【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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ガラガラヘビがやってくる

 翼さんが命を賭してもぎ取った勝利の後、彼女は二課と関連があるリディアンの隣の病院へと搬送された。

 そして、その手術室の側で、俺達は翼さんのマネージャーをして、さらに二課のエージェントでもある緒川慎次さんから、彼女の過去、天羽奏さんのことについて聞かされた。

 その話を聞いて、響は泣いていた。

 今まで一人ぼっちで戦っていた翼さんに思いをはせて、そして、自分の軽率さを恥じて。

 だが、一方で俺は響のように涙を流せなかった。

 俺は未だ心中で混乱していたからだ。

 なぜ……なぜ、オートスコアラーが……!?

 オートスコアラーに襲われたということは、背後にいるのは錬金術師であるキャロルのはずだ。

 そのキャロルがなぜ俺を狙う!?

 より正確には、俺の持つ外異物――エーリッヒ・ツァンのヴィオルを狙っている。

 俺の喉にあるこれが、それほどまでに重要なのだろうか。

 そして、相手をオートスコアラーに変えても、こうして原作通りの流れが進んでいる。

 これは一体どういうことなのか。

 もしや、俺の持っている知識ではどうにもならないようなことが起きようとしているのではないか?

 そんな恐れが、俺の中で生まれてきた。

 ゆえに、俺は泣けなかった。

 俺は響と違って、自分のことで精一杯になっていてしまっていた。

 その日は結局、緒川さんからの話を聞いて終わった。

 俺は自分の内にもやもやを抱え込みながら、誰もいない部屋に帰宅した。

 帰った俺は、すぐさまベッドに入る。こういうときは寝てしまったほうがいい。前世でも、メンタルが弱ったときはそうしていた。

 だが――

 

「……眠れない」

 

 俺は眠りにつけなかった。

 眠れないほどに心が疲れているとは、思っても見なかった。

 どうにも、俺は存外臆病な性格だったらしい。

 

「…………誰かと、話したいな」

 

 俺は自分の気持ちを吐露する。

 ゆえに、携帯を取り出し、電話帳を開く。

 そして、タップし電話をかけた相手は――

 

『……んああ……どうした祭、こんな夜遅くに』

『いや……ちょっと声が聞きたくてさ、父さん』

 

 俺が電話をかけた相手は父さんだった。

 明日も仕事があるゆえに迷惑なのは分かっていた。でも、どうしても親の声を聞きたくなったのだ。

 

『……そうか。まあ、何があったかは聞かん。とりあえず、適当にでも話すか』

『……ありがとう』

 

 そして父さんは、俺のそんな気持ちを察してくれたのか、ただ話を聞いてくれた。

 結局、俺はその日ずっと父さんととりとめのない話をした。

 そのおかげで、自分の中の辛さが少し晴れていった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「よく来てくれた、祭君」

 

 その日、俺は弦十郎さんから二課に呼び出されていた。

 内容は、言われずとも分かっていた。

 

『この前の襲撃の件……ですよね』

「ああ、そうだ。そのことについて話がしたい」

『はい。……にしても、弦十郎さん』

「なんだ?」

『ちょっと汗臭いですよ……』

「ああ、実は響君から修行させて欲しいと頼まれてな。微力ながら、ここ数日、彼女に稽古をつけていたのだ」

『ああ、なるほど……』

 

 どうやら響は原作通り弦十郎さんに師事しているらしい。

 これでもう、彼女は大丈夫だろう。弦十郎さんに稽古をつけてもらうことで、響が一皮むけるのは分かっているから。

 それよりも、である。

 

「まあそんなことよりもだ。今日は、ここ最近調べていた敵の正体について、しっぽが掴めたから君と話をしにきたのだ」

『掴めたんですか!? 相手の正体が!?』

 

 俺は驚いた。

 相手の正体、つまり錬金術師だということをどうやって掴んだのだろうか。

 そこは、さすが二課とでも言うべきなのだろうか。

 

『一体、どうやって……』

「それについて、なのだが……」

 

 と、そのときだった。

 突然部屋が暗くなる。電灯がすべて落ちたのだ。

 そして、背後に並々ならぬ気配を感じた。体中に鳥肌が立つような気配を。

 

『っ!?』

 

