湊さんの相談も終わり、昼食をとろうとしたとき携帯が震えて着信を告げる。
(今度は何だ?)
今日はいろいろと飛び込んでくるなと思いながら発信者を見ると、相手は中井さんだった。
「もしもし」
『あ、昼休みにごめんね。いま大丈夫?』
電話先の、少しだけ優しい声色の人物が、電話をかけてきた中井さんだ。
名前を中井裕美といい、Moonlight Gloryではベースを担当している。
いつもは、やや内気な感じなのだが、変なスイッチが入るとハイテンションでベースを弾きだすという”暴走モード”に入ってしまう人物だ。
「何かあった?」
『うん。ポピパの戸山さんたちが、なんだか元気がないんだけど……』
中井さんの話で全て察した。
(そういえば、この前湊さんにきつい一撃を食らってたっけ)
それは、主催ライブ後の控室で、戸山さんたちに湊さんが放った『覚悟がない』という一言のことだ。
あまり多くは語らないのは、湊さんの魅力でもあり欠点でもあるわけだが、聞いた限りだと湊さんの言葉の真意は分かりかねているようだ。
「とりあえず、そのまま様子見で手は出す必要はないと思うから……今のところは」
このまま戸山さん達が答えを導かないのであれば、僕のほうで動くことになるとは思う。
その時は、湊さんの数倍はきつい言い方になると思うけど。
『うん、わかった。あと、今週末みんなでそろって練習しない?』
「今週末か……うん、僕のほうは予定とかないから大丈夫。あとで啓介たちに聞いてみる」
『お願いね』
Moonlight Gloryとしての活動は止まっていても、個人で集まって練習をする分には何の問題はない。
それは、事務所側にも確認済み。
時々スケジュールがある日にCiRCLEなどのライブハウスに集まっては練習をしていたりするのだ。
(さてと、あとで三人に確認しておかないとね)
とりあえず、昼食を取りたかったので、メールで手早く済ませることにした。
「よし。それじゃお昼を食べますか」
こうして僕は、少しだけ遅い昼食をとるのであった。
ちなみに、みんなの返事は『OK』だった。
放課後、僕と日菜さんにつぐやほか三名の生徒会役員が生徒会に集まっていた。
理由はもちろん、今日が生徒会で定期的に開かれる会議……定期総会の日だからだ。
「それでは……羽丘学園生徒会、定期総会を始めます。起立、気を付け、礼!
「おー、流石つぐちゃん! 号令にキレがあるね~」
「ごほんっ」
確かにつぐの号令はキレがあって良いが、こういう会議は全校生徒の代表のような存在として、気を引き締めて行う必要がある。
なので、僕は軽く咳ばらいをして生徒会長である日菜さんをけん制した。
「え、えっと来週から、風紀取り締まりの強化週間となります。風紀委員長のか……美竹先輩、お願いします」
来週から一週間、風紀の乱れが出ないようにその取り締まりを強化することになっている。
今回の総会では、その取り締まりの内容について協議を行い、問題がなければその内容で可決となり、取り締まり強化週間で実行されることになる。
前年の資料を確認したが、例年通りに行っても特に問題はないようなので、内容自体は今までと同様にしている。
「はい。風紀委員長の美竹です。来週の風紀取り締まり強化は、例年通り校門付近での服装チェック、およびすべての学年で抜き打ちでの持ち物検査を行わせていただきます。詳細は副会長が配布いたしました資料をご覧になりながらお聞きください」
そして、僕は取り締まり強化週間についての説明を続けた。
「以上です。何か質問などはありますか?」
僕のその言葉に、書記を務める女子生徒が手を上げる。
「あの、この”指導者の氏名を明記”という内容ですけど、これって……」
「そのままの通りです。これまでは、引っ掛かった生徒はお咎めもなく解放されています。これでは取り締まりの意味がありません。なので、引っ掛かった生徒の学年や氏名などの記録を行い、教職員の方にご報告します」
