【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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Monster

『あれが……チフォージュ・シャトー』

 

 俺そして響達の合計七人は、二課によって手配された輸送機の機体後部の開放されたハッチから、眼下に浮かんでいるシャトーを見ながら言った。

 

『はい、今のシャトーはドクターウェルの片手にあるネフィリムの力によって駆動をしている状態です。本来の『世界を解剖する力』までは至ってませんが、移動式の基地としては十分に機能を発揮している状態です』

『ステルス機能も使っていてエルフナイン一人では発見できなかったでしょうけど、まあこの私がいるもの。錬金術師の作り上げたものぐらい、簡単に発見できるわ』

 

 耳に備え付けた無線越しに聞こえてくるのはエルフナインとフィーネの声だ。

 彼女らの尽力によって、キャロル一派のアジトであるシャトーを発見することができた。

 エルフナインが来てから今まで二人で探し続けていたのが、ついに昨日結実したらしい。このタイミングで見つかってくれたことに、俺は二人に感謝しかないと思った。

 

『みんな、頑張ってくれ。本来は俺もついていきたかったところだが……現状で俺が抜けると指揮系統が麻痺するのと、それに加えて一姫姉の謀略によって政治的な拘束を受けてしまっていてな……まったく、無念だ』

 

 無線越しからも弦十郎さんが悔しそうにしているのが伝わってくる。その声を聞いただけで、俺の胸まで張り裂けそうになった。

 

『大丈夫ですよ弦十郎さん! 弦十郎さんの無念の分まで、俺達がきっちりケリをつけてきますから!』

 

 だから俺は弦十郎さんに全力で答える。

 もちろん、未来のことだって忘れてはいない。というか、今回は未来を取り戻すのが主目的なのだから、そこを忘れるわけはない。

 ただ、弦十郎さんが悲しそうにしていると何故か俺まですごく悲しくなってしまうので、自分自身に発破をかけるつもりで言っているだけであって。

 

「……ねぇ翼。私、彼女とは昨日が初対面なのだけれど、もしかして彼女って……」

「……ああ、どうもそうらしい。もっとも、弓弾自身は自分の気持ちに気づいていないようだがな……」

『ん? どうしたんですか翼さん、マリアさん? 俺の方見ながら何かヒソヒソ話して』

「い、いえ! なんでもないのよ祭! ねぇ翼!」

「あ、ああ! そうだな! なんでもない!」

『……そうですか?』

 

 二人は明らかに内緒話をしていたように思えたのだが、まあなんでもないというのならいいだろう。

 

「えっと……祭、さん」

 

 と、そこで俺に話しかけてくる声があった。調ちゃんだ。すぐ脇には切歌ちゃんもついて来ている。

 

『うん、なんだい? 調ちゃん』

「その……私、あんまりこうやって大勢の人と一緒に戦うことは慣れてないんですけど……頑張りましょう。祭さん達の大切な友人を助けるために」

「そうデスよ! 私も調が拐われたらって思うときっと気が動転しちゃうデス! それでも冷静になって救いに行こうなんてするみなさんは凄いって、さっき調と話してたんデス! だから、私達もきっと力になって見せるデス!」

『調ちゃん……切歌ちゃん……ありがとう』

 

 俺は二人の無垢で純粋な善意に感動してしまった。

 彼女達はただ俺達のことを思い言葉をかけてくれたのだ。それは、とても尊く、美しい感情だ。ならば、俺もその感情に答えるために頑張るしかない。そう思った。

 

『……響、聞いたか? 俺達には、こんな心強い味方がいる。これなら、きっと未来を助け出せるさ』

「そうだね、祭。必ず、未来を助け出そう!」

 

 俺の言葉に、響は自らの手のひらに拳をぶつけて答える。

 さらに、クリスや翼さん、マリアさんも不敵な笑みで俺達に同意してくれる。

 

「さあ……行こう!」

 

 そして、代表して響が言う。その言葉を合図に、俺達は輸送機の後部からシャトー目掛けて飛び降りた。

 

『****************――』

 

 飛び降りながら俺は喉のヴィオルを奏でる。響達装者もまた、聖詠を歌いシンフォギアをまとう。これにより俺達七人は戦闘モードへとなった。

 その状態で俺達はそれぞれ近づき、円の形を作りながらシャトーへと降下していく。

 

