未知との遭遇〜アルトリウムを添えて〜   作:ゴランド

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(注意)この物語に出る登場人物は殆どがギャグ要員です。




8話 ドルオタの誇り

 

 現在、俺は二課で検診を受けていた。何故このような事をしているのかと問われると先日、ノイズに襲われた為である。

 

「はい、お疲れ様〜〜。これで検査は終了よ」

「どうも……あー、疲れたもぉおおん…」

 

 目の前に居る人は櫻井了子さん。俺の両親が発掘・研究を行ってきた歴史の遺産である聖遺物の欠片をシンフォギアと言う変身アイテムらしきモノへと作ったのはこの人だと言うのだ。

正直言って凄い。そんな土埃を被った昔の物を改造するなんて頭がイかれてると思う……勿論、良い意味でだよ?若干胡散臭い面はあるけども。

 

「それにしても凄い鍛えられてるわねぇ、特に右脚なんか常人と比べて物凄くゴツくなってるわよ」

「無い方の脚の重量を肩代わりしてた所為か、いつの間にか……特に弦十郎さんの特訓でそれが一気に表面に出て来た感じで」

「……あぁ(察した顔)」

 

 櫻井さんの表情を見ると、やっぱり弦十郎さんって頭おかしいんだな……って。いや、俺もノイズから逃げる時に人間を若干辞めた動きしていたって小日向さんと雪音さんに言われたけどさぁ。

 

「検査お疲れ様。はい、服と預かってた杖だよ」

「あ、すみません。藤尭さん」

 

 二課の職員の1人である藤尭さんから預かって貰っていた私服と借用松葉杖を受け取るとパパっと着替えて、医務室から廊下へと向かう。松葉杖を突きながら身体を支えながら部屋から出ると立花さんと小日向さんと………えっ。

 

「あ、バイトさんが来たよ!」

「本当だ。杖を突いてるけど元気そうだね」

「うん、大した事が無いようで何よりだ」

 

「つ、つばっ、ばばばば…翼さん!?

「…? あぁ、翼だが」

 

 ほ、本物…だとぉ!?馬鹿な、いや確か弦十郎さんが翼さんも立花さん達と一緒に変身して戦ってるとは聞いたけど何故こんなところに彼女がッ⁉︎

 

「身体に異常が無いか此処(二課)で特別な検査をするって聞いたのでお見舞いに来ました!はい、これお見舞い用のベリー盛り合わせです!」

「あ、あぁ。ありがとう立花s……籠の中のベリー、少なくない?」

「すみません。響が此処に来る途中殆どを食べちゃって……」

 

「いやー、美味しかったです!」

「君は何しに来たの、ん?」

 

 サムズアップする彼女に俺は口を開く。そんなドヤ顔しても食った事実は変わらんぞ。

いや、そんな事はどうでも良い重要な事じゃない!

 

「それよりも「それよりも⁉︎」何故、翼さんが此処に?」

「私がメディカルチェックを受けている時に君は小日向達を1人で助けてくれたと言うじゃないか……人々を守るべくの防人である私以上に防人らしい獅子奮迅の活躍を聞いて居ても立ってもいられずに立花達と共に馳せ参じたと言う訳だ」

 

 そう言うと翼さんは俺に手を差し出しt……手を差し出して!?

 

「肝心な時に助けられなくてすまない。そして感謝を、君は紛れもない防人(サキモリ)ストだ」

(((防人スト……って、何?)))

 

 櫻井さん達3人が何やら訝しんだ顔をしているが、俺としてはそれを気にしている場合ではない。あの翼さんがッ⁉︎お、おおおお俺にあ、握手ををををををを!?

 

「済まないな。私にはこうやって君に感謝の言葉を述べる事しか出来ない」

「い、いやいやいやいや!こちらはやれるべき事をやっただけです!むしろこっちから金払いたいくらいです!と言うか翼さんのファンです!さ、差し支えなければサイン貰えませんかッ!!」

 

「その程度ならお安い御用だ……これで良いだろうか?」

「アッ、アッアッアッ…アアア゛アアア゛アア゛!(歓喜)」

 

「うわ、気持ち悪」

 

 はっ⁉︎翼さん直々によるサインを貰った影響で我を失っていた!

