ゲストバンドもそろったことで、ついに準備は最終段階に突入した。
現在行っているのは本番に向けたリハーサルだ。
今リハを行っているのは、Poppin'Partyだ。
僕はそれを、二階席のほうで湊さんと共に見守っていた。
(正直、ここまでくればもう僕ができることはないし。このままここにいる感じかな)
この席はステージや会場を見渡せる絶好のスポットなのだ。
『ありがとうございました!』
『次、Roseliaさんお願いします』
Poppin'Partyのリハも終わり、次はステージの最終確認が始まった。
「友希那先輩! 一樹さん!」
紗夜たちがステージに立ったタイミングで、戸山さん達Poppin'Partyのメンバーが僕たちのところにやってきた。
「リハ、もう始まってますけど」
「リハならもう済ませているわ。今はステージの最終確認よ」
リハに遅れていると思ったのか、心配そうに聞く戸山さんに湊さんは簡潔に告げた。
「最終?」
「見る場所によって、機材などでステージが見えないという事態を避けるためのやつだよ」
「照明、もう少し暗くできますか?」
僕の説明の最中も、湊さんは調整を続けていた。
湊さんの言葉を受けて、照明が暗くなる。
「リサ、それで手元は見える?」
湊さんの問いに、リサさんはベースを軽く弾いて指で丸印のサインを出す。
「ぎりぎりまで調整するんですね」
「当然よ、Roseliaの音楽を最高の形で届けて見せるわ」
「そういった諸々の内容ができるかどうかが、合否に大きく左右するんだよね」
湊さんの一斉の妥協もしないその姿勢は、十分に合格点だ。
「えっと、一樹先輩それはどういう……」
「ああ、今回の主催ライブの開催ということで、軽く彼女たちのテストをしてるんだよ。Roseliaの目指すものを考えるのであれば、このくらいはできてほしいからね」
「お、鬼だ」
そんな僕の答えに、山吹さんは苦笑し、市ヶ谷さんは完全に引いていた。
(そういう風に言われるのは、心外なんだけどね)
「そろそろ開場時間よ」
そんな僕の心の声も、湊さんの一言で完全にかき消される。
ついに、主催ライブが幕を開けるのであった。
二つのゲストバンドの演奏も、特に滞りもなく終わり、Poppin'Partyの出番となった。
最初はどこか緊張していたような感じの彼女たちだったが、演奏を始めてからはいつも通りの感じに戻っていた。
彼女たちの楽し気な演奏は、会場内を包み込み、そして会場を温めていく。
『ありがとうございました! Poppin'Partyでした!』
最後の曲目の演奏も終わり、会場中からは大きな歓声が沸き起こる。
(流石はPoppin'Party。良い演奏だ)
そして、次はいよいよRoseliaの番だ。
そうなった瞬間、会場に大きな変化が起こる。
なんと、大勢の観客たちが会場に流れ込んできたのだ。
「っとと」
それは間違いなく、Roselia目当ての人たちだった。
そんな中、彼女たちがステージに立った。
『早速だけど、メンバー紹介、行くわよ。ギター、氷川紗夜!』
湊さんに名前を言われた紗夜は、軽くギターを弾いて一礼する。
その後もあこさんやリサさんという順番でメンバー紹介は進んでいき、最後に湊さんの紹介をリサさんがする形でメンバー紹介は終わった。
「いくわ、『BLACK SHOUT』」
そして、そのままの流れで彼女たちのライブが始まった。
その演奏はどのバンドにも引けを取らない……それこそ、絶対的な王者と言っても過言ではないほどの完成度だった。
会場にいた観客たちは、その演奏に青色のペンライトを振るなどの盛り上がりを見せていた。
紗夜のギターやリサさんのベースなどの音に加えて湊さんの歌声が会場中を彼女たちの色に染め上げ、圧倒的な世界観を作り上げているのだ。
(最後の最後で巻き返すとは……そうでないとね)
彼女たちは非公式ではあるけど、僕たちの姉妹バンドだ。
なので当然と言ってしまえばそこまでだが、それでもRoseliaの演奏はまさに圧倒的の一言に尽きるものだった。
観客の反応も非常によく、ライブ自体は文句なしの合格と言ってもいいものだった。
こうして、Roseliaの初めての主催ライブは盛況のうちに幕を閉じるのであった。
(リザルトでは、滑り込みの合格かな)
準備のほうでいろいろと課題は多かったので、文句なしの合格とは言えないが、それでも合格は合格だ。
(これはフィードバックのやりがいがありそうだ)
ステージ袖のほうに移動してそんなことを考えていると、ゲストバンドたちへのお礼を兼ねた見送りをしていた湊さんたちが戻ってくる。
「あ、挨拶終わったんだ」
「ええ。今からPoppin'Partyのところに行くけど、美竹君もどうかしら?」
「うーん……ライブ後の余韻に水を差しそうだから会うのは遠慮するよ。ただ、彼女たちの得たことには興味があるからついてはいくけど」
せっかくのライブ後の余韻を無駄にしそうだったので、僕は合うことはやめておくことにしたが、それでもこのライブで彼女たちが得たことが気になった僕はかげで聞くことにした。
「そう。じゃあ行くわよ」
それに対して湊さんが特に何も言わずに、すたすたと歩きだすので、僕もそれに続く。
「一樹さん、一樹さん。あこたちどうでしたか?」
「全員、文句なしの合格だよ」
「やったーっ」
その道中、今日の感想を聞かれた僕の答えに、あこさんは嬉しそうなリアクションをする。
「まあ、それについては後日フィードバックで話すとしよう。もう着いたみたいだし」
彼女たちがいる控室前についたのか湊さんが立ち止まったので、僕はドアの横の壁によりかかる。
「今日は助かったわ。ありがとう」
「私たちのライブは参考になりましたか?」
とりあえず中に入っていった湊さんたちの声は聞こえるので十分だ。
「はい! 同じ風にできるのか、ちょっと自信ないですけど」
(同じ?)
戸山さんの言葉に、僕は引っ掛かりを覚える。
戸山さんの言うことを推測すると、Roseliaのようなライブを主催ライブでやるという風にもとらえられる。
(いや、無理でしょ)
僕は、それを一刀両断で切り捨てた。
彼女たちがRoseliaのようなライブをやることは99%の確率で無理だ。
そもそも、ポテンシャル自体がRoseliaとはきなさが出ている現状で、同じライブをするというのは現実的でもないし、土台無理なことだ。
(僕があなたたちに期待しているのは、そういうことじゃないんだけどね)
Poppin'Partyが最強になるのは不可能。
どちらかというと、彼女たちが行きつくのは別にある。
(そのことに気が付かない限りは、ここどまり……)
やはり、直接会わなくて正解だった。
会っていれば今のことをオブラートに包まないで直球で言っていただろう。
これ以上聞いていたら、直接言いたくなりそうなので、僕は静かにその場を離れることにした。
だが、この時の僕はこのライブによって、僕たちにとっての”魔の手”が迫っているということに、気づいていなかった。
そして、その存在が僕たちに波紋を広げるような事件を引き起こすことになるということを、この時の僕はまだ知る由もなかった。
第2章、完
今回で、第2章は完結です。
次回より、第3章が始まります。
それでは、次章予告を。
―――
Roseliaの主催ライブを終え、いつも通りの日常が戻る中、一樹は友希那からある相談事を受ける。
それは、後々巻き込まれる事件のきっかけでもあった。
次回、第3章『予兆』