第11話 相談
Roseliaの主催ライブもなんとか終わり、いつもの日常が戻りつつあった。
朝の教室は、このゴールデンウィークという連休が終わったことを受け入れられなかったり、惜しんでいる声が多いようにも見える。
「やっほー、休みの間どう過ごしたのかな? できれば甘々な話を聞かせてほしいな~」
「朝っぱらからいきなりだね。それを言っていて恥ずかしくないんだったら、ある意味最強ですねリサさん」
そんな中、会ってすぐに小悪魔のような笑みを浮かべながら下世話なことを聞いてくるリサさんに、僕はそう切り捨てた。
「う゛っ! か、一樹君今日は辛らつだ」
「リサ、今のはあなたが悪いわ」
「うぅ、友希那まで~~」
そしてさらに湊さんにまで言われたリサさんは地団太を踏んでいた。
「僕の休みって、ずっと寝てた位だよ」
「むぅ……こうなったらヒナに後で聞こう」
(最悪だ)
どこか不満そうに頬を膨らませたリサさんの言葉に、僕は内心で頭を抱える。
日菜さんのことだから、おそらくはこの間の路上での出来事を言うのは明らかだ。
とはいえ、ここで止めたらさすがに何かがありましたと言っているようなものなので、僕は何も言わずにからかわれることの覚悟を決めた。
「ところで美竹君、相談に乗ってほしいことがあるのだけど、いいかしら?」
「……その顔だと、あまりいい相談ではなさそうだね」
湊さんの表情と、言い方のニュアンスからして、あまり内容ではないことを察した僕は自然と真剣な面持ちで彼女に聞くと、無言で頷いて答えた。
(とはいえ、時間がないか)
あと数分もすれば、HRが始まるような状態だ。
このような状況で聞くような内容ではないことはどう見ても明らかだった。
「続きは昼休みにでも?」
「ええ、構わないわ」
とりあえず、湊さんから話を聞くのは昼休みのほうに伸ばしてもらうことにした僕は、相談内容を気にしつつも先生が来るのを席について待つことにするのであった。
BanG Dream!~隣を歩むもの~ 第3章『予兆』
昼休み、僕は少しだけ焦りを感じていた。
(まずい、全然授業の内容が頭に入ってない)
湊さんの相談内容が気になってしまい、どうしても授業に集中できなかったのだ。
一応板書はしっかりとってはいるが、このままだといろいろとまずいのは明白。
(家に帰って復習を念入りにしておかないと)
こうして、本日の僕の復習が本格的なものになることが、確定となった。
こうなるのであれば、先に聞いておくべきだたっと悔やんでも遅い。
「湊さん、例の話は外で聞かせてくれる?」
「ええ」
とりあえず、今は湊さんの相談だ。
僕は湊さんを連れて廊下に出る。
人気のない場所でするのが無難だろうけど、変に詮索する人が出かねないので、苦肉の策でもあった。
「それで、相談っていったい何?」
「この間の主催ライブの後に、声をかけてきた人がいるのよ」
そう言って僕に一枚の紙を渡してくる。
黒い猫のような型の紙は、おそらくは声をかけてきた相手の名刺だろう。
(えっと……ちゅ……この”2”って二乗の奴?)
おそらくは芸名のようなものと思われる、”CHU”という名前の上側についている数字の2を、”二乗”とストレートに言うべきなのか、リピート的なものなのか。
どちらの読み方が正しいのかがわからなかったのだ。
「背の低い子で、本人は”チュチュ”と名乗ってたわ」
(あ、リピートのほうか)
とりあえず、相手の名前は分かった。
そのうえで、もう一度名刺のほうに視線を落とす。
名前の下に書かれているのは、英語ではあるが住所だろう。
(帰国子女か何かか?)
洒落て英語で書いているのでなければ、おそらくは帰国子女か留学で日本に来た感じだろう。
「それで、そのチュチュという人はなんて?」
話しかけてきた内容があまりいいものではないことくらいは、察しがついている。
ライブについての批評であればまだいいほうだ。
彼女たちへの誹謗中傷、もしくは脅迫めいた何かか。
考えれば考えるほど悪い方向に向かってしまう。
「私たちのプロデュースをするって言ってきたわ」
「プロデュース?」
湊さんの口から出たその言葉に、僕はオウム返しに口を開いた。
チュチュという人物の話の内容が、僕が考えていたこととは全く違うものだったからだ。
(最悪の事態ではないにしても)
とりあえず、そのことについては一安心といったところだろう。
だが、続いて問題となってくるのが話の内容だ。
「名声を上げている人なのであれば、自信過剰の馬鹿。そうでないのだとするとRoseliaのネームバリューを狙ってか……いずれにしても無理な話だね、それ」
どこにでもいるようなバンドのプロデュースならいざ知らず、彼女たちのプロデュースをしようとするその思い切りと勇気は評価はできるが、正気なのかと聞きたくなる。
彼女たちが奏でる独特の世界観を醸し出すその曲は、彼女たち自身が考えたからこそ成り立つものであり、一つでもピースがそろわなければその世界観は出来上がらない。
「Roseliaの曲はRoseliaで作るからこそ意味がある。第三者が作り出した曲はたとえどんなに素晴らしい物でも、それはRoseliaの曲じゃない」
「……そう真正面から言われると、少し照れるわね。でも、ありがとう」
一度彼女たちが演奏するための曲を作ったことがある。
だが、どんなに工夫しても、Moonlight Gloryで演奏するのにはふさわしいが、Roseliaが演奏するとなると、あまりしっくりとこなかった。
そういった僕の実体験から出た言葉だったが、少しだけ直球過ぎたようで、恥ずかしげに頬を赤く染めながらも、湊さんは微笑みながらお礼を口にする。
「もちろん、断ったんだよね?」
「ええ。だけど、昨日もまたスカウトに来たわ」
(す、凄まじい執念と言うべきか、ただしつこいというべきか)
とはいえ、この短期間に何度もスカウトに来るというのは考え物だ。
「とりあえず、こじれるようなら僕が出るから、その時は言ってくれる?」
「巻き込んでしまって、ごめんなさい」
「気にしないで。演奏はしないけど、僕だってRoseliaの一員……そういう意識をもって練習を見ているから。逆に光栄なくらいだよ」
何も演奏しないからメンバーではないとは言い切れない。
練習を見ている自分だって、十分にRoseliaの一員だ。
そのくらいの思いがなければ、教えられないし教えてはいけないと僕は思っている。
「ふふ、それじゃその時はよろしく頼むわね」
こうして、湊さんの相談事はひとまず今後の方針を立てることで区切りはついた。
(しかし、謎のチュチュという人物……いったい何者だ?)
僕はどこか、このチュチュという人物に底知れぬ不安を抱くのであった。