【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
『…………っ!』
あまりの事態に言葉が出なかった。
俺の目の前に突如現れたオートスコアラー、ガリィ。
彼女は、本来今この場で登場するキャラクターではない。もっと先の舞台で登場するはずだったと、俺の前世の知識が言っている。
だが、こうして彼女は今目の前にあらわれている。
俺の前の現実として。
「キヒヒ、私の可愛さに声もでないぃ? ま、この状況でそんなわけないかぁ……それじゃ、ちゃっちゃと行くよ」
すると、ガリィは突如俺の目の前に現れる。
「っ!?」
俺はそれに対しすぐさま後ろへと退き、そして――
『――――』
喉から“奏でた”。
「……! へぇ、それが……」
ガリィがニヤリと笑う。“エーリッヒ・ツァンのヴィオル”を身にまとった俺の姿を見て。
「キヒヒ、それそれぇ! それが見たかったんだよねぇ! さあ、踊ろうかぁっ!!」
ガリィは腕に氷の剣を作り出し、俺に次々と切りかかっていく。
俺はそれを両腕で防ぐ。
『ぐっ……!』
このままでは防戦一方だ……やるしかない!
『すぅ……』
俺は軽く息を吸い――
【forte】
ガリィを破壊するために音を放つ。
だが、
「そんなの、とっくに対策済みぃ!」
ガリィは胸から赤い音叉を取り出し、それを鳴らす。
すると、俺の【forte】がかき消されたではないか。
『っ!?』
「固有振動に干渉し物質を破壊する音……まさに私達人形にとっては厄介な技ですからねぇ……うちのマスター、ちゃんと予習復習できる子なんですよぉ?」
『ちっ! 自分の主に対し敬意の欠片もないその物言いっ!』
「あら、敬意はちゃんとありますぉ? ただ、ガリィちゃんはそういうの気にするの嫌いなだけでぇーす!」
そう言いながらもガリィの攻撃の手は止まらない。
俺の防戦はなお続く。
『ならばっ!』
俺は次の手を取る。
ガリィへの直接干渉が無理ならば!
【piano】
『ならば、周囲の環境に手を伸ばすまでっ!』
俺は重力子を操作し、ガリィの動きを鈍らせる。
「ちっ、面倒な……と、でも言うと思ったぁ?」
ガリィは今度、青い音叉を取り出し、それを鳴らす。
すると、彼女の動きはすぐさま元に戻った。
『くっ、そっちも対策済みか!』
「そうなのぉ、残念でしたぁ! うちのマスターは本当に優等生だから、できる対策は何重にも重ねていくのよねぇ、特に、あなたみたいなわけのわからない存在には」
『俺がわけのわからない存在、だと!?』
【Thrash Metal】
俺は会話をしながら攻撃スタイルに切り替える。
手首からビームウィップを出し、ガリィの攻撃に合わせる。
氷の刃とビームウィップがぶつかりあい、火花を散らす。
「だってそうじゃない? あなたのまとっている“ソレ”、聖遺物のようでなく聖遺物ではない、哲学兵装のようで哲学兵装でない。そんなこれまでのこの世界の存在とは一線を画した装備、それが意味不明じゃなくてなんだって言うのぉ?」
『それは……! でも、そんなの歩く人形のお前に言われたくない……!』
「あらぁ人形差別ぅ? よくないなぁそういうのぉ。今は差別に敏感な時代だって言うのに、そういうやつは……棒で叩いちゃえぇ!!」
そのときだった。
俺の背後に、何者かの気配を感じた。
俺は咄嗟に振り向く。
「遅いです」
だが、背後に現れたその者の言葉通り、俺の反応は遅かった。
『がっ……!?』
俺は鋭いソレに薙ぎ払われ、大きく吹き飛ぶ。
「気をそらしながらの後ろからの不意打ち……まったく、ガリィらしい性根の腐った汚い作戦ですね」
「クスクス、でもそれにファラは乗ってくれたじゃないですかぁ? つまり同類ってことですぉ」
俺の背後に現れた、新たなオートスコアラー。
その名は、ファラ・スユーフ。
剣を破壊する剣殺しの哲学兵装を持つ、緑のオートスコアラー。
彼女の操る風をまとった剣に、俺は吹き飛ばされたのだ。
『ぐ……なんの……!』
「あら、まだ立ちますか」
「キヒヒ、そうでなくちゃあ。でも、私の策がただの不意打ちだと思ったら大間違いよぉ?」
『何を……なっ!?』
そこで俺は気づく。
俺の吹き飛ばされた先。そこには、大量のノイズがいたのだ。
