未知との遭遇〜アルトリウムを添えて〜   作:ゴランド

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 頭のおかしいウマ娘の小説書いてたら投稿遅れました。ヒロアカも書かないとだから許して。


29話 バイト君 命の危機

 

「ただいま戻って来たデース!」

「切歌、調!無事だったのね!」

 

 敵地より帰って来た2人を心配するように駆け付けて来たのは武装組織フィーネの一員であり、もう一つのガングニールを纏いし者マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 

「帰りが遅いから心配して……ねぇ、2人とも。その後ろで蠢く頭陀袋は一体何なのかしら?」

「ふっふっふ…驚くデスよマリア!」

「あっち側から凄いのを収穫して来たよ」

「え?」

 

 バサリと袋を取り払う2人。その中から現れた男のマリアの目が合う。

 

「どうもバイトです。一億年と二千年前からマリアさんのファンをさせて貰ってます」

「……誘拐ッ!?」

 

 まさかの2人が犯罪行為に染めてしまった事態にマリアは卒倒しかけた。しかし持ち前の粘り強さで何とか持ち堪える事が出来た。

 

「と言うか誰なの貴方⁉︎」

「あ、気にしないでください。ただの有象無象の1人的なサムシングです。電柱、もしくはただの壁と認識してください(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛生のマリアさん!生のカデンツァヴナ・イヴさん!生のトップアーティストオーラしゅごいいいいいいいいいい!)」

『見る目がありますね。私の姉さんは世界一のアーティストなんですよ!』

「分かるマン(威風堂々)……ん?」

 

「どうしたデスか虚空に向かって変な事呟いて…」

「いや…俺に何か話しかけたりした?」

「何言ってるデスか誰も話かけてないデスよ」

 

 切歌の言葉に対し、バイトは己の耳に届いた謎の声は一体なんだったのか頭を悩ませる。

 

「いやはや、相変わらず騒がしいですねぇ。お遊びの感覚が抜けて無いように見えますよ?」

 

 そんな謎の幻聴に疑問を来す彼だったが、そんな考えを遮るかのように目の前に存在するエアキャリアから1人の男が現れる。

 

「ウェル⁉︎」

「…わざわざ出迎えて来るなんて」

「トンデモはよっぽど暇なようデスね!」

 

 白衣を纏う眼鏡の男性。何処かで見た記憶があったその人物の姿にバイトは頭を働かせていると、こちらに向き合い自己紹介をして来る。

 

「おっと失礼。私の名前はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。皆は私の事を───」

「…ジョン博士?」

「ドクター・ウェルです(訂正) そんな呼ばれ方は初めてですよ」

 

 やや困惑した様子のウェルと言う名の男。そんな彼の名を聴き、バイトは思い出した。ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、彼は聖遺物研究者にしてエックス達が米国政府のソロモンの杖護送任務にて行方不明となった筈の科学者。

 

「…貴方は確か行方不明だった筈?」

「ほほう、その口ぶりから察するに二課の民間協力者と言う感じでしょうか?……これは好都合。この少年には人質としての責務を全うさせていただきましょう」

 

 そんな人が何故ここに居るのか?捕虜にしては様子がおかしい…と思考に没頭していると彼女達から険悪なムードが漂って来る。

 

「…勝手に決めるのはやめて頂戴ウェル」

「おやおやそんな言い方は無いでしょう?貴女方が心配でここまで駆け付けたのです。僕はあくまで最善の策を申し出たまでのこと。それとも?それ以上に良い策を捻りだす事が君に出来ますか?」

「よくもまぁヌケヌケと…ッ!」

「ま、待つデス!この人にはもっと良い使い道があるんデスよ!……ね?調!」

「うん……例えば料理とか……あと、調理とか」

 

 苦し紛れのファローに俺このまま専属のコックになる流れなの?と困惑を見せるバイト。だがそれんな2人の意見をドクターウェルは一蹴する。

 

「フン、馬鹿馬鹿しい。そんな悠長な事を言ってられるのですか?彼には人質としての価値しか有りませんよ…てっきり貴女方はそれを承知して連れて来たと思ったのですがね……」

「っ!」

 

 キッと睨む2人に対し煽るような笑みを浮かべる。どうにか諌めようとバイトが一歩踏み込もうとしたその瞬間、一喝の声が上がる。

 

「おやめなさい」

「「マム!」」

「……おっと、ナスターシャ教授に騎士王のお出ましですか」

「……!」

 

