウムを添えて〜   作:ゴランド

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終わりはいつも通りに。



19話 胸の歌を信じて

 

 黄金の光が眩く地から遠く離れた地にて、2人の女性が居た。ノイズによる避難勧告によってガラリと静かな街中では異様な程に目立つ二人組だ。

 

「ねぇ、プレラーティ凄い事になってるわよ」

「……当たり前だ。約束されし勝利の剣(エクスカリバー)。その対災厄獣用最終決戦機能が準備段階に突入したワケだからな」

 

 彼女達の名をカリオストロとプレラーティ。かつての錬金術師達と同じ名を持つ彼女等は綺羅星の如く輝きを前に笑みを浮かべる。

 

「それにしても凄いわよねー、あれのビンビン伝わる力。局長の黄金錬成と同じくらいじゃない?……でも、あの娘がそんな力を出せるようには見えないけど」

「然り、人のキャパシティを超えた存在である神造兵装を内的宇宙(ミクロコスモス)に宿す[個体A-X]は常に聖剣を全力で扱うのは不可能なワケダ」

 

 結社により造られた人造生体。聖剣の欠片を元にレイライン内で再結晶化(リビルド)させた事によって生まれた神造兵装。それを、造られた存在であるエックスが扱うには荷が重いだろう。

 

「ならば如何にして扱えるようにするか?……簡単だ。己が固有結界内にて聖剣を収める為の密封式魔術礼装として扱うしかあるまい」

「つまり…あの子自身が聖剣封じ込めてる鞘って事ね♪」

 

 今まで振るわれた聖剣の極光は、本来の数百分の一と希釈されたモノに過ぎない。エックス自身に刻まれた円卓の騎士達を(なぞら)えた十三在る拘束術式。

それが解かれた瞬間、エクスカリバーの真なる力が開放されるのだ。

 

「ご名答。例え剣が損傷したとしてもA-Xの身体が無事ならば体内のエネルギーを循環させ修復させる事が可能になるワケだ。まぁ、我々が使う予定の専用装束(ファウストローブ)のプロトタイプとしても設計されているのも大きいワケだがな」

 

 少女の姿をした狂人のカエル人形を掴む手に一層の力が込められ、ニヤリと不釣合いな笑みを浮かべ声を上げる。

 

「さぁカリオストロ、我々は今この場で災厄を祓う聖剣の秘められし力の一端を目撃する事となるワケダッ!」

 

 しばらくしてケタケタと嗤う少女が落ち着くと眼鏡の縁を押し上げ、呟く。

 

「まぁ、ヤツがドゥ・スタリオンを強奪した事は許せないが、今回は多目に見てやるとしよう……いや、やっぱり許さん」

「えっ、プレラーティ?」

 

 

「本気と書いてマジとルビを振るくらいに絶許案件だ!チフォージュ・シャトーまでも盗まれた後にドゥ・スタリオンも盗むってもう許さんッ!私も怒髪天に来てるワケだクソがぁッッ!!」

 

 すると様子が急変。地団駄を踏み始め形相が鬼のように怒り一色に染まった。

プレラーティは激怒した。必ず、かの邪智暴虐な自称セイバーとほざくホムンクルスと愛など要らぬ系ロリ娘錬金術師を除かなければならぬと決意した。

 

そんな彼女を前にカリオストロは「それじゃあ」と口を開く。

 

「いっその事……始末しちゃう?もしかしたらあーし達の障害になり得るかもしれないし…ね」

「やめておけ。我々の現状の目的は個体[A-X]の監視だ。加えて局長に小言を言われるだけじゃ済まないワケダ」

「もう、冗談だって」

 

 そんな殺気を出してよくそんな事を言えるワケダ。とプレラーティが呆れつつ、取り出した容器を手に近くにあった椅子へと腰掛ける。

 

「さて……と、監視がてら今回こそ麻婆への雪辱を果たす時が来たワケだ」

「えっ、本気なのプレラーティ!?それ前に口にしたら失神、後に尻の穴が地獄になったじゃないッ!」

 

「三大欲求を追求せしこの私がコレを前に逃走と言う選択肢は無いッ!前回は予想以上の辛さに敗れた私だが、今回はそうはいかんッ!いざ、実食ッッ!!」

 

この後、無茶苦茶辛さで悶え苦しんだ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

十三拘束開放(シール・サーティーン)──円卓議決開始(ディシジョン・スタート)ッ!」

 