しかもそれは、ただのノイズではないことを、俺は知っていた。
「キヒヒ! そこにいるのはただのノイズじゃないんだよねぇ! 世界を解剖する解剖器官を備えたアルカ・ノイズの群れを、あなたはどれだけさばけるのかしらぁ?」
「あらガリィ、自分から手の内を晒すなんてらしくない」
「いやぁ、こういうときははっきりと絶望を教え込んだほうが楽しいじゃない?」
「……まったく、性根の腐ったガリィらしい」
『くそっ、まずい!』
アルカ・ノイズの解剖器官に対策無しで触れられれば、あらゆるものは分解されてしまう!
このままでは……!
俺はアルカ・ノイズをビームウィップで薙いでいく。
だが、多勢に無勢。さらに普段のノイズとは違う戦い方を強いられた俺の形勢はどんどん不利になっていき、そして、
『まずっ……!?』
アルカ・ノイズの解剖器官が俺に触れた。
俺は外異物が分解されるのを覚悟し、ギュッと目を瞑る。
だが――
『……え?』
俺の外異物には、傷一つついていなかった。
「……やはり、解剖器官を持ってしても分解できませんか」
「ふぅーん、ありえないと思ったけど、やっぱりマスターの見立て通りだったねぇ。これでこそ、誘拐する価値があるってものねぇ」
『どうして……?』
俺は自分で自分が分からない。
アルカ・ノイズの解剖器官はあらゆるものを分解するのではなかったのか……?
「その反応……やっぱ知ってたんだ。アルカ・ノイズのこと。うーんますますさらいたいねぇ、ジャンク品さん」
『ジャンク品だと!? 俺のことをそう言ったか! お前ら、何を知っているんだ!』
「いやぁ、ジャンク品はただのあだ名ですってばぁ。まともな声でさえずることもできやしない、音楽を志しながらも声のない哀れなジャンク品の小娘。私達オートスコアラーよりもずっと人形に近い。それがあなた。どう? いいセンスでしょう?」
『……貴様ァ!!!!』
ガリィの言葉に、俺は怒りを抑えることができなかった。
『倒す! お前だけは、絶対俺が倒すッ!!』
【Orchestra】
「っ!? これは……!」
「ガリィ! 構えなさい!」
俺は音により大気を操作、圧縮、開放する。
それにより俺の周囲に次々と爆発を起こし、アルカ・ノイズを吹き飛ばす。
『あああああああああああああああっ!!』
俺は猛る。猛り狂う。そうして、二人に突撃する。
「……まず――」
そうして、ガリィとファラの目前まで接近する。
「――なぁんてねぇ!」
そこで俺の体は動かなくなる。身動き、一つできない。
『がっ……!?』
「キヒヒヒヒ、本当にマスターの準備万端ぶりには感嘆しますねぇ。時の流動の一部分を固着させることによって対象を捕縛する錬金術式。まぁ、マスターも“アイツ”の力添えがあったからできた芸当だけど」
「それを言うとマスターが機嫌を損ねます。そこまでにしておきなさい」
『くそっ……くそっ……!』
俺はもがこうとする。だが、ピクリとも動けない。
「さて、キツい一発でもかまして、しばらく気を失って貰おうかしら。そして、私達のアジトへご案内しまーす!」
ガリィとファラがゆっくりと俺に近づいてくる。
俺はもうだめと思い、諦観の中で目を瞑った。
「「祭っ!」」
そのとき、二つの声が重なって聞こえた。
俺は天を観る。
そこには、来るはずのないふたつの影が月明りを背にしていた。
『どうして来たんだ……響! 翼さん!』
響と翼さんが、俺達の戦いに割って入ってきたのだ。
「祭、大丈夫!?」
響が俺に駆け寄り、俺の体を抱く。すると、俺の体はするりと拘束から脱出し、響によって抱きかかえられたまま遠くに離れる。
「ちっ、やっぱり他者からの干渉に弱い術式だなぁ……マスターももっといいもの作ればいいのに」
「貴様ら、一体何者だ! 人、ではないな……この国を脅かすというのなら、この剣が相手になろう!」
そして、翼さんが俺のいたところに降り立ち、二人に剣を向ける。
『ダメだっ! 今の二人じゃっ!』
今の二人じゃ、あの二人にはかなわない。
俺にはそれが分かっていた。
だって、原作ではさんざん戦いの経験積んだ上で、イグナイトモジュールの行使によって勝てた相手なんだ。
それを、初期の状態でなんて……!