 エアキャリアから現れた2人。そこに居たのは見覚えのある顔した(騎士王の面影を残した)少女と車椅子に腰掛け、眼帯をした初老の女性。エックスに似た容姿の少女は車椅子を押しながらこちらに向かって来る。

 

「彼の身柄に関してはこちらで決めさせて頂きます」

「おやおや、そちらで勝手に決めて貰うのは困りますねぇ…」

「ドクターウェル、貴方にはやるべき事がある筈です。それとも私の言い分に何か不満でも?」

「……ま、いいでしょう。それではお言葉に甘えて僕は持ち場に戻らせていただきますよ」

 

 不適な笑みを浮かべながら踵を返し大型ヘリに足を運んで行く科学者。行方不明となった科学者が捕虜としてではなく、仲間(?)としてこの場に居る。この事実にバイトが訝しむ表情を浮かべていると、首に冷たい物が当たる。

 

「っ!?」

「また会いましたね…とりあえずそのまま大人しくしてください。少しでも逃げる素振りを見せたら首を切り落とすか永遠に甘味を落とすマシーンになって貰います」

「2択の寒暖差が激しくない?」

 

 何処から抜けているが、剣を通じて伝わって来る殺意に脅しでは無い事を察する。彼がルナアタックでのフィーネと対峙した時と同様の感覚を味わう傍らでナスターシャは2人に顔を向ける。

 

「切歌、調。勝手な行動に関して色々と言う事があります」

「そ、その…」

「ごめん…なさい」

(………ん?)

 

 ふとナスターシャ教授の声が耳に入った瞬間、彼の記憶の隅に何か引っ掛かるモノがあった。あの人の声を何処かで聴いた事がある…?

 

「オルタ、連れて行きなさい」

「分かりました」

「……あっ!? 待って。ちょっと待って?」

「何ですか?死にたいんですか?……仕方ありません。サクッとやっちゃうので動かないでくださいね」

「いや違うから…あの、ナスターシャ教授でしたっけ?つかぬ事をお伺いするのですが……」

「……なんでしょう?」

 

 車椅子に腰掛けるその人の前に立つ。

彼の記憶は海外での一件以来、一部が欠落している。その為確信めいたモノは無い……が、それでも確かめたかった。

 

「その、勘違いでなければいいんですけど…何年か前に米国の研究所みたいな所で会った事ないですか?」

「……っ!? 」

 

 驚愕に満ちる表情にバイトは「あ」と声を漏らす。

 

「やっぱり…ナスターシャおばあちゃん!?」

「その呼び名は、貴方はまさか"アズマ夫妻"の…ッ!」

 

 東間媒人とナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤとの予期せぬ再開。これから待ち受けるであろう未来に更なる波紋を広げる事となる。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

「話は全て聞いた……まさかそのような事になっているとはな」

 

 二課仮設本部にて、事の現状が記された書類を目に通す風鳴弦十郎。武装組織フィーネの一員である暁切歌と月読調が東間媒人を誘拐との報告に眉を顰める。

 

「恐らく相手側はバイト君を人質としてこちらに何かしらの要求をして来ると考えられます」

「だろうな…が、それは彼の本当の価値に気付いてなければの話だ」

 

 オペレーターである藤尭の言葉に司令官は付け加えるように口を開く。

 

「本当の価値と言いますと、やはり聖遺物に対しての知識でしょうか?」

「今更ですが司令。バイト君って何者なんですか?前々から知り合いだと言うのは分かりますが…」

「ふむ…」

 

 怪訝な面構えになる弦十郎。話して良いのか?と言う思考に没頭していると装者である響達が司令室へと脚を運んで来た。

 

「…はぁ〜〜、やっと顔から痛みが引いて来たよ……」

「うう、まだ鼻がツンとしてやがる……」

「お、響君達か。どうやらある程度回復したようだな」

 

 媒人による愉悦型爆弾を喰らった装者達はあの後、悲惨な目に遭った。身体中に襲い掛かる辛さと痛さと辛さと苦しみに+辛さ。カプサイシンが全身に周り悶絶する事となったのである。

 

ちなみに辛さを抑えようと水をガブ飲みした奏はしめやかに死んだ。その後、通りすがりの婦長による2回目の拉致が発生したのは言うまでも無い。

 

「しかしまさか薬剤一錠でここまでの効果が出るとは…」

「私が寝てる間に随分と医学に秀でた人が入ったんだな」

 

「もちろんですとも。なんせこの私が特別に調合したお薬ですからね!」

 

