【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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Thriller

『風鳴……一姫!?』

 

 どういうことだ!? 俺の前世の知識に、そんな名前の人間はいなかったぞ!?

 それに、弦十郎さんの姉で長女って……!?

 

「どういうことなんだ一姫姉! その身にまとっているものが、何か関係しているのか!?」

「こういうときでも観察を怠らない……敏いな弦十郎。さすが、あの老いぼれの血を色濃く継いでいるだけはある」

 

 俺達の混乱をよそに、一姫はそう言ってニヤリと笑った。

 そして――

 

「それが、たまらなく気に食わん!」

 

 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで弦十郎さんに迫った!

 

「っ!?」

「はっ!」

 

 弦十郎さんの目前に迫った一姫は、手刀を弦十郎さんの心臓目掛けて突き出す。

 それを、弦十郎さんはギリギリのところで弾いて防いだ。

 

「くっ!? 今の速さはっ!?」

「見事だ弦十郎。不意打ちに近かった今の攻撃をよくぞ防いだ。忌々しい……」

 

 そこから、一姫の目にも留まらぬ速さの攻勢が始まる。

 拳や蹴りを次々に繰り出している。

 弦十郎さんはそれを防ぐので精一杯のようだった。

 

『あの弦十郎さんが、防戦一方だなんて……!』

「なんだ……この速さは! あの病弱だった一姫姉が、こんな力を……!」

「ああ、そうだったな懐かしい。常に病床に臥せり、失敗作とみなされていた頃の私……まったく、思い出すだけで苦々しい」

 

 そこで一段と素早い蹴りが飛び出し、それが弦十郎さんの脇腹に深く入った。

 

「がっ……!?」

『弦十郎さん!』

 

 俺は叫ぶ。

 弦十郎さんはその蹴りで吹き飛ばされ、近くにあった木にぶつかった。木はその衝撃に耐えられず、勢いよくへし折れた。

 

「ぐ……! なんて重さの蹴りだ……!」

「あの蹴りで生きているとは、さすが化け物じみた男だ。なるほど、さらに力で踏みしだす必要がありそうだ……」

 

 そう言って一姫はニヤリと笑った。

 まだこの上の力があるのか!?

 俺は驚愕する。

 一方で、その言葉を聞いた弦十郎さんは、苦い顔をしていた。

 

「では――」

『待て!』

 

 そこで、俺は二人の間に割って入った。

 

「……ほう?」

「祭君!」

 

 二人共驚いた顔をする。

 それはそうだ。俺だって驚いている。

 弦十郎さんと一姫、二人の戦いははっきり言って俺には到底ついていけない戦いだ。

 でも、それでも体が動いた。弦十郎さんのことを思うと、勝手に動いたのだ。

 

『これ以上、弦十郎さんを傷つけさせはしない……!』

「これはこれは……同類、見上げた勇気だな。だが、実力差があるのは貴様にもわかっているだろう?」

『人を勝手に同類呼ばわりするな! ……ああ、分かってるさそれぐらい。でも、女には黙ってられないときだってあるんだ!』

 

 正直言えば、怖い。俺は恐怖している。

 でも、言ったように、引けないときだってあるんだ……!

 

「祭っ!」

 

 と、そこで俺の横に並び立ったものがいた。響だ。

 

『響!? どうして……!』

「祭が女を見せたんだ、私だって見せないと。でしょ!?」

 

 響は構えながら俺に笑顔を見せる。その笑顔で、俺は何倍も勇気づけられた。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ」

 

 更に、そこにクリスも来てくれた。

 

「アタシの仕事はお前を守ることだ。護衛対象がバカやるんなら、アタシも一緒にバカやらないとな」

『クリス……響……!』

 

 俺の心は震えた。

 バカなことをやっても、こうしてついてきてくれる友人達がいる。そのことに。

 

「……ふん」

 

 すると、驚くべきことが起きた。そこで一姫はなんと俺達に踵を返したのだ。

 

「今回は見逃してやろう。しかし、勘違いするな。形勢は未だ私のほうが圧倒的に有利だ。ただ“時”ではない……それだけは教えておいてやろう」

 

 一姫は俺達に背中を見せながらそう語る。

 そして、その場から去ろうとする。

 

「おい待て! お前は勝手に納得しているようだが、俺様達は納得していないぞ!」

 

 と、そこで言うのはキャロルだ。

 キャロルは一姫に不満があるようだった。

 

「何を今更……ただでさえ貴様らが不甲斐ないから出てやったというのだ。ならば、撤退も私の意思で行うことの何が悪い」

「ぐっ、それは……!」

「それにお前のところの人形の一つ、まだ本調子ではないだろう? やるなら万全の状態でいくべきではないのか?」

 

 そう言って一姫はガリィを見る。

 ガリィはその視線に対し、軽く肩をすくめたのだった。

 

「ちっ……しょうがねぇ。おい! 俺達も引くぞ!」

「はーい、ガリィちゃん了解しましたー」

「地味に承知」

 

 そうして、キャロル達錬金術師一行はその場から去っていった。

 俺は、体中から力が抜けるのを感じた。

 

『ほっ……』

 

 それと同時に俺の体は元に戻り、その場にゆっくりと崩れ落ちそうになる。

 

