【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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Yesterday Once More

 あの日から俺は、響と未来との三人で一緒に行動することがほとんどになっていた。

 特にお互いそうしようと言い合ったわけではない。

 ただ、一緒にいることが自然となったのだ。

 

「祭ー! 未来ー! こっちこっちー!」

「ちょ、早いって響!」

「そうだぞ、もう少し落ち着いていこう!」

 

 その日も俺達は一緒に走っていた。

 正確には、響が一人で走るからそれについていくために走らざるを得ないという状況である。

 ではなぜ響はそんな走っているのかと言うと、俺達のいる小学校の近くにある学校、私立リディアン音楽院の学園祭にいくためだ。

 リディアン……その名を俺は知っていた。

 シンフォギアの物語で、将来響や未来が通うことになる学校だ。

 そして、その地下にはノイズと戦っている特異災害対策機動部二課の基地が存在している。

 更に、その基地はカ・ディンギルという兵器の隠れ蓑で……というのが、シンフォギアの最初の話だった。

 まあ現在の俺達にはそんなことは関係なく、ただ純粋に学園祭に遊びに行っているだけなのだが。

 

「うわー! ここがリディアンかあ! すごいね、二人共!」

 

 一般向けに開放されたリディアンの門を潜った響が言う。

 確かに、小学生の小さな背から見上げるリディアン、そしてそこに集まる人並みは凄かった。

 荘厳な建築様式で作られ古風さを保ちながらも共に真新しさを共に持った校舎。

 その学び舎に出入りする音楽を志す将来有望な生徒達。

 彼女らの未来の希望に溢れた姿は、一度夢を失い死んだ俺にとってはとてもまぶしく映る。

 一応俺だって音大には行っていたが、あまりいい思い出はない……。

 

「……どうしたの祭? お腹でも痛い?」

 

 と、俺が一人勝手に暗くなっているのを、未来に見抜かれたようで彼女に心配そうな声をかけられた。

「え? ああ、いやなんでもないよ。ほら、こんなにいっぱい大きい人がいるところって初めてだから圧倒されちゃって」

 俺は笑ってごまかす。

 すると未来は、少し訝しむ表情をしながらも「そっかあ」と一応納得してくれた。

 

「そうだよね、こんなにいっぱいのお姉さん達、なかなか見ないもんね。でももし辛かったら言ってね? 響には私から言っておくから」

「大丈夫、もう慣れたから」

 

 やはり未来は優しい。

 俺の細かな機微にまで気を回してくる。

 いい友達を持ったと、俺は改めて思った。

 

「おーい二人共! 早くお店回ろうよー!」

 

 そんな俺達に、響の呑気で元気な声が響いた。既に彼女の手には、大きな綿あめが握られている。

 

「……もう、響ったら」

「ふふっ……」

 

 呆れる未来に、思わず笑う俺。

 俺達はその後軽く目をあわせ合い、笑い合って響のところへ走っていったのだった。

 

 

 そうして俺達は学園祭の出店をいくつか回った。

 と言っても、主に回ったのは食べ物の出店ばかりだ。

 なぜかと言うと、響がそれを望んだから。

 響は幼い現在から健啖家であり、次々といろいろなものを食べ歩いていった。

 一方で俺と未来は、その響からちょっとずつおすそ分けをしてもらって食べた。

 とてもじゃないが、響のペースについていける自信はなかった。

 そして、そうしてあらかたの食べ物屋を回ったときだった。

 

「ふーお腹いっぱい……」

「もう、食べ過ぎだよ……って響、時計見て! そろそろ時間だよ!」

 

 響の口についた食べかすをハンカチで拭っていた未来が時計を見て大声を上げた。

 俺もその時計を見てはっとする。

 それは、俺達が一番の目的にしていた、講堂でのライブ公演の時間が迫っていたのだ。

 

「あっ、本当だ! 急ごう!」

「ああ!」

 

 そうして俺達は講堂に走っていく。

 途中、食べ過ぎた響が脇腹を痛め押さえながら走るということになったが、なんとか時間に到着した。

 

「うわーすごい人……全然ステージが見えないよー!」

「二階の席にいこう。そこからなら上から見下ろせるはずだよ」

 