 俺は咄嗟に振り向く。そして、条件反射的に喉から奏でようとする。

 

「あら、だめよ。ここは基地内なんだからそんなオイタしようとしちゃ」

 

 それを、聞いたことのある声が静止し、スラリとした手が俺の腕を掴んだ。

 

『っ……!? あなたは……!?』

 

 電灯がつく。それによって、俺を止めた人物の姿が見える。

 そこにいたのは、俺が知っている、しかしこの目では初めて見る人物の姿だった。

 俺は、思わずその名を呟いてしまう。

 

『……フィーネ……!?』

「ほう、やはり私の事を知っていたか。私の見立ては、どうやら間違っていなかったようね」

 

 そこにいたのは、何度も輪廻転生を繰り返し人類史に影響を与え続けてきた巫女、フィーネだった。

 服装は櫻井了子としての白衣だが、髪色はフィーネとしての金髪だった。

 

『あっ、今のは……!?』

「いいのよ、あなたのことについて、私はある憶測を立てている。そして、私の憶測はあなたのその言葉によってある程度裏付けられた」

 

 怪しい笑みで笑いながら言うフィーネ。

 俺はそんな彼女を警戒し身構える。

 

「落ち着け、祭君。彼女は、了子くんは敵ではない」

 

 だが、そんな俺を弦十郎さんが諌めた。

 

『弦十郎さん!? でも、彼女は……!』

「そうよ弦十郎君。今はたしかにそうだけど、いつ私があなた達と敵対しないとも限らないのだから」

「俺がいる限り、そんなことはさせんさ」

『……!? ……!?』

 

 俺の頭は混乱しかなかった。

 どうしてフィーネが……!? どうして弦十郎さんと普通に話しているんだ……!? どうして……!?

 

「……だいぶ混乱しているようだな。まずは全員、座ってゆっくり話そう」

 

 そうして俺は半ば力づくで座らされ、落ち着くまで弦十郎さん達は待ってくれた。

 

 

「……落ち着いたかしら?」

『……はい』

 

 フィーネの言葉に、俺は警戒を解かない状態でありながらも頷く。

 今は、落ち着いて話すしかない。俺はそう判断した。

 

「改めて、私は櫻井了子もといフィーネ……あなたは知っているようだけど、一応ね」

『……それは』

「どうして私がこうしてこの場にいるのか、という顔ね。いいわ、教えてあげる」

 

 そうしてフィーネは語る。彼女が今ここにいる理由を。

 

「簡単に言ってしまえば、私は弦十郎君に野望を阻止されたのよ。私の目的は、人をカストディアンの呪縛……バラルの呪詛から解き放つためにこの基地と一体になっていたカ・ディンギルによって月を破壊すること。でも、弦十郎君はとあるときにその私の計画を看破し、それを阻止した。でも、弦十郎君は私にトドメを刺さなかった。そればかりか、再び私に手を差し伸べたのよ。本当に、青いわよね。ただまあ、私だってまだ次の輪廻に入るのは早いと思ったし、彼の言う『別の可能性を見せてやる』なんて言葉も面白いと思った。ゆえに、私はその可能性とやらを見せてもらえるまでの間、協力して上げることにしたのよ」

『…………』

 

 俺は言葉が出なかった。

 そして理解した。今この世界は、俺の知っているシンフォギアとは完全に逸脱しているのだと。

 

「驚き、という顔ね。まああなたが私の事をどこまで知っているかについては、こちらは推測するしかないけど……しょうがないわね」

『……俺が、どうしてあなたのことを知っていると?』

「それよ。私が着目したのは」

 

 そう言って、フィーネは指をピンと立てる。

 

「私は最初に見たときからまず敵が錬金術師だということを看破していた。なにせ、昔何度も戦った相手だからね。手の内は分かってるのよ。蛇の道は蛇、というわけね。そして次にあなたと錬金術師の戦いのログを確認した。そして、あなたがアルカ・ノイズのことについて知っていることに私は着目した。アルカ・ノイズのことについて知っているのは錬金術師について知っている者のみ。そしてそれは現代の人間では普通ありえない、ってね」

『あ……』

 

 迂闊だった。戦いに熱くなっていたとはいえ、俺はどうやら失態をおかしていたようだった。

 フィーネは話を続ける。

 