 翼と無事に復活及び回収された奏の言葉に答えるかの如く装者達の後から入って来た赤髪で割烹着を身に纏う女性がそんな言葉を紡いだ。

 

「おお、琥珀君か。急な仕事を押し付けて済まないな」

「いえいえ。私としても新しいドラッグを試せたのでモーマンタイですよ。寧ろばっちこいですとも!」

 

 彼女の名は『琥珀』。特異災害対策機動部二課にて人体医学・化学及びロボット工学等の凡ゆる方面で働くメイドである。

たまに白い粉を振り撒き、火を吐いたり、チャイナドレスを見に纏って双子の妹似のロボットを製造したり、その片手間にlinker研究を進めたりと様々な方面に秀でると同時に偶にシャレにならないトラブルを引き起こしたりする人物である。

 

「しかし大変でしたねぇ。まさか楽しい学園祭がデストロイでデンジャーなお祭り騒ぎになってるとはこのコハクちゃんの目を持ってしても見抜けませんでしたよ」

「いやホント大変でしたよ…身体中は痛いし、結局米は盗られちゃったし、血の雨は降るしで……」

「あー、その事だが響君」

 

 立花響の口から零れる愚痴に対し弦十郎が額を押さえながら呟く。

 

「にわかには信じ難いな…人が歌を聴いただけで爆散とは」

「いやいや本当なんだよオッサン!私等の目の前で確かに女の人がな…!」

 

 クリスが便乗する形で言葉を紡ぐ。しかしそれをオペレーターの1人である友里が追及する。

 

「そうは言われても現状死傷者は確認出来て居ないのよね」

「夥しい血痕こそ確認出来たけど、その血液の主と該当される女子生徒に関しては『私が爆発四散したですって?……気の所為よ。貴方達は何も見ていない』の一点張りだったし」

「…え?まさか生きてるのですか!?眼前で確かに血の花火と化したのに未だ五体満足で健在してるのですかッ⁉︎」

 

 藤尭の報告に風鳴翼はギョッとする。彼女達の目の前で確かに人がパァン!(マイルドな表現)となった筈だ。彼等の報告が本当なら私達が見たモノは一体何だというのか…?

そんな困惑してしまう状況に奏が怪訝な表情を浮かべた。

 

「まさか死んで生き返ったのか?イヤイヤ、そんなゾンビや幽霊じゃあるまいし。あり得ないっての」

 

「ハハハ確かに奏さんの言う通りですよね」

「だよな。死んで生き返った人間なんていたら、それこそ閻魔様じゃ手に負えねー世界になってるっての」

「うむ、そうだな!」

 

 

 

………。

 

……………。

 

…………………。

 

 

 

 

(((それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?)))

「どうしたんだよ3人共。そんなあり得ないモノでも見るような目を私に向けてさ」

「多分ですけど3人共、奏さんに超特大のブーメランが刺さってるように見えてるんだと思いますよ?」

 

 響、クリス、翼の心の声を代弁するかのように小日向未来は言う。装者で無い彼女だったが民間協力者として一応、二課の本部に着いて来た事になっていた。

 

「あ、そう言えば弦十郎さん。さっき扉越しにバイトさんが何者かって言ってましたけど…」

「そうか、そう言えば彼について説明し切れていなかったな」

「あ、それ私も気になってました!私と未来って意外にとバイトさんとは結構な付き合いなんですけど…バイトさんあんまり自分の過去の事を話さなくて…」

 

 立花響から見た東間媒人は過去を詮索するのは避けていた人間だ。自分達が中学校在学中の時、初めて会った時から今現在に於いて性格は軟化こそしたがそこは変わらない。相手側と自分の過去については触れようとしない…いや、触れるのを恐れているような人間だった。

 

だからこそ気になる。彼は一体どのような人間なのか、どのような生い立ちなのかを。

 

「……分かった。話そう彼について語ろうと思っていた頃だしな」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 東間媒人。年齢17歳、好物はヤキソバパン。好きなアーティストは風鳴翼マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

彼は東間孝一(こういち)八宵(やよい)の間に産まれた男児だった。

 

東間夫妻と風鳴弦十郎。彼等はノイズ対策の仕事仲間であり共に子供達を守る大人同士でもあり、親しい仲だった。

 

