【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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Zombies are standing out

「いやぁすっかり遅くなっちまったなぁ」

 

 夕暮れの放課後、俺はクリスと一緒に寮への帰路をついていた。

 

『クリスがあんなに曲をリクエストするからじゃないか』

「ああ? いいだろ別に。ていうか、嫌だったらお前が止めればよかったじゃねぇか」

『うぅ、それは……』

 

 俺達は俺の放課後の練習の帰りだった。

 練習に観客として付き合っていた未来とクリスのうち、未来は響が帰ってくるとの連絡があったから途中で帰ったのだが、クリスはじっくり俺に付き合い、さらには曲をリクエストしてきた。

 それに俺も答え、結果、帰りが遅くなったのだ。

 

『……まあその、誰かに求められるのって結構気持ちがいいというか、つい調子に乗ってしまったというか』

「へへっ、気持ちよかったならいいじゃねぇか」

 

 クリスがニヤニヤとした笑みで言う。

 くっ、クリスと一緒に生活するようになってから、時折こういうふうに笑われる……。

 どうやら俺はクリスにとってからかいがいのある相手らしい。

 

『にしても』

「ん?」

『いや、クリスは本当に音楽が好きなんだな、ってね』

「ああ、まあな。アタシの死んじまったパパとママが音楽家夫婦だったから、自然とな」

『……大丈夫なの?』

「へ? 何がだ?」

『いや、この前聞いた話だと、クリスは両親の活動についていった結果で両親を失って、それでしばらくゲリラに捕虜にされてたんだろう? そんな経緯があったら、音楽が嫌いになってもしかたない気もして……』

 

 原作の序盤のクリスは歌が嫌いだと言っていた。

 だが、今俺の目の前にいるクリスにそんな素振りはない。

 むしろ、とても好んでいるように見える。その違いが、俺には気になった。

 

「ああ、なんだ、んなことか。確かに一時期嫌いになりかけた時期はあったさ。でもよ、両親は本気で音楽で世界が平和にできると思って努力してたんだ。それを娘のアタシが忘れちゃ世話ねぇだろ? アタシは間違いなくあの人達の娘なんだ。それに、アタシを助けてくれたフィーネだって今は平和的なやり方で頑張ってんだ。それにも報いてやらねぇとな」

『……すごいなぁ、クリスは』

 

 俺は素直な感想をこぼした。

 彼女は本当に素晴らしい人間だ。俺はそう思ったのだ。

 

「なんだよ、褒めても何もでねぇぞ?」

『いや、そういうつもりじゃなくてさ。いろいろ大変な事を経験してるのに、しっかり前を向いてさ……俺はいつまでも後ろ向いてウジウジしてるところがあるから、素直に憧れちゃうんだ』

「……後ろを向いて、か。それもしょうがねぇと思うぞ? アタシだって後ろを向いてた時期はあったし、お前のソレはすぐに立ち直れるようなことじゃないだろ」

 

 そう言ってクリスは俺の喉を見た。

 俺は彼女の視線を受けながら、そっと自分の喉を撫でる。

 黒いチョーカーは、体温よりも冷たかった。

 

「お前は頑張ってると思うぞ、アタシは。普通はそんな喉になったら、腐っても仕方ねぇ。でも、腐らずにお前は別の目標を見つけたんだ。十分、前を向いてるさ」

『……そうかな』

 

 俺はガリィの昔の夢についてけなす言葉に激昂してしまった。

 それは、未だに俺が昔の夢に縋っている証拠だ。

 俺には、どうしてもそれが自分の情けなさに繋がっているように思えた。

 

「そうだよ、自信持てって。お前が頑張ってるのは、アタシが保証するからさ!」

 

 そう言ってクリスは俺の肩をばしっと叩いた。

 ちょっと痛かったが、それ以上に温かみを感じた。

 

