【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

『好きな人が、できました……』

 

 寒さの染み入る夜、俺は寮の俺の部屋に装者のみんなを呼び集め、自分の気持ちをみんなに相談することにした。

 なぜ装者のみんなかと言うと、俺の知っている女子友達で弦十郎さんのことを知っているのが彼女らしかいないのと、俺がみんなならきっと何かいい返答があると信頼しているからである。

 ただ、やはりこのことを言うのは勇気が必要だった。みんなもさぞ驚いているに違いない。でも、ちゃんど誰を好きになったのかを言わないと、相談にならないよね……。

 

『それで、俺が好きになった人はと言うと――』

「風鳴司令、でしょ?」

 

 すると、マリアさんからさも当然のことを言うかのように返ってきた。

 

『え!? なんで分かったんです!?』

「いやなんでも何も……ねぇ」

「そうだな、いくら疎い私でも分かる素振りだったぞ」

「バレバレ」

「むしろまだ自分の気持ちに気づいてなかったんだな……って、ははは……」

「今更かって感じだよな」

 

 マリアさんのあとに翼さん、調ちゃん、未来、クリスが続けて言う。

 

『え!? そんな昔から態度に出てたの!?』

「ああ、それはもう……」

 

 翼さんが苦笑いしながら言う。そんな……昔からそこまで態度に現れてたなんて……。

 

「ええっ、祭って、師匠のことが好きなの!?」

「驚きデース!? ロマンチックデース!」

『……あの』

「ああ、あの二人はちょっと鈍感が過ぎるから……勘定しないで。あなたも人のこと言えないけど」

 

 マリアさんが呆れた様子で言う。二人共、オーバーなリアクションで俺の告白に動揺していた。うん、俺が最初考えていたみんなの反応はこんな感じだったんだよね……。

 

『ま、まあ分かってもらえてたなら話は早いや。……その……どうすればいいでしょうか……』

 

 俺は話の軌道を修正するのもかねてみんなに聞く。

 すると、みんなは腕を組んだり顎に指を当てたりと、考え込む様子をとりながらうんうんとしはじめた。

 

「うむ……先程も言ったように私はそういうことに疎いからな……的確なアドバイスは出せそうもない、すまない」

『そうですか……ありがとうございます、考えてくれるだけでも嬉しいです』

 

 申し訳無さそうに言う翼さん。その回答は真摯に思い悩んでくれたことが伝わってきて、とても嬉しい気持ちになる。

 今更だけど世界の歌姫たる翼さんに恋バナに乗ってもらうって俺、凄いことしてもらってるな……。

 

「んー……具体的にどうすればかって言われてもなぁ……もう告っちまえば良いんじゃねぇの?」

『それはさすがに性急すぎないかなクリス!?』

 

 今度は随分短絡的な回答が返ってきたため、俺は思わず突っ込んでしまう。

 そ、そんな、いきなり告白だなんて……!

 でも、クリスの表情はいたって真剣だった。

 

「いや、別にテキトー言ってるわけじゃねぇぞ? なんだかんだで、この中でいるメンバーだと先輩の次ぐらいにおっさんとの付き合い長げぇじゃねぇかお前。だったらもう、お友達からって言う間柄でもねぇだろ。なら、もうあとは出たとこ勝負だと思うぞ」

『な、なるほど……』

 

 俺は彼女の言葉に納得する。確かに、今更そういう段階を踏むという関係でもない……。

 とはいえ、やっぱり急な告白ってのはちょっと怖いなぁ……。

 

「祭は、どうしたいの?」

 

 と、そこで悩む俺のことを察してくれたのか、未来が助け舟を出してくれる。

 俺が、どうしたい、か……。

 

『その、できれば早く弦十郎さんと恋仲になりたいな、なんて事は思ってる……』

「なら決まりじゃねぇか」

『で、でも! やっぱりいきなりの告白は怖いって言うか……勇気が足りないっていうか……』

「なるほどね。じゃあ、その勇気が出るまで軽いステップを踏んでみたらどうかな」

 

 俺の回答に未来が笑顔で人差し指を立てながら言う。

 

『ステップ?』

「うん、弦十郎さんをデートにお誘いするの。それで、勇気が出たら告白する、ってのでどうかな」

『デ、デート!?』

 

 突然の少女めいた単語に俺は顔から火が出そうになる。想像するだけで……おお……!

