【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
「……それで、この小娘をさらってきたということに何か意味はあるんだろうな」
錬金術師とその一味のアジト、チフォージュ・シャトー。
そのアジトに据え置かれている玉座に座りながら、キャロルは目の前で縛り上げられた状態で気を失っている少女、未来を見ながら言った。
「もちろんだ、この少女には聖遺物『神獣鏡』に適合できる素質がある」
「……ほう?」
未来の直ぐ側で言う一姫の言葉に、キャロルは眉を動かした。その鋭い視線が未来を射抜く。
「それも貴様の持つ外異物の力で読み取った『外側から見た世界』の情報か?」
「ああ、そうだ」
「ふん……まったく忌々しいものだな。俺様達錬金術師が必死になって解剖しようとすることを、貴様はその外異物の力で簡単に知ってしまうのだから」
「……別に、いいことばかりでもないさ。貴様の羨みなど、真の世界の前では霞む」
表情を陰らせながら言う一姫。キャロルは、彼女のその表情がまた癪に障る、と思いながらも、敢えて口にすることはなかった。ここでそれを口にしても、無駄な言い争いが増えるだけだと思ったからだ。
「……ちっ」
故に、それらの感情を一つの舌打ちに乗せて解消する。続いて、キャロルは未来を挟んで一姫と並んでいる男、ウェルの方を見た。
「おいお前、それで一姫の言う神獣鏡の準備は出来ているんだろうな」
「ええ、もちろんですとも! この僕がそこを抜かるはずはないんだよなぁ! しっかりと、F.I.S.から逃走するときに懐に忍ばせてもらったんですよ、神獣鏡のギアをね」
「まったく、火事場泥棒とはいい根性だ」
「いいえ、とんでもない。そもそもアレはこの僕が日本の二課から譲り受けたもの! ならば、僕の持ち物であって、火事場泥棒なんてことはないんですよ! この腕に宿る、ネフィリムと同じようにねぇ!」
ウェルはいちいち大仰な様子でキャロルに言った。
それがまた彼女を苛立たせるのだが、目の前の相手はその手の反応を示しても意味がないことを彼女は経験上知っていたため、再び「ちっ」という舌打ちでやり場のない感情を誤魔化した。
「まあいい。ならばとっととその小娘に処置を施せ。俺様達の貴重な戦力となり、あの機械声の女から外異物を奪い取るための尖兵となる、その小娘にな」
「ああ」
「承知しましたぁ!」
二人はキャロルの言葉に答えると、一姫が未来を抱えてその場を去っていく。
ウェルもまた、一姫の後に続いてシャトーの闇の中に消えていく。
二人が完全にその場から消えた後、キャロルはそれまで不機嫌だった表情をさらに不機嫌にした。
「ふん……俗物共め」
「あらぁマスター、随分とご機嫌斜めですねぇ」
苛立ちを隠そうともしないキャロルの元に、さらに耳障りな声が届く。ガリィが突如キャロルの背後に現れて彼女に囁いたのだ。
「ふん、ガリィか。いちいちとうるさい奴だ。お前の仕事はどうなっている」
「はいー! それならご心配なく! ミカちゃんはしっかりと起動に成功しましたよぉ? こつこつと貯めてた思い出の力を、ぜぇんぶ彼女に注ぎましたからねぇ! これで、オートスコアラー揃い踏みです」
「ならばいい。戦力があればあるほど、俺達にとっては有利だからな。ウェルがあの小娘を傀儡と仕立て上げたそのときは、いよいよ決戦だ。全兵力を持って二課、更にはあの女を叩くぞ」
「はーい! それにしてもキヒヒ、マスターったらそんなにあの外異物が欲しいんですかぁ? そんなモノ使わなくても、自分で世界を解剖すればいいのにぃ」
挑発的な口調で言うガリィ。その言葉にキャロルは「ふん」と鼻を鳴らす。
「それが最善手なら俺様だってそうするさ。だが、それ以上に外異物の力は魅力的だ。この宇宙の理を外れた、文字通り別次元の力を秘めたアーティファクト……それこそが外異物だ。その力を行使するものはみな例外なく外からこの世界を観察できるという。それは、錬金術師がこの二千年間到達できなかった境地だ。それを、たった一つのアーティファクトで到達できる。ならば、俺様は最も効率のいい手段を取るだけだ」