 俺はぴょんぴょんとジャンプする響に言う。

 未来はそんな俺の言葉に「そうだね」とうなずいてくれたので、三人で二階へと行く。

 二階も人でごった返していたが、俺達はなんとか前の席を取ってステージを見下ろすことができた。

 そして少し待って――

 

「あっ、来たっ! 来たよ響! 祭!」

 

 未来が嬉しそうな声を上げる。

 

「本当だー! わーい! こっち見てー!」

 

 それに応えるように響も歓声を上げる。

 俺も声は上げなかったが心の中で興奮する。

 ステージに上がったのは、今の日本で大人気の女性バンドグループだ。

 新曲から過去の名曲のカバーまで様々な曲を歌い、ちょっとしたブームを起こしている。

 彼女らはここの卒業生で、俺達は彼女らを見るために、この学園祭にやって来たのだ。

 歓声に包まれながら、彼女らはステージ上で集まったリディアンの生徒、及び学園祭に来た客に軽快に挨拶をすると、さっそく歌い始めた。

 まずは彼女らのオリジナル曲だ。

 会場はその歌に耳を傾け、当然響も未来も興奮しながら彼女らの歌声に聞き入る。

 それは俺もだ。

 シンフォギアの世界は二〇四〇年代というちょっとした未来だが、歌の熱気はいつの時代も変わらないことを教えられる。

 彼女らの歌を聞くと、俺の中に潜んでいた歌への憧れが蘇ってくるのを感じる。

 

「みんなありがとう! それじゃあ次はしっとりとしたカバーを行こう……カーペンターズの『Yesterday Once More』」

「あっ……」

 

 壇上の彼らが歌い始めた曲に、俺は思わず声を上げた。

 その曲は、前世の俺が好きだった曲の一つだったからだ。

 本来のカーペンターズとは似ても似つかない独自の歌声と歌い方をしているが、その曲の素晴らしさは何も変わらない。

 その後も様々なカバーやオリジナルソングが歌われ、俺はすっかり彼女らの歌声に聞き入っていた。

 

 

「いやー凄かった! 凄かった! 本当に凄かった!」

「もう響ったらずっとそればっかり」

 

 ライブ後の帰り道、感嘆しすぎて語彙がなくなっている響に対し未来が苦笑いする。

 だがそんな未来も声から未だ興奮冷めやらないのが溢れていた。

 

「……なあ」

 

 そんな二人に、俺は立ち止まって話しかける。

 二人は不思議そうな顔をして足を止める。

 

「どうしたの? 祭」

「実は、二人に相談があるんだ……」

「相談? なんでも言ってよ、祭の言うことならなんでも聞くよ!」

 

 響が笑顔で言ってくれる。

 それに対し、俺は言う。

 

「ずっと未来の話なんだけど……俺と一緒に、リディアンに行かないか!?」

「ええっ!?」

 

 未来が驚いた声を上げる。それはそうだろう。突然こんな帰り道で進路の話をされたら誰だって驚く。

 だが俺は言いたかった。この熱が冷めやらぬうちに。

 

「俺、今日のライブを見て思ったんだ。歌手になりたいって……そのためには、リディアンに行くのがやっぱり近道なんだって。だから、俺は決めた。リディアンに行くって。それで、もしよかったらだけど……」

「……そんなの、オッケーに決まってるじゃん!」

 

 俺がおずおずと聞いた態度に対し、響は即答する。

 

「私も思った! 将来音楽を勉強したいって! だから私もリディアンに行く!」

「……そうだね、私も実は昔からずっとリディアンには憧れていたんだ。だから、二人が行くって言ってくれたの、なんか嬉しいな」

 

 共感してくれる二人。

 

「ありがとう……!」

 

 俺は二人に笑顔でお礼を言う。

 だが、その一方で心が少し傷んでもいた。

 なぜなら、二人がリディアンに行くのは確定事項だからだ。

 原作で二人はリディアンに進学する。その理由はいろいろあるだろうが、恐らく、その一つが今日だったのだろう。

 そこに俺は相乗りしただけだ。でも、それをまるで自分の意思で二人を巻き込んだかのように言う俺は、なんと汚いのだろう。

 でも、俺はそうでもしても自分を奮い立たせたかった。応援してくれる仲間が欲しかった。

 一度失った夢を、もう一度見るために……。

 そんなことも知らず俺に笑いかけてくれる二人に、罪悪感が静かに渦巻いた……。

 

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