【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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NIGHTMARE 悪夢

「……ってことは何かぁ? 整理すると、お前さんはあのキャロルが作ったホムンクルスで、キャロルを止めるためにアタシ達に寝返りたい、ってことでいいのか?」

 

 玄関で待っていたエルフナインをひとまず家にあげた後、彼女の話を聞いたクリスが話の内容を総括した。

 

「はい……その通りです」

 

 その言葉に対してエルフナインが頷く。

 一方で俺はというと、またも起きた予想外の出来事に混乱してしまいうまく話に参加できないでいた。

 とりあえず、クリスが同室で助かったと思った。

 

「キャロルはあの風鳴一姫さんにうまく利用されてしまっているんです。もちろん、キャロルもそれは承知の上ですが、彼女の目的にも合致しているためあえて黙殺しているようなんです。でも、僕はそれをとてもよくないと思い、こうして彼女のところを出奔してきました」

「なるほどな……そして、そのキャロルの目的っていうと……」

『世界を識ること……』

「はい、さすが外異物の力を持っているあなたはそれをも知っているわけですね」

 

 俺が思わず呟いた彼女の目的に、エルフナインが言う。

 本来口にするつもりはなかったのだが、無意識に呟いてしまった。

 だがエルフナインはそれについて驚いた様子はなかった。

 

「一姫さんもそうでした……本来知り得ない情報を知っている。そしてそれが、外異物の力だと」

『一姫が!?』

 

 逆に、俺のほうが驚くことになってしまった。

 

「ええ、そうです。一姫さんはその情報と力で、キャロルに取り入ったんです。それら外異物について僕が知っていること、僕なりの研究をまとめたレポートを持ってきました。どうかこれを、二課のいる櫻井了子……いえ、フィーネに渡して欲しいんです」

「……! どうやら、フィーネの正体まで知っているってなると、マジっぽいな……」

 

 クリスが複雑そうな顔をする。

 それは俺もだ。

 そこまで知っているとなると、俺は一つの可能性を考慮しないといけない。それは、風鳴一姫という人物もまた、前世の記憶を持っているのではないかということ。

 つまり、俺と同じように前世でアニメとしてシンフォギアを見ていたのではないかということだ。

 そしてそうであれば、彼女の存在、そして本来の道筋の歪みも説明できる……と思う。

 なにせ、俺も彼女も本来のシンフォギアにはいない人物なのだから。

 

「……大丈夫か、祭? 複雑そうな顔してるけどよ」

『へっ? あ、ああ……うん大丈夫、ちょっと驚いて考え事しただけだから』

 

 クリスが俺のことを心配そうな顔をして見てくるので、俺は彼女に対し笑顔を作って答える。

 ……が、どうもうまく笑えていなかったようで、クリスは依然心配そうな顔つきをする。

 

「ったく、まだ会ってそんな時間も経ってないのに、心配させやがる奴だな、お前は……。よし、アタシはこれからこいつを二課につれていくが、お前は今日は休んでろ。アタシ一人で連れて行くからよ」

『えっ、でも……』

「でもじゃねぇ。まず今日襲われてまだその疲れが抜けてないだろお前」

『それは……でもそれはクリスも同じじゃ』

「アタシはそんなヤワじゃねぇんだ。一緒にすんな」

 

 クリスは力こぶを作りながらニカっと笑って言う。

 そうして、クリスはそのままエルフナインと一緒に部屋を出ていった。

 

『……ふぅ。まったく、一体何がどうなっているのやら』

 

 俺は一人になった部屋でカーペットの上に寝転んで、天井を仰ぎながら言った。

 急襲してきた錬金術師。

 新たな敵。

 そして、外異物の存在。

 これらすべてが、俺に起因するものなのか、はたまた相手にいた風鳴一姫のせいなのか、それは分からない。

 でも、歯車が大きく狂い始めていることだけは、なんとなく分かった。

 

『……寝よう』

 

 とにかく、今の俺にできることは何もない。

 できるとしたら、クリスが二課に連れて行った後の反応を、後日聞くことだけだ。

 ならば、今はゆっくりと体を休めよう……。

 俺はそう思い、シャワーを浴びてパジャマに着替え、クリスがいつかえってきても良いように、電気はつけたまま二段ベッドの上に潜ったのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 ――ここは、どこだ……?