「はああああああああああああああああああああああっ!」

 

 シャトーが肉薄したそのとき、響が大声で叫びながら大きく腕を振りかぶる。響の拳はシャトーにぶつかる寸前に振り下ろされ、その天井に大きな穴を開けた。

 そして、俺達は降り立つ。シャトーの内部へ。キャロルの、目の前へ。

 

『見つけたぞ、キャロル!』

「……ふん、やはり貴様らか。外異物をまとう娘、そして、シンフォギア装者共」

 

 キャロルは予測していたと言わんばかりに、鼻をならす。その彼女の傍に、四体のオートスコアラーが彼女を守るように現れる。

 ついに来たのだ、決戦のときが。

 俺は状況を見定めながらも、そう思った。

 

「よくもまあこの場所が分かったものだな。ふん、さてはエルフナインだな? あいつめ、生み出してやった恩を忘れて、この俺様を裏切るとはな……」

「それは違うよキャロルちゃん! エルフナインちゃんは、あなたの暴走を止めようと……!」

「黙れ!」

 

 響の言葉に、キャロルの激昂した声が飛ぶ。

 

「俺を止める!? バカな事を! 父親から授かった大事な言葉を果たすまで、俺は諦めない! この気持ちが貴様に分かるか、立花響!」

「分かるよ!」

 

 響はそれに即答する。その言葉には、確かな芯があった。

 

「私のお父さんは情けない人だけど……でも、私が一番辛いときに一緒にいてくれた! それにお父さんは教えてくれたんだ! 『へいき、へっちゃら』っていう魔法の言葉をッ!」

「ふん、俺の父とは重みの違う言葉だろうが、そんなものッ!」

「そんなことない! 親からの愛情に、重いも軽いもないッ!」

 

 二人の視線がバチバチと火花を散らす。場は一触即発と言った状況だった。

 

「……立花、弓弾、お前達二人は、未来の救出に向かえ」

 

 と、そこで翼さんが俺達に言った。無論、キャロル達から目をそらすことなく、である。

 

『翼さん……いいんですね』

「ああ、ここは私達に任せろ。防人としての戦で、お前達の活路を開いてやる」

「エルフナインとフィーネによって未来って子がいる場所も分かってるわよね。なら、そこに向かって走りなさい。あなた達とはあったばかりだけど、とてもいい子ですもの。きっと、その未来って子もいい子なんでしょうから。早く助けないとダメよ」

 

 今度はマリアさんが言ってくれた。彼女は、俺達にこっそりとウィンクをしてくれる。

 その姿はとてもキュートだった。

 

『みんな……ありがとう! いこう! 響!』

「うん! 祭!」

 

 そうして俺達は走り出す。未来がいると思わしき場所に向かって。

 

「させるかっ!」

 

 背中を見せた俺達にキャロルが言う。俺は後ろからオートスコアラー達が飛びかかってくるのを感じた。

 

「おっと、ここから先は通行止めだ!」

 

【GIGA ZEPPELIN】

 

 だが、彼女達の手が俺達に伸びることはなかった。クリスが俺達を守ってくれたからだ。

 

『ありがとう、クリスっ!』

「お礼はいい! とっとと行けっ!」

 

 俺と響は互いに目を合わせ、頷き合う。そして、みんなを背に二人でシャトーの内部へと駆けていったのだった。

 激しい戦闘音を後にしながら。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 俺と響はとある部屋へと到達した。

 シャトーの深部にある、研究室だと言う。未来がいるとするならば、そこが怪しいというのがエルフナインの言葉だった。

 そして、その言葉は正しかった。未来が、その部屋の中心で椅子に拘束されていたからだ。

 

「『未来っ!!』」

 

 俺と響は同時に叫ぶ。そして、未来のところに向かって二人で同時に駆け出した。

 と、その瞬間だった。

 

「っ!? 危ないっ!」

 

 未来のいるところから、突如紫のレーザーが飛んできたのだ。俺達、目掛けて。

 

『なっ!? 今のは……!』

「くっくっく、どうやらギリギリ成功したようですねぇ……!」

 

 と、そこで耳障りな笑い声と共に二つの人影が現れる。

 一人は声の主、ウェル。そして、もう一人は、風鳴一姫。

 未来を拐った主犯二人が、俺達の目の前に姿を現したのだ。そして、その直後に未来が立ち上がる。

 紫色の、シンフォギアをまとった姿で。

 

「成功って……未来に何をしたの!?」

 

 響が叫ぶ。彼女にとっては正体不明のレーザーであり、姿だったからだ。対して、俺は今の未来の状態を知っていた。あの姿は、神獣鏡だ……!