 その声と共に聖剣の形状が変化する。

……いや違う。正確には聖剣の外装が剥がれ本当の神造兵装としての姿を現したのだ。

 

「是は、生きるための戦いである」

【承認 ケイ】

「是は、己より強大な者との戦いである」

【承認 ベディヴィエール】

 

 誓約によって段階的に仕掛けられた封印術式が解かれて行くことで光が、輝きが世界に満ちる。

そしてフィーネの身体が、細胞の一つ一つが『アレを使わせてはならない』と警告を告げて来る。

 

『させてなるものかッ!』

「それはこっちの台詞だッ!」

「私達でこちらの露払いをするッ!その間に……!」

 

 紅き竜の身体から伸びる触手を雪音クリスと風鳴翼が断つ事によりエックスへの妨害を阻止する。

 

「是は、人道に背かぬ戦いである」

【承認、ガヘリス】

「是は、真実のための戦いである」

【承認、アグラヴェイン】

 

 より一層増大した煌めき。それは太陽にも等しく輝き、悪を断つ刃となる。

 

「おのれぇッ!!」

 

「させるかッ!!」

「こんなものぉぉぉおおおおッ!!」

 

 その巨体より放たれる光線の雨が聖剣を高く掲げるエックスに向かう。

しかし、奏が槍を回転させ盾のように扱い、響が拳でレーザーの軌道を逸らす事によって敵の攻撃を防ぐ。

 

「是は、精霊との戦いではない」

【承認、ランスロット】

「是は、邪悪との戦いである」

【承認、モードレッド】

 

 圧倒的な光源。それが段々と膨大なモノへ化して行く。目を焼かれてしまうのではないかと錯覚してしまう程の熱源を手にするエックスは封印術式の開放を続行する。相手を確実に倒せるその力が溜まるまで。

 

「是は──ッ!?」

 

ブシャッ

 

 しかし異変は起きた。彼女の左腕から爆弾が起動したように夥しい量の血が噴き出した。

 

「エックスッ!?」

「そんな、どうしてッ!腕から血がッ!?」

「まさか……ヤツに腕を斬り落とされた時のダメージが残っているのか!?」

「今此処になってッ!タイミングの悪いッ!」

 

「ッ!!…私欲なき戦いで……あるッッ!」

【承認、ギャラハッド】

 

 彼女の腕は一度、フィーネに斬り落とされたが聖剣の熱による溶接で戦線復帰をした。

しかしそのような荒治療では万全な状態にまで回復する事は不可能。強大なエネルギー量を持つ聖剣を支えるのに限界が来てしまったのだろう。

 

 歯を食いしばり無理矢理、力を引き絞る彼女の剣軸は先程までと比べ揺れ動いてしまっている。

これではマトモに振るう事さえままならない。

 

「く、そぉ………ッ!」

 

 無念の意を露わにするエックス。

駄目だ。一体どうすれば…一体どうすればこの逆境を────!

 

 

どうすれば……!

 

 

「私達が居るッ!!」

「ッ!?」

 

 

  〜『♪Synchrogazer』〜

 

 

「ヒビキ!?」

「ぐ、ああああああああああああああああああああああッッ!!?

 

 その瞬間左腕を支えるように、包み込むように。立花響の腕が添えられた。しかし、それは同時に許容範囲外の激的なエネルギーが流れ込むのを意味する。

 

完全聖遺物デュランダルとの拒否反応によって起こった暴走。いや、それ以上のオーバーヒートが彼女の体内で発生してしまっているのだ。

 

「な、何をッ!何をしているんですかッ!今すぐに放して───ッ!」

「ぐ、ああっ!!──このっ……!お前は剣に力溜めるのに集中してろッ!」

「アーチャーッ!?」

 

「私達が支えるッ!」

「ぶっ放しちまえッ!」

「セイバーッ!?それにランサーまでッ!」

 

 そんな響に続いて、クリス、翼、奏までもがエックスを支え始めた。彼女は1人じゃない。どんな時でも1人じゃない。それは聖剣を振るう時も同じなのだ。

エックスの身体に伝って流れ込む莫大なエネルギーが装者達へと迸る。

 

あ゛…ア、ああああッ!私達はッ!!明日を迎えるんだッ!未来とッ!クリスちゃんとッ!翼さんに奏さん!バイトさんや他の皆も一緒にッ!───そうだよね、エックスちゃん!」

「……ええ、そうですねッ!」

 

 瞬間、暴走が治まった。いや違う。エネルギーの流れが一転に集中し始めたのである。

これは、シンフォギア装者の立花響固有の特性である束ねる力ッ!皆の力を1つに纏めて解き放つ力ッ!

