【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
「ようこそ! 人類守護の砦! 特異災害対策機動部二課へ!」
地下へと降りた俺達を、弦十郎さん始め二課の人々が華々しく笑顔で迎えてくれた。
途中のエレベーターで「微笑みなど必要ない」と言った翼さんはとても呆れた表情をしている。
「嫌です! 手錠をした状態での写真なんてきっと悲しい思い出になっちゃいます!」
二課のメンバーに歓迎されながら、響は櫻井了子からのツーショット写真を断っていた。
これも、原作通りの流れだ。
「……まさか、こうして君と再び会うなんてな」
すでに知り合いだった、俺と弦十郎さんを除けば。
『そうですね……俺もこんな再会をするなんて思っても見ませんでした』
「あれ? 祭、そこの人とお知り合いなの!? どういうこと!?」
当然俺達の関係に響は驚く。
なお、彼女の手錠はすでに解かれていた。
「ん? ああ、俺は彼女と偶然出会って、彼女の音楽を聞かせてもらったことがあるのだ。なあ祭君」
『ええまあ、はい……』
まあ言ってしまえばそうなのだが、なんだか端的にまとめられるとなぜだか不満に思ってしまう俺がいる。
別にそんな風に思う必要はないというのに、どうしたというのだろうか、俺は。
「えっ、じゃあ祭がリディアンをもう一度目指すことになったきっかけって……」
「あらぁやっぱりそういう関係なんじゃないの弦十郎君。こんなかわいい彼女を作っちゃって」
『か、彼女ぉ!?』
俺は思わず了子さんの言葉に大声で反応してしまう。
『べ、別にそんなじゃないですよ!』
「そうだぞ了子君。俺をからかうのはいいが、彼女までからかってはかわいそうだ。それに以前にも言ったように、そういうのでは一切ないぞ」
「…………」
弦十郎さんがしっかりと否定する。
さすが誠実な人だと思った。
それにしても、先程の俺はどうにも動揺しすぎたな。
どうしたのだろうか、変身したことによって感情の振れ幅が大きくなっているのだろうか。
その後、二課の二人が自己紹介をし、俺達はメディカルチェックを受けることになった。
裸にされて、あれこれ見られて……その日は、それで終わりとなった。
帰った後、俺はぐったりとなって眠った。まさかあそこまで疲れているとは、自分でも思っていなかった……。
そして翌日、俺達は再び二課へと呼び出された俺達。そこで、響は聖遺物、そしてシンフォギア、更に響の心臓にガングニールの破片があることを説明された。
俺の力も、あの美術館にあったヴィオルが喉の人工声帯と融合したその聖遺物の力であるということを。俺はその説明をただ黙って聞いていた。
「私の力で誰かを助けられるんですよね……!?」
すべての説明を受けた後、響は表情を改めて部屋を出ていった。更に、そのすぐ後に鳴り響くアラート。
ノイズ出現のアラートだ。
それに翼さんはいち早く反応し、出動する。
響も彼女の後を追った。
そこで俺は気づく。
まずい……これ、響が翼さんの地雷を踏むやつだ!
いくら原作通りとは言え、これから二人の関係が不仲になるのを見過ごせない!
『あっ、まって響! 俺も――』
「ああ祭ちゃん! あなたはちょっと待ってて!」
と、そこで俺は了子さんに引き止められる。
そうしているうちに、響は翼さんを追い出動してしまう。
『な、なんですか!? 一人でも頭数は多いほうがいいんじゃないですか!?』
俺は言う。
すると、了子さんが俺の腕をぐいと掴んで司令室の外に出た。そして近くの個室に入ったかと思うと、ぐいと顔を近づけてきた。
「うーん、そうなんだけど……あなたの場合、ちょっと事情が違うのよねぇ」
ぐっ、この人、そういえば一期のラスボスのフィーネなんだよなぁ……。
なんらかの陰謀があって俺を引き止めているとかそんなんじゃ……。
「ん? どうしたの?」
そんなことを思っているのが顔に出たのか、了子さんは不思議そうな顔をする。
『い、いえ、顔が近いなと思って……』
俺はそれをとりあえずごまかす。
「あら、ごめんなさい」
すると、ごまかされてくれたのか了子さんは顔を離す。
ふう、とりあえず落ち着いた……。
「さっきね、あなたの力も聖遺物の力って言ったでしょ? あれ、嘘なの」
『へ?』
それって、どういう……。
「あなたの首にある物体、先程言ったように私達は『エーリッヒ・ツァンのヴィオル』と展示されていたモノの名前で呼んでいるけれど、具体的にはそれ、聖遺物じゃないっぽいのよね」
『聖遺物じゃ、ない……?』
あれ? どういうことだ? ここ、シンフォギアの世界だろう?