クールだ、クールになるんだ俺…ッ!こんなのじゃ翼さんのファンとしての面が立たないッ!

 

……ところで、小日向さん。さっき何か言った?え、気のせい?

 

「あーーー!そう言えば私も翼さんのサイン貰ってない!翼さん!私にも握手とサインをお願いしますッ!」

「立花も⁉︎や、やめないか。そんなに褒めても防人からは即興の句しか出ないぞ?…え、句はいらない?そっかー……」

 

 ややテンションが下がった様子の翼さん。彼女から発せられる暗い雰囲気を紛らわすように櫻井さんが声を上げた。

 

「さぁさぁ、ともかく!無事に外部協力者となったバイト君!」

 

 貴女まで俺の事をその名称で呼びますか……(困惑) いや別に良いですけどね?それで何用でしょうか。

 

「貴方に私からのプレゼントよッ!」

「プレゼント!」

 

「はーい、新しい脚と私特製のブロマイド写真〜。好きな方を選んで頂戴ね♡」

 

………あ、はい。

 

「どうしたのよ、そんな見るからに落胆したような顔をして」

「いや、そう言われても普通に義足の方を選ぶに決まって────!?」

 

 その時、俺に電流走る。櫻井さんの片手に納められた封筒から異様なオーラを感じ取った俺は、その中身を察知した……そんなッ!それは、まさかッッ!?

 

「ご名答〜。封筒の中身は…翼ちゃんのブロマイドよッ!どうかしら?欲しい?欲しいと言っても良いのよ?」

「ほ、欲しいッ!」

 

「櫻井女史!?そんなものいつの間に撮ったのですかッ!?」

「検査する時に写真撮るでしょ?焼き増しくらい簡単な事なのよね〜……で、どっちにするの?義足or写真?」

 

 ッ!?に、二者択一のジャンクションーーーーッ!?

え、選べだとッ!?この2つの内1つだけを捨てろと言うのかッ⁉︎くっ、この悪魔ッ!外道ッ!災いを招くマッドサイエンティスト!

 

「それ言い過ぎじゃない?(真顔)……で、どっちにするの?」

「〜〜〜〜〜〜ひん゛ッ!……ブロマイドでッ……お願い…し゛ま゛す゛……ッ゛!!」

「「バイトさん!?」」

「いや、なんで私の写真を選ぶ!そこはちゃんと義足に「だとしてもッ!!」っ⁉︎」

 

 このチャンスを逃せば俺は……俺は翼さんのファンとして貴女に顔向け出来ないッ!もし、ここで脚を選んだらきっと俺は……この後の人生を後悔と言う名の鎖で縛り続けられるだけだ!

 

「翼さんの…写真で……ファイナルアンサーッ!!」

「バイトさん……ファンとして高潔な精神。天晴れです…ッ!」

 

「……彼は疲れているのか?」

「ただ翼さん絡みになると言動が気持ち悪くなるだけなので気にしないでください」

「そ、そうか…気に留めておくとしよう」

 

 おっと、そこまでにしてもらおうか。心は硝子だぞ?まぁそんな事はさておき、封筒から翼さんのブロマイドをドローッ!

 

………あの、櫻井さん。これ骨しか写ってないんですが。

 

「そりゃCTで撮した写真だからね」

「……だ、騙したアアアアアアアアアアアア!!よくも騙したなアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ふざけるなッ!ふざけるな馬鹿野郎ッ!!人の純心を弄びやがってクソがッッ!!

……いや、待て冷静になるんだ。ポジティブに…ポジティブ精神になって考えるんだ……!

