【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~   作:詠符音黎

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絶対運命黙示録

 時は流れ、俺達は中学生になっていた。

 俺達は順当にリディアンへの進学を目指す音楽好きの女子に育っており、それぞれが好きなアーティストなどができていた。

 そんななかで、未来が熱中しているユニットがいた。その名は『ツヴァイウィング』

 ……そう、風鳴翼と天羽奏という、シンフォギアの物語において始まりとなる二人の装者からなるユニットだ。

 未来がそのツヴァイウィングに入れ込んでいるのを知ったとき、俺はまさしく流れが俺の知っているシンフォギアへと進んでいるのを感じた。

 そして、それは響の苦難の始まりである。

 俺は考えた。

 このまま響にシンフォギアの物語を進ませてもいいのだろうかと。

 それについて悩み、俺は一つの答えを出した。

 響を、ライブ会場にいかせない、と。

 確かに響はこの先世界を五度も救う未来が待っている。

 だが、それは同時に彼女がとても辛い思いをするということでもある。

 一人の音楽を愛する少女には、重すぎる十字架を背負わされるハメになるのだ。

 俺はそんなの嫌だった。俺の親友が、ひどいことになるのなんて見過ごせるはずがなかった。

 だって俺は、もう前世のアニメを楽しんでいた一人の歌手志望じゃない。

 立花響の、親友なんだ。なら、その親友が辛い目にあう未来を、見過ごせるはずがない。

 大丈夫、きっとこの世界はなんとかなる。だって前世ではソーシャルゲームでもたくさんの平行世界があってたどった道が違ってもなんとかなっている世界がたくさんあると聞いた。

 俺はゲームをやる余裕がなかったから友人から聞いた話にしか過ぎないが。

 とにかく、響が装者にならなくてもきっとなんとかなるはずだ。俺はそんな現実逃避にも似た考えで響を装者の道から遠ざける正当化をした。

 そもそも彼女を物語から遠ざけるなら、一緒にリディアンに行く約束をしなければよかったという、自己矛盾から目をそらしながら……。

 

 

「響! 祭! 一緒にツヴァイウィングのライブに行こう!」

 

 俺が響を装者にさせまいと決意をしてすぐのこと。未来がそう言い出したのはライブが告知されてすぐのことだった。

 ライブは三ヶ月後にあり、そのためにチケットを取ろうとのことだった。

 

「えぇ!? でも私ツヴァイウィングのことあんまり詳しくないよ!?」

「……俺も」

 

 困惑する響に対し、乗り気でないような雰囲気を出しながら俺は言う。

 もちろんこんなことで響がライブに行かないなんてことはないだろうが、一応試しにしてみるだけだ。

 

「大丈夫! 響達も実際のライブを見ればすぐファンになるって!」

 

 未来は明るく言う。

 ここまでぐいぐいくる未来は珍しいと、俺は思った。

 未来は別に内気な性格というわけじゃないが、俺達三人のグループの行動の主導権はだいたい響が握っていたからだ。

 なので、自ら主導権を握る未来というのはなかなかに珍しかった。

 

「うーん、未来がそこまで言うのなら……。まあ、興味自体は実はあったしね!」

 

 それに対し答える響。

 やはり、響はライブに行くことを決断した。

 

「本当に!? よかったぁ! それで、祭はどうする? なんか乗り気じゃないみたいだし、嫌なら……」

 

 そして、次に未来は俺に聞く。

 乗り気でない反応をした俺の気持ちに配慮するようなそんな尋ね方だった。

 

「……分かった。俺も行くよ。せっかく行くんなら、みんなで行ったほうが楽しいだろうし」

 

 ここで行かないと答えるのは簡単だ。でも、それだと完全に物語通りに話を進めてしまうこととなる。

 なら、ここであえて同行し、当日になんらかの工作をするほうがいい。

 そう思ったからだ。

 

「祭も来てくれるんだ! ありがとう! それじゃ、さっそくチケット取ろう!」

 

 そうして、俺達は三ヶ月後に控えるライブのチケットをスマートフォンを使って取った。

 

