【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
「はっ……! はっ……!」
立花響は走っていた。
脇目も振らず、注意する周りの声も聞かず走っていた。
理由は一つ。
生死の境を漂っていた彼女の親友、弓弾祭の意識が戻ったと聞いたからだ。
祭は響の家で夕食を食べた夜に、異常者に襲われ喉に包丁を刺された。
幸い、そのすぐ後に辺りを巡回していた警察が発見し、異常者を確保。すぐさま病院へと連絡が行き搬送されたことにより一命をとりとめた。
だが祭の状態は予断を許さず、しばらくの間意識も戻らず面会も謝絶状態だった。
そんな彼女が、意識を取り戻し面会できる状態になったというのだ。そのことを聞いた響は居ても立っても居られず、今こうして駆けていた。
「祭っ!? 大丈夫っ!?」
響は彼女のいる病室の戸を勢いよく開ける。
すると、そこにはいた。祭がいた。
窓の外を眺める彼女がいた。
響はほっと胸をなでおろす。
「祭、よかった……」
安心して響は祭に歩み寄る。
そして、それに合わせて祭は響に振り返り、言葉を発した。
『ああ、響。来てくれたのか……』
まるで機械のような、無機質な声で。
「……まつ、り……?」
響はその声に自分の耳を疑った。
『……確かに、驚くよね。これは』
だが、次の彼女の言葉も同じく機械の声だったために、それが現実であることを思い知らされる。
『すごいよね、今の医療。少し前の時代だったら死んじゃう怪我だったのに、俺はちゃんとこうして生きてる。でも、その代わりに、声帯が潰れちゃったんだ。もう、まともに俺自身の言葉ではしゃべれないんだってさ。だから、こうして機械を喉に埋め込んで声帯の代わりにしてるんだ』
祭は首元にまかれている黒いチョーカーをさすりながら言った。
その顔は、とても寂しく、辛い笑みだった。
「……そんな……祭……」
『ははっ、こんな声じゃ、歌手になるなんて絶対無理だよね。機械に歌わせるなら、今はもっとうまくやる人がいっぱいいるんだから。機械の真似事をしている人間の声なんて、誰も興味わかないよ』
「そんな……そんなこと……」
――そんなことない。
響はそう言おうとしたが、言えなかった。
目元を真っ赤に晴らした祭の表情を見たら、とてもではないがそんなことを口にすることはできなかった。
『……ごめん、響。ちょっと一人にしてくれないかな。まだ起きたばっかりで、調子が悪いんだ……』
「……うん」
響は彼女の言葉に、頷き、出ていくことしかできなかった。
そして、出ていって病室の扉を閉めて少しして――
『あああああああああああああああああっ!!!!』
機械の無機質な叫びと、何かが壊される音が、扉の向こうから聞こえてくるのを、響を聞いてしまった。
夢を失った、心なき慟哭を。