【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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上を向いて歩こう

 その日、響と未来は落ち着かない様子で教室の一角に集まっていた。

 

「まだ来ないね……」

「うん……」

 

 二人がせわしなくしている理由、それは、先日想い人に告白をし、その想い叶わなかった少女、祭の事だった。

 先日、他の装者達が二課に集まり報告を待っていると、響に一本の電話がかかってきた。

 その電話の相手は祭で、響が電話を取ると、ぐずぐずな鳴き声が混じった声でこう伝えられた。

 

『ごめん……ね……私、フラれちゃった……みんなには……報告しないとって……私……』

 

 祭はそれだけを言うと電話を切り、その後響達が何度電話をかけても応答しなかった。さらには同室のクリスが寮の部屋に帰ってみても彼女は帰っていなかった。

 そんな状態のまま時間が流れ朝となり登校日となったのだから、響達七人は心配で気が気でなかった。

 部屋に戻らないまま、学校にもまだ来ていない。もしかして、失恋のショックで早まった気を起こしたのでは……とすら考えてしまうほどであった。

 しかし祭に限ってそんなことはないと、響達は信じて、こうして今も学校で祭を待っているのだ。

 

「祭……大丈夫だよね……」

「だ、大丈夫だって未来! 祭だもん! 命の大切さは良く分かってるはずだって……」

 

 二人が不安げな声で喋っている、そんなときだった。

 

『おはよー! 二人共!』

 

 二人の背後から、突如特徴的な機械音声が聞こえてきたのだ。

 間違いない、祭の声だ! と二人はとっさに振り向く。

 そこには、やはり祭がいた。ニコニコとした笑顔で、元気よく片手を上げた状態で。

 

「祭!? 大丈夫だったの!?」

『え? ああごめんごめん、昨日は電話しちゃったあとそのまま寝ちゃって……それで今まで連絡し忘れてこんな時間になっちゃった』

 

 響の言葉に祭はあっけらかんと返す。だが、二人は納得できない。

 

「寝てたって……どこで!? 部屋には戻ってなかったってクリスが……!」

 

 未来が聞く。彼女の質問に、祭はバツが悪そうに頬をかいた。

 

『あーそれなんだけど……公園のトイレで座ったまま、ね。うう、恥ずかしい……』

「トイレでって……」

『ああでも! 幸い風邪とかは引いてないみたいだから! いやぁ幸運だったよこの寒い時期に! 私ってツイてるのかなーハハハ!』

「祭……でも……」

『ま、心配かけたけどもう大丈夫! 一晩ぐっすり寝て私はすっかり元気になったから! だからほらほら! もうそろそろ授業始まるし席に座ろう?』

「あ、ちょっと祭!?」

「わわわわ!?」

 

 慌てる二人にお構いなしと背中を押して席へと連れて行く祭。

 そうやって彼女に押されながらも響と未来は顔を合わせ無言でお互い思ったのだった。

 まだ、全然大丈夫じゃない、と。

 しかし、だからといって今の彼女にかけてやる言葉を、すぐには出せないのも二人の現実であった。

 

 

『いただきまーす!』

 

 お昼。祭は屋上にて購買で買ったパンを広げていた。そこには当然響と未来もおり、さらには翼とクリスもいた。

 四人とも、元気な顔をしてパンを頬張る祭を怪訝な顔で見ている。

 が、普通の戦いならいざ知らず失恋を経験した女子相手にどう接すればいいか四人の中でもなかなか答えがでないのか、しばらくの間沈黙が続いていた。

 

『ん? どうしたのみんな? 食べないの?』

「え!? あ、ああ! 食べるとも! なあみんな!」

「へ!? は、はいっ! 食べますとも! この立花響がご飯を食べないなんてそんなことありえませんよ! 翼さん!」

「ったく、飯のことに関しちゃ本当に元気になるなこのバカは! なあ!」

「……え!? あ、う、うんそうだね! まったく響ったら……」

 

 四人とも大げさに笑いながら祭の言葉に答え、弁当や購買で買った食べ物をそれぞれ広げる。

 そうして五人での食事が始まったのだが、祭を覗いた四人はとてもではないが食事の味を美味しく感じることができなかった。

 

『あ、響! その唐揚げ美味しそう! 未来のお手製かな?』

「う、うん。晩ごはんのあまり温めただけどね」

『いいなぁ、もらってもいい?』

「い、いいよ……」

『ありがと!』

 

 そういい祭は素手で唐揚げをつまみ、自分の口に放り込む。すると、またオーバーに体を縮こめ、伸ばしてリアクションを取って美味しさを表現した。

 

『んー、未来の料理は昨日の残り物でも美味しいね! さすが未来』

「あ、ありがとう。でも、残り物って言い方は余計だよ」

『あ、そっか。ごめんごめん、へへへ』

「は、はははは……祭ったら……」

「ははは……」

「ふ、ふふ、まったく弓弾ときたら……」

 