それなのに、超常的な力が、聖遺物の力じゃない……?
「あなたの首にあるものが示した反応は、どれも聖遺物ではありえない数値を示した。具体的には虚数数値という数値なんだけど……これはさすがに難しすぎてわからないわよね。とにかく、あなたの首にあるものは、聖遺物じゃないの」
『そ、それじゃあ俺の首にあるものは、一体……?』
「……正直、わからないわ。でも、あなたの首にあるものが人類の理から外れた存在なのは確かよ。私達はそれを『外異物』と呼称しているわ」
『外異物……』
そんなの、聞いたこと無い……錬金術の代物でもないようだ。
了子もといフィーネは錬金術師と戦ってきた過去があったはずだから、異端技術の学者としてその手のことを知っているふりもできるだろう。
でも、それをする素振りもない。
ということは、本当に彼女すら知らない力なのか……?
「……不安になるのは分かるわ」
了子さんが、真面目な声で言う。
「だから、それが何かはっきりするまでは、あんまり戦わないでほしいの。あなたの持つ力に、一体どんなデメリットがあるかわからないから。あと、このことは響ちゃんには内緒ね。弦十郎君や翼ちゃんは観測しているときのモニター前にいたから知ってるけど、響ちゃんにこれ以上の情報量は酷だと思うから」
『……はい』
俺は頷く。
もしかしたらこれも了子さんもといフィーネの策略かもしれない。でも、弦十郎さんや翼さんも知っているとなれば、彼女の言うことも本当なのかもしれない。
とにかく、俺の力がイレギュラーなのは確かなのだ。なにせ、原作には存在しない力なのだから。
ならば、とりあえずは彼女が櫻井了子として行動しているうちは、彼女の言うことを聞いたほうがいいだろう。
「うん、よろしい。できるだけ、無茶はしないでね」
そこで了子さんは笑顔に戻り、俺と一緒に司令室に戻った。
そのときだった。
「何をやってるんだ! あの二人は!」
弦十郎さんの大声が響いた。
……響は、しっかりと翼さんの地雷を踏んだようだった。
◇◆◇◆◇
『……もしもし、母さん』
その日、帰った俺はふと母親の声を聞きたくなって、電話をかけていた。
自分が何かわけのわからない存在になったことがとても不安になったのかもしれない。
響の力になれなかったのが残念だったのかもしれない。
とにかく、母さんの声が聞きたくなったのだ。
『あら、どうしたの? 祭』
『いや……なんとなく、母さんの声が聞きたくなってさ』
『そうなの……大丈夫? いじめられてない? 無理してない?』
『大丈夫だよ、俺は平気だよ。たださ、ほら、ふと寂しくなるときってあるじゃん』
『……そう』
母さんは黙って俺の話を聞いてくれた。
その日、俺は母さんととりとめのない話を続けた。
そして話を終えて、俺は最後に言った。
『……ありがとう、母さん』
『……らしくないこと言っちゃって。それじゃあ、ね』
電話を切る直前に、母さんが微笑んでいるのが、電話越しにも分かった。
通話を終えた静けさの後に、俺は思う。
やはり今の俺は、この世界の人間なのだと。
母親から感じる親からの愛情、そして、俺が感じる親への愛情。
それは紛れもない本物だ。
前世の記憶を持ちながらも、俺はやはり弓弾祭という少女なのだ。
ならば、俺は俺の日常を、すべてを守りたい。
例え、未知の力を使ってでも。
俺は自分の喉に触れながら、そう思った。