『……ありがと、クリス』

「おう。そういえばお前、人前ではアタシに先輩ってつけてるけど、それ止めてもいいんだぞ? 普通にクリスって呼べよ学校でも」

『いやでも、一応先輩だしそこらへんをしっかりしないと怪しまれるかもだし……』

「めんどくせぇこと考える必要ないって。アタシとお前の仲じゃねぇか!」

『……考えとく』

 

 二課のことがバレないための念の為の呼び方だったが、彼女がそう言うのなら変えてもいいのかもしれない。

 俺はそう思った。

 

「おやおやぁ? 今回は二人なのぉ? 私の事が怖いのかなぁ? キヒヒ!」

 

 と、そのときだった。

 煽るような言葉と笑い声が突如上から聞こえてきたのだ。

 俺達は声の方向を向く。

 

『……ガリィ!』

 

 そこには、木の上に立つガリィがいた。

 

「おい、あまり煽るんじゃない。ソレを言ったら俺達だって二人じゃないか」

 

 今度は目の前から声が聞こえてくる。

 そこには、小柄な人影があった。その姿を、俺は知っていた。

 

『お前は……! キャロルか……!』

 

 そこにいたのは、オートスコアラーの主である錬金術師、キャロルだった。

 

「……ほう、俺様の事を知っているのか。やはり、その外異物の力は本物のようだな。ますます欲しくなったぞ、その力」

「へぇ、こいつらがお前を狙う敵ってわけか。ぶっ飛ばしがいがありそうじゃねぇか……!」

 

 クリスが好戦的な笑みを浮かべながら言う。

 そんな彼女を、キャロルは冷たい視線で見つめる。

 

「貴様は……フィーネの子飼いのシンフォギア装者か。去れ、貴様に興味はない」

「そう言われてはいと返すわけはねぇんだよなぁ。なんせ、アタシの仕事はコイツの護衛だからな」

 

 そう言って、クリスはシンフォギアを首元から取り出し、詠い始めた。

 

「Killiter Ichaival tron……」

 

 クリスのシンフォギア、イチイバルの聖詠。

 それが響き渡ったかと思うと、彼女の体を光が包み始め、そしてクリスはシンフォギアをまとった姿で再び現れる。

 赤い鎧、イチイバルをまとった姿に。

 

『――――』

 

 俺もそれに合わせ、喉を鳴らす。

 それにより、俺は外異物エーリッヒ・ツァンのヴィオルをまとった姿になった。

 

「ふん、聖遺物と外異物、揃い踏みというわけか。だが、今回はわざわざ俺が出張っているんだ。絶対にいただくぞ、貴様の力!」

 

 そう言ってキャロルは虚空からハープを取り出したかと思うと、錬金術師が戦闘時にまとう、ファウストローブをまとい始める。

 ソレとともに、彼女の体は成長した姿になる。

 

「あらあらぁ、マスターもやる気じゃないですかぁ。汗臭い闘志ですねぇ」

「黙れガリィ。ファラよりも貴様を優先して修復した分の仕事はしろ」

「はぁーい」

 

 そう言ってガリィは木の上から降りてくる。そして、さっと赤い結晶体をばらまいた。

 すると、そこから次々と召喚される姿があった。アルカ・ノイズだ。

 

「さぁて、まずは小手調べ」

 

 ガリィはそう言うとバッと手を前に出す。

 すると、アルカ・ノイズが一斉に襲いかかってきたのだ。

 

『クリス!』

「ああっ!」

 

 俺とクリスは応戦する。

 クリスは鉛玉で、俺は音でアルカ・ノイズを撃破していく。

 特にクリスの戦果はものすごく、彼女が向いた方向はアルカ・ノイズが次々と消えていったほどだ。

 

「へぇ、どこぞの馬の骨かと思ったけど結構やるじゃない。でもぉ……レイア!」

「地味に承知!」

 

 ガリィが叫んだその瞬間、クリスの背後にオートスコアラーの一人であるレイア・ダラーヒムが突如として現れた。

 そして、彼女の技であるコイン飛ばしでクリスの足を止める。

 

「ちっ!? 新手かっ!」

「地味に足を止めたぞ、今だガリィ」

「はぁい! いけぇ!」

 

 そこで、ガリィは周囲にいたアルカ・ノイズをすべてクリスへと向かわせた。

 

『しまった!』

 

 俺は叫び、クリスのもとへ向かおうとする。このままでは、アルカ・ノイズの解剖器官によってクリスのシンフォギアが破壊されてしまう!