そんな東間夫妻は共に古代考古学者、聖遺物(ロストテクノロジー)研究者としての名を馳せた人物であり海外を渡り歩き、その知識と技術を後世の為に尽力していた。

そんな2人と共に世界中を渡り歩いて来たのが媒人(バイト)本人。彼は両親の傍で聖遺物の研究を前にして来た。

有りと凡ゆる聖遺物の力を子供の頃より目撃して来たのだ。

 

 

……そんな親子3人にとある転換期を迎える事となる。

 

東間媒人推定年齢約14歳の出来事。

グレート・ブリテン諸島イングランド南部の地に存在する聖遺物研究所の視察へ両親と共に訪れた。イギリスの研究者等から発掘された『謎の四足歩行型獣の化石』からフォニックゲイン数値を感知したとされる報告を受け、東間夫妻はソレの長期滞在に渡る研究を行う事となった。

 

しかし二課への『この聖遺物は生きている』『これは聖遺物では無い』『これは埒外に在る生命体だ』等と統合性の取れない報告を最後に連絡は途絶えた。

理由はとあるテロリストらしき集団の襲撃だった。狙いは恐らく東間夫妻が研究していた聖遺物なのだろう。ローブに身を包んだ団体が研究所へと押し寄せて来たと言う目撃情報が証拠だ。

 

それを最後に研究者達及び、テロリスト集団は行方を(くら)ます事となったのである。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「───これが媒人の経歴だ」

「それじゃあなんだ…⁉︎ バイトの奴は私と同じように捕虜にされたって訳なのかよ!」

 

 紛争に巻き込まれ、親を亡くし自分も経験した事のある境遇。そんなクリスの怒りを含んだ言葉に弦十郎は首を横に振った。

 

「いや、"不明"だ」

「不明…?分からないって事ですか師匠」

「情けない事にな」

 

 響の言葉を肯定するかのような言い方にクリスは反論の言葉を紡ぎ出した。

 

「い、いや分からないって事は無いだろ!何かしらの証拠が残っている筈……」

「……残念だが証拠も何も残っていない」

「不覚ながらも、そのテロ組織は遺漏が無いようだな…!」

「翼、違うんだ。そうでは無いんだ」

 

 弦十郎は否定する。

 

「何も残されてない。文字通り最初から無かったかのように()()()()()()()()()()()

「……旦那、それって」

「……もしかすると砂海(デューン)の事でしょうか?」

 

 ふと二課職員の琥珀がそう呟いた。その場に居た全員の視線が彼女の言葉を引き金に琥珀へと注目された。

 

「でゅ、でゅーん…って……何だっけ未来?」

「もう響ったら…砂海(デューン)。それはイギリス諸島に突如として発生した砂漠化現象による産物だって授業で習ったでしょ」

「あ、あはは…そうだっけ」

「ったくこの馬鹿は。原因は今の所分かってねぇけど異常気象やらノイズによる被害による説とか色々あるって奴だろ?ちゃんと覚えとけよ」

「ク、クリスちゃんまで……で、師匠。そのデューンとバイトさんの事に何の関係性が……」

 

砂海(デューン)が広がる地域、そこは東間夫妻が滞在していた聖遺物研究所が確かに健在していた場所だ」

「……え」

「テロ組織の襲撃が起きた直後にはそこは既に()()()()()()()()()()()()

 

 204X年、イギリス諸島南部にて。東間夫妻との連絡が途絶えた数日後、二課職員の捜索チームが派遣された。しかしチームの眼前に広がっていたのは何も無い大地。研究所が存在した筈の一帯は砂漠と化していた。まるで最初から何も無かったように、その空間のみが削られたかのように。

 

政府はテロ組織襲撃の際に聖遺物が暴走を起こし、このような事態を引き起こしたと断定。情報操作により凡ゆる偶然が重なり砂海(デューン)が発生したと表向きに世界へ公表されたのである。

 

「たった1人を除いて建物は愚か、研究者達も、テロリスト達もその行方は不明だ。……無論、俺の友人もだ」

「……師匠」

 

 立花響は悲しみと苛立ちを風鳴弦十郎から感じ取った。行動を移す前から何も出来なかった。友を喪う事となった自分の無力さに弦十郎は負い目を感じているのだ。

東間夫妻を筆頭に行方不明者の捜索は現在も尚続けられている……が、生存は絶望的だろう。

 

……そんな絶望の最中、彼は生き残ってしまった。

 

「だが、そんな砂海から離れた数km地点に1人無事だった人間を見つけた……いや、重症を負いながらも生存者を発見出来たの方が正しいか」

「…それがバイトさんなんですね」

「ああ、片脚と片目を失いながらも彼は生きてくれていた……本当に良かった」

 

