【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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覚醒

 美術館での不思議な体験から一ヶ月ほどが経った。

 あれから特に俺の日常に変わりはなく、無事リディアンでの入学式を済ませ、高校生活を謳歌していた。

 ただ、必須科目である声楽の授業は俺の場合、見学ということになっている。

 この声ではさすがに参加するのは難しいからだ。

 その代わり、みんなが歌うときにピアノを奏でる先生の側にいて、ピアノの技術を勉強している。

 ただ側で見て聞くだけでもかなりの勉強になるため、声楽の授業も俺にとっては大切な授業の一つだ。

 つまりは、思った以上に俺はつつがなくやれているということだ。

 一方で、響と未来もリディアンの生徒として楽しくやっているようだった。

 部屋が違うため普段の生活まではわからないが、少なくとも授業のときや昼休み、放課後に一緒にいるときはそう感じる。

 ただ、響には一つ気になる事があるようで……。

 

「はぁ……翼さんに絶対変な子って思われた……」

 

 響は同じ学校にいる、元ツヴァイウィングの風鳴翼のことが気になるようだった。

 まあ、それは言ってしまえば原作通りということなのだが。

 響がリディアンに来た理由の一つに、翼さんと接近したいという理由もあるはずだからだ。

 響はあの会場での事件で見たものを真実かどうか確かめたがっている。

 そのことを聞いたわけではないが、俺は前世の知識で知っていた。

 

「間違ってないんだからいいんじゃない?」

『アレぐらい別にどうってことないって。ていうか、多分すぐに忘れられてる』

 

 日直に取り組む未来と俺はべたぁと机に倒れ込む響に言った。

 

「えぇ!? 祭がひどいよ未来ー!」

『未来のはひどくないのかよ』

 

 俺は苦笑いする。

 響はすっかり翼さんの大ファンだ。

 あのライブの前はツヴァイウィングのことを全然知らなかったというのに。変わるものである。

 

『あ、ごめん。ちょっとトイレ』

 

 と、そこで俺は少し催したためトイレへと行く。

 そしてトイレに入りながら少し考える。

 響はこのままいけばシンフォギア装者としての覚醒をすることになるだろう。

 それは彼女にとって苦難でもあり、大きな一歩でもある。

 俺はそれにどうするべきなのだろうか。止めるべきか、成り行きに任せるべきか……。

 

『……ん?』

 

 あれ? そういえば、さっきのやり取り、どこかで聞いたような……。

 俺はそんな違和感を抱えながら教室に戻る。すると、そこには響の姿はなく未来の姿だけがあった。

 

『あれ? 未来、響はどうしたの?』

「響はもう帰ったよ。今日は翼さんのCD発売日だから、売り切れるとまずいからって先に帰らせたの」

『へぇなるほどねぇ……って、ああっ!?』

 

 そこで俺は気づいた。

 今のやり取り、そして翼さんのCD……どれも響がシンフォギア装者として目覚める直前のやり取りじゃないか!

 こうしちゃいられない!

 

『ごめん未来! すっごい大事な急用思い出したから、俺も帰る!』

「え? あ、ああうん……?」

 

 狼狽する俺の様子を不思議がる未来。

 でも説明している暇はない。というか、説明できる気がしない。

 とにかく俺は、響のところへと走ることにしたのだった。

 

 

『……って、響はどこのショップに行ったんだ!?』

 

 学院を走って出てしばらく、俺はそんな簡単なことを忘れていたことに気づいた。

 場所が分からないなら、走っても意味がないじゃないか……。

 

「落ち着け、俺。とりあえず、一番学院から近いコンビニだ。そこに行ってみよう!」

 

 俺はそう思い立ちまた走る。

 そして、その一番近いコンビニへとさしかかったときだった。

 

「これ以上は近づかないでください! ノイズが出没したためこの地区は立ち入り禁止です! 誘導に従って避難してください!」

 

 ……どうやら正解だったようだ。

 ノイズが出没した場所。

 それはつまり、響が襲われた場所でもある。

 ならば、次に響の行く場所は……。

 

『……工場地帯だ!』

 

 俺は前世で見た内容を必死に思い出し、道を封鎖している自衛隊の人間に見つからないように近場にあったと思われる工場へと向かう。

 その道中で、俺はまた思った。

 結局俺は、どうしたいかを決めてはいない。

 今響のところにたどり着いて、どうなるというのか。

 でも、そんなことを整理するより、俺の体は動いてしまっている。

 こうなったら、ついてから考えよう。

 そんな行きあたりばったりなことを。

 