 だが、俺とクリスの間にスっとキャロルが入ってきた。

 

「おっと、いかせんぞ? 外異物の小娘」

『お前が人に言えたことかっ……!』

「ふん、言えるさ。重ねてきた齢はお前達とは天と地の差があるからなぁ」

 

 俺の足はキャロルの攻撃で止められる。

 

「ちぃっ!」

 

 さらに、クリスの足もレイアの攻撃で止められている。

 二人の足が止まった、そのとき――

 

「いけぇ!」

 

 アルカ・ノイズの解剖器官が、クリスのシンフォギアに触れた。

 

『クリスッ!!』

 

 俺は叫ぶ。

 助けられなかった……!

 そう思った。

 だが――

 

「……へっ、それがどうしたぁっ!」

 

 彼女はまったくもって平気なようだった。そしてそのまま、彼女は銃弾をバラまき、周囲にいたアルカ・ノイズを殲滅した。

 

「何っ!?」

「あれれぇ!?」

 

 レイアとガリィは驚きの表情を見せる。一方で、クリスは余裕の、かつ挑発するような笑みだ。

 

「悪いなぁ、うちの大将は敵があんたらってわかった時点でしっかりと対策済みなんだよ」

「……フィーネか!」

 

 クリスの言葉にキャロルが苦虫を噛み潰したような顔で反応する。

 そうか、フィーネがアルカ・ノイズ対策をシンフォギアに組み込んでいたのか……!

 

『さすが、味方にするとなんと頼もしい……!』

「だろ?」

 

 俺の言葉に、クリスは不敵な笑みのままウィンクした。

 

「ふん、それならが俺達の力でゴリ押すのみだ! 行け、ガリィ! ファラ!」

「はーい!」

「地味に了解!」

 

 すると今度は、ガリィとレイアがクリスに向かい襲いかかる。そして俺の相手はキャロルという形になっていた。

 

「ちっ……!」

 

 さすがのクリスも、オートスコアラー二人相手は辛そうだった。

 俺も救援に行きたいが、ファウストローブをまとったキャロルは俺にとっても強敵で、片手間で相手をすることなどできなかった。

 だが、そんなときだった。

 

「はぁっ!」

「だああっ!」

 

 二つの雄々しい叫びが、戦場に響いた。

 

「なっ!?」

「ぐうっ!?」

「ぐへっ!?」

 

 キャロル、レイラ、ガリィがそれぞれその二つの声の主によって吹き飛ばされる。

 叫びと土煙と共に現れた二つの影が、ゆっくりと姿を見せ始める。

 その姿は、馴染み深い姿だった。

 

『響! 弦十郎さん!』

 

 クリスの前には響が、そして俺の前には弦十郎さんが現れていた。

 二人共、拳を振りかぶった姿で立っている。

 

「大丈夫!? 二人共!」

 

 響が叫ぶ。それに対し、俺とクリスはそれぞれ「ああ!」と答えた。

 

「よくやったぞバカ! いいタイミングだ!」

「もうクリスちゃん! 私達最近出会ったばっかりなのにバカってあだ名はひどくない!?」

「お前こそ不躾にちゃん付けしてるからおあいこだよ! アタシのほうが年上だっつってるだろうが!」

 

 すでに顔合わせはしていた響とクリスは互いに言い合う。すでに二人の仲は出来上がっているようだった。

 

「それにしても、今度は守れてよかったぁ……!」

「よくやったぞ響君!」

「いいえ、師匠こそさすがです!」

 