 

「想いを1つに束ねればッ!」

「そうだ、未来は開かれるッ!」

「争いの螺旋とて断ち切れるッ!」

「そいつを分からず屋に教えてやるぜッ!」

「私と共に並び立つ心善き勇者達とッ!誉れ高き戦いに今、終止符を打つッ!!」

 

「「「「(これ)はッ!世界を救う戦いだぁぁあーーーーーーーーッ!!」」」」

「承認ッ!!」

 

 

 溢れる聖剣のエネルギーが装者達の背に双翼となりて形成される。

 

 

「これがッ!」

「私達のッ!」

「全てをッ!」

「込めたッ!」

 

 

 大振りから繰り出される束ねし想いの奔流と生命の息吹。山吹色の閃光が剣より解き放たれる。これが5人の……いや、人々の意志が込められし極光。

 

 

「「「「「約束されし勝利の剣(エクスカリバー)だああああああああああああああああああああああああのああああああああああああああああああッ!!!」」」」」

 

 

約束されし勝利の剣(EXCALIBUR)

 

 

 それは超特大の閃光の矢となり放たれる。矢は紅の竜を呑み、空へと駆けて行く─────。

 

 

 

 

 

 竜が崩壊していく最中、鎧内部のフィーネは足掻き叫ぶ。

 

「どうしたネフシュタンッ!再生だッ!この身砕けてなるものかッ!!」

 

──そうだ

 

「ここで、ここで朽ちる訳にはいかぬのだッ!!」

 

──己が怨讐を燃やせ。全てを燃やせ

 

「我が怒りはこんな所で果てるモノでは無いッ!私のあの方に対するこの感情は────」

 

 頭の中で反復するように響く己の声。

しかし、フィーネの記憶の中から松明のように輝く思い出が浮かび上がる。

 

それは思い返すと心が締め付けられ、切なくなり、哀しくなり、そして…とても愛おしいモノであった。

 

「……いや、違う。私は…」

 

───いいや違くない。貴様は怨讐の化身。その身を焦がす程の焔で奴等を灼くのが貴様の行うべき事だ。

 

 頭の中で反響する声は大きくなり、フィーネを呑み込もうとする。闇で覆い彼女の願いすらも霞むような暗い暗い、闇の中へと声は引き摺り込もうとする。

 

……だが

 

「もう、いい。もういいのよ」

 

───なに?

 

 それを先史文明の巫女は拒むと同時に光が差し込んだ。極光の輝きが闇を照らしていく。

 

───貴様…!この期に及んで今更ッ!

 

 声が、フィーネの一部であるモルガンが激情する。何故だ、何故復讐の炎を燃やさん!?貴様の愛する者は全てを奪ったッ!この星より統一言語を奪ったッ!

 

───何故だッ!何故貴様は憎しみを捨てようとするッ!

 

「私達は、前へと進むべきなのよ。だって───」

 

フィーネは微笑み、モルガンに返す。

 

「そうあるべき、愛を貴女は知っている筈だから」

 

───何故そこで愛ッ!?

 

「…分からないのかしら?確かに貴女はアーサーを憎んでいたのかもしれない。けど、本当に憎んでいただけなのかしら?」

 

 馬鹿な、とモルガンは云う。騎士王の敵である自身が彼女の事を愛した事なんて一度も無い。その筈だ。

 

 しかし、本当にそうなのだろうか?

それが本当ならば何故、自身は騎士王の最期を見届けた後に何故にアヴァロンへ連れていったのだろうか?

 

……まさか自身は騎士王に家族としての愛情が少しでも存在していたとでも言うのだろうか?

