【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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英雄

『なあ未来』

「…………」

『聞いてくれ』

「…………」

『違うんだ』

「……何が違うの」

 

 未来の背中を見せたままの冷たい声が、歩く彼女を追いかける俺に飛んでくる。

 翼さんの病室で未来と目が合った後、俺は一人病室を出て彼女の元へと向かった。

 未来はちょうど帰る途中らしく声をかけたが、この結果である。

 

「祭も響も二人で同じ秘密を共有してて、私だけは仲間外れ。そういうことでしょ」

『いやその……そうだけどそうじゃないっていうか……その、ごめん』

「……なんで謝るのよ」

 

 未来はそう言うと、歩みを止めた。

 俺もまた、歩みを止める。

 

「謝るってことは、悪いことしてるって認めてるも同じじゃない……」

『……確かに、俺達は未来にだけ黙っていることがある』

「……っ」

 

 未来の声にならない声が聞こえる。

 辛い思いをしている感情がそれだけで伝わってきた。

 

『でもそれは、したくてしてるわけじゃないんだ。本当なら俺だって響だって、打ち明けられるなら全部打ち明けてしまいたい。でもできないんだ。だってそうしないと、未来に危険が……いや、違うな』

 

 俺は「未来に危険が迫るかもしれない」という言葉を飲み込む。

 それはただの言い訳だ。

 だって俺は知っているから。彼女がいずれシンフォギアの事を識るかもしれないことを。

 そして、知った彼女は大きな支えに、力になってくれることを。そのことを知りつつも、彼女に嘘をつき続ける理由が、二課の大人達に口止めされている以外にも俺には別にあるのだ。

それは――

 

『――……俺達の日常が壊れてしまうかもしれないから』

「……どういう、こと?」

 

 未来は口元を見せる程度に僅かに振り返る。

 俺はそんな彼女に言う。

 

『未来……響がいつも言ってくれているように、未来は俺達にとってのひだまりなんだ。だから、せめて未来の傍では、普段と変わらない、明るい立花響と、音楽家に憧れる弓弾祭っていう、二人の普通の少女でいさせてほしい』

 

 例え未来が近い将来俺達の真実を知って、そして神獣鏡の装者になる未来があったとしても――

 

『未来には、今の未来のままでいて欲しいんだ』

 

 かけがえのない日常。

 帰るべき場所。

 それが、俺にとっての未来なんだ。

 

「……はぁ。わかった」

 

 すると、未来は軽くため息をついた後、俺の方へと振り返った。

 その顔は、呆れた顔つきだったが、怒りは見えなかった。

 

「……二人が私に何を隠しているのかはもう聞かない。響にもそのことは言う」

『未来、いいのか……?』

「完全に釈然としたわけじゃないよ。でも、響と祭が悪い意味で私に嘘をついて仲間外れにしようとしているなんてのは、最初から思ってない。ただ、心配だったの。二人とも無茶をするタイプだから、私の知らない間に何か大きく傷ついちゃわないか、ってね」

『それは……』

 

 シンフォギアと外異物で戦う以上、ありえることなんだよな……。

 ちょっと俺は言い淀んでしまう。

 

「あ、やっぱり危ないことしてるんだ。まったくもう……でも、信じるよ。二人を。危険なことをしているかもしれない。でも、必要なことなんでしょ? 二人にとって。だったら、私は待ってるから。二人がいつか、私のところに帰ってきてくれることを」

『未来……! ありがとうっ!』

 

 俺は嬉しくなって、未来の手を両手で掴む。

 すると、未来は軽く苦笑した。

 

「もう、響よりはおとなしいけど、たまに祭もスキンシップが大胆になるよね」

『え? そうかな?』

「そうだよ、ふふふ」

『……はははは』

 

 俺達は笑い合う。

 未来とまた一つ深い関係になれた。そのことが、俺には嬉しかった。

 だが、そんなときだった。

 

『――っ!?』

 

 俺は知っている気配と殺気を感じた。

 

『未来っ、危ないっ!』

「えっ、きゃあっ!?」

 

 俺は未来をとっさに抱いて地面に一緒に伏せる。

 すると、その直後俺達の頭上を弧状の形を持った衝撃波が通り過ぎた。

 その衝撃波はそのまま進み、近くに駐車してあった車を吹き飛ばす。

 