 引きつりながらも合わせて笑う響、未来、翼の三人。だが、一人だけ笑っていない者がいた。

 

「…………」

 

 クリスである。

 彼女は、渋い表情で祭を見ていた。

 その視線に、祭も気づく。

 

『ん? どしたのクリス? 惣菜パンハズレだった?』

「……いや、それよりお前さ……」

 

 クリスはそこで一瞬言葉を詰まらせる。だが、意を決した表情になって祭を見て、彼女に詰め寄り胸元を掴んだ。

 

「いい加減にしろよ……!」

「クリス!?」

「クリスちゃん!?」

「雪音!?」

 

 三人も驚き立ち上がる。だが、クリスの様子は変わることはない。

 

『ちょ、クリス!? 一体何がどうしたの……?』

「何がどうかしたじゃねぇ! 下手な無理するんじゃねぇっつってんだよ!」

 

 そのままクリスは掴んだ胸元を放さないまま祭を押し出して屋上を囲うフェンスへとぶつける。その拍子に、祭が持っていたパンが地面にポロっと落ちる。

 

「落ち込んだら落ち込んだって素直に白状しろや! あからさまな無理されるとこっちが気を使って大変なんだよ!」

『……別に……む、無理なんて……』

 

 掴まれ息がうまく出来ない状態でも、祭はニヤニヤと笑みをたたえながらクリスに言う。だが、それがクリスの怒りに触れることとなった。

 

「だから! そういうのをやめろっつってんだよ!」

 

 ガシャン! というフェンスの音がする。祭が再度フェンスに押し付けられたことによる音だった。

 

『う……苦し……』

「ちょ、ちょっとクリスちゃん! もう少し緩めてあげて!? それじゃあ祭も言いたいこと言えないって!」

「そうだぞ雪音! お前も少しクールダウンしろ!」

「あ!? ……ああ、そうだな」

 

 響と翼の二人に諭され、クリスは掴んでいた手を放して祭をフェンスに押し付けるのを止める。

 それにより開放された祭は、ぎこちない笑みを浮かべクリスを見る。

 

『あ、ありがとう……でもクリス、私、無理なんか……』

「ああ!? まだ言うかよ!? してるっつってんだよ! じゃなかったらその不自然なハイテンションはなんなんだよ気持ち悪ぃな! そういうキャラじゃねーだろお前は!」

『そ、それは……』

「おっさんにフラれて辛いのは分かるさ! でもよ? だからってアタシ達の前でまで無理して平静を装う必要はないっつってんだよ! 一緒に戦ってきた仲だろ!? ならよ、曝け出せよ、仲間の前でぐらい、自分の本音をよぉ!」

 

 激しく、かつ熱く自分の気持ちをぶつけるクリス。それを見て、翼や未来、そして響は一瞬ハっと空気を飲むようにし、その後、それぞれ頷き合い、祭の方を見て、口を開く。

 

「祭……私も、祭には本音を聞かせてほしいよ……」

「そ、そうだよ! 祭が辛いときは、私達も一緒になるから!」

「ああ、立花と小日向の言う通りだ。弓弾の心を、私達に開いてほしい……」

『…………』

 

 みんなの熱い視線と言葉を受けた祭。それに対し、彼女は、

 

『……うるさい。うるさいうるさいうるさいッ! みんなに、何が分かるって言うんだ!』

 

 怒りで、反応した。

 

『ただ失恋しただけならここまで私もならないよ! でもさ、私には結局何もないことを思い知らされたんだよ!? 夢も、恋も! それも、誰も悪くない、私が悪い形で! 結局ずっとただの独り相撲だったことを改めて思い知らされた、私の気持ちが分かるっていうの!?』

「分からないよっ!」

 

 激しく声を荒げ、髪を見出しながら言う祭に答えたのは、響だった。

 響は、今にも泣きそうな顔で、しかししっかりと芯の通った声で祭に叫んだ。

 

「分からないよ! 言ってくれないと! 私達は人間だ! ノイズじゃない! だから言葉が通じ合う! でも、それはこうして話さないとダメなんだ! だから、言ってもらわないと分かんないよっ!」

 

『……っ! それは……そんなの……そんなの……!』

 

 響の言葉に窮する祭。響の言葉が通じている。その証拠だった。

 

『…………その、私――』

 

 そして、何かを言いかける祭。そのときだった。

 ジリリリリ! とその場にいた五人の持っている端末すべてに同じ音が鳴り響いたのだ。

 それは、二課からの連絡音だった。

 

『みんな! ノイズが現れた! 相当な数だ! 場所はG地区の四九ポイント! 既にマリア君達が先行している! みんなも――』

 

 端末から響いてきた弦十郎の声。その声にいち早く反応したのは、祭だった。

 

『――っ!! ************ッ!』

 

