第15話 念には念を
(これは、かなりやばいことになってきたな)
すでに人の気配が無くなってもなお、僕は先ほどいた建物の陰に身を潜ませて考えに耽っていた。
『あんなバンド、ぶっ潰してやるッ!!』
それは、Roseliaをプロデュースするとスカウトしに来ていたチュチュと名乗る少女が、それを断られた時に発したものだった。
それまでは、あり深刻にはとらえていなかったが、この一言がそれをすべて一変させた。
(相手は子供、洒落言と捉えるべきか……それとも)
前者であれば、わざわざこちらが相手にする必要もないので、勝手にさせておくだけなのだが、問題なのはもしこれが本気で言っている場合だ。
”潰す”と言ってもやり方はいくらでもある。
例えば、バンドメンバーの何人かの存在を消してしまうとか。
湊さんに関する不信感を、何らかの方法で湊さん以外の人に信じ込ませられれば、Roseliaを簡単に空中分解の危機に陥らせることができる。
現に、彼女への不信感がRoseliaの空中分解の危機に発展した過去がある。
最悪の場合は、命を奪うというのも考えられる。
他にも、Roseliaに対する悪いうわさを流して、活動停止を余儀なくさせるというのだってある。
(僕が危惧しなければいけないのは……最初の奴だよね)
噂関連はどうとでもなるが、紗夜たちに危害を加えられれば、取り返しのつかないことになる。
(とりあえず、この住所を調べてみるか)
まだ、あの少女がそのようなことをするとは決まっていない僕は、できる限り情報を集めることにした。
それがあの名刺に書かれた住所だ。
(えっと……)
僕は携帯の地図アプリを起動させると、英文字表記の住所を日本語表記に直しながらスマホに打ち込んでいく。
そして、すべての入力を終えてその住所の場所を画面に表示させる。
「ここって……超がいくつついてもおかしくないお金持ちが住むようなところじゃん!?」
表示されたのは、明らかにお金持ちが住んでいるであろうタワーマンションだった。
そのマンションの名前は『HEPHAESTUS TOWER』
調べてみると、フロント付きでコンシェルジュまでいるという、僕たちには一生縁がないであろう場所だ。
(これって、嫌な予感がするんだけど)
”お金持ち”
その単語で脳裏をよぎったのは阿久津と大蔵の二人だ。
あの二人の一件は、忘れようにも忘れられないほど、受けた被害は甚大だった。
事件中もだし、今もそれは変わらない。
「そういえば、あれどうなったんだろ」
ふと、僕は大蔵という人間がどうなったのかが気になったので、携帯で調べてみることにした。
彼が死刑判決を受けたのは知っているが、そこから先は知らないのだ。
……いや、知る気もなかったというべきだろうか。
「あ、死んだんだ」
結果はすぐに出た。
『大蔵雄一受刑者、死亡を確認。自殺か』というニュースサイトの見出しが。
一応大手新聞社のサイトなので、ガセネタではないと思うが、念のためいくつかの新聞社のサイトで調べてみるが、どこも同じような内容だった。
僕はそれだけを知るとそのサイトを消した。
今重要なのは、彼らではなくチュチュという少女のほうだ。
(これは、子供だからとかで判断するのは危険だ)
僕はそう結論をつけると、携帯のカメラでチュチュの名刺の写真を撮る。
そして、メール画面を開き件名に『調査依頼』と記し、本文に彼女の名前や住んでいる場所や対象者の特徴をできる限り記したうえで、この人物に関する全ての情報を調べるようにお願いする旨の文章を入力して、さらに先ほど撮った写真をメールに添付させて送信した。
相手はマツさんだ。
探偵事務所を生業としている人物で、その情報収集能力は折り紙付きだ。
先に登場した阿久津たちの一件も、この人たちの尽力によって解決にこぎつけたぐらいだ。
「あ、返信きた」
依頼の連絡をして数分で、メールの返信が来たので確認すると
『了解しやした! 調査が終わり次第連絡します』
という内容の返信が来ていた。
「これでよし、と」
メールを確認し終えたタイミングで、紗夜から電話がかかってくる。
(あ、そういえば何も言わずに来たっけ)
様子を見るとしたあこさんに行ってないので、もしかしたら心配で連絡してきたのかもしれない。
(とりあえず、先に帰ったって言っとこう)
今合流すれば、色々と根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えているので、ごまかすことにした僕は電話に出る。
『一樹君、今どこにいるのよっ』
案の定、電話先の紗夜の声は心配そうなものだった。
「あー、ごめん。門限が近かったから先に帰っちゃったんだよ」
僕はできるだけ紗夜に心配させないように、軽く笑い飛ばしながら応える。
『ならいいけど……気を付けて帰るのよ』
「あ、うん」
僕の返事に、紗夜はどこか腑に落ちないような感じで言うと”また明日”と告げて、電話を切った。
(もしかして、バレてる?)
なんとなく、紗夜の口調がそんな感じにも思えたのだ。
とはいえ、相手が何かするかもしれないとわかっている以上は、何もしないわけにはいかない。
(もう、あの時の過ちは犯さない)
僕の過ち。
それは、阿久津たちの一件の時に、彼にとって知られればお先真っ暗になるような弱み……いわゆる爆弾を投下しなかったことだ。
あの時、相手が何かをしたらこちらもやってやるというカウンター方式でいた。
何せ、こちらは向こうにとってバラされたくはない爆弾を持っているのだ。
そうすれば下手に行動を起こすことなどできるわけもなく、膠着状態になると考えていたのだ。
だが、僕の考えは甘かった。
阿久津たちは、僕の持つ爆弾を取り戻す……僕の口を封じるべく、過激な行動をとり始めたのだ。
そのせいで、僕はいろいろな人に迷惑をかけただけではなく、大切な人を悲しませてしまった。
最終的には僕は九死に一生を得ることになったのだが、あの時のことを思い出すだけでもぞっとする。
幸いにも、今は何とか収まるところに収まっていつも通りの日々を過ごしているが、一歩間違えればすべてが終わっていたかもしれないのだ。
今の僕があるのはただ単に運がよかったに過ぎないのだ。
あの時のことを繰り返すわけにはいかない。
しかも、今回の狙いはRoseliaであり、紗夜も含まれているのだ。
「Roseliaは、絶対に潰させない。お前の好き勝手には、させない」
僕は独り言のように決意を新たにすると、その場を離れるのであった。
BanG Dream!~隣を歩む者~ 第4章『詳細不明』
ということで、始まりました第4章。
この章はアニメで言うところの、4話にあたります。