 たった1人生き残った東間媒人。発見された当時は記憶の混濁、意識の昏迷ながらもたった独り健在していた。

 

彼はその時の時間の鍵になり得るだろう。故に二課は情報操作を行い彼の存在を隠した。そうでなければマスコミは殺到し、聖遺物研究者の形見である彼にどのような被害が及ぶか分からない。

 

「だと言うのにこの様だ。子供を守るべき大人の俺達が…本当に情け無いと思う…!」

 

 彼の握り拳より血が垂れる。風鳴弦十郎にとって東間媒人は友が遺した宝だ。だからこそ武装組織フィーネから彼を必ず取り戻さねばならないのだ。

 

「成る程、ずっと扉越しに話を聞かせて貰いましたが私達のやる事は変わりませんね」

「うわっ!?エックスちゃんいつの間に!」

「エックス!?……聴いてたのか」

「まぁそれはさておき…コマンダーレッド。私は貴方に言わなければならない事があります」

「………」

 

 そんなしんみりとした空気の中、謎のヒロインXは現れた。

彼女の登場によりその場の雰囲気は刺々しいモノへと変貌する。恐らく今のヒロインXが抱いてる感情は"怒り"だ。バイトを守れず、危険な目に遭わせた事への確かな怒り。

 

それを前にして弦十郎は静かに受け入れる姿勢を見せる。こうなったのも自分の失態だ、素直に罪を認めようと考えた……が。

 

「コマンダーレッドッ!私が不在の間に何でそんな重要な話を進めるんですかッ!」

「…むぅ!?」

「バイト君についての話なんですから私が来るのを待ってからにしてもらいましょうか!」

「あ、ああ…そうだな。すまない…」

 

 ヒロインXは口から思い掛けない言葉が出て来た。

 そんな彼女に対して思わず謝罪を口にする弦十郎。想定したモノの斜め上から来た言葉に二課司令官はやや困惑する羽目となった。

 

「えーと…エックス?怒ってる理由それなの?」

「はいそうですが、何か問題でも?」

 

 そんな彼女の言葉をすぐ傍にて聞いていた小日向未来は思わず問い掛ける。

 

「だって、この話聞いたら『なんでバイト君を守って居なかったんだ司令官の面汚しカリバァーーーッ!』って逆上する流れじゃ…」

「あー……えーとですね、何を変な事を言ってるんですか未来?別にコマンダーレッドは悪くないでしょう?それただの八つ当たりですからね。そんな事をする必要性が私には見当たらないのですが…大丈夫ですか?」

「……(正論言ってる事に)なんか納得いかない!」

「何で???」

 

 未来のシャウトにその場の一同は肯定するかのように頷く。いつもおかしな言動している所為か、まともな事を言うと逆に頭がおかしく見えてしまう。つまりは日頃の行いの所為と言う事である。

 

「まぁとにかくです!例えバイト君が昔何があったとしても今やる事は変わらないでしょうコマンダーレッド!」

「……ああ、そうだな。お前の言う通りだエックス!」

 

 直後、先まで沈んでいた様子の司令官が活力を取り戻す。彼女にそう言われて動かなければ何が大人かッ!

 

「話は戻そう。現状に於いて媒人の詳細は不明となっている。しかし相手側の2人が言っていた事が本当ならば何かしらのアクションを取ってくる筈だ。些細な情報でも何でも良いッ!僅かな異変をも見逃すなッ!」

『了解ッ!』

 

 オペレーター達が口を揃えて声を上げる。子供である装者達の負担を減らす為に彼等は己が仕事を全うするのだ。

眼前のコンソールを操作し、監視カメラ、SNS等から情報を徹底的に調べ上げる。

 

「エックスちゃん」

「ヒビキ?」

「……絶対にバイトさんを取り戻そうね」

「ええ、もちろん。そして武装組織フィーネからバイト君を取り戻した暁にはたんまりと御馳走を作らせる事にしましょう!」

「「「「おーーーッ!」」」」

 

 そんな職員達に負けじと彼女達は円陣を組み、勝鬨を上げる。

その様子を見た友里と藤尭は柔らかな笑みを浮かべた。

 

「皆の心が一つになったようで良かったわ」

「まぁ仮にもエックスは騎士王様の力を継いでるんだ。皆を束ねる事くらいどうって事無いんじゃないかな?」

「そうかもしれないわね」

 

 エックスの掛け声により一つに纏まった装者達。そんな己の握り拳に力を込めて再び喚起の号令を行う彼女達の姿は……。

 

 

そしてその後はバイト君をシめるッ!

