「それじゃ、フィードバックを始めるよ」
CiRCLEのロビーを借りて、僕たちはフィードバックを始める。
「今回の主催ライブ、トータルで見ればギリギリ合格。ライブに関して言えば、文句なしの合格だから、問題なのは準備のほうかな」
まず最初に、僕の総評をみんなに告げる。
ライブだけを見れば、いつものように文句なしだったが、今回は主催ライブ。
彼女たちで準備を行いライブを開くという意味においては、準備のほうも十分に考慮しなければいけないのだ。
「た、確かに……当日に、寝てしまいました……から」
「アタシも、授業中に寝ちゃったしね」
「今井さん、授業中に寝るのは感心しませんよ」
「す、すみません」
授業中に寝ていたことを口にしたリサさんに、紗夜から厳しい声がかけられる。
「さて、どうしてそうなったのか。まずはそれを話し合おうか」
「あこ、途中で自分がどこまでやってたかわからなくなって、りんりんに確認してもらってました」
「私は、もう少しやるべきことのリストの項目を細分化しておくべきだったと思います。あの内容でも問題はないのですが、もう少し細分化したほうが自分のやったところがより具体的にわかると思いますので」
「アタシは、会場費を抑える条件に、もう少し考えを巡らせえおくべきだったと思うかな。当日のセッティングとかでも大変だったし」
みんなから次々に出てくる反省点は、流石としか言えないほど的を得ているものだった。
「それじゃ、みんなのフィードバックをまとめると、こうなるよね」
あらかた意見が出たところで、僕はみんなが出した意見をまとめて書きだす。
「まずは、自分がどこまでやったのか、そのチェックリストをしっかりと作っておくべきだったかな。あれは、どこまで進んだかというのと、次にするべき内容とかも明らかにしてくれるからね。後は優先度をつけてもよかったかも」
「優先度?」
「例えば、ライブの衣装作りのような、時間のかかりそうなものを早めに始めておいて、すぐに終わりそうな内容の優先度は低めにしておくとか。そうしておけば準備はもう少しスマートになっていたと思うよ」
オウム返しに口にするあこさんに、僕はできるだけわかりやすく説明をした。
とはいえ、主催ライブをやったことなどないので、完全に自分で調べたうえでの意見だけど。
「主催ライブの準備はライブとは違うのだから、効率を重視してもいいんだと思うよ。もちろん、当日のセッティングは念入りに、妥協せずに」
せっかく準備が良くても、当日のステージのチェックでミスをすればすべてが台無しになる。
そういう意味では、湊さんのチェックは非常に素晴らしかったともいえる。
「みんなが、行こうとしているステージで、最高の演奏ができるように、一歩ずつレベルを上げていこう。そのためには遠回りだと思うことでもやっておくことこそが、重要だよ。この主催ライブは一つの通過点であり、ゴールでもないんだから」
「………美竹君らしい、意見ね。考えておくわ」
結局のところ僕が言いたい内容は、地道にコツコツと経験値をためていくことが、重要なのだということだった。
そういった意味では、この主催ライブで得たものはかなり大きかったと思う。
「それじゃ、ライブで気になったところ言っていくから、この後の練習でそこを改善できるように練習をしようか」
「はい!」
「が、頑張り、ます」
元気のいい返事をするあこさんと、若干言葉を詰まらせながら返事をする白金さんの二人の反応に苦笑しながら、僕は各パートに対して気になったことを指摘していく。
そして、練習を再開した彼女たちは、その個所を改善するべく必死に練習をしていた。
そんな真剣な皆に応えるべく、僕も真面目に練習を見るのであった。
練習を終え、スタジオを後にした時には、外はかなり薄暗くなっていた。
「疲れたー」
「お疲れ、あこ。今日も充実した練習だったね~」
疲れた様子で声を上げるあこさんに、リサさんは相槌を打ちながら、次の予約を入れるために受付にいる月島さんのところに向かっていった。
僕たちはそれが終わるのを待つだけだったのだが
「ちょっといいかしら?」
「ん? どうしたの湊さん」
突然声をかけてきた湊さんに、僕は用件を聞く。
「さっき話した人が、来てるわ」
「ん?」
湊さんの言葉に、一瞬視線を向けた方向を辿ってみるとそこにいたのは一人の少女だった。
背は低く、一見すると小学生と間違われてもおかしくない感じだった。
その少女は、オレンジ色の髪に、頭には猫耳のようなものを付けていた。
(あの子が、チュチュ……)
予想していた人物像とはかけ離れたその姿に、僕は呆然としてしまった。
「あれ、友希那さんどこに行くんですか?」
「ちょっと、話してくるわ」
その間に、動き出した湊さんに声をかけたあこさんにそう返すと一人で外に向かい、チュチュと思われる少女と共に、横のほうに移動していった。
「お待たせ―……って友希那は?」
「えっと、外にいた人と話に行きました」
「どういうこと?」
予約を取ったリサさんの疑問に、あこさんが答えると僕のほうを見てさらに聞いてきた。
「なんだか、プロデュースをするって言ってる人がいて、断っているんだけど、諦めてないみたい」
「そういえば、そんなこと言ってたかも」
やはり、湊さんから聞いているようでリサさんはすぐに察してくれた。
「湊さん一人で、大丈夫かしら?」
