【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
俺は前世の記憶を持っている。
うだつの上がらない歌手志望として生き、結局夢を叶えられずに死んだ生の記憶が。
そして、俺は今、第二の人生を過ごしている。
「あ、祭ちゃんだ! おーい! 祭ちゃーん!」
最初に前世の記憶を確認したのは言葉を喋られるようになり、物心ついて間もない頃だった。
いつしか俺の頭には前世の記憶がしっかりと居座っていたのだ。
俺は混乱した。体は女の子なのに、頭には男の記憶がある。
そのギャップに、俺は幼少ながらしばらく熱で寝込んだ。
そして熱が引いた頃には、すっかり俺は今の自分と過去の自分両方を受け入れた人間になってしまっていた。
まあそれはいい。言葉が使えるようになったと思ったら男口調になってしまって親には迷惑をかけたとは思うが、そこは前世の記憶が強すぎるから仕方ない。
問題は、である。
「祭ちゃーん! あーそーぼ!」
「待ってよー! 響ー!」
今、公園で俺を呼びかけ走ってくる少女と、その少女を追う少女。
二人の名前がそれぞれ立花響と小日向未来であるということ。
つまり、今の俺は前世の俺が見ていたアニメ『戦姫絶唱シンフォギア』の世界に生まれてきた、という事実である。
まさかと思い両親には内緒でやたら未来的な携帯端末を使い調べたが、どんどんと合致する情報が出てくる。特に「特異指定災害ノイズ」という単語はシンフォギアにしかない。これにより俺がシンフォギア世界に転生したことは確定事項となった。なんとアニメの世界に転生するとは……。
その事実を知ったとき、俺はまたも混乱し、再度熱で寝込んだ。
「祭ちゃんーん! 遊ぼ遊ぼ!」
「……いい」
俺はつーんとそっぽを向く。すると、俺は今公園の噴水の縁に座っているので、水面に俺の顔が映る。
長い紫の髪を後ろでまとめ、ポニーテールにした髪型と、紅の瞳の少女。
……何度見ても違和感がある。
前世の俺は、言ってしまえば平凡な顔つきだった。ブサイクというわけでもないが、イケメンというわけでもない。
正直あまり華がある方ではなかった。……故に必死に音楽だけに打ち込んでいたのだが。
それがどうだ。こっちではまだ小学校に上がったばっかりなのに、とても整った顔立ちをしている。
成長すれば絶世の美女となるだろうことは確約されているようなものだ。
なんだか理不尽を感じる。
「えー! いいじゃんー! 遊ぼ遊ぼー!」
「…………」
俺は響の言葉にそっぽを向き続ける。
別に答えてもいいのだが、俺の心はやはりいい年した大人の男なわけで。
この年齢の少女の遊びと言えばおままごとやお人形遊びが主なわけで。
すると、そういったことにおっさん手前だった俺の心はどうしても拒否反応を示すわけで。
なので、俺は響の申し出を断っていた。
「だめだよー響。祭ちゃんも困ってるじゃない」
さすが未来だ。幼いのによく他人のことをおもんばかれている。
そのまま響を引き剥がしてくれ。
「えー! だって祭ちゃん、いっつも一人で寂しそうなんだもん! みんなで遊べば絶対楽しいよ!」
「……うっ」
痛いところを突かれる。
そう、俺は心だけは半端に大人の男なせいで、現状友達が一人もいない。
だって、そんな状態で今から子供に混じって遊べなんて無茶じゃないか!
いや、やろうと努力したことはあったんですよ?