「えっと、これでいいのかな……」

 

 スマートフォンで電子チケットの購入手続きをする響。

 彼女のその姿を見て、俺はひらめいた。

 そうだ……当日会場に行っても、チケットがなければ被害にあうことはないはずだ、と。

 

 

「はぁ、私って呪われてるかも……」

 

 三ヶ月後、ライブ当日。

 ライブ会場の手前で響が呟いた。

 未来の盛岡のおばさんが怪我をし家族で盛岡に行かないといけないために、これないという電話をよこした直後だった。

 この流れは、そのままシンフォギアのアニメのままだ。

 ただ、俺が横にいることを除けば。

 

「まあ仕方ないよ。二人で楽しもう」

「……うん、そうだね」

 

 未来との電話を切った響に俺は言う。

 響はそんな俺に笑いかけてくれた。

 でも響、ごめん。お前を会場に入れるわけにはいかないんだ……。

 俺は心の中でそう謝る。

 一方で、そんな俺の胸中を知るはずもない響はライブ開場のまだ開いていない扉を見やっていた。

 

「んーと、開場まであとどれくらいだったっけかなぁ」

 

 彼女はそう言いながら、スマートフォンをカバンにしまった。

 

「それでは開場しまーす!」

 

 響がスマートフォンをしまうのとほぼ同時に、会場が開かれた。

 

「あっ、開いた!」

 

 響が嬉しそうな声を上げ注意が完全にそっちに行く。

 ――今だ!

 

「うわっ!」

 

 俺はまるで不意なアクシデントにあったかのような声を上げて、わざと響にぶつかった。

 

「きゃっ!?」

 

 そして、そのまま響を巻き込んで地面に倒れ、彼女のカバンの中身を地面に広げさせる。

 

「あっ、ごめん響……! 進もうとして足をもつれさせて……!」

「ううん、大丈夫。それより祭、怪我はない?」

「ああ、問題ないよ……俺のことよりも響の荷物が大変なことになっちゃってごめん……」

 

 俺は響に謝罪しながらも、こっそりと彼女のスマートフォンを盗み取った。彼女のチケットのデータが入っているスマートフォンを。

 響はそのことに気づかずに俺の事を心配そうに見ている。

 その顔に俺は罪悪感に苛まれるが、なんとか表情を平静に保つ。

 

「みなさんごめんなさーい!」

 

 そして、スマートフォンのことを知らない振りをして響の荷物を急いで集める。

 側で並んでいた人も一緒に手伝ってくれて、荷物はあっという間に集まった。

 

「あれ……あれ!? あれ!?」

 

 そこで響は自分のスマートフォンがなくなったことに気づいたようだった。

 まあ当然だろう。俺が盗んだのだから見当たらなくて当然だ。

 

「どうしよう祭……スマホが……私のスマホがない!」

「落ち着いて響、本当にちゃんと探したの?」

 

 狼狽する響に俺は言う。

 我ながらなんと白々しいのだろうと思う。

 彼女の探しものはこの懐にあると言うのに。

 

「うん……いくら探してもないの……どうしよう、スマホがないと会場に入れない……!」

「そうだね……とりあえず一旦落ち着こう。あっちのベンチに座ろう? ね?」

 

 俺は響を落ち着かせながら一緒に近くに設置してあったベンチに座った。

 二人で並んで座ると、俺は肩を落とす彼女に手を置く。

 

「はぁ……やっぱり私って呪われてるかも……」

「まあ気を取り直して響。もともと未来がこれなくなったライブなんだし、そういう運命だったと考えようよ」

「でも……祭はライブ観に行ってもいいんだよ? 祭のスマホはなくなってないでしょ?」

「うん、そうだね。でも響と一緒に見れないライブなんて意味がないし」

 

 俺は響に笑いかける。

 これで響がライブを見なければ、彼女がノイズに襲われることもなく、装者になることもない。

 俺はしょぼくれる彼女に心を痛めながらも、一方でそう安心していた。

 

