【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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 ――アウトサイダー事変における私見 櫻井了子

 

 このレポートはアウトサイダー事変(外異物を取り巻く一連の事件の名称)における私見をまとめたものである。個人的な総括のために記述しているもののため、他者が許可なくこのレポートを見ることを禁ず。

 今回の事変においては、ひとえに「外からやってきたモノ」によるこちらの世界への干渉が引き起こした惨劇というのが簡潔なまとめとなるだろう。というのも、外異物「エーリッヒ・ツァンのヴィオル」「偉大なる種族のペン」そしてその適合者たる弓弾祭、風鳴一姫は本来こちらの世界の存在ではなかったと仮定することができるからである。

 その理由として、まず外異物がこちらの宇宙の理論からまったく外れた存在であることが大きい。こちらの宇宙の理論には当てはまらない現象を起こし、かつ異端技術、埒外法則と呼びうるものですら発生しえない数値(資料1に記述)を検出させる外異物は、未だ人類が観測しえていない外なる次元、外宇宙からもたらされたものと考えるのが妥当である(これに関しては多次元世界への連結を可能とする完全聖遺物ギャラルホルン、また神なる存在と言われるアヌンナキのデータが裏付けとなる)。

 そして、それら外異物が適合者として選ぶ人間もまた、異なる次元、または宇宙からの来訪者であると考えることができる。これは、風鳴一姫がその力により観測した自らを「外なる異物」と称したのが糸口となっている。これらの情報から推察するに、宇宙の歴史、また次元においては根幹となる「本流」とも言うべきものが存在し、そこから歴史が枝分かれしているのではなかろうか。そして、外異物の適合者となった彼女らは、その「本流」にはまったく存在していない、外異物と同等の外なる要素の一つであったのではないだろうか。

 もちろんこれはあくまで仮説に過ぎない。だが、現状外異物とその適合者を説明するにおいて、これ以上の説明をしえないのも事実である。

 また、ここからはその仮説を元に飛躍させた考えであるが、外異物が何らかの悪意をもって適合者達に接近したと見ることができる。というのも、外異物が適合者の極度の精神衰弱、いわゆる絶望の状態に陥った際に適合者の肉体を変質させ、怪異物へと変貌させた事例は、あまりにもできすぎていると言わざるをえないからである。

 風鳴一姫の場合、外異物の力により「本流」を観測し自らが外なる要素であることに絶望し、今回の事変の引き金を引いた。それは、もともとそうなるように外異物を送り込んだ何者か(どのような存在かは断定できないが、ここでは便宜上“者”とする)による作為があったのではないかと私は推察する。自らのアイデンティティの喪失は、自己の精神の崩壊にたやすく繋がるのは容易に想像ができる。

 ではなぜ同じく外異物で「本流」を見たはずの弓弾祭が上記によるアイデンティティの相殺を起こさなかったのか、であるが、これもあくまで根拠の薄い仮説であるが、彼女は元から自分が外なる要素であることを知っていたのではないのだろうか? ゆえに、風鳴一姫の外異物を通じた干渉(私はこれを“悪意の伝染”と呼んでいる)があるまで、精神の崩壊に至らなかったのではないだろうか?

 これら以上のことはすべて確定的な根拠のない仮説であるが、現状私にとってこれ以外の仮説を立てることはできないと思っている。

 今回の事変は大変に興味深い。もし私が仮定したように外なる存在の驚異が存在するのならば、私達人類は、お互いにいがみ合っている場合ではないだろう。先史文明の存在である私も、現在竜宮の深淵に投獄されている二名においても、また、未だ姿を見せていない錬金術師の一党、パヴァリア光明結社も、そして、当然シンフォギア装者も、そのすべてが力を合わせなくてはいけない日が、いずれ訪れるかもしれない。空間に干渉する外異物のデータを用い、バビロニアの宝物庫にいるノイズを駆逐できつつある今、それはいずれ急務となるだろう。