 

 

「ねぇ、モルガン()。貴女はもう過去に囚われなくていいのよ、もう、縛られなくてもいいのよ。私達はあの子達のように笑っていけるような未来へ進むべきなのよ」

 

───……そうか。

 

 今になってようやく理解出来た気がする。何故、エックスを目にした瞬間、内から憎悪が湧き上がって来たのかが。

それは自身への憎しみだ。過去に縛られた己と過去を振り切ろうとする彼女。そんな彼女の姿が眩しく思えてしまったのだ。

 

───ああ、何処までいっても純粋な忌々しい光…でも、そんな光を浴びるのも悪くないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 直後、フィーネは光の渦に呑み込まれる。それと共に怨霊は安らいだ表情を浮かべ現世より解き放たれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますとそこには装者達が立っていた。己が身体は崩壊していき、残り僅かな生命しか残っていない事をフィーネは察する。

 

「私達の勝ちです。了子さん」

「あぁ、そして私の敗北だ」

 

 崩壊と再生の繰り返しの末路。力を求めた彼女は三つの聖遺物を取り込んだ彼女の身体は限界を越えたのだろう。

まぁそれでも、再生しきれない程の威力の聖剣の極光を受けたのだから仕方の無い事だ。

 

そんな彼女に立花響達は複雑な表情を浮かべる。

もしかしたら助けられたかもしれない。本当なら彼女と戦わずに済んだのかもしれない。

 

……本当にこのような結末でよかったのだろうか?

 

「何故、悲しむ?結局、あのような選択を取った私が死ぬのは当然の帰結だ。これで良い。所詮人と人とは相容れぬ存在なのだから」

「……違う、違います」

 

そんなフィーネに響は手を差し伸ばした。

 

「了子さんは了子さんです。私達とだって分かり合えるんです」

「……私は了子では無いフィーネだ」

 

「……フィー子さん」

「だから一括りにするなとッッ!」

 

 響の言葉に声を上げるフィーネ。そんな彼女にクリスがポンポンと肩を叩いた。

 

「諦めな、この馬鹿は一度言い出したらそれを有言実行する行動力の化身だ」

「……ノイズを作り出したのは先史文明期の人間。統一言語を失った手を繋ぐよりも相手を殺すことを求めた」

 

 その後「そんな人間が分かり合えるものか」と付け加える。かつて自分が荷電粒子砲と同じ名の塔を建設した時、人類はバラルの呪詛によって統一言語を奪われた。

 

自分の所為だ、全人類に呪いを与えてしまった自分が今更分かり合うなど────

 

 

「いいや、俺達はもう分かり合っている筈だ」

「……弦十郎に他の皆か」

 

 フィーネの視界に弦十郎を筆頭に二課の職員達の姿が入って来た。大方、裏切り者に対する粛清かと思ったが違うらしい。

 

「何しに馳せ参じた?」

「無論、仲間の見送りにな」

「……は?」

 

 彼女は理解出来なかった。何故こいつは裏切り者の自分を仲間として扱っている?何故こいつはこうも人を信じられる?

 

一体どうして……。

 

「それが人だからですよ」

「……アーサー」

「私はエックスですよモルガン…いいえ、フィーネ」

 

ヒロインエックスは口を開く。

 

「私は人ではありません。ですが、人は憎み合う事が出来るのならば……信じ合う事だって出来る。私も貴女も万能に作られて生まれた訳ではありませんからね」

「………」

 

 聞いた事のある言葉だ。これは一体何処で聞いたのだろうか……?

そんな既視感のある言葉に戸惑うフィーネを他所に少年少女が姿を現す。

 

「バイト君!」

「未来!それに皆も!」

「響っ!」

 

「無事……うん、無事みたいだね」

「勿論ですよ。この程度でやられる私ではありませんのでッ!」

 

 

 

 

『フィーネ』

「っ!?」

 

 目前の光景に古い記憶が呼び起こされる。

声だ、自分の愛する者の声が響くと同時にその時の光景が広がる。

 

ああ、そうだ。そうだった……。

教えられた。人は不完全だからこそ前に進み手を伸ばし続けようとする。

 

 そして……自分が、あのお方(エンキ)が欲しかったモノ。それはコレだったのだろう。

いつも通り日常だ。幸せな他愛無い、笑顔の満ち溢れる日々が欲しかったのだ。

 

「櫻井さん?」

「……私はフィーネよ」

「…櫻井フィーn「一括りにしたら殴る」アッハイ」

 

「……ふふ」

 

 答えは得た。

フィーネは笑う。その表情(かお)は今までの冷酷なモノとはかけ離れた……心の奥底からの清々しい笑顔だった。

 

「了子さんが笑っ──」

「貴女達に託しても良いかしらね」

 

 これからも特異災害であるノイズはバビロニアの宝物庫より溢れる落ち、人々に牙を剥くだろう。

しかし装者達が居る。二課の皆が居る。

 