 祭はその声を聞くやいなや、すぐさま外異物をまとい、大きく屋上から跳ねたのだ。

 

「あっ、祭っ! 待って!」

「弓弾を一人で行かせるな! いくぞみんなっ!」

「おう!」

「は、はいっ!」

 

 その後を、他四人の装者も追う。

 

「なっ!? 早いっ!? 待って、祭!」

 

 しかし、祭の速さは尋常ではなかった。明らかに今まで出したことのない速度で空を飛び、四人を突き放していったのだ。

 

「チクショウ! おい! ミサイル出すからみんな乗れっ!」

 

 クリスはそう言って空中でミサイルに向け発射。その上に全員で乗って、祭を追いかける。

 だが、その速度にとてもではないが追いつけない。その速さはまるで――

 

「まるで、風鳴一姫みてぇな速さじゃねぇか……」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 それからしばらくして、四人はやっと戦場へとたどり着く。

 だが、そこにいたのは立ち尽くすマリア、調、切歌の三人と、少し離れた、うっすらと灰の漂う場所の中心で両手を広げ、目をつむりながら天を仰ぐ祭の姿があった。

 フォーン……という、美しく鳴り響く音と共に。

 

「すまぬ遅れた! 戦況は!?」

「……えっ!? あ、翼……!」

 

 翼がマリアに聞く。それに、マリアは一瞬遅れた反応で答えた。

 

「それがその……ここにいたノイズの大群を、彼女が一人で、殲滅してしまったの……」

「なん、だと……!?」

「ええっ、祭が一人で!?」

 

 驚愕する翼。そして響達。

 そんな彼女らにマリア達は頷き、さらに説明する。

 

「もう凄かったデース! 突然すごい速さでやってきたと思ったら、次々と音でノイズを吹き飛ばしていったデース! まさに音速の戦いデース!」

「戦いに鬼気迫るものがあった……でも……その最中、祭さん、笑ってた……」

「笑って、た……?」

 

 調の言葉が解せぬ未来。

 彼女はそのまま疑問を抱いた状態で、そっと祭に近づき始める。

 そこで気づく。先程から鳴り響く音は、彼女から出ていることに。そして、天を仰ぐ祭が、幸せそうな顔をしていることに。

 

「……祭?」

『……ああ、未来。話には聞いていたけど、ちゃんと装者として戦っているんだね』

 

 祭が首だけを未来に向け、恍惚とした表情で未来に返す。その顔に、どこかおぞましさを感じながらも、未来はそんなはずないと自分の考えを否定し祭に答える。

 

「う、うん。祭達が助け出してくれた後、フィーネさんから調整を受けさせてもらったから……」

『そう。でももう、未来は戦わなくていいよ。だってすべてのノイズは、私が倒すんだから』

「……え?」

 

 祭の言葉に、驚愕を隠せない未来、そして六人。祭はそのままその場で両手を開いたままくるくると回転しながら話し始める。

 どこか狂った、彼女の考えを。歪な笑みで。

 

『私ね、気づいたんだ……もう私には、戦うことだけが唯一、私を表現できることだって……この姿になっているときには、こうして手や喉が関係なく、音を出すことができるんだって……だったら、私はずっとこの姿でいる。ずっとこの姿で戦っている。そうすれば、私は私の夢にまだすがりつける……』

「ま、祭、何を言って……?」

『ああ未来、聞こえるだろう? 私の体から鳴り響く旋律を。こんな綺麗な音、今まで出せたことはなかった。でも、こうすれば私はいつでも音を奏でることができる。私が私であることができる。だから、私は戦い続けるんだ。永遠に、ね』

「この……大馬鹿が!」

 

 それに怒りを示したのはクリスだった。他の六人も、それぞれがそれぞれの表情をしながらも、どれも祭を止めたいという意思で共通していた。

 

「さっきお前が言ったように、確かにお前は全部失ったのかもしれねぇ! でもよ! だからってそんなやけっぱちになる必要なんてねぇんだよ! 頭冷やせこの大馬鹿!」

『……クリスにはわからないようだね、この音色の良さが。それに、それを除いたってもうダメなんだよ。こうして戦い続けないと、もう私はダメなところまで来ちゃっているみたいなんだ……』

「それは、どういう……!?」

『さあ、どういうことだろうね。……ああ、次のノイズが来る気配がする……さようなら、みんな。みんなと一緒にいれて、楽しかったよ』

 

 翼の言葉にはぐらかしながら答えた祭は、笑みを浮かべたまま、突如その場の空間を『割った』のだ。

 文字通り、目の前の空間をガラスのように、である。そして、そこに入って彼女は消えていった。

 彼女が入った途端、空間は何事もなかったかのように修復されたのだ。

 そうして、唖然とする七人を残して、その日以来、弓弾祭は装者、そして二課のメンバーの前から姿を消した。

 彼女の身に何があったのかという、謎を残して。

 

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