BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第16話 大切だからこそ

マツさんに、チュチュと名乗った少女のことを調べるようにお願いした翌日の朝。

 

「……さすがにまだ来ないか」

 

僕は自室で携帯の画面を見て、一人で苦笑していた。

もしかしたら、もう結果が出たのでは……等という根拠のない予感の結果だ。

いくらマツさんがすごい人でも、ほんの数時間程度で調べられるわけがないのだ。

 

(少しだけ、落ち着こう)

 

色々とナーバスになっている自分を落ち着かせるように、僕は一度深呼吸をすると、朝食を食べるべく自室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「紗夜! おはよう」

「一樹君。おはよう」

 

いつもの合流場所で、紗夜の姿を見つけた僕は心なしか速足で彼女のもとに駆け寄っていた。

 

「そんなに急がなくても、別に私はどこにもいかないわよ」

「あはは、紗夜のとこに早くいきたかったんだよ」

 

クスリとほほ笑む紗夜に、僕は笑みを浮かべて思っていることをそのまま答えた。

 

「も、もう……あまり恥ずかしいことを言わないで」

 

そんな僕の言葉に照れたのか、帆を赤く染めた彼女はそっぽを向くように顔をそむけると、すたすたと歩きだしてしまった。

 

「あ、ちょっと」

 

そんな彼女を追いかけるように、僕はやや速足で後に続いた。

 

「ねえ、一樹君」

「何?」

 

少し歩いたところで、ややトーンを低くして声をかけてきた紗夜に、僕は静かに先を促す。

 

「あなた、何か危険なことしようとしてない?」

「……」

 

紗夜の核心をついたその問いに、僕は息をのんだ。

何とか顔に出すのは防いだけど、もしかしたら紗夜にはお見通しかもしれない。

 

「別に、一樹君が何をしようとしているのかを、無理に聞き出すつもりはないわ。ただ、あの時(・ ・ ・)みたいなことは、もうしないで」

「紗夜……」

 

”あの時”がどのことを差しているのかは自分でもわかっている。

その時のことを思い出したからか、紗夜の声色は悲しげなものだった。

あの時のことは、紗夜のこころに消えない傷跡を残していた。

それを僕はあらためて思い知らされた。

「僕は紗夜のことが好きだから。だからこそ、だよ」

「一樹君……ほんと、あなたって頑固ね」

「それはお互い様だよ」

 

僕が頑固であるというのは言いにしても、紗夜も十分頑固なところはある。

そんなやり取りがおかしくて、僕たちはついつい笑いあってしまった。

これもまた、幸せなひと時というものなのかもしれない。

そんなことを実感する朝の一幕だった。

 

 

 

 

 

突然だが、僕のある種の悩みの種を聞いてほしい。

 

「……リア充の一樹! お前は包囲されている!」

 

今の何年前の刑事ドラマだよと言いたくなるような声こそが、僕の悩みの種だ。

ここは羽丘の屋上だ。

ここにいる理由は、単純に外の空気を吸いたくなったからなのだが、そんなところにやってきたのが

 

「我々は、リア充のごとくイチャイチャして周囲に嫉妬の炎をまき散らせるものに正義の鉄槌を下すもの。その名も」

『妨害レンジャー!』

 

総勢8人の男子で構成された、妨害レンジャーだ。

 

「……まだ活動してたんだ。嫉妬レンジャー」

 

この間は数十名いたはずなのだが、そのうちのほとんどが彼女と付き合うことになったことでメンバーが減っていったので、もう存在しないものだと思っていたのだが。

 

「妨害レンジャーだ! 大魔王一樹! ハーレム計画は、この俺が止めて見せるッ!!」

「隊長! カッコいいっす!」

「隊長輝いてるっす!」

 

意味不明なことをわめいて、左手の人差し指を天に突き刺すようなポーズを決める嫉妬レンジャー隊長に、歓声を上げる隊員たち。

そのシュールさもさることながら、問題なのはその隊長が僕の幼馴染でもあり、Moonlight Gloryのキーボードを担当している啓介であることだ。

 

「……もはやばかばかしすぎて、付き合いたくないんだけど、どういう経緯でそんなことになってるわけ?」

 

今にも頭痛がしてきそうなのを必死にこらえて、僕は啓介に問いかける。

 

「よくぞ聞いてくれた! 説明しよう! 御堂君!」

「サー、イエッサー!」

 

御堂と呼ばれた生徒が、威勢よく声を上げながら一歩前に出る。

 

「美竹一樹! 貴様は、生徒会風紀委員長という身分を悪用し! 生徒会副会長の羽沢つぐ様だけではなく、会長の氷川日菜ちゃんを手籠めにしようとしている疑惑がある! そして、一番の大罪は会長の姉である氷川紗夜と交際しているということだぁぁ!!」

「以上から、我が妨害レンジャーは大魔王一樹に決闘を申し込むっ!!!!」

 

御堂という生徒の言葉を引き継ぐようにして、啓介が宣言してきた。

 

「……」

 

予想以上のひどさに、僕は絶句していた。

いや、それ以上にどうしろというのだろうか?