「そこで私はある仮説を立てたの。外異物によって、あなたは世界を外側から見ているのではないかと」

『外側から……』

 

 彼女の仮説は当たらずとも遠からずだった。外異物の力ではないが、俺は前世この世界をアニメとして見ていた。

 それは、世界を外側から見ていると言っても過言ではないだろう。

 

「どうやら図星のようね」

 

 フィーネは怪しい笑みを見せる。

 

「あなたが世界の外側から物事を観測したのなら、当然私の事も知っている。私はそう思って、あなたに正体を明かしたのよ。二課では弦十郎君しか知らない、私の正体をね」

『そうだったんですか……』

 

 さすがフィーネ、と言ったところだった。

 僅かな情報でここまで俺の核心についてきた。まさに何度も輪廻を繰り返し、人類史を影から支えてきた彼女ならではであろう。

 

「あなたの外異物の力は世界を外から見れる力がある、または外から見たものによって起動できる。それは、外異物に世界の外と直結する力がある。そこから敵の目的が見えてくるのよ」

『見えてくる、目的……?』

「ええ。つまり、敵はその外異物の力によってどうにか世界を外側から見ようとしている。あるいは、その力を使って何かを行使しようとしている、とね」

 

 彼女の説明は理屈が通っているように思えた。

 俺と外異物との繋がりは恐らく後者だ。俺が別の世界でこの世界の知識を持って生まれてきたから、外異物が反応した。それはつまり、外異物が別の世界とつながる力があるということだ。

 敵、つまりキャロルはそれを狙っている可能性が高い。

 

『なるほど、だから俺を狙ってきた、というわけですね……?』

「ええ、あくまで仮説だけどね。本当はもっと情報が欲しいところなんだけど……それにしても」

 

 と、そこでフィーネは言葉を区切った。

 

「別の世界から介入してくる存在……まるで、あなたの外異物はノイズのようね。クスクス」

「了子君! 言葉が過ぎるぞ!」

『…………』

 

 諌めてくれる弦十郎さん。それが嬉しかったが、俺は反論もできなかった。

 別の世界からこの世界に前世の知識を持ち込んだ俺は、まさに別の世界の存在と言っても過言ではない。

 それは、本来別の世界から襲いかかってくるノイズと同じと言えてしまう。

 俺は、自分でもそう思ってしまった。

 

『俺は……』

「祭君、君は決してノイズと同じなどではない。それは、この俺が保証しよう。君は君の守りたいもののために力を振るっている。それがノイズと同じと、どうして言えようか」

『弦十郎さん……』

「まったく、相変わらず暑苦しい男ね弦十郎君は。まあ、そういうの嫌いじゃないけどね」

 

 フィーネはフフっと笑いながら言った。

 俺には、今ひとつ彼女の感情を読み取ることができなかった。

 

「ま、とにかく敵の錬金術師があなたを狙っていることは揺るぎのない事実ということね。だから、あなたにも私達に情報提供をして欲しいの。こちらも、あなたに助力するために助っ人を呼んだわ」

『わかりました。俺の知っている情報……と言っても、今の状況において有益な情報は少ないと思いますけど。それにしても、助っ人……?』

「ええ、そうよ。さっきも言ったように、蛇の道は蛇。私にも、一応仲間はいるのよ。……入ってらっしゃい」

 

 フィーネがそう言うと、部屋の扉が開かれた。

 

「なんだよ、やっと出番かよ。待ちくたびれたぜ」

 

 そして、中に入ってきた人物に、俺はまたも驚愕した。

 

『君……は……!?』

「なんだぁ、アタシのこと知ってるのか? フィーネから聞いた通り、変な奴だな。まあいいや、よろしくな、ええと……祭さんよ」

 

 ぶっきらぼうな口調。雪のように白い髪。端正な顔立ち。美しいプロポーション。

 そのすべてが、彼女の名前を俺に告げている。

 

「アタシは雪音クリス。イチイバルのシンフォギア装者だ。これから、あんたと一緒に行動して、守ってやるよ」

 

 クリスがニヤリと俺に笑みを向け、そこに立っていた。

 

『マジか……』

 

 俺は思わずそう呟くことしかできなかった。

 

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