「ま、まぁ…これはこれで翼さんの魅力が出てるし(震え声)」

「大丈夫ですかバイトさん。脚がガクガク震えてますよ?」

 

「大丈夫大丈夫、海外で流れ弾が脇腹に命中したのに比べればこれくらい大丈夫…」

「いやそれ大丈夫じゃないですよね?下手をしたら臓物傷つけてますよね?と言うか、骨格標本に等しい写真に魅力を感じているんですかバイトさん。正直ドン引きなんですけど……」

 

 翼さんの魅力を知らぬ素人は黙っとれ。

 

「もうっそんなに嬉しいのなら、こんな事もあろうかと常日頃持ち歩いてる私のブロマイド写真を──「あ、いらないです」…うん、即拒否するのはやめなさい。思い切り傷付くから」

 

 そんなやり取りをする俺達。ふと立花さんが「あっ」と声を漏らす。どうしたの?お腹空いた?え、違う?

 

「そう言えば私達、クリスちゃんに会いに来たんだけど……バイトさん知ってますか?」

 

「あぁ雪音さんね。それなら─────

 

 

 

▼▼▼

 

 

 地上から数百メートル離れた地下秘密基地、特異災害対策機動部二課の一室。雪音クリスはバイト(仮名称)が検査を受けている間、取調室にてヒロインXと相対したいた…ッ!

 

「28箇所のノイズによる被害だぞ!(台パン) 確実に殺したかったんだろ!怒りで溢れ、憎んでた!」

「だから違うって言ってんだろ!」

「あ、そうですか?悪かったですね。もう良いですよ」

「いや、いきなり落ち着くな!逆に怖えーよ!」

 

 一変、二変とするXの様子に得体の知れない恐怖を抱く。この突発的かつ特異的な言動はヒロインXによる作戦か、はたまた素で動いているのかは彼女が知る由も無い。

 

そんなヒロインXと宇宙的恐怖の一端を味わっていた雪音クリスが居る取調室の扉を開け、司令官を務める弦十郎が入って来る。

 

「首尾はどうだエックス」

「むっ、コマンダーレッド!残念ながら中々口を割らず未だ進展してないのです…」

 

 雪音クリスは先程までの言動は事情聴取だったのか…⁉︎と思ったが空気の読める彼女はそれを口に出す事をしなかった。いや、正確には口にする事を半ば諦めていた。

ツッコミを入れるのには体力を消耗する。クリスは長時間、この謎の知的生命体…いや、知能があるかも分からない生物の付き合い方を学んだのである。

 

そんな彼女の前に弦十郎は手提げ袋から(どんぶり)を差し出して来た。

 

「ほれ、コンビニで買って来たカツ丼だ。毒は入ってない安心しな」

「カツ丼だぁ?そんなのに私が────」

 

 瞬間、部屋中に広がる肉と卵とタレが絶妙なバランスで配合された匂い。食欲を唆らせ口内に多量の唾液を分泌させるソレはここしばらく味の薄いモノばかり食べて来たクリスにとって悪魔の誘惑に等しい禁断の食物でもあった。

 

「……じゅる、ハッ⁉︎そ、そんなもの食べる馬鹿が何処にいやがるッ!敵の施しを受ける程この雪音クリスは馬鹿じゃねぇーッ!……け、けどまぁ、どうしてもって言うのなら別に食べてあげない事もないけどなッ!どうしてもって言うのならなッ!(2回目)」

 

「もっきゅもっきゅ…うん!美味しいですねッ!毒は入ってませんよ……あ、食べますk「勝手に食ってんじゃねぇよテメェ!!」鳩尾に拳がぁあッ!?」

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

─────と、まぁこんな感じに2人から取り調べを受けてるらしいよ」

「うわあ、不安要素の塊」

 

 小日向未来はクリスに同情すると共に世界観の違うエックスの存在に訝しんだ。そしてそんなエックスを常日頃から相手をしてる彼の実力と寛容さに関心するのであった。

 

「バイトさん」

「どうしたの小日向さん」

「辛かったいつでも言ってくださいね。せめてカツラの用意はしておきますので」

「なんで俺はハゲる心配をされているのだろうか……っと、…お?おおおお!?足首が!指がッ!関節の1つ1つが思うように動くッ!動いているッ!?」

 