「そうだ! そこの売店でアイスクリーム売ってるからさ! それ食べて元気だしなよ! ちょっと買ってくるよ!」

 

 二つの気持ちで複雑な胸中になった俺は、それをごまかすために響にアイスクリームを買ってやることにした。

 そのために、俺は響のもとを離れ少し遠い場所にある売店へと行く。

 

「すいません、アイスクリーム二つください」

「はい、一つ二百円になります」

 

 俺は二つのアイスクリームを買うために、懐から財布を出した。

 そんなときだった。

 

「わっ!?」

 

 突然誰かが俺にぶつかってきたのだ。

 その勢いで俺は突き飛ばされ、財布や響のスマートフォンなど諸々を地面に落としてしまう。

 今回は演技ではなく、本当に物を地面に広げてしまったのだ。

 

「いたた……」

 

 俺は立ち上がろうと左足に力を入れる。

 

「いっ!?」

 

 そのとき、ズキリとした痛みが走る。どうやら足を捻ってしまったらしい。

 不幸はそれだけではない。

 

「祭、大丈夫?」

 

 響がその場にやってきたのだ。

 

「ひ、響……」

「どうしたの転んで? って、あ……私のスマホ!?」

 

 響は見つけてしまったのだ。俺が盗んだスマートフォンを。

 

「なんで……? まさか、祭が……?」

「そ、それは……」

 

 俺は言い淀む。

 この状況では、さすがに言い逃れができない。

 

「……まさかね。祭が、私にそんな嫌がらせみたいなこと、するはずないよね」

 

 しかし、ここで帰ってきたのは想定外の反応だった。

 

「え?」

「あれでしょ? 飛ばされたのをさっき偶然拾ったとかそんな感じでしょ? ありがとう祭!」

 

 無垢に俺に笑いかける響。

 その太陽のような笑顔に俺は、

 

「あ、ああ……」

 

 思わず相槌を打ってしまった。

 

「ありがとう祭! それより足大丈夫? 確かこういう大きなライブのときには医療スタッフも一緒にいるって聞いたことあるから、一緒にドームに入って診てもらおう!」

「え……あ、う、うん……」

 

 俺はまたも生返事で肯定の答えをしてしまう。

 ああ、バカだ俺は。ここでまた何かうまいごまかし方をしておけば、彼女をライブ会場から引き離せたのに……。

 でも、彼女の善意を跳ね除けるほど、俺の心は強くなかった。

 

「さ、いこう。祭!」

 

 そうして、俺は響に肩を貸された状態でライブ会場に入って、ドーム内の医療スタッフに引き渡された。

 

「軽く捻ったようですね。少し冷やしてれば大丈夫ですから、あなたはライブ会場に入っていて大丈夫ですよ」

 

 更に、医療スタッフは響にそんなことを言った。

 

「でも……大丈夫ですか?」

「せっかくのライブなんですから。大丈夫、すぐに治りますよ。行ってください」

「……はい。それじゃあ祭、待ってるから! それに思えば祭、こういうときは先に行けっていっつも言ってるもんね。今回は余計な手間かけさせないから! それじゃ!」

 

 響は笑顔を作って俺に言う。

 

「あ……待っ……!」

 

 俺は響に手を伸ばす。だが、痛みで声が出ず彼女を止めることはできなかった。

 確かに俺は一人遅れるときは迷惑をかけるのが嫌でそういうことをよく言っていたけど、だからってこんなときに空気を読まなくたって……!

 

「はい落ち着いて。今、足を冷やすからね」

 

 医療スタッフに俺は押さえられる。

 そうして、響は行ってしまった。そして、出来事は俺が知っている通りに動き出した。

 ノイズの襲撃に、逃げ遅れ大怪我をして搬送された響。

 そんな流れを、俺はというとスタッフにいち早く怪我人として外に出されたために、ただ指を咥えて眺めることしかできなかった。

 こうして始まってしまったのだ。戦姫絶唱シンフォギアの物語が。

 そして、俺の親友、立花響の受難が……。

 

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