【完結】転生せし音色~夢に縋る青年だった少女~ 作:詠符音黎
『…………』
俺は一人、公園のベンチに座っていた。
病院からの退院は思っていたよりもずっと早く済んだ。
喉を貫いたナイフはご丁寧に声帯を的確に破壊し、刺さったままの状態だったために一命をとりとめられたらしい。
ゆえに、治療は声帯を修復できないこと以外は完全に終了し、病院での経過観察も二週間ほどで、それを終えると俺は退院することができた。
両親は俺が生きて帰ってきたことに泣いて喜んで迎えてくれた。
そのとき、ああ、今生での家族は間違いなくこの人達なのだなと俺は改めて知り、両親の温かさに俺もまた涙した。
でも、俺の夢が潰えたことに関しては、決してそれだけで癒やされることはなかった。
あの日以来、俺は学校にもいかずただ街中をふらつく生活をしている。
両親はまだショックが抜けていないのだと考え、何も言ってこない。
正直ありがたかった。
今の気持ちのまま、学校に行っても、まともに授業を受けられる気はしないから。
「あ、おねーちゃん! ボール取って!」
不意に、俺の足元にゴムボールが転がってきた。
どうやら公園で遊んでいた子供達が飛ばしてきたものらしい。
三人ほどの男児が俺の下に駆け寄ってくる
『……はい、どうぞ』
俺はそれを拾って、彼らに渡した。
「うわーお姉ちゃん変な声! ロボット! ロボットだ!」
「本当だー! ロボットっているんだー! すげー!」
「おいロボット! なんかしてみてよ!」
すると、俺の声を聞いた子供達は俺をロボット扱いしてきた。
無理もない。
声は間違いなく機械なのだ。子供がロボット扱いしても仕方ない。
『……そうだよ、お姉ちゃんはロボットさ。お前達人間を滅ぼしにやってきたのさ。わっ!』
でも、俺はそれを優しく許容できる精神的余裕がなく、つい子供達を脅してしまうような事を言い、大声を上げた。
「うわあああああっ! 殺人ロボットだあああああ!」
すると、効果てきめんで子供達はボールをもったまま一目散に逃げていく。
俺はそんな子供達の背中も見ながら、ぎゅっと握りこぶしを作って、先程まで座っていたベンチの背もたれに叩きつけた。
俺はそんな風に、半ば自暴自棄な生活を送り続けた。
一日中家にいるか、外をふらつくか。
なんの生産性もない、灰色の日々。
『……俺って、なんのために新しい人生を送ってるんだろうな』
その日もまた、一人で街中を歩いていた。そして、歩きながらそんな言葉が溢れる。
俺の声を聞いたと思わしき通行人が、物珍しげに俺のほうを振り返り、聞き間違いかと思ったのかすぐさま視線を前に戻していく。
まるで見世物小屋のフリークスだ。
人々の好奇の視線を集めるためだけに生きている。
俺には、そんな気がしてならなかった。
『……響、未来。俺は、一体どうしたら……』
俺はふと友人二人の名前を上げていた。
もう長い間彼女達に会っていない。
病院にいる間は、二人は時折俺に会いに来てくれていた。
特に響なんて、自分も病み上がりで家が大変な状態でそんな余裕がないはずなのに、である。
きっと彼女のことだ。責任を感じているのだろう。
そんな彼女に『責任なんて感じなくてもいい』と言ってやれればよかったのだが、俺は結局病院にいる間にその言葉を紡ぐことができなかった。
他人に、親友に心配してもらっている状況が、わずかながらに慰めになっていたからだと思う。
俺は卑怯な奴だ。親友の負い目を利用するなんて。
でも、それぐらいの慰めでもいいから、俺は欲しかったんだ。
「危ないっ!!」
そんなときだった。
俺の背後から大声が飛んでくる。
顔を上げると、俺は赤信号の横断歩道のど真ん中にいた。そして、すぐ横には大きなトラックが迫っている。
『やっ――』
ああ、せっかく助かった命を、俺はこうして――
「はあっ!」
俺がそんな諦めを抱いた瞬間だった。俺は、突如力強く抱きしめられてすごい速さで横断歩道から向こう側の歩道まで運ばれた。
その直後に、俺のいたところをトラックが走り抜ける。トラックはそのまま走りすぎていった。
「大丈夫か! 君!」
『は、はい……』
とても大きな腕で、俺は抱かれている。目の前には、赤いシャツで覆われた厚い胸板があった。
誰だろう、こんな俺を助けてくれた人は。
そう思い、俺は顔を上げる。
そして、俺はその顔を見て驚いた。
『あなたは……!?』
「ん? 俺か? 俺は風鳴弦十郎というただの風来坊さ。怪我はないか、君」
風鳴弦十郎。
シンフォギアの主要人物の一人が、そこにはいた。