 遠回しのハゲ宣告をされた彼だったが、そんな事を忘れたように櫻井了子が制作した義足の機能性に感動の意を示していた。

 

「モチのロンよ!なんたってこの天才櫻井了子が作ったんだから指くらい動くわよ。神経伝達機能によって自分の考えたままに動くんだからッ!」

「お、おおおお!節々が動く!今後見る事のなかった俺の無くなった足指がグニグニ動くッ!!ほら、動いてるよ2人共ッ!!」

「最新型の義足ってこんなに動くんですね……!」

「すごーい!テクニカル気持ち悪いですよバイトさん!」

「ハハハ、立花さん。それは傷付くからやめろ」

 

 さりげない立花響の言葉の槍がバイトの彼の心に深々と突き刺さる。彼女の体内に存在する聖遺物ガングニールは言葉にも影響を及ぼすのかは定かではないがとにかく彼は傷ついた。

 

「しかし生身の脚も凄いな、立派に鍛えられる武士(モノノフ)を連想させられる素晴らしい脚だ」

「いえ、それほどでも(可能な限りのイケボ)」

 

 しかし風鳴翼の言葉によって精神的ダメージが回復した。この男、とてつもないチョロさである。

 

「ちょっとちょっと〜〜、いい感じじゃないの?彼と翼ちゃん」

「確かに、バイトさん今正に青春(アオハル)真っ只中って感じですねッ!」

「とても意外…バイトさん翼さんの事が……」

 

 

「そこの3人。翼さんと俺はそんな関係ではない。あくまでアーティストとファンとの関係だ殺すぞ

「「「!?」」」

 

 風鳴翼ガチ勢の彼の口から放たれた滲み出る殺意は3人を驚かすのに十分なものだった。

 

「何やら面白そうな話をしてますね」

「そうですか?まぁ確かに翼さん関連のは聞いても話しても飽きないので面白いとは思いますが…アイエエエエエエエ!?誰ェ⁉︎俺の背後いつの間にナンデェ!?」

「緒川さん!?」

 

 そこへ飛騨の隠忍(マネージャー)のエントリーだ!と言わんばかりに彼の背後から風鳴翼のアーティスト活動をサポートする緒川慎次が現れた。驚き以上に何も無い所から、しかも己の後ろから出現した事に恐怖を覚えてしまう、コワイ!

 

「どうも、翼さんのマネージャーを務めさせて貰っています。緒川慎次です」

「は、はぁ…どうも……えっ、マネージャー⁉︎まさか、あの超過密スケジュールをたった1人で動かし、その常人離れの早技で翼さんの予定準備をスムーズかつスマートに行うと専らで噂の生きる伝説と謳われたあの風鳴翼さんのマネージャー……緒川慎次ッ!?」

 

「何それ凄い」

「まぁ、緒川さんだしなぁ……」

 

 藤尭がどこか納得したような表情をしているのは緒川慎次の実力を間近で見た事があるからなのだろう……いや、そもそも人としての範疇を超越した実力を持っている事自体、可笑しいのであるが。

 

「面白そうな話と言っても、乙女達が集ってやる事と言えば1つ。ガールズトークよガールズトーク♪」

 

俺達()も居るんですが……」

「……つまり俺達は乙女だった?」

「落ち着くんだ。俺達は生物学上れっきとした男性だから」

 

 混乱状態に陥るバイト(仮名称)に藤尭がメンタルケアを施す中、ポツリと緒川慎次は櫻井了子に向けてこんな言葉を発した。

 

「乙女って……(失笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緒川さーーーーーーんッ!?