「「「「応ッッ!」」」」

 

 それはもう凄まじい殺意に満ちていたと言う。

 

『………』

 

 そんな彼女達の形相にオペレーター、職員達は唖然とした。バイトの過去は分かった。助ける事は決定した。それはそれとして殴らなきゃ気が済まない。はっきり言って彼女達が怒るのも無理もないだろう、バイトは敵であるマリアにうつつを抜かしコチラ側を裏切ったのだ。

例えどんな思惑があったとしても煙幕麻婆は控えめに言って絶許である。

 

「今の私達はその一心で繋がったッ!彼がノコノコ現れたら真っ先に狙い、ふん捕まえ、一発ずつ殴るッッ!」

「おうともッ!全身に麻婆だらけにした礼は必ず返してやるッ!」

「この防人、既に覚悟は決まった次第。例え元ファンだとしても容赦せんッ!」

「死なねー程度に射的用のカカシにした後、畑に突き刺してやらァ!」

「右ストレートでぶっ飛ばす!右ストレートでぶっ飛ばすッ!」

 

 古来より土気を高めるのに効果的なのは共通の敵を作り出す事。流石はブリテンの王の遺伝子を引くエックスと言うべきか。

 

そんな殺伐とした響達を前に民間協力者である小日向未来は冷や汗を滴らしつつ、傍に佇んでいた琥珀に声を掛けた。

 

「……琥珀さん」

「はい何でしょうか未来さん」

「…バイトさん用にありったけの鎮痛剤の用意をお願いします」

「かしこまりました!コハクちゃんにお任せあれ〜〜!」

 

((((止めるのを放棄した!?))))

 

 もはや彼女等を止められる事は出来ないと察した未来。彼女に出来る事は響達の陽溜まりとなり帰りを待つ事。そして……。

 

(バイトさん、強く生きて…!)

 

 これから困難が降り注ぐであろうバイトに対し十字を切る事のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

『あの後の動向』

 

「監視カメラの一つにバイト君達の姿を確認出来ました!」

「 今すぐに映像を流せ!」

「数時間前の監視カメラ映像、モニターに写します!」

 

 藤尭がコンソールを操作。眼前のスクリーンに自販機の前に立つ切歌の姿が映し出された。

 

「あれは切歌ちゃん!?」

「自販機の前で一体何を…!」

 

 監視カメラに写る切歌だが、なにやらお釣り口や下の隙間を覗き込んだり手を入れたり等の不審な動きを見せている。

 

「自販機の下を探ってるようです」

「いやなんでだよ」

「きっと逃げてる途中で喉が渇いたんでしょうね」

「金無いのか?」

 

 しばらくして暁切歌が自販機の下から手を抜き出すとガクリと項垂れた様子を見せる。

 

「見つからず落ち込んでますね」

「可哀想に…」

 

 そんな切歌だったが、映像に変化が訪れる。なんと拉致されている筈のバイトが彼女の肩に手を置いたかと思うと、自身の財布から千円札を取り出したのである。

 

「バイト君が自販機に千円札入れました」

「流石バイト君優しいですね」

「いつの間に仲良くなったんだよ」

 

 彼が野口お札を入れた後、自販機のボタンを押すが反応を示さない。不思議に思いながら返却レバーを操作するがお札が一向に出て来る気配は無い。そんな状況に切歌達は絶望に打ちひしがれた表情を浮かべた。

 

「千円札が自販機に飲み込まれました」

「哀れな」

 

 そんな様子に翼が言葉を漏らすと、画面の様子が変わる。

カメラの画面外にて待機していたのであろう、調が自販機の前へと駆け寄って来た。三人揃うと親の仇と言わんばかりに自販機を蹴る・殴る等の実力行使に出始めた。

 

「自販機に暴力を振り始めました」

「八つ当たりかよ!」

「あ、ジュースが出て来て喜んでます!」

「いや駄目だろそれ!」

 

 画面越しだったが不思議と馴染んでいたバイト君だったと言う。






〜〜用語紹介〜〜
砂海(デューン)
イングランド南部のとある一帯に突如として発生した砂漠。元ネタはワイルドアームズ3よりファルガイアに広がる砂の海。
WA3において海水の代わりに砂海が存在しており、危険な魔獣が生息するそこを航海する為に人々は砂上を移動する艇を使っていると言う。


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