【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
「師匠!」
「叔父様!?」
「おっさん!?」
突然の弦十郎の登場、それに装者達は驚きを隠せなかった。一方で弦十郎は、凛々しい表情で彼女らに振り向く。
「大丈夫か、みんな!」
弦十郎は装者達に駆け寄ると、集まった彼女らの顔をそれぞれ見ながら言う。
「はい!」
「な、なんとか……」
だが、その声に反応できているのは耳をやられていない響と未来だけだった。
それを、彼は様子から察する。
「む、耳をやられているのか、ならちょうどいい……みんな、これを飲むんだ」
そう言って弦十郎が取り出したのは細いガラス瓶に入った青色の液体だった。液体は曇天の中暮れてきた夕日に照らされ怪しく輝いている。
「……?」
「いいか、こう飲むんだ」
装者達は不思議に思いながらも、弦十郎が身を持って飲む姿に従って後を追うように飲む。
すると、それまで装者達の負っていた傷がみるみるうちに治っていったのだ。
「こ、これは……!? あ、耳も……!?」
翼が驚愕する声を上げる。他の装者達もまた、驚きを素直に顔と声に出した。
「凄い……!」
「どうなってんだ、これ!?」
「これはエリクサーと言ってな、了子君とエルフナイン君がそれぞれの知識を合わせて作り上げた回復薬らしい。ご覧の通り、効果は絶大だ。故に、連続での使用はあまり進められないらしいがな」
「なるほど……ありがとうございます、叔父……司令」
「ああ、気にするな。それより……」
「ググ、ガガ……」
弦十郎の視線は、先程吹き飛ばした祭のほうへと向かう。そこには、瓦礫を押しのけ立ち上がろうとする祭の姿があった。
その姿を見て、装者達は再び臨戦態勢を取る。
「いいかみんな、全力で彼女に当たるぞ。それこそが、彼女を元に戻す術だと、了子君が言っていた」
「そうなんですか!? じゃあ、祭は……!」
「ああ、可能性は低いが、ないわけではないらしい。それこそ、シンフォギアの歌の力が必要らしいが」
「シンフォギアの……?」
響は自分の体を見下ろしながら触れる。
宿ったときは戸惑いしかなかった力。だが、今その力は大切なものを取り戻すための力でもある。
そう思った響は、一瞬瞳を閉じ、そして、再び開いたときには強い意思の力をその目に宿していた。
「やります、師匠! 私達の力で、祭を救いましょう!」
「ああ、その意気だ響君! 俺も全力でサポートする!」
「司令がいれば百人力です!」
翼が嬉しそうに言う。その言葉に、弦十郎は男らしい微笑みで返した。
「ふっ、言ってくれるな翼。……さあ、いくぞ!」
「「「「「「「了解っ!」」」」」」」
「シャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そうして、装者達は駆ける。咆哮を上げる祭に向かって。そして響く。装者達の力強い歌が。
「そうだ、歌えみんな! 君達が歌うことで、彼女の音による空間干渉を相殺できる!」
弦十郎が叫ぶ。その言葉通り、装者達が歌いだしてからと言うもの先程から悩まされていた祭の“音”が飛んでこなくなった。
「ふんっ!」
祭の懐に飛び込む響。そして、彼女の拳が巨大な祭の体躯における腹部へと伸びる。
「はああああああああっ!」
「シャッ……!?」
それは祭に確実なダメージを与えたらしく、そのとき初めて祭が悲鳴を上げた。
「まだまだっ!」
そこに、翼が上空から現れて剣を構える。そして――
【蒼ノ一閃】
巨大な青い斬撃を、祭に向かって飛ばした。
「ガギッ!?」
その斬撃は、響の拳で吹き飛んだ祭に直撃し、吹き飛んでいた彼女を地面に叩きつけた。
彼女らの攻撃はさらに止まらない。
「くらいやがれ、このバカっ!」
【MEGA DETH FUGA】
今度はクリスから地上に叩きつけられた祭に向かってミサイルが仕掛けられる。
そのミサイルは見事に祭に直撃し、爆発。着実なダメージを彼女に与える。
「ガ、ガガガ……!」
しかしそれでも祭は立ち上がる。