 

 

緒川慎二、死亡(ノックダウン)────。

死因:一言余計だった。

 

 正直言えば自業自得である。乙女(自称)である櫻井了子にそのような爆弾発言をぶち当てるのはそのまま死(過剰表現)に直結する。床に力無く倒れ込む緒川を他所に彼女は「ハァ」と溜息を零す。

 

「全く、失礼しちゃうわ。私こう見えて何処までも一途な恋する乙女なんだから……」

「そうなんですか了子さん!いいなぁ〜、聞きたいなぁ〜〜!大人な恋話(コイバナ)!」

「これは…驚きました。てっきり櫻井女氏は研究一筋の"喪女"で恋愛からは最も縁の無い"独身女性"と思っていたのにですが」

 

「フフフ、翼ちゃん……ねぇ、やめて。心が物凄く傷付いたから本当にやめて(懇願)」

 

 翼の絶大な鋭さを誇る言葉()が彼女の心を抉る。天然でこの威力、末恐ろしいと響達はそう思った。そんな中、二課のオペレーターである藤尭がポツリと呟く。

 

「でも、それって言い換えればいつまで経っても昔の事を引きずってる事になるんじゃ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤尭さーーーーーーんッ!?

 

藤尭朔也、死亡(ノックダウン)────。

死因:こちらも一言余計だった。

 

 力無く倒れた藤尭に向かってバイトの彼の慟哭が廊下内に響き渡るが立ち上がる事は無かった。どうやら蘇生に失敗したらしい(ザオラル感)

 

……そんな職員2人に手を掛けた了子はバイトに向かって歩み寄ると彼の肩に手を置き、口を開く。

 

「まぁ、そんな事はさておき。頼みがあるんだけど、クリスちゃんって子には私の事はナイショにしておいて。あの娘、どうやら大人に苦手意識持ってるらしいし、ギアにも良い印象を抱いている感じがしないから……約束できるかしら?」

「あっ、はい」

「よろしい。それじゃ私はこの辺で失礼するわね〜〜」

 

 かなりの恐怖を感じた彼を置いて櫻井了子は己の研究室へ向かって行った。

 

「まるで嵐のように過ぎ去って行ったね……」

「了子さん自由だ……」

「私もあれくらい自由になった方が強くなれるのだろうか」

 

「い、いや翼さんは今のままでも十分自由だと思いますが」

「むっ、それはどう言う意味ですか緒川さん」

 

 復活した緒川の言葉に翼はムッ、と半開きの眼で彼を射抜く。それを動じずに彼は言葉を放つ。

 

「どう言う意味も何も、防人アイランド仮面で如何に格好良く登場させるか時折考えている時点でかなり自由だと思いまs「わーっ、わーっ!なななななんのこことを言ってるのですかね緒川さんはッ!私は風鳴翼ッ!決して世の為人の為に弱きを助け強さを挫く仮面剣士とは関係ありませんッ!!」

 

「その通りですよ緒川さん。確かに色合い的に翼さんと似てますけど防人アイランド仮面さんは翼さんじゃないって本人も言ってたので別人ですよ!」

「そう、立花の言う通りです!なのでメディカルチェックを受けず病院から抜け出した事実など存在しないのです!」

「……そ、そうですか」

 

 強引に押し込む翼と響の援護射撃によって言い包められるマネージャー。いや、正確には大人として敢えて自ら引いたのかもしれないがそれについては誰も言及する事はなかった。

 

コホン、と咳払いを行うと緒川は翼に向かって言い放つ。

 

「すみません翼さん、そろそろ時間の方が……」

「む、そうですか。それでは私はこの辺で」

 

「えーーーっ、翼さんもうお仕事なんですか⁉︎」

「これでも前のスケジュールと比べて余裕がある。立花達とこうやって他愛もない話も出来る訳だからな」

 

 そう言うと彼女は席を立ちその場を後にしようとする。

……と、思いきや何か思い出したように翼が側に居た緒川に何かを耳打ちする。

 

「…はい、分かりました。すみません良ければこちらを」

 

 緒川はバイトの元に向かって歩み寄ると懐から1枚の紙切れを手渡した。何だろう?と周りが注目する中、それを貰った本人はプルプルと身体を震わせ始めた。

 

「……か、風鳴翼さん復活コンサートライブチケット!しかもプレミアモノだとッ!?」

 