 俺は思わず硬い両手の指をもじもじと絡めてしまった。

 

『そ、そんな……デートなんて……』

「もう祭ったら変なところで弱気になっちゃって! そんなんじゃ、告白なんて遠い夢だよ! デートぐらいはすっと行けるようにならないと!」

『そ、そうか……うん、そうだよね……!』

 

 彼女の言葉が、だんだん説得力があるように思えてきた。そうだよね、デートぐらい行けないと、告白なんてできやしないよね……!

 

「おお、祭がやる気になってる! 凄い! これが恋の力!」

「ラブパワーデース! キュンキュンデース!」

「響さんと切ちゃんはちょっと黙ってて……」

 

 なんだかワイワイしている響と切歌ちゃんを調ちゃんがなだめている。

 ここで横道にそれるとまた軌道修正が大変そうなので、ありがたさを感じざるをえない。

 

『そうかぁ……デートかぁ……なら、いろいろと弦十郎さんに相応しいように頑張って自分を磨かないと……』

「師匠はあまりそういうの頓着しないんじゃない?」

『それでもなの! 少しでも自分を良く見せたいの!』

「ったく、そんなんだからお前はバカなんだよ」

「クリスちゃんひどいっ!?」

「ほらまた話がズレるからやめなさい。それで、具体的にはどうする? ファッションのことなら、少しぐらいなら私が力になれると思うけど」

 

 マリアさんが俺に言ってくれる。確かに、世界の歌姫として常に取材やテレビの脚光を浴びている彼女の言葉ならタメになるだろう。

 俺はマリアさんの言葉に深く頷いた。

 

『ありがとうございます。あとその……ちょっと自分でも変えてみようと思うことがあって』

「ふむ、それはなんだ?」

『その……自分の呼び方を、俺から私にしようかなって……』

 

 翼さんの言葉に、俺……もとい私は返した。

 

「一人称をか? どうしてまた?」

『いえその、この恋心を自覚してからというもの、俺っていう一人称はどうも粗暴すぎるかなって……もっと、女子らしくしたいなって』

「うーん、でも祭は祭のままでいいと思うんだけどなぁ」

『ありがとう響、でも、これは私の中でもう変えようって決めちゃってることなんだ。少しでもお……じゃなく私も女の子らしく、可愛らしく、なりたくて……』

 

 私はまだ慣れない自分の呼び方を口にし、気持ちを伝えた。

 思えば俺という自分の呼び方は、前世からの慣習での呼び方だった。でも、本当に女の子らしくなるなら、こういう自意識から変えていかなきゃダメだよね、と、私は思ったのだ。

 前世絡みのことだから、みんなにははぐらかして言ったけど。

 

「まあ、祭がそうしたいならそれでいいんじゃないかな。そうやって自意識から勇気をつけていくって大切だしね」

『うん、ありがとう未来……』

 

 さすが未来だ。私のことをちゃんと応援して肯定してくれている。他のみんなもそうすいてくれているけど、未来はレベルが違うというか、響を甲斐甲斐しく支えていた経験が生きているのを、なんとなく私は感じた。

 

「よし、これでどうやら祭の覚悟も決まったっぽいし、じゃあデートして、そこで盛り上がったら告白ってことだな! それじゃあみんなで考えようぜ、デートプランってのをよ!」

 

 クリスが不敵な笑みを浮かべながらみんなに言った。

 その言葉に、その場にいたみんなが目を輝かせる。

 

「ふむ、やはり叔父様のことだからデートプランに映画鑑賞は必須だろう。ただ、いつものようにアクション映画だと雰囲気が出るとかは怪しいな……」

「んーでもそこは相手の好きな映画を見たほうが盛り上がるし、変にジャンル違いのを見て失敗するよりはいいんじゃねぇか?」

「でも師匠って案外映画のストライクゾーン広いから大丈夫じゃない? 確かに家にはアクション映画ばっかだったけど……」

「そもそも女の子がエスコートするって何か違うような……今回はアプローチかける方ではあるけど……」

「調、それを言ったら今回の話が全部吹き飛んじゃうデース……」

「むしろ司令なら映画は心配することじゃないと思うわ。問題は、その他の行き先よ。司令が映画以外の事でどれだけ楽しめるか、いい雰囲気にもっていけるかを考えないと」

「そうですね。順当に雰囲気作りをしないと告白ってなりませんものね……難しいところだなぁ」

 