「祭!」

「おっと!」

 

 それを、同じく姿を戻した響とクリスが支えてくれる。

 

『……ありがとう』

 

 友達とは、いいものだ。俺はそう思った。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「……さて、今回の一件についてだが」

 

 二課の基地に戻った俺達。

 そこで弦十郎さんはメンバーを集め、話し始める。

 

「錬金術師の介入までは想定内だった。が、そこでまさか一姫姉ぇが現れるとは、さすがに想定外の事態だ……」

『弦十郎さん……あの一姫って人は、何者なんですか。俺達と同年代のようにも見えましたが、弦十郎さんのお姉さんって……』

「ああ、まずはそれについて説明しなければなるまい」

 

 と、そこで二課のモニターに写真が映し出される。それは、先程現れた一姫の写真だった。

 

「彼女の名は、風鳴一姫。俺の親父、風鳴訃堂の最初の子であり、長女。俺の姉でもある」

 

 そうして新たな写真がモニターに映し出される。それは家族写真のようだった。そこにいるのは、まだ幼い弦十郎さん達と思われる少年達と、一姫の姿だった。

 一姫は着物を来ていたが、会ったときとは違いとても儚げな雰囲気だった。

 

「ここに映っているのが俺で、ここにいるのが一姫姉だ。もう二十年以上前の写真になる」

「あら、この頃の弦十郎君、なかなかにかわいいじゃない。やんちゃな少年って感じ」

「茶化さないでくれ、了子君」

 

 フィーネもとい了子さんの言葉に、少し照れた様子で反応する弦十郎さん。

 確かに、子供の弦十郎さんは今の面影を残しながらもかわいい少年と言った感じだった。

 

「一姫姉は生まれながらに病気がちで、常に床に伏せていた。この写真も、珍しく体調が良かったときに撮った写真だ」

 

 弦十郎さんは、そのことをとても重苦しい表情で話す。

 

「……病弱な一姫姉は、俺達の父、風鳴訃堂から疎まれていた。防人となるべき風鳴の人間が、病弱とは何事かと、娘扱いされていなかった。そのせいで一姫姉は最後まで部屋に閉じ込めらる生活を強いられていた……」

「そんな……ひどい……」

「ああ、胸糞悪ぃ話だな……」

 

 響とクリスが言う。俺もその話を聞いて、あまりいい気分にはならなかった。

 

「そして一姫姉は、そのまま病床の中で息を引き取った……そのはず、だったんだ。だが、なぜか一姫姉は当時と同じ姿で俺達の前に現れた。当時とは打って変わって、生命力に溢れた姿で。これは、一体どういうことなんだ……」

「おそらく、彼女が祭ちゃんに言った“同類”という言葉がキーワードでしょうね」

 

 と、そこで言ったのは了子さんだ。

 了子さんは怪しい笑みを浮かべながら俺達の前に出る。

 

「祭ちゃんと同類……つまりは、彼女もまた“外異物”の力を用いている可能性が高いわ。あの虹色のスーツがまさしくそれでしょうね。どんな力を持った外異物かは分からないけど、少なくともあれほどの身体能力と、体の老いを止める力があるのは明白ね」

『…………』

 

 またも現れた“外異物”。

 その事実に、俺は押し黙ることしかできなかった。

 急襲してきた錬金術師といい、どんどんと“シンフォギアの物語”からズレているのを感じる。

 このままいった場合、先にどんな未来が待っているのか、俺には想像もできなかった。

 

「そんな彼女が錬金術師と結託して何かを企んでいる……あんまり面白くない状況ねぇ。こちらが後手後手に回っているんですもの」

「ああ、そうだな。せめて敵の目的を明確に知ることができれば……」

 

 気まずい沈黙が場を支配する。

 急転する状況に対し、なんら先手を取ることのできないこちら。

 形勢は、はっきりと不利と言ってよいだろう。

 

「とにかく、いつ奴らが襲ってくるかわからん。全員、常日頃から注意してほしい。俺が今言えることはそれぐらいだ」

 

 そうして、その日の会議は終わった。

 二課で情報をできるだけ集めるらしいが、相手が相手だ。どれほどの情報が集まるかは怪しいだろう。

 これからどうすればいいのか。俺には何ができるのか。

 そんなことを考えながら、俺はクリスと共に帰路につく。そうして、俺達の寮の部屋についた、そのときだった。

 

『……?』

 

 部屋の前に、黒いローブを来た何者かが立っていたのだ。

 とても小柄で、一見した印象では子供に思えた。

 俺とクリスは、不思議に思いながらも警戒してそのローブ姿の人物に近づく。

 

「……あっ、あなた達が、祭さんと、クリスさんですか?」

『ああ、そうだけど……君は……』

 

 と、俺が尋ねたときにその人物はローブのフードを脱ぐ。すると、そこで出てきた顔を、俺達は知っていた。

 

「てめぇは……さっきの……!?」

「いいえ、僕はキャロルではありません。僕の名はエルフナイン。彼女に作られた……ホムンクルスです。僕は、あなた達に協力するためにやって来たんです」

 

 エルフナイン……シンフォギアの主要人物の一人がまた、俺の前に現れたのだった。

 

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