【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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ヒトリノ夜

「なんか今日は随分と上機嫌だね、祭」

『え?』

 

 俺がいつものように放課後の音楽室でギターを弾いていると、ふらっと入ってきて聞いていた未来がそう俺に言った。

 

『そうかな?』

「そうだよ、なんだか演奏に弾みがあるもん。伊達にこうして祭の演奏をいっつも聞いてるわけじゃないんだからね、私」

『ふむ……』

 

 自分ではそういうつもりはなかったのだが、確かにいつもより楽しく弾けていたかもしれない。

 ではなぜそうかと考えると……思い当たる理由は、弦十郎さんとの映画鑑賞だ。

 あれから数日経っているのに、思い返せばまだ胸がドキドキする。

 どうして大の大人と一緒に映画を見に行っただけでこんなにも心が踊るのか。

 正直、自分でもよく分からない。

 

「ほら、なんだか思い出し笑いしてる」

『え、今俺笑ってた?』

「うん、笑ってた。はぁ……いいなぁ、私も祭ぐらい何かいいことがあればいいのに」

 

 未来は少し不機嫌そうに窓の外に視線を向けながら言う。

 どうにも今の未来は上機嫌とは無縁のようだった。

 

『どうしたんだ未来、何かあるなら話聞くよ?』

「話を聞く、か……正直、祭も無関係じゃないと私は思ってるんだけどね」

『俺が?』

 

 未来が悩んでいることに俺が関わっている?

 一体どういうことなのだろうか。

 

「……祭、響と一緒に何か私に隠し事してるでしょ」

『…………』

 

 俺は思わず無言で返してしまう。

 ああ、これはあれだ……未来と響の関係が、シンフォギア絡みでうまくいっていないんだ。

 もちろん錬金術師の件もあるが、それ以外にも俺と響は翼さんの分を埋めるために出没するノイズへの対処に出動することがままある。

 もちろん、出動は突然かつ急を要する事が多く、俺も響もローテーションしているとはいえ日常生活や学校生活の中で急に招集されることも多い。

 俺のルームメイトは事情を知っているクリスだからいいのだが、響の場合は未来だからなぁ……俺の知っているシンフォギアでもそこで二人が喧嘩していた。

 

「……そこで無言になっちゃうのが、祭の悪いところでもあり良いところだよね。嘘が下手くそっていうか」

『へ!? い、いや今のは……!?』

「いいの、なんだか大事な用事を二人で抱えているのはなんとなく分かってるの。今日だって、響はその“用事”とやらで早く帰っちゃったし。……でも、私に何か話して欲しいなって、ちょっと思っただけ」

『う……』

 

 俺はどう返答したらいいかわからず、言葉に窮する。

 もし本来のシンフォギアの通りに歴史が進めば、未来もいずれ物語に絡んでいたところだろう。

 だが、今はこれから先何が起こるか分からない状況だ。もしかしたら俺の一言のせいで大惨事になる可能性だってある。

 それだけは避けたかった。

 でも、こういうとき何も言えないのは、やはり親友として心苦しい……。

 

『まあその……きっと、いつか話せるときが来るよ』

 

 そして、やっと俺が捻り出せた言葉は、どうしようもなく薄っぺらい言葉だった。

 なんの保証もない、その場しのぎの言葉でしかない。

 

「……そうだといいね」

 

 未来は不機嫌を隠さず答える。

 俺は申し訳なくて、その日その後演奏する気力も出ず、その日は二人で気まずいまま帰路についたのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 あの日以降、俺と未来はギクシャクしたままになってしまった。

 みんなでご飯を食べるために集まっても、俺と未来の間での会話は少ない。

 それは響も同じで、つまりは三人の間での会話がなくなってしまったのだ。

 一緒に昼を取る創世、詩織、弓美の三人娘はもちろん俺達のことを怪訝に思うし、最近一緒に参加したクリスにも心配された。

 ただ、外からの心配でどうにかなる問題でもなく、ノイズは否応なく出没するわけで。

 俺達のギクシャクは修復されずに日々は過ぎていく。

 あの日以降錬金術師達がおとなしいのが数少ない救いだった。

 了子さんもといフィーネはその静けさを逆に不審に思っているようだったが。

 とにかく、時間は否応なく流れていくわけで。そうしていくうちに、変化は当然出てくる。

 翼さんが、目を覚ましたのだ。

 俺達はその報告を受けてすぐ、翼さんの見舞いに行った。

 助けてもらった俺は当然行かなくちゃいけないし、響も翼さんと向き合いたいだろうし、クリスも新しくやってきた装者として話がしたいだろうしで、三人で向かった。

 そこで目にするのは当然、荒れ果てた翼さんの部屋で――

 