 

 気づくと俺は見知らぬ場所にいた。

 どうやらとても古い作りの部屋のようで、きしむ木材でできた床、壁、天井に囲まれている。

 部屋の隅にはベッドがあり、壁の一方には窓がかかっている。

 窓の外からはぼんやりとした明かりが差し込んでおり、どうやら月明かりであることが分かる。

 そして、部屋に中央には、椅子と共に、とても見覚えのあるヴィオルがあった。

 あのとき、俺の目の前で消えたあのヴィオル……『エーリッヒ・ツァンのヴィオル』だと。

 

 ――…………

 

 俺はフラフラとそのヴィオルに吸い寄せられていく。

 そして、椅子に座り、内から湧き上がる衝動に動かされるまま、そのヴィオルを弾きはじめる。

 

 ――……! ……!

 

 演奏すればするほど、体が熱くなっていくのを感じる。

 不思議な高揚感で包まれる。

 猛々しい力が、外から入ってくる。

 俺はなおも演奏を続ける。

 より激しく。より高らかに。

 すると、周囲の壁が、床が、天井が演奏に合わせた不協和音を奏で始める。

 不協和音はどんどんと大きくなり、それがまた俺の演奏を苛烈にさせる。

 そして、ついには窓が力強く開く。その窓の向こうには、既知かつ未知な光景が広がっていた。

 雲と煙と稲妻。湧き上がる深淵。どす黒い半獣半人の何か……。

 その光景を目にした瞬間、ヴィオルから黒い触手が伸び始める。

 触手は俺の体に這って行き、俺の四肢に絡みつき始める。

 怖い。逃げたい。助けて。

 それでも、俺は演奏を止められない。止めることができない。

 頭では恐怖を感じているのに、心では演奏を続けたがっている。

 演奏をそうして続けていくうちに、俺の体はすっかり黒い触手で覆われて、そして――

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

『……うわああああああっ!?』

 

 俺はガバっとベッドから飛び起きた。

 体中汗でぐっちょりで、まるで百メートルを全力疾走したかのように息切れがする。

 

『……夢?』

 

 とても嫌な夢を見た。

 何だったのか、先程の夢は。

 夢にしては、あまりにリアリティがありすぎた夢だった。

 正直、体にその感覚が残って――

 

『……え?』

 

 俺はそんなことを思いながら体を見て、ゾッっとする。

 俺の腕に、あったのだ。

 跡が。

 何かが這い回り、締め付けたかのような、ミミズ状の赤くなった跡が。

 

『……どう……して……』

「……んあ……どうしたんだぁ……? まつりぃ……?」

 

 と、そこで下のベッドから声が聞こえてきて、俺は思わずパジャマで跡を隠す。

 声の主はクリスだった。

 

『あっ! ク、クリス! 帰ってたんだ! おかえり!』

「んあ……そりゃあ帰ってくるに決まってんだろ……なんか慌ててたみたいだけど、どうした……?」

『い、いや! なんでもない! ちょっと夢見が悪かっただけだから!』

「ん……そうかぁ……ふわああ……目を覚まさねぇとな、今日も学校だしよ……」

 

 クリスは眠そうに言いながらベッドから出る。

 俺も表面上は何気ない顔でベッドから降りた。

 でも、着替えは彼女の見えないところでうまくやるしかなかった。

 こんな姿、とても見せられない。

 なぜだか、そんな感情を大きな恐怖と共に抱いたからだった……。

 

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