長い手を揺らしながら、目がないはずの相貌から睨まれたかのような印象を与える顔の動きを装者達に見せる。
そして、素早い動きで装者達に接近しその腕で彼女らを薙ぎ払おうとする。
だが――
「させないっ!」
「デース!」
それを調と切歌の二人が武器を使って防ぐ。更に、その腕を大きく弾き飛ばし、また二人で上空にジャンプして攻撃の態勢に移る。
「正気にっ!」
「戻るデース!」
【禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN】
調のヨーヨーに切歌の鎌が合体し、巨大な刃のついた車輪が完成する。そして、それとともに二人は祭へと突撃した。
「「はあああああああああああああっ!!」」
「グギッ……!?」
なんとか二人の突撃を両腕で防ぐ祭。だが、勢いを殺しきれず腕を弾かれ刃が体を襲い、再び祭は吹き飛ばされる。
「そこっ!」
吹き飛んだ祭を追撃しにいったのはマリアだ。彼女は素早く祭へと向かって駆け先回りする。
【HORIZON†CANNON】
そして、放つ。ほぼゼロ距離からの高エネルギー射撃を。
「ギャッ……!?」
それにはさすがの怪異物の体も悲鳴を上げたのか、祭は刹那に声を上げたかと思うと防ぎきれないダメージに大きく体を焼かれ、その場に膝をついた。
「祭……元に戻って!」
【混沌】
さらなる追撃が祭に襲いかかる。未来の神鏡獣から放たれた数多くの鏡にビームが反射し、集中して祭を焼いたのだ。
「ガアアアアアアアアアア!?」
それにはたまらず祭も大きな悲鳴を上げる。彼女は今確実に弱っていた。
「ハアアアアアアアアアアアッ!」
そこに、トドメと言わんばかりに弦十郎が突撃する。弦十郎は、膝をついていた祭を蹴り上げ、そして、
「ふんっ!」
空中に飛び、今度は地面に向かって蹴り落とした。
「ギッ!? ギギッ!?」
あからさまな悲鳴を上げ地面に叩きつけられる祭。
一方で、装者達は降り立った弦十郎を中心に結集していた。
「ここまでやれば、さすがに……!」
「いや、まだだ!」
未来の期待するかのような言葉を、弦十郎が制止する。
彼女らの見る先、地面に叩きつけられ倒れていた祭は、再度立ち上がったのだ。そして――
「***********************――ッ!!!!」
かつてないほど大きな“音”を発し始めたのだ。
「っ!?」
それには装者達の歌もかき消され、大きな衝撃波が彼女らを襲った。
更にそれだけではない。
『っ! みんな、聞いて!』
フィーネの焦った声が全員のギアを通して聞こえてきたのだ。
『弓弾祭は最後の手段に出たわ! 自分の体の負担をいとわない強烈な空間干渉よ! このままでは、空間が歪められ巨大なブラックホールが生まれ地球が……いえ、太陽系が消滅するわ!』
「ええっ!? そ、そんな!? じゃあ、どうすればっ!!」
『もう一度、あなた達の歌を束ねなさい! 胸から響く、ありったけの歌を! 全力で!』
フィーネのはちきれんばかりの声が装者達に届く。その声を聞いて、彼女らは頷き合い、お互いに手を繋ぐ。
「みんな……歌おう! 祭を、助けるための絶唱を!」
響が言う。そうして奏でられる。装者七人の、魂の歌……始まりの歌を。
『託す魂よ、繋ぐ魂よ、天を羽撃くヒカリ、弓に番えよう……何億の愛を重ね、我らは時を重ねて、原初の鼓動の歌へと、我らは今還る……』
響を中心に束ねられる歌。
天へと昇る詩。
大切な友達を思い紡がれる唄。
その想いが、祭の発する滅びの“音”をかき消していく。
「いいぞみんな! さあ、行くぞっ……! 支配を奪い、解き放てっ!」
歌が奏でられる中、弦十郎が言う。
彼の言葉に合わせ、装者達は頷く。そして、発つ。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!」
八人が、行く。光りに包まれた八人が、往く。
そうして巨大な光となった八人は、怪異物となった祭を、貫いた。
◇◆◇◆◇
美しい夜空に、星が流れる。
その日は流星群が流れる日だった。天から堕ちくる星々の下、彼女、弓弾祭は瓦礫の中、生まれたままの姿で倒れていた。