「だから安心して今を託せるわ」

「はい、私達も安心して了子さんに未来を託せます。どこかの場所、いつかの時代、蘇る度に何度でも私達の代わりに世界を1つにする為に力なんて必要ないって事を、言葉を越えて、私達は繋がっていけるって事。私達は未来にきっと繋いでいける……って」

 

 今日を明日を、今を未来を守る。人が人に想いを託す事でお互いは分かり合えると信じて。

 

「エンキ、私もいつか胸の内の想いを…」

 

 私の声は聴こえますか?いつかの未来。貴方と再び出逢える事を信じて私は手を伸ばして続けるだろう。そう思いながら彼女は()()()()を見上げ───

 

 

 

 

「……ん、欠けた月?」

 

 フィーネは再び月を見上げる。そこには一部分が完全に欠けた月が浮かんでいた。

 

「………バイト君、ちょっと」

「はい?」

 

 もしかしたら死に逝く一歩手前なので幻覚か何かが見えている可能性を考慮して近くにいた彼を呼び確認するフィーネ。

 

アレ()欠けてない?」

「……欠けてますね」

「そっか〜〜、欠けてるかぁ〜〜ッッ」

「欠けてますね、ハハハ……」

 

 

 

 

 

「「月欠けてるじゃねぇかッッ!!」」

 

 2人は思わず叫んでしまった。何故?何で?WHY?

いつの間に月は欠けていたッ!?そんな思いが伝搬し、周りの人達までもアタフタと混乱する。

 

「どっ、どう言う事っ!?」

「確かに荷電粒子砲は防いだ筈ッ!?それなのにどうしてッ!?」

「おおお、おお落ち着くのだ皆ッ!ここは冷静になってタイムマシンを探してだな……」

「アンタが落ち着けッ!つーか一体全体どうなってんだよッ!?何で月があんな惨状に!?」

 

 目の前の光景を受け入れられないのか装者や二課の面々が頭を抱える。

……そんな中で「あっ」と声を漏らしたのはいつの間にか解説役になっていたバイト君だった。

 

「……あのさ、エックス。確かさっき全力のビーム撃ったよね?」

「はい。アレは今世紀最大といっても過言では無い一撃(カリバー)をブッパしました。それが?」

 

「…あー、いやさ。フィーネさんに向けてそれ撃ったじゃん?」

「そうですけど」

「それがどうしたんだよ。さっさと本題に入れ」

 

 彼の言い回しに苛ついて来たのかクリスは不機嫌そうに呟く。

そんな彼女の言葉に腹を括ったのかバイト君は口を開いた。

 

「うん。それでさ、ビームがフィーネさんを貫いて空に向かって行ったよね?」

「「「「そうだな/ですね」」」」

 

「それで──そのままエクスカリバーが月に直撃したんじゃない?

「「「「………」」」」

 

 

 要するにだ。彼は全力のエクスカリバーがフィーネごと月を破壊してしまったと推測したのである。

それについて軌道計算に定評のある藤尭に測定して貰った所……。

 

「あっ……いや、うん。ワザとじゃないから気にしなくても大丈夫だよ(震え声)」

 

と、肯定に近い答えが返って来た。

 

これより二課による(命を賭けた)残業サービス出勤の始まった。

 

「これより装者達は墜落が予想される月の破壊を頼むッ!」 

 

「無茶苦茶言うなよッ!?アレだぞッ!?月だぞオイ!」

「あ、案ずるな雪音ッ!こう言う時こそドラゴンボールを七つ揃えてだな…」

「いい加減アンタは戻って来いッ!!」

「と、とりあえず……やってみますッ!」

「お前のそのポジティブ精神は一体何なんだよッ!?」

 

 弦十郎からの指令によって混沌が渦巻く装者達。しかし、そんな彼女達に天羽奏が声を上げた。

 

「落ち着けお前等ッ!今この場で槍と剣と銃を携えているのは私達だけだッ!!そんな私達が弱気になってどうするッ!」

 

「奏…!」

「さ、流石は装者の古株ッ!一喝でこの場を収めやがったッ!」

「凄い!凄いよッ!流石は奏さん憧れちゃうなぁ〜〜ッ!」

 

「響が顔を赤らめて憧れの眼差しをッ!?ポッと出のキャラの癖して響に色目を使うなんて…ッ!(ギリッ)」

「ヒナ?今、そんな状況じゃないと思うよヒナ?」

「やめといた方が良いと思うわ。この状態の彼女はアニメ的にもどうこう出来ないわ」

「愛が重いですわね…」

 