 

「俺たちの総力を挙げていくぞ! くらえ、ウォータボム!!」

 

啓介率いる8人の男子生徒たちは両手に水風船を持つと、それを僕に向かって投げてきた。

それを僕は

 

「………」

 

無言で全弾受けとめた。

当然水風船は割れて中に入っていた液体が、僕の体にまき散らされる。

 

(って、これお酢じゃん!?)

 

鼻につくこの匂いは、間違いなくお酢だった。

 

(あの野郎、水じゃなくてお酢を入れてきやがったな)

 

さすがに、これはやりすぎだ。

 

「あれ?」

 

啓介としては、軽いいたずらのつもりだったのだろう。

彼のいたずら好きは、僕も理解している。

啓介の中では、僕はあの水風船を避けるものだと思っていたはずだ。

つまり、彼にとってこの状況は非常事態なのだ。

 

「あ、あの一樹さん?」

 

恐る恐る声をかけてくる啓介には悪いが、僕は処刑を始めることにした。

 

「三つだけ言わせてくれますか?」

「は、はひぃっ!」

 

僕の声色に、啓介達は背筋をただした。

 

「まず一つ。水風船にお酢を入れたのはどういう理由?」

「そ、それは……お酢の力で悪しきものを洗い流せると思ったからです!」

 

この水風船を考案したのか啓介が背筋をただしたまま答える。

 

「二つ目。お前らがどう思おうと自由だが、人の彼女を彼氏の前で呼び捨てとは……いい度胸してんじゃねえか」

「も、申し訳ありませんでした!!!」

 

僕の自分でも驚くほどドスの効いた声に、その場にいる全員が一斉に土下座をして謝ってきた。

多分、僕が一番怒っているのはそこだと思う。

さすがに他人に自分の彼女を呼び捨てにされて、何にも思わない人はいないはずだ。

……たぶん。

 

「そして三つ目。今日は何の日か知ってる?」

「今日って……」

 

僕のその問いに、全員顔を見合わせているが、誰も答えようとしない。

 

「正解は、取り締まり強化週間です」

『ッ!?』

 

そこでようやく彼らはすべて気づいたのかもしれない。

自分たちの運命というものを。

 

「貴方達8名を、取り締まらせていただきます」

「そ、そそそそれだけはご勘弁を~~」

 

啓介の命乞いに耳を貸すことなく、僕は職員室に向かうと、生活指導部の先生に事のあらましをすべて説明した。

尤も、説明しなくても僕の体中から発せられるお酢の匂いが、すべてを物語っているけど。

一応、彼らのために『お酢の入った水風船を没収しようとしたら過って被ってしまった』という感じに先生には報告しておいた。

いじめだと思われないようにするための策だが、それでも彼らが処分を受けることになるのは変わりなく、彼らは処分を受けることになるのであった。

これが後に、妨害レンジャー事件として語り継がれていくことになるのと同時に、風紀委員の存在感をアピールするのに一役買うことになった。

 

(まあ、それを狙ってたんだけどね)

 

妨害レンジャーに対する苦情は、風紀委員長の僕の耳にも入るほど多く寄せられており、それに対して取り締まりを行えば一気に風紀委員の知名度や、生徒たちからの支持を得ることができると踏んでいた撲は、彼らの好きな風にさせておくことにしたのだ。

その結果が水風船になるのだが。

これによって、妨害レンジャーは解散となったのは言うまでもない。

ちなみに、この一件の被害だが、まずは加害者でもある啓介。

 

「この大馬鹿野郎がっ!!」

「調味料を粗末にするなんてっ……しかも、あれは母さんのお気に入りのッッッ……啓介、お小遣いは一生ありませんからねっ」

 

今回の一件が学園から知らされ、あまりにも陰湿……というよりもばかばかしい内容におじさんの怒りに火をつけ、また水風船に使ったお酢はおばさんのお気に入りでかなり高いものだったらしく、火に油を注ぐことになったらしい。

そして、僕。

 

「美竹君、お酢の匂いがきついわ」

「……取れないんだよ」

 

あの後シャワーを浴びて、制服もジャージにしたのだが、お酢の匂いが強すぎて洗い流したくらいではなかなか匂いが取れることもなく、肩身の狭い思いをする羽目になった。

 

「あたしの、これはどうかな?」

 

と言ってリサさんが差し出した芳香剤で、何とかお酢の匂いは消えたのだが

 

「どうして、一樹君から今井さんの匂いがするの?」

 

放課後、CiRCLEで合流した紗夜に問い詰められるという事態に発展することになった。

目の色彩が失われているような気がする彼女のその姿は、お化けを彷彿とさせるほどの不気味さと恐ろしさがあった。

湊さんの助太刀のおかげで、何とか誤解は解くことはできたが、その場にいた月島さんは、のちにその時のことをこう言っていた。

 

「うん。あれは修羅場だね」

 

と。




別にヤンデレを書く予定はないのでご安心ください(苦)

作中にある水風船ですが、良い子の皆さんは決して真似はしないでください。
水風船の中には”水”を入れましょう。

……そもそも人に投げること事態どうかと思いますが(汗)
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