「祭っ!」
そんな彼女の元に集うは彼女の友人達。叫ぶのは第一の親友、響。
祭はその声を聞いてうっすらと目を開ける。
「ひ、びき……」
「祭……! よかった、戻って、祭……!」
響は祭を抱き上げ、ぎゅっと力強く抱いて涙を流しながら言った。
「……私、声が……」
祭はそんな中で自分の喉を撫でる。その喉も、撫でる手も、元の彼女自身のものに戻っていた。
それを知った祭は、おぼろげな視界で見る。自分を戻すために奮闘してくれた仲間達を。そして、未だに恋い焦がれている、想い人の姿を。
「祭君……」
「げん、じゅうろう、さん……みん、な……」
その場にいたみんなが、祭の姿を見て安心した顔をする。だが、祭は違った。
彼女は一人悟ったかのような表情で微笑み、そして言った。
「ねぇ、みんな……私の最期のお願い、聞いてくれる……?」
「……え?」
祭のその言葉に、その場にいた全員が表情を凍らせる。
「……ま、祭……最期って、どういうこと……?」
「……私の命、残り少ないみたい……だから、お願い、聞いて欲しいの……」
「そ、そんな……そんなことって……師匠!? フィーネさん!?」
響は叫ぶ。聞かれた弦十郎だったが、彼もまた困惑した表情をしていた。
「どういうことだ……もしや、最初から……!? 了子君!」
『……ごめんなさい。彼女の命を伸ばすことができても、救うことはできない。それは、最初から分かっていたことだったの』
無線越しから聞こえる、フィーネの申し訳無さそうな声に、その場にいた全員が絶望した表情を見せる。
だが、ただ一人、祭だけは穏やかな表情を見せていた。
「ねぇ……みんな……」
「やだよ! 最期だなんて! そんなの認めない! 祭は、また私達と一緒に元気に学校に行くんだ! また私達に、ギターを聞かせてくれるんだッ!」
「……ごめん、それは無理みたい。だから、せめて聞いてほしいの。私の……歌を……みんなに……」
「歌……?」
響が聞く。その言葉に、祭は微笑んだ。
「うん、私の、歌……私の夢……最期に叶えさせて欲しいんだ……」
「……うん! ……うん……わかった、よ……!」
「ありがとう……じゃあ、歌うね……私が、一番好きな歌……」
泣きながら頷く響。そうして、祭が歌う。彼女が最も愛した歌を。
「……
Sing。カーペンターズの往年の名曲。それこそが、彼女の愛した歌だった。
「
彼女は歌い続ける。
シンプルで、しかし奥深く、美しい歌を。
「……ありがとう、みんな。聞いてくれて。みんなの前で歌いたいっていう、私の夢、叶えられた……」
そして彼女はある程度歌うと、途中で止めてみんなに笑顔を見せた。
「祭……うっ、うわあああああ……!」
響は耐えきれず泣き始める。響だけではない。未来も泣き、調や切歌も泣いた。翼、クリス、マリアは泣きはしなかったが、悲しみに沈んだ表情を隠さなかった。
「……弦十郎さん」
その中で、唯一険しい表情を崩さなかった弦十郎を、祭は呼んだ。
「……なんだ」
「こっちに、来てくれますか……」
「……ああ」
弦十郎は呼ばれたまま祭へと近づき、そして、彼女のために膝を下ろして顔を近づける。
すると、そのときだった。
「っ!?」
祭が、両腕で弦十郎の首に手を回し、そのまま頭を上げて彼の唇に自分の唇を重ねたのだ。
「祭、君……!」
「……へへ。ごめんなさい。でも、できれば、この想い、最期の最期でいいから、遂げたかったの……わがままだよね、私……」
「そんなことない、そんなこと……!」
弦十郎は必死で言う。その弦十郎の顔を見て、祭は満足そうに笑った。
「……ああ、きっと私は、この恋を知るために、この世界に……」
そこまで言って、祭の両腕から力が抜け、だらりと地面に垂れた。
「……祭?」
響が祭に問いかける。だが、彼女の顔は、満足げに眠るように瞳を閉じていた。
「……祭いいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
響の慟哭が、星空に渡り響いた。
次回、最終回です。