 後方で響の彼女面する未来と、彼女の相変わらずさに苦笑を隠しきれないクラスメイト3人組。

そんな彼女達を他所に奏は突撃槍を高く掲げ、叫ぶ。

 

「さぁ、行くぞッ!一番槍の私に続け───ヴッ

「……奏?」

 

 突如として苦しそうな声を上げた後、安らかな表情を浮かべ微動だにしなくなった奏。そんな彼女を心配し翼が声を掛けるが一切反応しない。

 

一方、バイトの目にはギアを纏った奏から半透明の奏がスゥッと抜けて出て来る幽体離脱的な……と言うより幽体離脱の光景そのものが映っていた。

 

「奏さん?」

『……すまんバイト。私、死んだわ』

「奏さん!?」

 

「ランサーが死んだッ!?」

「この人で無しッ!?」

「奏ぇぇええええええええええッ!?」

 

 まさか人生で2度目の死を迎えてしまった天羽奏。かっこいい台詞で決めた直後にコレである。そんな再死亡を果たした天羽奏(幽体)はハハハと愛想笑いを浮かべながら口を開く。

 

『いやー、まさか二度目の死を体験するとはなぁ(楽感的)』

「馬鹿じゃないですか奏さん!?何でこの状況下で死ぬの!?」

『うっせぇ!何年も飲まず食わずの状態で激しい運動+限定解除すりゃあ、死ぬわ!今まで立っていたのも奇跡だわッ!』

 

 正論である。

 

「と、に、か、くっ!オラァ!早く自分の身体に戻れぇッ!」

『や、やめろォ!そうやって私に乱暴するんだろ!ピク○ブのR-18イラストみたいにッ!ピ○シブのR-18イラストみたいにッ!』

「幽霊相手じゃナニも出来ないんだよッ!」

 

「バイトの奴……錯乱しているな」

「きっと今までの疲労が此処に来て一気に出たのでしょう。病院は手配しておきますね」

「俺は正常だッ!……あれ?ところでエックスは何処に行った?」

 

 大人達に心配される少年はふと、そう呟くと辺りを見渡す。

そして……。

 

「あっ!アイツ1人だけ逃げようとしてやがるッ!」

「ちょっとエックスちゃん何やってるのッ!?」

「ゲェーッ!バレては仕方ありません、私はこれ以上ついて行けなさそうなので一足先に逃げさせてもらいますよッ!」

「ふざけんなッ!テメーがやった事だろうが責任持てコラァッ!」

「おおっと!残念ながら急用を思い出しましたッ!三十六計が何とやら、兵法に従って明日に向かっての全速力の戦略的撤退で私は失礼しま───」

「影縫い(と言う名の天ノ逆鱗)」

「がああああああああああああああああ!?」

 

 逃げようとした自称セイバーをとっ捕まえる翼。流石はヘンテコ生命体と共に戦って来た防人だ、面構えが違う。影縫い用の小刀では無く巨剣で物理的に突撃して行くスタイルを目の当たりにした響は声を上げた。

 

「翼さん!大丈夫なんですか!?」

「ん?何がだ立花、見ての通り私は五体満足で元気潑剌だ」

「い、いやでもアンタ。こう言う時になるといっつも奏ーって叫ぶだろ」

 

 クリスの言葉にフ、と笑みを浮かべる風鳴翼。その表情には余裕の現れが見て取れる。

 

「確かにそうだな。しかし、私はいつまでも奏に囚われる訳にはいかないのだ。奏は奏。私は私なのだから」

 

『……翼の奴、無事に巣立ったみたいだな』

「そうですね。俺は翼さんなら大丈夫だと信じてましたよ」

 

 そんな彼女を少し離れた場所から眺める少年と幽霊。彼女等は防人の成長を嬉しく思い笑みを浮かべる。

 

「それに、私は気付いたんだ」

「何にですか?」

「ああ、私の心の中にいつも奏は存在するんだ」

 

「『……ん?』」

 

 嫌な予感をひしひしの感じ始めた2人。それが的中するかのように翼は何も無い所に向かって喋り始めた。

 

「そう…今もこうやって私に語りかけ、勇気をくれる。そうでしょ?奏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!そうよね!やっぱりそうだよねッ!奏ッ!」

 

「『巣立ってねぇッ!囚われたままだこれーーーーーーッ!?』」

 