ただ、やっぱり半端に大人なわけで妙に大人ぶった子供ができあがっているせいで
「あの子遊びづらいね」なんて言われるわけで……世知辛い。
でも、今響はそんな俺の状況を知りながらも突っ込んできてくれる。
さすが作中でお日様と称されるだけの子である。眩しい。
「……分かった。遊ぶ」
ゆえに俺は、その眩しさに耐えられず承諾してしまう。
はぁ……何して遊ぶんだろうなぁ……。
「やったぁ! じゃああれしよ! 鬼ごっこ!」
「鬼ごっこー? えぇー響に勝てるわけないじゃん!」
未来が響に対し不満を言う。
「いやーでも未来、私より早いじゃん!」
それに対し響が反論する。
確かに未来の言い分は分かるが、でも、俺にとってはむしろありがたい。鬼ごっこなら、男子も女子も関係ないから。
「……分かった、鬼ごっこだね。いいよ」
「え? いいの祭ちゃん? 響は無駄に元気だから鬼ごっこ強いよ? 体動かし慣れてないなら無理はだめだよ?」
「未来ー! 無駄ってどういうことー!?」
未来が俺のことを心配してくれている。
こういう優しさが、ひだまりと称される所以なのだろう。心地いい優しさである。
「大丈夫だよ別に。俺もそっちのほうがやりやすいから」
「分かった! じゃあじゃんけんしよ!」
「もーしょうがないなー」
こうして俺達はじゃんけんをして鬼を決めることになった。
しかし、この二人は俺の一人称にどうこう言わないんだな、と思う。
他の子は「女の子なのに俺って変なのー!」なんて言う子もいたりするものなんだが。
……成長したら言いづらい発言だなとどうでもいいことを考えたが、頭から消しておこう。
「それじゃーいくよー! じゃーんけーんぽん!」
「ぽん!」
「ぽん……あ」
結果はグー、グー、チョキ。
そしてチョキは俺。
つまり鬼である。
「はーい祭ちゃんの鬼ねー! じゃあそこで十数えて! 未来、逃げるよ!」
「ちょっと響いきなりすぎー! ごめんね祭ちゃんー!」
「……ふふっ」
いきなり逃げ始める響とそれを追いかける未来。
そんな自由奔放さに、俺はちょっとだけ笑う。
「……いーち、にーい、さーん――」
そして、数を数え始める。
こんな数の数え方、それこぞ前世の子供の頃以来だ。ちょっと楽しくなってきた。
「――きゅーう、じゅう!」
そして十数えると、俺は走り始める。
とりあえず最初に狙うは未来。理由は近くにいて捕まえやすそうだから。
「うわー! 来ないでー!」
来ないでと言われても行くものは行くのだ。最初は未来の足の速さに距離を離されたが、なんとか体力で勝ち、足を遅めた彼女の背中を触る。
「タッチ」
「ああ、捕まっちゃった……」
「よし、じゃあ次は未来が鬼だね。十数えて」
「うっ、うう……わかった。それじゃあ数えるね。いーち、にーい――」
そうして鬼になって数え始める未来。
今更だが、鬼を変えたがこういうルールで良かったらしい。増えるタイプという前提だったらどうしようかと思った。
「――じゅう! よし、行くよー!」
そうして未来が走り始める。彼女の狙いは俺ではなく、響のようだった。
「へへーん、未来には捕まらないよー!」
「それはどうかなー? ……あっ響! あっちにアイスクリーム屋さんが!」
「えっどこ!?」
「はいタッチ!」
「ええー!?」
なんとも古典的な手に引っかかった響である。だがまあ子供だしこういうものか。
いや響らしいと言えば響らしいと思うが。
「じゃあ次、響が鬼ね!」
「分かった! いーち! ――」
そうして響が鬼となり、数え始める。次の彼女の標的は恐らく……
「はーち! きゅーう! じゅう! よーし! いくぞー祭ちゃん!」
やっぱり俺だ。
なんとなくそう思ったのだけど、やっぱりだった。でも、俺もやるからには全力だ。ただでは捕まる気はない。
見よ、この前世のテレビで見た陸上選手の走り方を!
「うわー、祭ちゃんのフォームきれー……」
将来の陸上部に言われるのは光栄である。まあそれにお礼を言うことなく俺は逃げるが。
「ぐぬぬー! 待てー! あっ、あそこにアイスクリーム屋さんが!」
「同じ手に引っかかるわけないでしょ!」
俺は後ろの響に叫ぶ。自分がハメられた同じ手が通用すると思うなんて、子供らしい。
そのことに俺はいつしか笑っていた。
「まてー! うおーっ!」
追いかけてくる響。逃げる俺。
それをずっと続ける。
どちらが音を上げるかの勝負だった。
「はぁ……はぁ……そろそろ諦めてくれ……」
そして、その勝負に負けたのは俺だった。
俺の体力はしばらく走った結果、すっかり切れてしまった。
「ま、まてー……」
だが、それは響もだった。でも、彼女は走るのを止めない。
「……うう」
一方の俺は、とうとう脇腹が痛くなり、走るのを止める。
「ぜえ……ぜえ……タッチぃ……!」
そんな俺を、響はタッチする。俺の完全敗北だ。
「うう、脇腹痛い……」
響が脇腹を押さえる。同じく押さえている、俺と同じように。
「……響もお腹痛いんじゃないか。どうしてそれなのに走るのを止めなかったんだ?」
俺は聞く。子供なら辛いのは耐えられなくてもおかしくないのに。
すると、響は答えた。
「だって、祭ちゃんと一緒にいるのを諦めたくなかったから!」
ああ……なんて眩しい笑顔で言うんだろう、この子は。
「……ふふ、なんだそれ、ふふふ!」
俺はその回答と顔を見て、いつしか笑ってしまっていた。そして、言った。
「……祭でいいよ。未来みたいに、呼び捨てにして」
「本当! うん、祭!」
響は元気に言った。とても嬉しそうな顔で。
「あ、だったら私も祭って呼んでいい?」
そこで、歩いてやって来た未来が言う。俺はもちろん応える。
「当然!」
「うん、ありがとう、祭」
未来もまた、いい笑顔を作って言ってくれた。
こうして、俺に二人の友達ができた。
大人ぶりながらも、子供の意地を張っていた俺に。