 

『……いた!』

 

 工場についた俺は、ついに響を見つけた。

 彼女は今、ノイズに追われながらも子供を背負い梯子を登っていた。

 

『よし、とにかく、俺も登って……!』

 

 と、そのときだった。

 自分の後ろに、おぞましい気配を感じる。

 俺は恐る恐る振り返る。そこには、それがいた。

 

『……ノイズ!』

 

 ノイズ。触れただけで人間を炭化させる、恐るべき特異災害。人を殺すためだけのおぞましき存在。

 そのノイズが、いつしか俺に迫っていたのだ。

 さらにそれだけではない。

 響が登った梯子へと行く道も、ノイズが塞いでいたのだ。

 

『……チクショウ!』

 

 俺は仕方なくその場から逃げ出すことにした。

 しかし、そんな俺をノイズは追ってくる。

 

『ちっ、何かしたいから来たのに、何もできずにただ逃げるだけなんて!』

 

 せめてこれで響に迫っていたノイズがこちらに来てくれれば、この工場に来た意味があるのだが。

 そう思い彼女の登った建物の上を見やる。すると、そこにはノイズに追い詰められ万事休すとなっている響の姿が。

 

『これは……この状況は!?』

 

 そう、この次の瞬間響は聖詠を唱えて――

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 ああ、聞こえる。

 響の聖詠が。彼女が、シンフォギア装者になる瞬間が訪れたのだ。

 その瞬間だった。

 

『うぐっ……!?』

 

 響の聖詠を聞いた瞬間、俺の喉が急に燃えるように熱くなった。

 あまりの熱さに焼け死んでしまうかと思うぐらいで、俺は思わずその場に崩れ落ちる。

 

『がっ……がっ……!?』

 

 なんだ……これ……!?

 こんなの、知らない……!? どうして、俺の喉が……!?

 

『が……あ……!?』

 

 刹那、俺はなぜだか理解した。

 ――ああ、俺もまた、“覚醒める”のだと。

 

『***********************――――ッ!!!!』

 

 俺の口から、喉から、けたたましいこの世のものとは思えない“音”が溢れ出す。

 そして俺は、“変わった”。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ガングニール、だとぅ!?」

 

 二課の基地で、弦十郎は驚愕していた。

 かつて天羽奏がまとっていたシンフォギア。その反応がノイズが出没したとされる場所で検知されたからだ。

 失われていた聖遺物ガングニール、その新たな適合者が現れたことは、二課の人間全員を驚愕させていた。

 しかし、彼らはさらなる驚愕にさらされる事となる。

 

「待ってください! もう一つ、反応があります!」

 

 オペレーターの一人、藤尭朔也が叫ぶ。

 

「また別の反応だと!? さらなる聖遺物が現れたとでも言うのか!?」

「いえ、それが、強烈なフォニックゲイン反応を示していることは確かなのですが、こんな数値、見たことありません……!」

 

 次にまたオペレーターの一人、友里あおいが言う。

 

「これは……数値のすべてが虚数領域へと伸びている!? こんな反応、聖遺物の覚醒ではありえない……!」

 

 その数値を見た了子が慌てるように言う。

 次々と起こる予測不能の事態に、世界でも屈指の頭脳を持つ彼女すら動揺していたのだ。

 

「ええい! 全員落ち着け! まずは状況を確認することが大切だ! 衛星からの映像はまだか!」

 

 弦十郎が混乱のさなかにある二課に言う。

 

「は、はい!」

「今出します!」

 

 それに朔也とあおいは答え、すぐさま衛星からの映像を基地に映し出す。

 そこに映し出されていたのは、ガングニールのシンフォギアをまとった響。

 更に、そして――

 

「この、少女は……!?」

 

 ガングニールとはまた違ったスーツをまとう少女が、そこにはいた。

 その鎧は、木と金属が混沌とした状態で融合しており、体の各部に弦楽器の弦や、トランペットなどが音を出す先の部分――ヘルが現れていた。

 その姿を形容するとするならば、筋繊維が様々な楽器になり合体した装備のようだと、二課の人間達には思えた。

 だが、弦十郎は更に驚くことがあった。

 その装備をまとっていた少女を、彼は知っていたからだ。

 

「……祭、君……!?」

 

 そう、かつて弦十郎が勇気づけた少女。弓弾祭が、異形の鎧をまといそこに立っていたのだ。

 響と祭。

 二人のイレギュラーが、二課基地の大画面に映し出されていた……。

 

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