「……ふん、虚を突いたのだが、やはり勘付いたか同類。同じ外異物を身にまとう者同士、お互いの存在に鋭敏になるようだな」

『風鳴……一姫……!』

 

 そこには、虚空に向かい蹴りを飛ばし終えたポーズの一姫がいた。

 どうやら先程の衝撃波は、彼女の蹴りから飛ばされたもののようだった。

 

「えっ、な、何!? 何なの!?」

『……未来、逃げて』

 

 俺は臨戦態勢に移りながら、未来に言う。

 

「逃げてって、祭は!?」

『あいつを……足止めする』

 

 そして俺は、奏でる。彼女の前で。

 

『******************――』

 

 喉にある外異物、エーリッヒ・ツァンのヴィオルを奏でる俺。

 そうして、外異物を体に纏う。木と金属が融合した、いびつなこのスーツを。

 

「えっ……祭!? その姿は……!?」

『……まさか、さっきの今で秘密を明かすことになるなんてね』

「ふん、まとったな。……行け、人形共」

 

 俺が外異物をまとったのを見て、一姫はすっと指を前に出す。

 すると、彼女の背後から三つの影が現れた。オートスコアラーのガリィ、レイア、ファラだ。

 

「お前に指示されるのはすごーい不本意だけどぉ、マスターの命令ですしお前の指示にも従ってあげるぅ! キヒヒッ!」

「地味に共闘」

「三体一とは優雅ではありませんが、致し方ありませんね」

『ちっ、三人同時だと……!? 早く逃げて、未来っ!』

 

【Orchestra】

 

 俺は空中を派手に吹き飛ばし、足止めかつ煙幕作りをする。

 

「よく分かんないけど、う、うんっ……!」

 

 未来は状況を理解できていないながらも、俺の言葉に頷き、後ろに向かって走り出してくれた。

 さすが未来、敏い子だ。

 

「いかせなぁーい!」

 

 爆炎の中からガリィが突出してくる。

 俺は彼女に向かい音を放つ。

 

【forte】

 

「そんなもの、対策済みだと忘れて――」

 

 音叉を取り出し、共鳴させようとするガリィ。

 だが、

 

「――がっ!?」

 

 彼女の目論見は失敗に終わった。

 俺の音により、彼女は大きく吹き飛ばされたのだ。

 

「はぁ!? どゆことぉ!?」

『ふん、対策できるのはそっちだけだとでも?』

 

 俺はしたり顔をしてやる。

 オートスコアラーとの戦いのデータを取ったフィーネの案により、俺は音の振動数を僅かに変化させることにした。

 それにより、固有振動数での破壊はできなくなるが、音が強烈な衝撃波の武器になり、かつ毎回わずかに変化させることにより対策不可にしたのだ。

 

「なるほど、そちらも馬鹿ではない、か……地味に面倒」

「とはいえ、私達三人を相手取れるものですかね。いきますよ、ガリィ、レイア。マスターの作り上げた私達の力を、そこの小娘に見せて差し上げましょう」

「はいはーい了解りょうかーい!」

 

 ファラのその言葉と共に、三人が再び同時に襲ってくる。

 俺はソレに対し再び【Orchestra】を放つ。

 だが、その爆炎を越えて三人が同時に俺に襲いかかる。

 

「よくやった人形共。では私は……ふんっ!」

 

 すると、今度はなんと一姫は俺を飛び越えていったのだ。

 そして、彼女の向かう先には、まだ逃げ切れていない未来が。

 

『なっ、どうして未来をっ!?』

「おんやぁ!? よそ見してていいのかなぁ!? キャハッ!」

 

 笑うガリィ。三人は俺の気がそれた瞬間を狙い、激しい攻撃を浴びせかけて俺の足を完全に止める。

 

『ぐっ!? 未来ううううううううっ!』

 

 俺は叫ぶ。

 早く逃げてくれと祈り叫ぶ。

 だが、一姫の視界に捉えられないほどの圧倒的な速度に、いくら元陸上部の未来でも逃げ切ることはできず、一姫の魔の手が未来に伸びる――

 

「ふん、捕まえたぞ、小娘――」

「――させるかああああああああああああっ!」

 