「……分かっている、祭。私も、相手の力量を測れないほど、未熟者のつもりではない」
「ほう、私達との力量差が分かっている、と。それなのに私達に切っ先を向けるとは、随分と殊勝なことですね。それとも、死にたいのですか?」
ファラが翼さんを煽るように言う。
すると、翼さんはゆっくりと目を閉じる。
「……確かに、死を覚悟しているというのは、あながち嘘ではないかもしれない」
『翼さん!?』
「私は今まで一人で戦ってきた。だが、今こうしてこの国を脅かす存在に自分の力ではどうすることもできない、それどころか、同じくこの国のために戦っている同志を守れない。そんな状況では、覚悟を決めるしかない」
翼さん、俺との戦いはビジネスライクだったのに、それなのに、俺の命一つにそこまでのことを……この国の未来のために、そこまでの覚悟を……。
これが、奏さんを失った翼さんの覚悟なのかと、俺は思った。
「しかし、私も防人の意地がある。二人共、そこで見ているといい! 私の、防人としての覚悟と生き様を!」
翼さんは俺達に叫ぶ。
そして、言う。
「……月が出ている間に、終わらせましょう」
「何を……、っ!?」
そしてそこで、ガリィ達は気づく。自分達もまた、動けなくなっていることに。
【影縫い】
「これは……!」
「動けない……!」
ガリィとファラがなんとか動こうと必死に体を動かしている。
そして、そこに翼さんは歩み寄り、“詠い”はじめた。
「Gatrandis babel ziggurat edenal. Emustolronzen fine el baral zizzl ――」
それは、シンフォギア装者のすべてを捧げる歌。
すべてを引き換えに、すべてを滅ぼす歌。
『これは……絶唱!?』
「えっ!? 絶唱って……翼さんッ!!」
走って止めに行こうとする響。
だが、もう止めることはできなかった。
「Gatrandis babel ziggurat edenal. Emustolronzen fine el zizzl……」
彼女が詠いきった瞬間、強烈なエネルギーが放出され、そして――
「「があああああああああああああああああああああああああああああっ!?」」
それを、ガリィは、ファラは、そしてアルカ・ノイズの群れはまともに食らった。
アルカ・ノイズの群れは、それにより消滅。
そして、翼さんを中心に、大きなクレーターを作り、オートスコアラーの二体は大きく吹き飛ばされていった。
「う……あ……!」
「おの……れ……!」
オートスコアラーの惨状はひどいものだった。手足がほぼおしゃかになっており、ぐったりと廃墟とかした工場の中で寝そべっている。
まだ活動しているのが不思議なほどだった。
「おぼえて……いろ……!」
そして、オートスコアラーはなけなしの力を使って、転移し消えていく。
とりあえず、この場の難は去ったようだった。
しかし――
「……翼さぁぁぁぁぁん!」
クレーターの中心で、目から、口から血を流し立ち尽くす翼さんの姿に、決して俺達は勝利を喜べないのであった……。