「大丈夫ですか!? 翼さん!? 敵か何かに襲われたんですか!?」

「あの……これはそういうのじゃなくて……」

 翼さんの部屋の惨状に気づかない響に、すぐさま察したクリスと、もともと知っていた俺でなんとも言えない空気が最初の再会で流れたのだった。

 それから少し間を置いて――

『でもまあ、翼さんが元気そうでよかったですよ』

「それをあなたが言う? 司令から話を聞いたけど、狙われているのはあなたなのでしょう? あなたこそ大丈夫なの?」

『う、それは……まあ、なんとかなりますしなってますよ、現状』

「はぁ……行き当たりばったりね」

 頭を抱える翼さん。

 それは分かってます。でも、行き当たりばったりじゃないとやってられないんです……。

「まったく大変だな、先輩」

「……いつの間にか知らない後輩が増えてて、そっちもびっくりなのだけれど」

 カラカラ笑うクリスに、苦笑いする翼さん。

 本来の流れならクリスが翼さんを先輩と呼ぶのには長い時間がかかるのだが、今の二人、特にクリスの過ごしてきた時間が違うので、素直に先輩、後輩の関係になれたようだった。

「……ところで聞いておきたいのだけれど」

 と、そこで翼さんが真面目な顔で俺達を見て言う。

「これから共に肩を並べて戦う仲間として聞いておきたい。あなた達の戦う理由を」

「……私は人助けが趣味みたいなもので……」

 

 最初に答えたのは、響だった。

 

「でもきっかけは、あの事件だと思います。奏さんが、私を救うために命を燃やしたあの二年前のライブ。あの日、沢山の人が命を失いました。でも私は笑ってご飯を食べている。だからせめて誰かの役に立ちたいんです。今日も笑って、ご飯を食べるために」

「アタシも似たようなもんだな。助けられた命だから、助けてくれたやつのために戦う。その中で、アタシの両親が目指した平和な世界を……歌が響く平和な世界を作りたい。それだけだ」

 

 その次に答えたのはクリスだ。

 彼女はまっすぐな瞳と、不敵な笑みで答える。

 二人とも、ちゃんと芯を持っている。芯を持った答えを、口にしている。

 じゃあ、俺は……?

 

『俺は……正直言ってしまえば、二人ほど確かな動機はないんです』

 

 翼さんの眉がピクリと動く。

 ああ、おっかないなぁ……でも、ここは本音で言わないと。本音で話さないと、ダメだ。

 

『ただ、俺は力を得てしまった。その力を持った状態で、何もしないでいるってのは、正直気持ちが悪いっていうか……その……ああ、うまく言えないな……ああでも、これだけははっきりと言えることがあります』

「……それは、何?」

『友達を見捨てられない、ってことです』

「……そう、三人の心持ちはよくわかったわ」

 

 翼さんが真剣な表情で言う。そして、俺達に再び視線を向ける。

 

「……三人とも、ちゃんと理由を持っているのね。安心したわ」

 

 穏やかな、笑みで。

 

『……俺の理由、ちゃんとしてましたか? 正直、二人に比べると弱い動機なんじゃないかなって思うんですけど』

「そんなことはないわ。身近な誰かのために頑張りたい。それはある意味一番明確な動機よ。誇っていいわ」

『……翼さん』

 

 俺は嬉しかった。翼さんが肯定してくれた。

 それだけで、今までの何倍も心強くなれる。

 

『……へへ』

 

 そして同時になんだかむず痒くなり、照れ隠しとして窓の外に視線を移す。

 

「……あ」

 

 そのときだった。

 視線があったのだ。

 リディアンにいて、図書館からこちらを見つめる、未来と。

 とても悲しい視線でこちらを見る、彼女と。

 

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