 

『響……今の未来は、あいつらに洗脳されて無理矢理シンフォギアをまとわされているんだ。気をつけて。あのシンフォギアは、聖遺物殺しの力を持っている……!』

「えっ、そんな……!? 未来に、なんてことを……!」

「ふん、さすが同類。貴様も知っているのだな。その通り、今この娘はシンフォギア『神獣鏡』を装備している。そして、心はなく行動は私達の思いのままだ」

 

 淡々と語る一姫に、俺の心は怒りで満たされていく。

 

『貴様ら……未来になんてことを!』

「なんとでも言うがいい。戦いは、勝ったほうが正しいのだ。……さあ、行くぞ!」

 

 一姫がそう言うと、彼女は未来からの支援攻撃を受けながらこちらに突っ込んできた。

 俺達はその未来の攻撃を交わしながら、なんとか一姫の攻撃をいなす。

 

『くっ! 面倒なっ! 響!』

「何っ、祭ッ!」

『俺が未来のところへ向かって、正気に戻す! きっと俺の外異物なら未来の聖遺物殺しの攻撃も効かない……と思う! 響は悪いけど、一姫の相手をしてくれないかッ!?』

「承知!」

 

 響は俺の無茶な提案に二つ返事で答えてくれた。さすが響、どんなときでも気持ちのいい奴ッ!

 

『ありがとうっ! これは気休めしかならないけど、役立ててくれ!』

 

【symphony】

 

 そうして俺は奏でる。仲間の戦闘能力を向上させる音色を。

 この音色もまた、今俺の頭に浮かんだものだった。

 

「おおっ!? 力が湧いてくる! ありがとう祭! これならいける!」

「この期に及んで更に融合が進んでいくか、厄介な! やはりここで潰すっ!」

「おっと、祭のところには行かせないよっ!」

 

 一姫が俺に向かって跳ねてくる、が、それを受け止める響。

 俺は彼女の支援を受けながら未来の元へと向かう。

 

「…………」

 

 未来は無言で俺目掛けてレーザーを飛ばしてくる。俺はそれを出来得る限り避けながら進む。

 しかし、距離が近づくにつれ、攻撃は激しくなり、やがて――

 

『ぐっ!』

 

 攻撃が当たる。しかし、俺の外異物が破壊されることはないようだった。

 どうやら読みは当たっていたらしい。よかった……。

 俺は自分の体がまだ無事なことを確認すると、より加速して未来に近づいた。

 

「…………」

 

 未来はさらに光線の数を増やす。俺は次々とその光線に当たる。

 

『……っ! さすがにキツい……!』

 

 無論、そのことにより俺の体はボロボロになっていく。

 

『けれどもっ!』

 

 だが、躊躇していられようか。未来を助けるためだ。この程度の傷、なんだというものか!

 そうして俺は未来に肉薄していく。そしてついに、手の届く距離にまで近づいた。

 

『未来うううううううううううううっ!』

 

 俺は必死に手を伸ばす。必死に、必死に手を伸ばす。もはや光線の雨あられを体に受けながらも、必死に伸ばす。

 そしてその伸ばした手が、ついに彼女に触れた。

 

『はあああああああああああああああああっ!』

 

 俺は未来をその手で掴むと、一気に自分のところへと抱き寄せる。そして――

 

【finale】

 

 俺はまたも頭に浮かんだ音を奏でる。あらゆるものを任意に“終了”させる音。それを、未来を抱き寄せた状態で。

 すると、未来の姿が一瞬で元の未来の姿に戻った。

 

『未来っ!』

 

 俺は彼女を抱きかかえながら叫ぶ。

 

「ん……祭?」

 

 すると、未来はその目をうっすらと開け、俺を見てくれた。

 よかった、未来は無事だ……!