 ほっとして声を上げる響を褒める弦十郎さんに、それに答え弦十郎さんを称える響。

 

『はい、お見事でした、弦十郎さん……!』

 

 俺はもまたを素直に称賛する。

 彼の背中が、とても大きく見えた。

 

「ふん、そんなことないさ。それに、相手がノイズでないなら、俺の拳もちゃんと通用する! そして、指揮の必要がない場面ならば俺が出ても何も問題はない! そういうことだ!」

「なんだこの男は……! 普通の人間の力じゃないぞ……!」

 

 弦十郎さんの力に驚嘆するキャロル。俺はそんな彼女に不敵に笑ってやる。

 

『ふん、どうだいうちのボスは! 勝てるものなら勝ってみろ!』

「ちっ、急に元気になりやがって……! 虎の威を借る狐というやつだな……!」

 

 キャロルの言葉は的を得ていると思うが、今はそれで悔しく思ったりしない。それほどに、弦十郎さんの存在は頼もしかった。

 今なら勝てる……!

 そう、思うほどに。

 

『さあ、行きましょう弦十郎さん!』

「ああっ!」

 

 そうして、俺は弦十郎さんと一緒に駆けた。

 弦十郎さんと共に戦える。それだけで、俺の心はなぜか踊った。

 

「――まったく、見ておられんな」

 

 だが、そのときだった。

 上空から何者かが、降りてきた。

 そいつによって、俺と弦十郎さんは出鼻をくじかれる。

 ただ現れたならまだしも、かなりの速度で落ちてきたからか、大きな衝撃波を伴ってそこに降り立ったからだ。

 

『ぐっ、なんだ……!?』

「おいおい、また新手かよ!?」

 

 俺とクリスは言う。

 そして、俺達はそこに現れたものの姿を確認する。

 現れたそいつは女だった。

 体は虹色の鱗で作られたスーツか何かで覆われており、不気味な雰囲気を醸し出している。

 髪は腰まで伸びている青い髪を背中のところで一度一つにまとめていた。

 顔は端正な顔つきで、美人というよりも凛々しいという表現が似合うだろう。瞳の色は濁ったような灰色だった。

 年齢は正確にはわからないが、十代後半から二十代前半と言ったところだろうか。

 なぜだか俺は、彼女の姿に翼さんを連想した。

 しかし、彼女自身の素性よりも俺は気になることがあった。俺は、そのスーツを見た瞬間、理解したのだ。それは“外異物”であると。

 

『……お前、その姿は……!』

「ふん、さすがに“同類”は分かるらしいな。私がまとっているものがなんであるか、を」

「お前、いや、あなたは……!? そんな、バカな……!?」

 

 するとそのとき、弦十郎さんがありえないものを見ているかのような目で彼女を見、声を上げた。

 弦十郎さんが想定外の自体に驚くのはよくあることだが、今回はその質が違うように思えた。

 

『どうしたんですか、弦十郎さん……?』

「バカな……どうして……どうしてあなたが……!!」

「……ふっ、久しぶりだな、弦十郎。随分と老けたな、お前は。それにしても、ひどい顔だぞ。まるでゾンビでも見たかのようだな」

「それはそうだ……どうして、あなたがここにいる! 死んだはずのあなたが! 一姫(かずき)姉ぇ!!!!」

 

『姉さん……!?』

 

 その言葉に、俺達三人は動揺し、驚く。

 どういうことだ……!? 弦十郎さんの、お姉さん……!?

 

「それを語るには長い話になるが……まずは初見の子供らに挨拶をするのが礼儀だろう。私は、風鳴一姫。弦十郎の姉であり、風鳴家の長女であったものだ」

 

 鱗のスーツをまとった女、風鳴一姫は、俺とクリス、響にそれぞれ目配せをしながら、そう名乗った。

 




七月、八月は個人的な都合により更新ペースが遅くなります。申し訳ありません。
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