 だがその瞬間だった。

 激しい咆哮にも似た叫び声が轟いたかと思うと、一姫が横に思いっきり吹き飛んだのだ。

 彼女を横合いから殴り飛ばした者がいたのだ。

 それは――

 

「……響っ!?」

「ごめん未来、祭っ! 遅くなった!」

 

 そこにいたのは、ガングニールをまとった響だった。

 彼女の腕のギアが、プシュゥと蒸気を上げながらガシャン! とピストン運動をする。

 

「響……!? 響まで一体……!?」

「……ごめん未来、私、未来に嘘ついてた」

「うん……それはいいの。さっき祭と話し合って、いいってことにしたから。でも、大丈夫なの、怪我してない?」

「……こんなときまで私の心配なんて、やっぱり未来は未来だなぁ」

 

 響は未来に向かってニカっと笑う。

 それに釣られて、未来も微笑む。

 

「ぐ……不意打ちを食らったか……おのれ立花響……」

「おっとアタシ達を忘れてもらっちゃあ――」

「――困るなっ!」

 

【MEGA DETH PARTY】

【蒼ノ一閃】

 

 さらなる二つの声と共に、赤いミサイルと青い斬撃が一姫を襲う。

 一姫はそれを再び受け止める。

 

「ぐっ……!? なんだと……!?」

 

 さらなる攻撃に怯む一姫。

 その彼女の前に、二つの人影が降り立つ。

 

『来てくれたのかっ、クリス! 翼さんっ!』

 

 そこに現れたのは、イチイバルをまとったクリス、そして天羽々斬をまとった翼さんだった。

 

「あったりめーだろ。アタシはお前の護衛だぜ? お前がピンチになったら、アタシはすかさず参上よぉ」

「遅くなったが、私も戦えるまでに回復した。これからは、共に刃を並べ戦うぞ!」

「雪音クリス……そして、そして翼ぁ……!」

 

 一姫が恨みがましい声と目で翼さんを見た。

 その放たれるおぞましいオーラにオートスコアラーを含めたその場の者全員が体を強張らせる。

 

「会いたかったぞ翼……! あの老害の寵愛を最も受けた風鳴の剣……! 貴様を……貴様をぉ……!」

「あなたが、一姫叔母様なのですね……話にしか聞いたことはありませぬが、なぜそこまで私に敵意を……」

「ふん、“選ばれた”者は知りすらせぬか……それも当然。私のように“選ばれなかった”者のことなど、分かるわけもなし……」

「どういうことですか……!」

「言葉など……不要っ!」

 

 すると一姫は、またも目にも留まらぬ速さで移動し、翼さんに殴りかかる。

 翼さんはそれをすんでのところで防ぐ。

 

「くっ、聞きしに勝る速さと重さっ……!」

「翼さんっ!」

「先輩っ!」

 

 そんな一姫相手に、響とクリスが加勢する。

 三対一の構図で、ようやくバランスが取れたようだった。

 なら、俺のやることは――

 

『ならこっちは、一対三で頑張るかなっ!』

 

 俺はオートスコアラー相手に、音による衝撃波攻撃を再開する。

 

「ちぃっ!」

「くっ!」

「ちょこざいな……!」

 

 音の攻撃は不可視かつ文字通り音速。

 簡単に避けられるものではない。

 それにより、オートスコアラー達の足止めはうまくいっていた。

 よし、あとはあの三人を……シンフォギアの主人公達を信じるのみ!

 俺は三人なら一姫を倒せると確信していた。

 だって、三人は主人公なんだ。ならば、悪に負ける道理はない。

 

「ふんっ! せいっ!」

「ちっ! 弾丸避けるとかなんだよそれっ!」

「任せろ雪音っ! 私が動きを止めるっ!」

「やれるものならっ!」

「やってみせるさっ!」

 

 一姫の速度に追随する翼さん。さらに、それによって動きを指向された一姫に、クリスの弾丸が浴びせかけられる。

 

「ぐっ……!?」

「はんっ! 足が止まればこっちのもんよっ! おらっ、馬鹿も行けっ!」

「うんっ!」

 