 

『響! 未来を取り戻したぞっ!』

「さすが祭! やってくれるッ!」

 

 響が戦闘しながら答える。その響相手に、一姫は不愉快そうな表情をしている。

 

「くっ、どういうことだ! 私の攻撃を、すべて受け止めるだとっ……!? そんなことが……!」

「了子さんから聞きました! あなたを解析した結果、あなたは“自分の時間”を操っていると! それでものすごい速度で動けるんだって! なら、やることは一つ! 私は時間をどうこうできない! だから、早く動いている相手に合わせてこっちもできる限りの速度で反応して拳をぶつける、それだけッ!」

 

 そうして響が拳を一姫に放ち始める。

 右、左、右、左。

 左右の拳が一姫にものすごい速度で飛ぶ。そのあまりの速度に俺の目はついていけない。

 一姫もまた、防戦するのが精一杯なようだった。

 

「こんなバカな……あの一姫が押されているなんて……! に、逃げないと……!」

 

 と、そのとき、そんな呟きが聞こえた。それは紛れもなく、先程まで高みの見物を決めていたウェルの言葉だった。

 

『させるかっ!』

 

 俺はとっさに手に巻き付いている木の根を伸ばし、ウェルの体を拘束する。

 

「ひいっ!?」

 

 ウェルの体に木の根は巻き付き、完全に彼の動きを止める。彼は木の根にぐるぐる巻きにされた状態で、地面にうつ伏せに倒れた。

 

『悪いけど、全部が終わるまでそこで大人しくしてもらうよ』

 

 俺はウェルに言う。ウェルはその言葉に「この僕は英雄なんだぞ! こんなことぉ!」と負け惜しみを喚いていたが、俺はそれを聞き流すのだった。

 一方で、響と一姫の戦いはどんどんと形勢が傾いていっていた。

 無論、響にである。

 

「はあっ! でやぁっ!」

 

 響の回し蹴りが、一姫の顔側面を狙う。一姫はそれを腕でなんとか防ぐ。

 

「ぐうっ!?」

 

 だが、あまりのその威力にダメージを相殺しきれず、一姫は勢いよく吹き飛ぶ。部屋の壁を壊すほどに。

 

「はっ!」

 

 響はその彼女に飛び追随する。そして、吹き飛んでいる途中の彼女を先回りして、今度は叩きつけるように拳をお見舞いした。

 

「があっ!?」

 

 それはかなりの致命打になったらしく、一姫は大きく叫びながら床に叩きつけられた。

 

「ぐ……が……」

 

 その攻撃を受けてもなんとか立ち上がろうとする一姫。だが、あまりのダメージに立ち上がることができず、膝をつく。

 響はそんな彼女の前に立つ。

 それに相対そうとする一姫。だが、次の響の行動は彼女を驚かせるのに十分だった。

 響は、拳を下ろしたのだ。

 

「貴様……どういうつもりだ……私にとどめを刺せる機会なのだぞ……!」

「一姫さん……私達は人間同士です……ノイズと違って、言葉が通じる。だから、話し合いましょう。あなたのしたいことを、私は知らない。でも、何か他の道があるはずです! こんな暴力に訴えなくても、平和的に解決する方法が!」

「正気か……? この期に及んで、話し合いだと? ククク、ハハハハ……!」

 

 一姫は笑う。だが、俺はそれを黙って見つめる。響が伊達や酔狂ではなく、本気で言っていることを、俺は知っていたから。だから、なりゆきを見届けよう、そう思ったのだ。

 

「一姫さん、話してください。あなたは、どうしてこんなことをするんですか? それは、暴力に訴えないとだめなことなんですか……?」

「……立花響……貴様、本気で……」

 

 響が本気だということに気づいた一姫は、驚愕の表情を見せる。が、次のい瞬間、憎々しげな表情に切り替わった。

 