「ただ感謝の言葉を贈るだけでは釣り合いが取れないので良ければこちらを受け取ってください……と、翼さんは言ってました」

「緒川さん!」

 

 表向きは過労によって活動休止状態だった風鳴翼。そんな彼女が何か他にも出来ないものかと考えたのが己のライブチケットである。

プレミアムな輝きを放つチケットに立花響だけでなく小日向未来もそれに食いつくような姿勢を見せる。

 

「いいなぁ、いいなぁ!翼さんのコンサートライブチケット!」

「なんか凄そう、よかったですねバイトさ…うわ、気持ち悪っ」

 

 未来が視線を向けた先には嬉しさのあまりにその場でブレイクダンスを始めるバイトの姿。あまりの嬉しさとおかしくなったテンションによって一種の暴走状態に陥っているのだろうと考えられる。

 

「喜んでもらえて何よりだな」

「いや、アレは喜ぶとかそう言う次元じゃないと思いますけど」

 

 グルングルンと変態的立体機動を行う彼だったが、突如としてその動きを止めると緒川慎次の元へ歩を進める。一体何なのだろうと疑問に思っていると彼は先程貰ったばかりのチケットを不意に差し出した。

 

「……貰えません」

「えっ」

「ごめんなさい、やっぱり それを貰うことは出来ません」

 

 唐突に口に出したその言葉を聞いた立花響は「ええっ」と驚愕の表情を露わにする。

 

「な、何を言ってるんですかッ!?バイトさんらしく無い!この前プレミアムチケットを取り逃がした時は慟哭と怨念の混じった奇声を上げながらお好み焼きを焼く羽目になるのに何でわざわざッ!?」

「確かに!悪魔に乗っ取られたと勘違いするくらいの奇行をしてたのにどうして自ら茨の道を⁉︎」

 

 どうやらとてつもなく気色悪いと思われていた彼だったが、そんな彼女等の言葉を物ともせず言葉を口にする。

 

「このチケットは正式な場で何万分の一の確率で"誰か"が正式に選ばれるべき物なんです……もし俺がこの場で受け取ってしまったら、本来選ばれるべき"誰か"のチケットを横から掠め取る行為になってしまうんです……」

 

 彼が口にするのは道徳感や、正義感からではない。己の風鳴翼のファンとしての誇り(プライド)が許せない。

受け取りを拒むのにそれ以上の理由が必要だろうか?

 

「………ッ! 貴方の翼さんへの思い(情熱)は本物のようですね。分かりました、このチケットは僕が預かります」

「そうですか…良かった、本当に……良かった。どうか…この1枚は受け取るべく者に…。誰にでも手に入れるように……ッ!」

 

 途端に膝から崩れ落ちるバイトの彼。

 

「バイトさんッ!?」

「小日向さん…俺、勝ったよ……」

「何に!?」

 

 彼はプレミアムチケットを失った。だが、そのプライドを守る事が出来たものもある。風鳴翼への思いとチケットを天秤に掛け、力を使い果たした。

しかし、彼は諦める事は無いだろう。いつしかその手にプレミアムチケットを収めるまで風鳴翼のファンとしての情熱を燃やし続けるのだ。

 

バイト君の運がチケットを手に入れると信じて!

 

 

 

 

「……え、なんですかコレ。怖っ」

 

 

 尚、後から来たヒロインXに冷ややかな視線を向けられたのは言うまでも無い。

 

 

 





「ところで翼さん、俺のバイク知りませんか?」
「………」
「あの……小日向さんに聞いたら、"防人アイランド仮面"と名乗る不審者に強奪されたって聞いたんですけど、本当に知りませんか?」
「…………」
「……そう言えば今朝方に玄関前にハンドルらしき部品と『返す』と書かれたメモ用紙が在ったんですけど、本当に何も知らないんですk……あ、ちょっと⁉︎翼さん!アーティスト活動で鍛えられたその華麗なステップで何処へ行くんですか翼さんッ!?」

 後日、Zwei(バイト命名)が新品で返って来たのは言うまでも無い。
……しかし良く確認したら別の車種だった。


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