「ふぅん……ま、マスターのそういう現実的なところ、私は好きですよぉ」
「ガリィに褒められても、何も嬉しくないな」
「そうですか? ガリィちゃん悲しーい! うえーん!」
キャロルの言葉にあからさまな嘘泣きをするガリィ。そんなガリィの仕草にキャロルは呆れながらも、椅子に肘をつき頬杖をつく。
そんなときだった。
ドゴォン! と、突如激しい音がシャトーの中に鳴り響いたのだ。
「っ!? 何だ!? ガリィ!」
「はいはーい! ……と、これは驚きです。マスター、侵入者ですよ。このタイミングで、カモがネギ背負ってやってきました」
「ほう? ということは……」
『見つけたぞ、キャロル!』
キャロルの目の前の天井に穴が開く。そして、機械的な声がキャロルに向かって鳴り響く。彼女の目の前に現れたのは、祭、そして“六人”のシンフォギア装者の姿だった。
◇◆◇◆◇
――前日。
「まったく、まずいことになったな……」
「そうね。まさか、潰したはずのF.I.S.から脱走したドクターウェルがまだ生きていて、そして腕にネフィリムを宿していたなんてね」
渋い顔をする弦十郎さんに、相変わらず余裕めいた表情で言うフィーネ。
その弦十郎達の会話を、直ぐ側で、響、クリス、翼さん、そして俺の四人は黙って聞いていた。
「あの……司令。少しよろしいでしょうか」
「ん? なんだ翼」
「櫻井女史の様子が普段とまるで違うのですが……それと、潰したはずのF.I.S.とは一体……」
「ああそうだな。まずは了子くんのことを説明しよう」
「あら、それは私から話すからいいわよ弦十郎君」
フィーネが弦十郎さんに微笑みながら答えると、彼女はその笑みを保ったまた俺達のほうへと振り向く。
その顔に怪しい笑みを浮かべながら。
「改めてはじめまして、風鳴翼、立花響。私の名前はフィーネ。先史文明期に生きた人間の生まれ変わり……と言ったほうが伝わりやすいかしらね。今まで黙っていて悪かったわね。これが私の真の姿なの。でも、私の目的を考えると、情報公開する人間はできるだけ少ないほうがいいと思って、弦十郎君には黙っていてもらっていたの。そこの弓弾祭と、クリスにもね」
フィーネが妖艶に唇に指を当てながら言う。
その彼女の説明に、翼さんと響は大きく驚いた表情を見せた。
「なんと……!? 櫻井女史が、そんな人物だったとは……!?」
「ふえぇ!? 私もびっくりです……というか、祭とクリスちゃんは知ってたの!?」
『ん、まあね……色々とありまして』
驚愕した響に聞かれた俺は、思わずバツの悪そうな顔で響に答えてしまった。だって本当にいろいろかつ流れで紹介されたんだから、仕方ないじゃないか。一方でクリスは、そんな状況の中一人呆れた顔していた。
「ったく、とっとと話さないからこんな土壇場で話すことになってんだぜ、フィーネよ」
「ふん、別に今はそんなことどうでもいいでしょう。それより、今は今起きてる事態についてよ」
「ま、そうだけどよ。適当に煙に巻きやがって……」
そう言って「はぁ」と軽くため息をつくクリス。
一方で、そのフィーネの言葉に翼さんと響は話を聞く態勢に戻る。
俺もまた、現状のF.I.S.の状況を知らないためにフィーネの話に耳を傾ける。
「さて、それで話の続きだけど、F.I.S.……米国の聖遺物研究機関はかつて非人道的な実験をしていた。それを、弦十郎君はつきとめて、壊滅させたのよ」
さらっと説明するフィーネ。
その言葉に、翼さんと響、そして当然俺も驚きの表情を浮かべる。
「米国の機関を壊滅……!? よくそんな無茶が通りましたね……国際問題にならなかったんですか司令?」
「ああ、そこは向こうの高官から裏ルートで要請されたことでもあったしな。高度な政治的判断、というやつだ。だか今回は、その政治を敵に利用されてしまったわけだが……」