「当たり前だ……! 私の目的は唯一つ、この世界への、憎悪の発露だっ……!」

「世界への……憎悪……?」

「ああ、そうだ! 私は風鳴の長女として生まれたが、風鳴にふさわしくない不要な女として、押し込められ、飼い殺されてきたっ! 末の弟の八紘や弦十郎が風鳴の人間として成長していくのを見ながらだ! そしてついに、私は捨てられた! 完全に不要な存在として、命を狙われた! だが、そのとき私はこの力を手に入れた……外異物を見つけ、手に入れたのだ! この力は命を助けてくれたさ……でも、それはより残酷な現実を直視するきっかけにすぎなかったんだ!」

「残酷な、現実……? なんですか、それは!?」

「ふん……わかるまい……いや、そこの同類ならもしくは分かるかもしれんな……自分こそが、“外”なる“異物”の存在で本来世界には存在しない人間だということを知ることを!」

『――ッ!?』

 

 その言葉を聞いたとき、俺は“本能”で理解した。

 一姫は、知ったのだ。本来の『シンフォギアの世界』に自分という人間が存在しないことを。世界にとっての“異物”であるということを。

 

「祭ッ!? どういうことなの!? 分かるの、この人の言っていることが!?」

『……ああ』

「ふん、やはり同類、貴様もかっ……クク、カハハハハハハハハ! これは面白い! 同類! お前は私と同じく自分が“異物”だと知りながらもその女を親友として助けたのか! 滑稽な! 我々がいなくても世界は、いや我々がいないほうが世界は正しく廻ると言うのに! それでも! 貴様は! ククク、ハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 一姫の狂ったような笑いが響く。いや、実際狂っているのだろう、彼女は。

 自分自身が不要な異物である。そのことを知って彼女はおかしくなってしまったのだろう。

 俺には前世の知識があったからこうはならなかった。でも、どうやら彼女にはないようだった。だから、彼女はこうなってしまったのだろう。

 ああ、そう考えると、俺は彼女が急にかわいそうで、救ってやりたい存在に思えてくる。この感情は、同情なのだろうか? それとも、自分はそうじゃないと否定するための、自己満足なのだろうか……?

 

「……異物とか正直、全然わかりません! でも、あなたはここにいるじゃないですか!? なら、そんな悲観する必要なんてありません! もし必要なら、私が隣にいてあげます! だから、もうやめましょう、一姫さん……!」

 

 そう言って、響は一姫に手を伸ばす。それは紛れもない響の、太陽のようなぬくもりの心の現れだった。

 

「……ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁっ!!」

 

 だが、それは逆効果だった。それが、一姫の逆鱗に触れたようだった。

 

「この世界の中心である貴様がっ! 主演女優である貴様が、何をぬけぬけとおおおおおおおおおおおおおっ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 激昂し、喉がはちきれんばかりの声で叫ぶ一姫。

 すると次の瞬間、恐ろしいことが起き始めた。

 彼女の周りを、闇が覆い始めたのだ。粘質状の闇が、まとわりつき始めたのだ。

 まずい、あれは、まずいっ……!

 

「えっ!?」

『響、こっちへこい! 早くっ!』

 俺は響に声をかけ、その場からこちらへと逃げさせる。一方で、一姫の体は完全に闇に覆われた。

 

 かと思うと、その中から手が飛び出してくる。

 鱗に覆われた、いびつに長く、太い手足が。

 その手が地面についたかと思うと、今度は体が現れる。手と同様に鱗に覆われた体。そして、巨大な一つ目がギラギラと輝く触覚のように伸びた頭が。そして、最後に下半身が床についた状態で現れる。手や体と同じく、これまた鱗に覆われた太く、長い足と、鋭利な三角錐が先端についたしっぽをゆらめかせながら。

 闇がすべて消える。そして現れた姿の印象を一言で表すなら、まさしくいびつな猟犬だった。

 長い触覚の頭、鱗に覆われた四足歩行の体、鋭い尻尾。

 それは、先程までの風鳴一姫とは似ても似つかない、別の存在だった。

 

「こ、これは、一体……」

『ああ……変わったんだ、彼女は……もう、人じゃない……異物だ、異物の怪物、“怪異物”になったんだ……!』

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 怪異物となった一姫が“吠える”。

 シンフォギアの世界には存在しなかったはずの、異物が今そこに現れた瞬間だった。

 

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