 そして、クリスの援護射撃を受けながら響が一姫に拳を浴びせかける。

 一姫はそれをありえない反応速度で防ぐ。が、それが精一杯のようにも見えた。

 

「一姫さん! どうして未来を狙うんですか!? どうして錬金術師達を使って祭を襲うんですか!? ワケを教えて下さいっ! もしかしたら、戦わずに解決できるかも……!」

「この期に及んで話し合いをしようとするだと? ふん、さすが立花響、聞きしに勝る気狂いよっ!」

「狂ってなんかいません! だって私達は同じ人間同士! 言葉が通じる人間同士なんです! なら、理解しあえるはずっ!」

戦場(いくさば)で戯言をっ……!」

 

 一姫と三人の戦いは拮抗していた。

 そして、それは俺も。

 

「ふんっ! 地味に堕ちろっ!」

『食らうかっ!』

 

【mute】

 

 俺はレイアの飛ばしてくるコインの攻撃の勢いを、消音器を使ったスピーカーからの音をぶつけ、ゼロにする。

 これが相手の飛び道具を無効化する技【mute】である。

 俺の頭の中に、突如ひらめいたこの技は、彼女らの攻撃を防ぐのに役立ってくれた。

 

「くっ、こいつ、新たな技を……!」

「進化……いいえ、加速しているのでしょうね。外異物とのリンクが」

「ちっ、厄介な……」

 

 不機嫌そうな顔をするオートスコアラー三人。

 これならいける……!

 俺はそう思った。ここで勝敗を決することができるかもしれない。少なくとも、オートスコアラーと一姫相手に……!

 俺が戦いに希望を見出した、そのときだった。

 

「形勢不利で敗北へと至る展開を覆す者……それこそこの僕、英雄だああああああああっ!」

 

 狂った声が響いたかと思うと、赤いガス状のものが突如一体を包む。

 

「っ……!? なんだ、急に力が……!」

「抜けて……!?」

「なんだよ、これっ……!?」

 

 翼さん、響、そしてクリスが急に膝をついた。

 今の声。そして、この赤い霧と脱力する三人……まさか!?

 

「ふん、遅いぞウェル博士」

「ふふふ、英雄とは遅れて来るものですよぉ一姫さん。それに、あなたが政治的な裏工作をもっと早くして僕を深淵の竜宮から出すのが早ければ更に素早く現れることもできたんですよ?」

 

 ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。

 シンフォギアの主要人物の一人であり、悪役の一人がまたしても現れたのだ。

 今度はフィーネと違い、明確な敵として。

 

「しかし、アンチリンカーとはここまでの効き目とは。さすが頭脳は評価に値する」

「おやおや、英雄としての資質も評価してもらいたいものですけどねぇ」

『響! 翼さんっ! クリス!』

「おっとよそ見はよくないよぉ!?」

『ぐあぁっ!?』

 

 地面に膝をつく三人に気を取られた俺は、オートスコアラーの攻撃を防げず軽く吹き飛ばされる。

 そして、近くにあった木にぶつかり、その木を折ってしまった。

 

『ぐ……』

 

 なんとか立ち上がる俺。

 だが、顔を上げた俺の視界に映ったのは、絶望的な光景だった。

 

「よし……今回の目的は果たせたな」

「まったく、こんな少女一人にこんな大捕物とは、あまり英雄的な行動ではありませんね」

 

 気を失った未来が、一姫に抱え上げられていたのだ。

 

「『未来っ!!』」

 

 俺と響が同時に叫ぶ。

 だが、気を失った彼女には俺達の声は届かない。

 

「しかし、あなたの言葉が本当だとすれば彼女は――」

「そこまでだウェル博士。私達の情報をこいつらにくれてやる道理はないだろう」

「おっと、それもそうでしたね。それではおいたましましょうか。人形諸君! お願いしますよ!」

「……ったく、やなかんじー」

 

 ウェルの言葉に応じ、三人のオートスコアラーが一姫とウェルの元へと飛んだ。

 そして、そのまま二人をつれて魔法陣から転移する。

 未来を含めた三人と三体は、あっという間にその場から姿を消してしまったのだった。

 

「『……未来うううううううううううううううううううっ!!』」

 

 俺と響の叫びが、赤い霧が晴れつつあるその場に虚しくこだました……。

 

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