【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
「自分も戦っていきたい……だと?」
了子さんからあまり戦わないで欲しいと言われてすぐ、俺は弦十郎さん達に自分の気持ちを話した。
『はい。俺の力が、出自不明の謎の力なのは分かっています。でも、人を助けられる力を、俺の守りたいものを守れる力を持っているのに、何もせずにただ指を咥えて見たくはないんです』
「しかし……」
『それに、いざ調べるとなってもこの力を実際に使用してみないことにはデータは取れないでしょう? なら、できるだけ実践で使ったほうがいいと思うんです』
「……ふむ、確かに一理あるわねぇ」
「了子くん!」
俺の意見に同調する了子さんに驚く弦十郎さん。
その後彼は、しばらく考えるように顎や頭に手を置き、軽く「はぁ……」とため息をついた後に俺を見て言った。
「……分かった。正直、うちも猫の手を借りたい状況なのは確かだ。不本意ではあるが、君の力も借りさせてもらおう」
『はい。……すいません、無茶を言って』
「いや、無茶を言っているのはこちらも同じことだ。ただ、未知の力であることは確かゆえに、なるべく君の出動回数は少なくするようにする。それでいいな」
『ええ、もちろん』
そうして、俺も響達と一緒にノイズ退治の任務を請け負うことになった。
始めは翼さんと一緒のチームを組むことが多かった。
響と一悶着あった翼さんだが、彼女は俺にまで冷たく当たることはなかった。一方で、過度に干渉してくることもなかったが。
お互い、仕事での関係と言った感じだった。
俺も虎の尾を踏むのが怖いので翼さんにノイズ退治以外のことで自分から干渉していくことはなかった。
俺と翼さんはあくまで戦闘のことだけでつながっている、ビジネスライクな関係だった。
だがまったく会話がないかと言われればそうでもなく、戦闘のことでいえば彼女から色々と教えてもらうことも多かった。
間合いのとり方や攻撃のタイミングの見極め方など、そういうことに関して彼女はしっかりと俺に教えてくれた。
俺も彼女の言うことをしっかりと吸収し、自らの戦闘に活かしていった。
そうしていくうちに、俺と響との二人で組むシフトも出てくるようになった。
響の戦闘はまぁ……あまり褒められるような戦い方ではなかった。
その補佐を、俺がする感じのコンビ戦闘になっていた。
しょうがない、彼女が戦闘面で開花するのは、弦十郎さんに師事してからのことだ。
今の彼女はまだまだ蕾の開いていない花のようなものだ。
彼女が大輪の花を咲かせるまで、しっかりと俺がサポートしてやらないと。そんなことを俺は思うようになった。
そうこうしているうちに、一ヶ月の時間が流れていた。
「はぁ……私、どうやったら翼さんとうまくやれるんだろう」
弦十郎さん達から司令室に呼び出され、ノイズが意図的に呼び出されていること、そして、基地の地下にあるデュランダルについて話された帰り道、響はそう俺に吐露した。
『そういや、まだうまくいってないのか』
「うん……祭は翼さんとうまくやっているのに、私は全然……ねぇ、祭はどうやって翼さんとやってるの? 助けると思ってお願い!」
響は俺に両手を合わせて頼み込む。
『と言われてもなぁ……俺と翼さんはあくまで戦闘上うまくやるだけのパートナーって感じだし、響の言うように仲良しこよしでやってるってわけでもないからなぁ』
「私はその戦闘すらうまくやれないんだよぉ! ……私、翼さんに嫌われちゃってるっぽいし……」
『……それが分かってるなら、その原因を直していくしかないんじゃないか』
「分かってるんだけどねぇ。私、もっとしっかりしないとって。でも、なかなかうまくいかなくて……」
響はがっくりと肩を落としながら歩く。
俺はそんな彼女の頭を、がっと掴んでワシワシと撫でる。
「わっ!? 祭っ!?」
『大丈夫だよ、響なら。きっと、いつか翼さんと一緒に笑って肩を並べられる日が来るさ』
俺はそれを知っているから。
だから、そんな無責任に言える。
彼女が翼さんと最高のチームになる未来を、すでに見ているから。
「そうかなぁ……はぁ」
ヘコみながらも一緒に歩いていく響。
俺にできるのは、彼女の背中を見守っていくことだけ。
そう思った。
◇◆◇◆◇
「いぇーい! 今回だけ特別オッケーだってー!」
その日、響は溜まっていたレポートを片付けたことを、俺と未来に伝えはしゃいでいた。
「おめでとう響!」
『おつかれさん!』
俺と未来は彼女の出してきた手を叩いて彼女を祝う。
「これで一緒に流れ星見れるね! 私カバン取ってくる!」
未来が嬉しそうな顔で言い、廊下を駆けていく。
そこで俺は気づく。この流れ……響達が、雪音クリスと出会う直前の流れだ!