 みんなが思い思いのことを話し合う。

 その光景を見ながら、私は思わず笑顔がこぼれた。

 私にはこんなにも想ってくれるたくさんの友人がいる。それがとても嬉しかったから。

 それから、私のデートスポットに関する話し合いは、その日の深夜まで行われたのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 翌週。

 私は駅の広場の前で今か今かと時計を見ていた。

 

『さすがに、二時間前は早すぎたかな……』

 

 みんなが私のために思い悩んでくれた翌日、さっそく私は弦十郎さんをデートに誘った。

 すると、二つ返事で弦十郎さんは了承してくれた。弦十郎さんはどうやら私の事を気にかけていくれていたらしく、私からこうした申し出があったことをとても喜んでくれた。

 まずそれがとても嬉しく、私は小躍りしそうになった。だがそれをぐっとこらえ、私は弦十郎さんに都合のいい日を聞いて、お昼に駅前で待ち合わせることにした。それが今日というわけだ。

 正直、今日まで私はロクな睡眠ができない日々が続いた。だって、楽しみすぎたんだもの。

 こうして二時間前に来たのもその証拠だ。ああ、早く時間が過ぎて欲しい。

 ちなみに、デートすると決めてから一姫のことを夢で見なくなった。心境の変化が影響しているのかは知らないが、デートまでの日々に水を差されなくてよかったと思っている。

 私は再度時計を見る。まだ先程から五分も経っていなかった。

 

『うう、時の流れが遅い……』

 

 私はまるで焦らされているかのような気持ちになる。早く来たのは自分なのに、さすがに馬鹿らしいか。でも、それでも来たかったんだからしかたない……よね。

 

『ああ、早く約束の時間になって欲しいな……』

 

 そんなことを思って、私は悶々と時間が過ぎるのを待ち続けた。そうして、やっと一時間の時が流れた、そのときだった。

 

「ん? おーい祭君!」

『えっ!? あ、はい! 弦十郎さん……!』

 

 約束の時間よりも一時間早く、弦十郎さんがやって来てくれたのだ……!

 私は小躍りしたくなった気分を抑え、弦十郎さんの元へと駆けていく。

 

「ずいぶんと早いな祭君、もしかして、待ったかい?」

『い、いいえ! 今来たところです!』

 

 漫画やドラマでよく聞いたフレーズだけど、まさか自分が言うとは。

 こんなこともあるものなんだなと、しみじみ私は思った。

 

「そうか。本来は俺のほうが先に待っていなければならなかったのに、先を越されてしまったな」

『いいえ、偶然私が先についたみたいなものですから、おかまいなく!』

「そうか。ならそうしよう。それにしても、随分と可愛らしい服装だな。俺も普段のままの格好じゃなく、もっと気合を入れてくるべきだったか」

『えっ!? あっ、ありがとうございますっ!! 弦十郎さんはそのままでも素敵ですよっ!』

 

 私は若干機械の声のトーンを上面せながら言った。

 今の俺の格好は、上は縦のラインが入ったセーター、通称縦セーター、下はロングのスカートといった姿になっている。

 選んだのは私自身だ。と言っても、マリアさんのアドバイスを受けて、だけれど。

 それが褒められたのだから、とても嬉しい。

 

「ははっ、ありがとう。それじゃあどうしようか? 予定では、まず昼食を取ることになっていたが……」

『え、ええ。そうですね。じゃあ少し早いですけど、お昼ごはんにしましょう』

「ああ、そうだな」

 

 弦十郎さんは私の提案に笑顔で頷いてくれた。

 こうして始まったのだ。私にとっての、一世一代の大勝負が。私は義手をギュッと握りしめながら、弦十郎さんと一緒に足を踏み出した。

 

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