歯がゆそうな顔をする弦十郎さん。彼の思いを考えると、なぜだか俺も胸が張り裂けそうな気持ちになる。
「とにかく、そこでF.I.S.を壊滅させたのだが、どうしようもないやつもいた。それがあのウェル博士。腕に完全聖遺物『ネフィリム』を宿していたために処罰の下しようもなく、仕方なく聖遺物の隔離所『深淵の竜宮』に幽閉していたのだが、どうやら一姫姉が解き放ったらしい」
『厄介ですね……響達装者の適合を強制解除されたあたり、あれはアンチリンカーですよね?』
「さすが、よく知っているな祭君は。そう、リンカーとは逆の作用を持つアンチリンカー。それを作れるのは、ここにいる了子君と、あのウェルという男だけなのだ」
歯がゆそうに奥歯を噛みしめる弦十郎さん。一方でフィーネは、未だに余裕のありそうな表情をしている。
「安心しなさい。対策は既に講じているわ。もし次に戦闘になった場合、あなた達装者にアンチリンカーに対抗する酵素を投与する。それにより、アンチリンカーの効果を無効化することができるわ。アンチリンカージャマー、なんていい方でもしましょうかしら。あまり美しい言い方ではないけれど」
冗談めいた口調で言うフィーネの言葉に、俺達は笑って良いのかは分からなかった。ただ、状況が逼迫していることだけは今この説明を受けている状況でも理解できていた。
『それより、どうするんですか、未来のことは。あいつらに拐われて、何をされるかわからないんですよ!』
「そうです! 早く未来を助けないと……!」
俺の言葉に追随する響。それに対し、弦十郎さんはコクリとうなずいた。
「ああ、分かっている。それについては、エルフナイン君が元いた拠点、チフォージュ・シャトーの現在の場所を探り当てようとしている。そして、俺のほうでも対策を打っておいた。もうすぐ来るはずだ」
『来る? 来るって、誰が……』
そういいながらも、俺は既に予感していた。これから俺達の元に来る、彼女らについて。
「ああ、実はF.I.S.はただ壊滅させたのではない。そこで実験台にされたいた少年少女達を大勢救い出したのだが、そこで俺達二課の仕事を手伝ってくれると言ってくれた者達がいてな。君達と同じ、シンフォギア装者だ」
「シンフォギア装者が、他にも!?」
響が驚きの声を上げる。一方で、翼さんは驚くことなく静かに頷いていた。
「ああ、そうか。立花は知らなかったな。私達の他にもいるのだ。三人の装者がな。普段は別の任務でこちらにはいないのだが、頼もしい仲間がいる」
「ええ!? なんで言ってくれなかったんですか翼さんー!」
「いや、言うタイミングがなくてな……」
驚きながらも翼さんに詰め寄る響と、少しバツが悪そうにする翼さん。
一方で、俺は既に予感していたことに、ただ密かに納得していた。
やはり来るのだ、彼女らが。
ウェル博士が出てきたことから、僅かながらそうなのではと俺は思っていた。そして、それはどうやら現実になりそうだ。
そこで、フィーネが端末を取り出して、ニコリと微笑んだのも、そのことだと俺は分かった。
「弦十郎君、噂をすればよ」
「おお、そうか。では、入ってもらってくれ」
そこで、今まで俺達が話していた司令室の扉が開かれ、三人の人影が入ってきた。
高い身長の女性と、小さな二人の少女。
当然、その三人の名前と姿を俺は知っていた。彼女らは――
「どうも、みなさん。はじめまして。私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。聖遺物『アガートラーム』の装者よ。そしてこっちが――」
「――どうもデス。私は暁切歌って言うデス!」
「……月読調、よろしく」
三人のF.I.S.組の装者三人が、その場に並び立っていた。
……もう慣れたかもしれないなぁ、この手のサプライズ。
俺は三人の姿を見て、ふとそんなことを思ってしまうのであった。