【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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ミュージック・アワー

『ふわぁ……』

「祭、大丈夫? なんだか凄い眠そうだよ?」

 

 学校での昼時、大きなあくびをした俺に未来が気遣うように言ってくれた。

 

『んん……最近寝不足でね……』

 

 それは本当である。

 突如敵として現れた錬金術師。

 更には味方として現れたフィーネ。

 次々と起こる予測不可能な事態に、俺の脳はすでにパンク寸前で、しっかりとした睡眠が取れないでいたのだ。

 

「最近、祭なんか大変そうだしね……響も今日の朝から修行とか言ってどっか行っちゃったし、なんか私だけ置いてけぼりって感じ」

 

 未来がすねたように言う。

 俺はそんな彼女の顔に、思わず気まずい気持ちになる。

 響と俺が未来にしている隠し事は、同一な隠し事なわけで。つまり、彼女に嘘をついているわけで。

 ずっと仲良し三人組として一緒にいたのに、ここにきて彼女を仲間はずれにしているようで、個人的にとても気分が悪い。

 きっとそれは響もだろう。

 実際、原作では響と未来はそれで一悶着あったしなぁ……。

 

「おう、祭、ここにいたのか!」

 

 と、そこで俺に乱暴な口調が投げかけられてきた。

 聞き覚えのある声に、俺は少し苦々しい顔になりながらも振り向く。

 

『……クリス……先輩』

 

 そこにいたのはクリスだった。彼女は俺達と同じリディアンの制服を着てすぐそこに立っていた。

 手には料理の乗ったトレーが持たれている。

 

「ここいいか?」

『ええ、まあ……』

「え? 誰、祭? 先輩?」

「よう、アタシは雪音クリス、二年生だ。つっても、ついこの前転校してきたばかりだけどな。祭とは、今同室なんだ」

「えっ、祭、上級生と同じ部屋なの!?」

『うん、まあ、部屋がどうしてもないっぽくて、今……』

 

 それは嘘である。

 クリスは俺の護衛としてこの学校に転入してきた。そして、俺を守るのにちょうどいいからと俺と同室にされたのだ。

 そこはリディアンの創設に関わっている二課が手を回したらしい。

 

「……もしかして、祭の寝不足の原因ってこの先輩?」

 

 未来が訝しんだような表情で俺に聞く。

 

『えーと……うーん……当たらずとも遠からずっていうか……』

 

 まあある意味間違ってないからどう答えたらいいものか……。

 俺が煮え切らない態度を取っていると、未来は今度クリスに目を向ける。

 

「どうも、小日向未来です。祭の幼馴染です」

「おう未来、よろしく! よっと」

 

 クリスは俺と未来の正面に座る。乗っている料理はハンバーグだった。

 

「何してるか知りませんけど、祭をあんまり困らせないでくださいね? 祭、今寝不足で困ってるんですよ」

「寝不足ぅ? アタシのせいでか?」

『いやーその……ハハハ……』

 

 俺は愛想笑いをするしかなかった。

 別にクリスのせいではないんだけど、とりあえずそうしといたほうが収まりがいい。俺はそういう意図を込めたアイコンタクトをクリスにさりげなく送る。

 

「……ああ、なるほど」

 

 すると、案外敏いクリスは気づいてくれたようだった。

 

「悪かったよ、アタシも別に突き合わせるつもりじゃなかったんだが、日本は久々でな。色々話を聞いてたら、夜遅くまでつきあわせちまったんだよ」

「そうだったんですか……」

 

 とっさにそれらしい作り話をしてくれたクリス。

 助かる……後でフラワーのおばちゃんのお好み焼きでもおごっておこう……。

 

「それで、クリス先輩はどうして今この時期に日本に? というか、どこの国にいたんですか?」

「ん? ああーえっと……アタシ、ちょっと連続での転校が多くてなーどこって言われると少し困るんだよ」

 

 クリスは一瞬端切れ悪く言う。俺はそこで、クリスが来たときの自己紹介を思い出していた。

 彼女は中東のバルベルデ共和国でテロにあい、両親を失ってテロリストに捕まっていた。

 そこをフィーネに助けられ、しばらく共に生活していたらしい。それで彼女に付き従っていたのだが、フィーネが弦十郎さんに負けた後は彼女も弦十郎さんに従い二課の裏の戦力として戦っている、らしい。

 どうも彼女は原作よりずっと早く助け出されたらしく、さらにはフィーネが甲斐甲斐しく育てたということもあったらしい。ゆえに、原作一期のときより抱え込んでいないように俺には思えた。