どういうわけかは知らないが、取り締まりで検挙された生徒は注意か指導のみで、特にお咎めがないのだ。
最高学年は進路などで比較的大丈夫だが、1年や2年生はこの取り締まりを何とも思っていない傾向が強い。
(だから、反日菜グループみたいのができるんだよ)
天才である日菜さんが気にくわない生徒たちで形成されたそのグループは、まさに風紀の乱れの象徴たる存在だった。
「でも、それだとかわいそう―――」
「かわいそうなのは、真面目にやっているのにそうでない人が何のお咎めも受けないのを見せられることです。実際、昨年の風紀委員の存在感は皆無……私はこれを是正したい」
僕のその説明に、書記と会計の二人が顔を見合わせる。
その表情は、誰が見ても腑に落ちない様子だった。
だが、実際問題風紀委員の存在感はなく、もはやオブジェクト状態なのだ。
これを早急に改善させる必要があるのだ。
どんどんと重くなる空気に、副会長のつぐも落ち着かない様子だったのをしり目に、僕は言葉を続ける。
「一つだけ勘違いしないでいただきたいのが、これは風紀を乱した生徒を取り締まるためではなく、まじめに学園生活を送っている生徒たちを守るための物です。どうぞその旨ご理解いただきたい」
僕のその言葉に、他の二人は何も言うことはなかった。
「生徒会長、決議を」
「はーい。それじゃー、一君――「風紀委員長」――……風紀委員長の今回の提案に反対の人」
いつものように名前で呼ぶ日菜さんに、僕は役職名で呼ぶように彼女の言葉を遮って言うと、不服そうではあるが言い直した。
それはともかくとして、日菜さんの呼びかけに、手を上げる者はなく満場一致で可決となった。
「ふぅ……」
「一樹先輩、お疲れさまでした。粗茶ですが」
「ありがとう」
定期総会を終えて、背もたれに寄りかかりながら脱力している僕に、ねぎらいの声をかけながらつぐがお茶を持ってきてくれたので、お礼を言いつつそれを口にした。
「初めてだから、色々と緊張したよ」
「でも、とても凛々しかったです」
「うんうん、一君カッコよくてもうるるるるんっ♪ ってしちゃった」
生徒会の会議なんぞ、これまで出たことがなかったので、どう立ち回ればいいのかが全く分からない中での初陣だったが、これはこれでよかったのかもしれない。
「なんだか一君、おねーちゃんみたいだった」
「あ、そう言われれば少し紗夜さんに似ていましたね」
「……やっぱり、ばれたか」
日菜さんにはばれるだろうなとは思っていたが、つぐにまで見破られたのは少しショックだった。
……悪い意味ではないけど。
「風紀委員といえば、紗夜ぐらいしか思い当たらなかったから、彼女の雰囲気を演じて見たんだけど……駄目だった?」
氷川紗夜のふるまい通りにしてみたのだが、あまりにも不評であれば改める必要がある。
「いえいえものすごく様になってました!」
「うん! さすが、おにーちゃんだね♪」
そんな僕の不安も、二人の感想が吹き飛ばしてくれた。
「二人とも、ありがとう。あと、おにーちゃん言うな」
「ぶーぶー、つぐちゃんだって知ってるんだからいーじゃん」
「あ、あはは」
頬を膨らませて抗議してくるが、知っているというよりバレたというほうが適当だ。
名前を呼ばれたつぐは、ただただ苦笑するだけだった。
こうして、今日の生徒会活動は無事に終えることができるのであった。
ちなみにこれは余談だが、日菜さんから生徒会でのことを聞いたのか、
「私を目標にするのはうれしいけど、行動を真似するのはやめて」
という紗夜からの抗議によって、紗夜のふるまいをまねることは禁止となるのであった。
私の高校では、生徒会の存在すらがオブジェクトになっていたのは、ある意味笑えないです。
尤も、それでも普通に学校生活を送っていましたが(苦笑)