 その道程が過酷なことは重々承知している。だが、この事変を、彼女らの犠牲をただの惨劇にしてしまわないためにも、我々は団結せねばなるまい。それが例え、バラルの呪詛を人類に課したあの方の意に反することになったとしても……。

 

〈レポートの下に小さく走り書きがされている。後から自筆で付け加えられた模様〉

 

 最後は感傷的になりすぎたわね、私らしくもなくて笑っちゃうわ。後で弦十郎君にスイーツでも買わせて気分を入れ替えること。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 一年後――

 

 

「…………」

 

 弦十郎は、寂れた墓地の中にある一つの墓石に手を合わせていた。その墓石には名前が刻まれていなかったが、写真の入った額縁だけがひっそりと置かれていた。

 その額縁の中に映っていたのは、祭だった。彼女の、いつ撮ったとも分からぬ写真が収められていたのだ。

 弦十郎は、そんな墓石に対し、ずっと手を合わせ、瞳をつぶり続けていた。

 

「叔父様」

 

 そんな彼の後ろから話しかける者がいた。翼だ。

 弦十郎は翼の声に気づくと、ゆっくりと立ち上がり振り返る。

 

「翼か」

「今日もここに来られているのですね」

「ああ、俺にできるのは……こうして彼女に手を合わせることぐらいだからな」

「叔父様……」

 

 翼はどう声をかけていいのか分からず、言葉を失う。

 対して弦十郎は、ポケットに両手を入れて、空を仰いだ。

 

「なあ翼……夢とは、なんだろうな」

「え?」

 

 突然の弦十郎からの質問に、翼は思わず声を上げる。一方で、弦十郎は空を仰いだまま喋り続ける。

 

「俺はな、昔からずっと風鳴の防人として、この国を、人々を守るために生きてきた。趣味で映画をたくさん見たりはしてるが、将来映画監督になりたいなんかとは思わず、ずっとこの国のために生きていくもんだと思っていた。だが、彼女は違う。彼女は、一人の少女として、ミュージシャンを目指していた。歌えなくなってもその夢を諦めず、進もうとしていた。でもだ、その夢を、俺は戦いに巻き込むことで潰してしまった。それだけでなく、彼女の命も……なあ翼、俺は、彼女に何かしてあげられたのだろうか。彼女をただ苦しめただけなんじゃないだろうか。俺は――」

「――満たされること、ではないでしょうか」

 

 翼は弦十郎の言葉を遮るように、大きな声で言った。今度は弦十郎が翼のその言葉に驚き、顔を翼に向けた。翼は、そんな彼の顔を見ながら言う。

 

「夢とは……夢が叶うとは、満たされることではないかと、私は思います」

「満たされる、こと……?」

「はい。例えば昔の私は、ずっと奏と歌い続けることが夢でした。そして、奏と一緒に歌っている間は、その夢が叶っていて、私の心も満たされていた。もちろん、今歌うのも楽しいです。ただ、今の私の夢は世界に羽ばたき歌うことだから、まだ完全には満たされていない……夢とは、心がそうやって目指したもの、ああなりたい、こうなりたい、こうしたいと望んだものを叶えて満たされるものの事を言うのではないでしょうか」

「満たされる、もの、か……」

「はい。そして、弓弾は、みんなの前で歌いたいという夢を、最後の最後に私達の前で叶えました。そして、叔父様、あなたへの想いも……。私には、あのときの弓弾の顔は、とても満たされていたと思うんです。そう、まるで、あのときの奏みたいに……」

 

 翼はそこで言葉を切る。その顔は、奏のことを思い出したせいか、それとも祭の最後を思い出したせいか、どちらかは弦十郎には分からなかったが、ともかく、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「……ごめんなさい。こんなのただの自己弁護の言い訳ですよね。ただ、死んでいった者達が最後に夢を叶えて満たされたなんて、自分勝手な思い込みを……」

「……いや、そんなことないぞ」

 