 イマジナリー奏を習得した風鳴翼。もはや何も恐るる物は有らずと言わんばかりのテンションと化した防人を前にバイトと奏(本人)は声を上げるが、悲しいかな彼女の耳には全く届かない。

 

そんな装者を前に先史文明の巫女は額を抑え、呆れ果てた様子を見せる。

 

「……こんな奴等に倒されたのか…私は……」

「ちょっと!?元気出してください櫻井フィーkじゃなかったフィーネさん!」

「今、フィー子って言いそうになったわよね?完全に途中から訂正したわよね!?……まぁ、良いわ。君には色々と酷い事をしてしまったわね」

「い、いや。でも仕方ないんじゃ無いですか?ほら…立場上は敵同士だったんで出しゃばった俺が悪かったんで……」

『殺されかけたのにコイツ許す気でいるの?スゲーなお前の胆力』

「立花さん程じゃないから」

 

 そんな彼の言葉に少しだけ救われた気持ちになったのかフィーネはこんな言葉を口に出した。

 

「それなら、せめて私に可能な範囲で知識を与えるわ。要はどんな質問も答えて上げる」

「ん?今、どんな質問でもって言いましたよね?」

「立花さん。俺に言ったから。フィーネさんは俺に言ったからね?……えっと、可能な範囲でいいんですよね」

「勿論よ。と言っても幾多もの転生を経た私に答えられない質問なんて無いに等しいけれどね」

 

 自身あり気に呟く巫女。割り込んで来た立花響を他所に「それじゃあ…」と彼はそれを口にした。

 

「此処に来る時にフィーネさんの代わりに払ったタクシー代について聞きたいんですけど」

「………」

「あの、フィーネさん?」

 

 口を鋼鉄の扉の如く閉ざしたフィーネ。そんな彼女がギアを纏った立花響に向き直ると、胸に手を当て告げる。

 

「今も、これからも、胸の歌を信じなさい」

「了子さん…」

 

 

「いや、あの何かいい風な感じに纏めてるトコすみません。タクシーの代金は───」

「あ、時間切れねハイさようなら」

「フィーネさんッ!?」

 

 先史文明の巫女フィーネは風となり消え去って行った。その姿はまるで崖っぷちギリギリの所で大人としてのプライドと恥じらいを焼却したような…そんな感じのアレであった。

 

要は苦し紛れに(この世から)逃げたのである。もしかしたらまた転生した後に出会うかもしれないが、とにかく逃げたのである。

 

「えぇ……フィーネさんさぁ…」

「胸の内を信じる……分かりましたッ!皆さん、月の欠片を破壊しましょうッ!了子さんの言葉を信じてッ!」

「いや、私としては最後の金貸しについてが印象に残り過ぎてそれどころじゃねぇんだけど!?」

 

 クリスの言葉を意に介さず響はあっと何か思い出したように少年の元へ駆け出して行く。

 

「あ、それと。これはバイトさんが持っていてください」

「……これは?」

「エックスちゃんの毛です」

「はい?」

「アホ毛です」

「いや、うん見れば分かるけど何で?」

 

 謎バリアを形成する事が出来るらしいエックスのアホ毛。それはバイトさんが持つべきだろうと言う気遣いと長く持ちたく無いと言う押し付けを五分五分の気持ちで響は渡す。

 

「それじゃあ、行って来るよ皆」

「ああ。最後の一仕事、奏の分まで全うさせてもらおう」

「……マジかよ」

「………」

 

 やる気のある者が2人。やる気の無い者が1人。気絶している者が1人。計4人が空を舞い月に向かって飛んで行く。

 

装者達は想いを胸に束ね、駆ける。人々を守り、今日を明日へと繋いで行く。それがフィーネの……いや、彼女達の願いなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!私も響から毛を貰えば良かったッ!」

「そこまでにしとけよ小日向さん」

 

 

 

 こんなぐだぐだな日を守って、皆と共に笑おう。

いつか先史文明の巫女も一緒に笑い合える日が来ますように。

 

 

EP1『ファントム・メナス』

〜終〜

 





シンフォギア 無印編完結。
いやー、最後までギャグたっぷりになってしまいましたねハハハ(白目)
ところで最近目が悪くなったのか、ランキングを覗いたら上位陣にあってはならないモノ(この小説)が載っていた気がするんですけど……うん!気のせいだな!

とにかく、エピローグと言う名の戦姫絶唱しないシンフォギア編をお楽しみに。
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