確かここで響に電話がかかってきて――
――Pll、Pll……
思っていた通り、響の携帯に電話がかかってくる。
それを、響が暗い顔をして取る。
「……はい」
電話越しに二課の人間と話す響。断片的にしか聞こえない会話だが、やはりノイズが出たという電話だった。
『……っ!』
それに気づいた俺は、いつの間にか咄嗟に響の電話を奪っていた。
「えっ!? 祭!?」
『そのノイズ退治、俺が行きます!』
『えっ、でも今回のシフトは響ちゃんじゃ……』
受話器越しに聞こえてきたのは藤尭さんの声だった。
そんな彼に、俺ははっきりと言う。
『いいえ、とにかくそのノイズ退治は俺が行きます! 弦十郎さん達にもそう伝えてください!』
『あ、ああ……』
困惑する藤尭さんには悪いが、俺は自分の体と口が勝手に動くのを止められなかった。
これも原作への介入になって、事態がより悪化するかもしれない。
でも、俺は響に未来と一緒に流星群を見て欲しかった。そう思ったら、いつの間にかこうなっていたのだ。
「祭……」
『……いってこいよ、流れ星。ずっと楽しみにしてただろ?』
「……ありがとう、祭!」
響は、俺に満面の笑みを見せた。
俺も、そんな響にニカっと笑みで返す。
そうして俺は、ノイズ退治へと向かった。
◇◆◇◆◇
『……どういう、ことだ?』
俺は混乱する。
まず、ノイズが出てきた場所が原作と違った。
俺の記憶だとノイズは地下鉄に出現していたはずなのに、俺が向かわされたのは町外れの工場だった。
さらに、ノイズ発生場所と指示され向かった場所に、ノイズの姿がなかった。
だが、恐らく犠牲となった人達が転がっていた。
それも、ノイズの犠牲のなり方ではない。ノイズによって犠牲になった人間は、炭化し炭になるはずだ。
それが、目の前に横たわっている人達は皆、老化し痩せ細っていたのだ。
まるで、命を吸われたかのように――
『これは、これはまるで……』
「まるで、なぁーに?」
そこで、頭上から甘く囁くような声を聞こえてきた。
俺の頭上にいたのは、少女の姿をした存在。しかして、少女ではない存在。
『お前、は……』
俺の知っている、その存在。その名は――
「あらぁ? まるでこのガリィちゃんのこと知ってるような口ぶりねぇ。でもそんなはずないわよねぇ。私とあなた、初対面なんだから。もしかしてナンパぁ? あーやだやだ、持てる女ってつらぁーい! クスクス……」
そこにいたのは、ガリィ・トゥーマーン。錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムが操る自動人形、オートスコアラー。
今、この場にいるはずのない敵が、その場にいた。
「ま、どうでもいいけどね。さあ来てもらうわよぉ弓弾祭……うちのマスターが、あんたをご所望なの」
ガリィは性根の腐ったのが分かる下卑た笑みを見せ、俺にそう言った。