 そこで、弦十郎は翼の肩にポンと手を置いた。その弦十郎の顔を翼が見上げると、そこにはいつもの頼れる弦十郎の顔があった。

 

「そんなことない。彼女達は、最後の最後で笑っていたんだ。笑うってのは、辛く苦しい感情から来ることもあるっちゃあるが、俺には彼女の笑みがそんな笑みだったとは思わん。奏もだ。彼女らは、そんな嘘をつけない子達だったからな。彼女らの魂が、最後に夢を叶えたと思うこと、それの悪いことなんて、なんにもないはずだ」

「叔父様……!」

「すまなかったな翼。しばらく俺らしくなかった。俺も、またちゃんと前を向いて進まないとな。もちろん、彼女の事を忘れずに、だがな」

「はい! 私も、心は常に奏と一緒です……!」

「ああ、そうだ。俺達の魂の中に、彼女らの魂も生きているんだ。それを背負って生きていくことが、俺達にできることだ!」

「ええ……! ……あ、そうだ叔父様。今日はリディアンの学園祭の日なんです。私は卒業しましたが、今日のステージの中に見に行きたい者達がいるので、一緒に行きませんか?」

「見に行きたい……となると、つまりは――」

「ええ、立花達、ですよ」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「マリア、こっちデース!」

「切ちゃん、声が大きい……!」

 

 リディアンの講堂。大勢の生徒が集まるそこで、切歌と調はマリアの名を呼んでいた。

 

「ちょっと待って……! あ、すいませんすいません」

 

 二人の声に呼ばれて人混みをかき分けていくマリアは、奇妙な格好をしていた。

 黒いサングラスに大きな帽子、さらにトレンチコートをまとっていたのだ。怪しさ満載である。

 

「ふぅ、やっと来れた……ちょっと切歌、やっぱりこの変装はおかしくない?」

「そうデスか? マリアは世界の歌姫だから変装しないとデス。だからとっても変装らしい服装にしたデスよ?」

「だからだと思うよ切ちゃん……」

「おい、騒いでないで座ったらどうだ。せっかく特等席を取ってやったんだからよ」

 

 と、そこにぶっきらぼうな声がかけられる。クリスだ。

 今四人がいるところは、講堂でもステージがよく見えるサイドの指定席だった。

 

「ここの席取るの、苦労したんだからな? 感謝しろよお前ら」

「はいはい、感謝してるわよ。それより、翼はまだ来ないの?」

「ああ、ちょっと野暮用してからって言っていたが……と噂をすればだ」

 

 クリスがそう言って視線を後ろに動かす。すると、そこには弦十郎を引き連れた翼が現れていた。

 

「おう、おせーぞ! って、おっさんも一緒なのか?」

「ああ、ちょっと出会ってな。せっかくだから一緒に来ることにしたんだ」

 

 翼は苦笑いしながら説明する。彼女の説明に一同はなんとなく事情を察したのか、そこまでつっこんで聞こうとはしなかった。

 

「ったく、来るならもっと早く来いよな。もう始まるぞ。ほら、さっさと座れ座れ」

「ああ」

「ええ」

「んーシートが心地良いデース!」

「そんな変わらないと思うけど……」

 

 他の四人が座るなか、弦十郎だけは座らなかった。その姿にクリスが訝しんだ顔をする。

 

「なんだよ、おっさんも座れよ」

「いや、俺は体がでかいから、立ってるよ。俺が座るとさすがにスペースがギチギチすぎるし――」

「いいからっ!」

「おわっ!?」

 

 クリスはそう言って弦十郎を無理やり椅子に座らせる。すると、弦十郎の言っていた通り、スペースはかなりギチギチになってしまった。

 が、誰も文句を言おうとしなかった。むしろ楽しそうである。

 

「うう、いいのか……?」

「いいんだよ、これで。ほら、それより始まるぞ。あのバカ達のステージがな」

 

 そこで、全員がステージに注目する。ステージにはちょうど、司会進行の生徒が中央に立っているところだった。

 