「……ちょっと見てくる」
紗夜の言うとおり、僕は底知れぬ不安を感じ、様子を見に行くことにした。
外に出ると、すぐに二人が向かった方角と反対の方向に足を進める。
CiRCLEはそれぞれの端の細い路地を通ると、裏側に出ることができる。
なので、一度裏側に出て反対側の細い路地を通れば、二人が向かっていった方向にたどり着けるという寸法だ。
このままストレートに向かっても、余計にややこしくなるだけだ。
そもそも、湊さんから直接断るようにというお願いもされていないことを、僕が出しゃばって良いものなのかと思った結果、二人のやり取りをこっそり聞くことに留めたのだ。
断られたことで彼女がもし、物理的に湊さんに危害を加えるようなことがあるのであれば、止められるようにするためでもある。
「どうしてダメなの!」
反対側の路地を通っていると、チュチュと名乗った少女のものと思われる声が聞こえてきた。
僕の予想通り、話がこじれているようだ。
「私のプロデュースを受ければ、最強のバンドになれるのに! Change the world!」
(やっぱり帰国子女か)
彼女の英語の発音から、僕はそう結論付ける。
「何度来ても、答えは同じよ」
チュチュと名乗った少女に、湊さんは淡々と告げた。
「Roseliaの演奏ぢから――――――」
(あまり、聞えない)
距離があるからか、それともチュチュと名乗る少女の声が小さいからか、声が聴きとりづらくなってきた。
(こうなれば、多少リスクはあるけど)
建物の角からこっそり顔を出して、様子をうかがえばもう少し声は聞き取れるようになるはずだ。
ただ、立ち位置によってはどちらかに僕の姿が見られる可能性は高い。
もし、こちらに背を向けているのが湊さんであれば、チュチュと名乗る少女に僕の存在がバレる可能性がある。
とはいえ、このままなわけにもいかないので、僕はできる限りばれないように細心の注意を払って建物の角から顔をのぞかせる。
見えたのは、困り果てた顔をしている湊さんと、こちらに背を向けるチュチュと名乗る少女の背中だった。
(よし! これで何とかなる)
「友希那ー!」
「ごめんなさい、すぐ行くわ!」
彼女の背後ということもあり、こちらにとって有利な条件がそろった状況に心の中でガッツポーズをとるのと同時に、待ちくたびれたのか、それとも心配になったのか湊さんを呼ぶリサさんの声が聞こえてきた。
そして、それに返事をして彼女たちのもとに向かうべく、湊さんが彼女に背を向ける。
「待って!」
それを彼女は湊さんの腕をつかんだことで止める。
「聞けばわかる!」
こちらからは死角になっていて全く見えないが、彼女の良いようだと何かを……音源かどうかは知らないけど湊さんに渡したのだろう。
「私の最強の曲を奏でれば、Roseliaは最強のバンドになれる!」
(す、すごい自信だ)
湊さんから相談をされたときも思ったが、もはや彼女の中では確定しているの結果なのだろう。
でも、それに湊さんが応じることはない。
現に、困っているような表情を浮かべた湊さんは
「私たちは、私たちの曲で頂点を目指す。プロデューサーは不要よ」
そう冷たく言い放って彼女の前を去っていった。
今度は彼女は湊さんを呼び止めることはなかった。
むしろ、俯いて肩を震わせているだけだった。
(もしかして、泣いてる?)
もしそうだとすればこのまま無言で立ち去るべきか、フォローをするべきか。
そう悩んでいると、すさまじい音と共に端に置かれていたポリバケツが、吹き飛んだ。
それは、先ほどまで泣いていると思っていた彼女の繰り出した蹴りによってもたらされた結果だ。
「信じられない! 許さない!」
先ほどのは泣いているというよりも、むしろこみあげる怒りのようなものだったのかもしれない。
かと思うと、すたすたと歩きだす。
向かうは、先ほど自分が蹴り飛ばしたために、倒れているポリバケツのところ。
何をするのかと思って見ていると、彼女は散乱したごみをポリバケツに戻して元あったように戻した。
(も、戻すんだ)
彼女の行動に、心の中で苦笑しながらツッコミを入れていた時だった。
「あんなバンド、ぶっ潰してやるッ!!」
その言葉が僕に聞こえてきたのは。
第3章、完
ということで、本章は完結となりました。
実は今回の話が、続編の執筆に時間を要した原因だったりします。
2期の時点では、彼女に対して否定的な考えを持っておりましたが、3期の放送を告知されたこともあり、その時点では続編の執筆は未定状態となっていました。
また、彼女の言動の裏には何かあるのではという予想もあったのが一つの理由です。
そして、3期が放送され話が進むごとに否定的な考えから一転、好意的な考えにシフトしていったのです。
はい、完全に典型的な手のひら返しです(汗)
3期を見終えて、色々な方の考察などを読み漁り、作品の方向性を決めることができたことによって、本作の執筆墓石で来たという経緯がございます。
彼女が再び登場するのは、しばらく先になりますが、オリジナル要素を入れていく予定ですので、楽しみにしていただけると幸いです。
それでは、次章予告を。
――
Roseliaをつぶすと口にした、謎の少女チュチュに、一樹は脅威であると認識し、行動を開始する。
そんな中、彼のもとにある人物が訪れるのだが……
次回、第4章『詳細不明』