 とにかく、そんな事情で彼女は世界各地を飛び回っていたらしい。

 ゆえに、どこの国からという質問に少し困ったのだろう。

 結果、嘘だけど嘘じゃない回答でごまかした、というわけだ。

 

「なるほど……両親がお忙しい方なんですか?」

「んーまあ……そんなかんじかな? まあ、でもしばらくはこっちにいると思うぜ、なあ祭」

『……俺に聞かないでくださいよ』

 

 突然俺に振られても困るから止めてほしい。

 俺に分かるわけないじゃないか、敵の動向なんて。

 確かに俺は外異物の力で世界を外から見た、ということになっているけど、すでに流れが原作を逸脱してるんだから答えられることは全然ないんだ。

 フィーネ達に俺の知っていることを話したときも、前世知識ということは伏せながら錬金術師キャロルのことなど伝えたときもそういう感じのことは言ったのだが。

 

「そうですよ。祭が先輩のこれからを知るわけないじゃないですか」

「それもそうか。ハッハッハ!」

 

 クリスはごまかすように笑う。

 笑い方がわざとらしいなぁ……ほら、未来が訝しんでる。

 

「……ま、いいですけど。それより食べちゃおう祭。じゃないと、お昼終わっちゃう」

『ん? ああそうだね。早く食べちゃおう』

「そうだな、じゃあアタシも食べるとするか」

 

 そうして俺達は半ば強引に話を切り上げて食事を取った。

 クリスの食べ方は、とても汚かった。未来はドン引きしていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 放課後。

 俺はリディアンにいくつもある音楽室のうちの一つにいた。

 手にはギターを持ち、音楽を奏でる。演奏している曲はシンフォギアの時代においては昔のアーティストにあたる『ポルノグラフィティ』の曲『ミュージック・アワー』だ。

 俺が前世で大好きだったバンドの一つで、この喉になってから楽器の練習がてらよく弾く曲の一つでもある。

 なお、自分なりにアレンジをしている。具体的には、歌の部分を違和感なくギターで奏でるようなアレンジを。

 歌えない喉のかわりにギターが喉という感じだ。

 いつもはこうして授業終わりに一人で練習しているのだが、今日は観客がいた。

 未来とクリスだ。

 二人は俺が弾き終えると、パチパチと拍手をした。

 

「すごい祭! また一段とうまくなったね!」

「へぇ、最初曲名を聞いたときはまた古い曲をと思ったが、またずいぶんいいもんじゃねぇか」

「……ありがとう、二人共」

 

 俺は二人から少し顔を逸らしながら言う。

 なんだかちょっと照れくさかったのだ。

 

「あー、祭ったら照れちゃって。もうかわいいんだから」

 

 それを未来に見抜かれ、茶化される。

 

「お、なんだ照れてるのか? 確かにそれはかわいいなぁ、んん祭?」

 

 それにクリスも乗っかってくる。

 くっ、こいつら……人がちょっと照れたぐらいで……!

 

『……帰る!』

 

 俺はちょっとムカついてわざとらしくギターを持って立ってみせる。

 

「ああ悪かった悪かった! お前の演奏に感銘を受けたのは、嘘じゃねぇから!」

「そうだよ祭! ごめんね茶化しちゃって。また祭の演奏聞かせてほしいな」

『……ずるいな、二人共。そう言われたら、許しちゃうじゃないか』

 

 俺は思った以上にチョロいらしい。

 二人に曲を褒められて、俺はすぐさま機嫌を直してしまった。

 そうして俺はまたギターを構え、次の曲の準備をする。

 ……実際、こうして誰かの前で演奏するのは楽しい。音楽の楽しさを再び思い出せたのは、間違いなく弦十郎さんのおかげで、だからこそ今の俺がこうしてあると思う。

 でも……やはり歌への未練は残っているんだなと、俺はこの前思い知った。

 だって、ガリィに煽られたときに、俺は我を忘れて怒ってしまったから。

 歌への捨てられない未練が、この喉をバカにされたときに燃え上がる燃料となったのだろう。

 やはり、歌への憧憬は捨てられない。

 こんな喉になっていなければと思うことを、どうしてもやめられない。

 でも、だからと言って音楽を奏でること自体は先程も思ったように好きだ。

 その二つの感情が、並列しているのだ。

 我ながら難儀なことである。

 今はただ、こうして楽器を奏でることしか俺にはできないのに。

 俺は二人に気付かれないようにそっとため息をついた。

 自分から見ても哀れな夢への縋りように、である。

 

『……それじゃ、次もポルノグラフィティで。曲は“Zombies are standing out”』

 

 俺はそんな自分の未練を捨てられるようにと、激しめの曲をチョイスし、勢いよくギターを弾くのだった。

 

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