「さて、お次はいよいよみなさんお待ちかね! 今年彗星の如く音楽界に現れメジャーデビューした我が校のユニット! 立花響さんと小日向未来さんによる『meteor shower』です!」

 

 司会の言葉と共に、万雷の拍手によって向かえられステージに立つ響と未来。

 響の前にはマイクが、未来の前にはピアノが置かれていた。

 

「んん……! えーと、みなさんこんにちは!」

 

 そして、マイクを通してとても元気な声で響が挨拶する。あまりに元気なものだから、マイクがハウリングを起こし、キィーンという音が会場に鳴り響いた。

 

「うわっ!? あ、すいません……! まだこういう会場慣れてなくて、へへ……」

 

 申し訳無さそうに笑いながら頭をかく響。そんな彼女に会場は笑いで包まれた。

 

「ったく、あのバカ、何やってんだか」

「でも、響さんらしいです」

 

 苦笑いしながら悪態をつくクリスに、同じく笑って返す調。

 他のメンバーもみな笑顔を浮かべていた。

 ステージ上では仕切り直しての挨拶が行われている。

 

「えーと……改めましてどうも、『meteor shower』ボーカルの立花響です。そしてこっちが――」

「どうも、小日向未来です」

 

 未来が近くにあったマイクを手にとって丁寧にお辞儀しながら挨拶する。

 その姿は響と違ってとても慣れたものだった。

 

「おっ、さすが未来! かっこいい!」

「もういいから響、挨拶」

「あ、いけないいけない。……はい、私達はこうして二人で音楽ユニットをやらせて、今年嬉しいことにメジャーデビューをさせてもらいました。これもみんなの応援のおかげです。ありがとうございます」

 

 そこで響と未来は一礼する。それに対し、再び会場から拍手が送られる。

 

「ありがとうございます。実は、私達がこうして音楽家になろうと思ったのは、ある親友の夢があったからなんです。その親友は今はもう、いません……。でも私達は、彼女の夢が好きで、彼女と一緒に夢の話をするのが好きでした。だから、こうして彼女の夢を一緒に叶えたくて、音楽家になろうと思いました。だから、今日は、たくさん私達の歌を聞いていってください!」

 

 響のその言葉に、再三の拍手が送られる。

 特に、サイド席にいるクリス達は、力いっぱいの拍手を送っていた。

 

「ありがとうございます、みなさん。それじゃあ、さっそく一曲目から。一曲目はカバーです。なんでカバーかと言うと、その親友が、大好きだった曲だからです。私達とその親友は、その曲をここで聞いて、リディアンに来ようって思ったんです。だから聞いてください。『Yesterday Once More』」

 

 そうして響は歌い始める。あの日、祭と一緒に聞いた、思い出の曲を。

 

When I was young I’d listen to the radio.(若い頃ラジオを聞いていたの) Waitin’ for my favorite songs(お気に入りの歌を待ちながら) When they played I’d sing along,(流れてきたら一緒に歌うの) it made smile(そしたら笑顔になれた)……」

 

 響の綺麗な歌声が、会場を包み込む。美しい未来の伴奏に合わせながら。

 

Those were such happy times and not so long ago. (それほど昔ではないけど、幸せな時間だった)How I wondered where they’d gone.(あの歌達はどこへ行ったのだろう) But they’re back agein just like along lost friend(でも古い友人のように戻ってきた) All the songs I loved so well(すべて私がとても愛した歌ばかり)……!」

 

 そうして、響は歌い続ける。今は亡き親友の夢と、共にありながら。

 

Every Sha-la-la-la(シャラララ) Every Wo-o-wo-o(ウォウウォウ) Still shines(まだ輝いてる) Every shing-a-ling-a-ling(シンガ・リンガ・リンと) that they’re startin’ to sing’s(歌い出す歌すべてが) So fine(とても素敵)……」

 

 すべてが輝いていた、あの日々を想いながら。

 




これにて本作は完結です。
最後までお付き合いくださった読者の皆様、ありがとうございました。
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