BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第18 話 カオス

僕は彼女たちがやってくるのを待っていた……のだが。

 

「来ない」

 

どれほど待っても、人っ子一人来ない。

ライブを見るであろう人はおろか、ハロハピのメンバーすら。

 

(もしかして、何かのいたずら? ドッキリ?)

 

あの弦巻さんだ、そのくらいは平気でやりそうだ。

そうだとすると、これはどういった趣旨の物なのだろうか?

 

「ダンスでもすれば動きがあるかな?」

 

ドッキリならば『何もない場所に放置されたら人はどうするのか?』的なものだろう。

もうこうなればかかったふりでもして、速く終わらせよう。

そう決めた時だった。

 

「あ、カズ君だ!」

「おやおや、一樹ではないか。ああ、こうして同じステージに立つとは……儚い」

 

北沢さんの声が聞こえたかと思うと、今度は薫さんの声も聞こえてきた。

声とともに二人がステージの上に上がってくる。

 

「一樹君、いきなりでごめんね。驚かせちゃった、よね」

「いや、大丈夫。困惑はしてるけど」

 

続いてステージに上がって僕の姿を見るや否や謝ってくる花音さんに、僕は苦笑しながら返すと、ミッシェル(奥沢さん)もまた申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「本当に、うちのこころがすみません」

「いいんだけど、できれば―――」

「さあ、いっくわよー!!」

 

”この状況を説明してくれる?”と言おうとした瞬間、弦巻さんの元気のいい声に遮られてしまった。

そして、弦巻さんの号令を待っていたかのように、いきなり今まで立っていたステージに明かりがともる。

 

「うお!?」

 

そして、いきなり揺れたかと思うと、周辺の景色がどんどんと変わっていく。

 

「あの、これって飛んでる!?」

 

景色が上から下に移動していくので、まず間違いない。

 

「もしかして、ライブって……」

「そうよ! 空を飛ぶのよ!」

 

ステージ衣装に身を包んだ弦巻さんが、飛び切りの笑顔で答えてくれた。

どうやら、今回は空中ライブのようだ。

そして、これは

 

(す、スケールが違いすぎる)

 

もう、ここまでくると何が来ても驚かないような気がする。

僕ですら、空中ライブなんて考えたこともなかったことを考えて、そして実行に移す弦巻さんは、ある意味最強と言っても過言ではない。

 

「それじゃあ、行くわよ! 『せかいのっびのびトレジャー!』」

 

そして、ライブが始まった。

僕はこの状況に混乱しつつも、キーボードを弾いていく。

 

「ゲーテ曰く、まずは自分を信じてみることだ……そうすれば、すべてが見えてくる」

 

そんな中、薫さんの表情が完全に真っ青に変化していた。

 

(あ、そういえば薫さんって高所恐怖症だったっけ)

 

そんな人が、よく舞台に上がれるなと思うけど、きっと役者モードのようなスイッチがあるのだろう。

それはともかくとして

 

「薫さん、その鳥全部飛べないけど」

「う゛っ」

 

先ほどから、鳥の名前を言っているがその鳥はすべて飛べない鳥だった。

僕の指摘に、心なしか薫さんの表情がさらに青くなったような気がする。

 

(悪いことしちゃったかな)

 

ツッコミを入れたことに、多少の罪悪感を抱いてしまった。

 

「それじゃ、白鳥とかはどうかな?」

 

そこへ、花音さんからフォローが入る。

 

「そうだ! 私は白鳥! つまりは、そういうことさっ!」

 

それによって、薫さんはいつもの調子を取り戻すことができた。

とはいえ、僕は困惑したままだけど。

 

「あの、ところでこの状況を―――」

「ミッシェルー、飛ぶわよ!」

 

これまた僕の言葉は弦巻さんに遮られた。

 

「イエーイ!」

 

ミッシェルも声を上げるが、もうすでに飛んでいるのだが……

 

「ぇ……あれはやらないって言ったじゃん!」

「奥沢さま、こちらを」

 

一体何をしようとしているのかは分からないが、慌てているミッシェルの背中に黒服の人が何かを付けた。

 

(いや、まさか……ね)

 

本当はなんとなくだが、弦巻さんが何をしようとしているのか予想がついていた。

そして、曲がサビに入った瞬間、弦巻さんは僕の予想通り、飛び降りたのだ。

しかも高度何百メートルあるのか知らない場所から。

下に飛び降りた弦巻さんを追いかけて下を覗いたミッシェルは、思い立ったように顔を上げると、こちらに向かって後ずさりをし始める。

 

「飛べない熊は、ただの熊さんだぁ!!」

 

(いや、それでいいんだよ)

 

この世に飛べる熊なんていたら色々な意味で恐ろしい。

それはともかくとして、飛び降りて行った二人が心配ではあるが、他の三人は普通に演奏を続けている以上、僕も演奏を続ける必要がある。

これはもはや、演奏者としての意地だ。

 

(いや、僕もよく演奏できてるよ)

 

もはやめちゃくちゃを通り越して意味不明な状況にもかかわらず、演奏できている自分をほめたい。

 

(よし、演奏も終わった。後は……)

 

先ほど飛び降りた二人の様子を見るべく、僕は彼女たちが飛び降りたほうまで移動すると下を覗き見る。

 

(大丈夫なのか、これ?)

 

弦巻さんのことだから、パラシュート的なものはちゃんと用意しているとは思うけど、未だに落下し続けている二人の姿に色々と不安を感じずにはいられなかった。

そう思っていると、ミッシェルの足の部分が火を噴いた。

かと思えば、そのまま重力に逆らって飛び始めた。

 

(なるほど、ジェット機みたいなのをつけてたのね)

 

「カズ君! ミッシェル飛んだよ!」

「あ、うん。そうだね」

 

その様子を興奮した様子で言う北沢さんに相槌を打ちつつ、ミッシェルたちのほうを見ていた。

 

「うわ!? びっくりした」

 

すると、今度は花火が撃ちあがり始めた。

 

「きれい……」

 

花音さんの言う通り、カラフルな花火は確かに綺麗だが、これらのことをするのにどれほどの費用やら手間がかかっているのかを考えると、気が遠くなりそうだった。

 

(あ、降下し始めた)

 

役目を終えたといわんばかりに、降下を始めるステージに、僕はもう驚きすらしなかった。

そのまま僕たちをのせたステージが、船のデッキ上に着地するタイミングで、ミッシェルが尻餅をついた。

 

「「ミッシェル!」」

 

そんなミッシェルに元に、北沢さんと花音さんが慌てて駆けよっていく。

 

「大丈夫? 乗り物酔い?」

「いや、なんだか……急に腰が抜けちゃった……みたいで」

 

(そりゃ、空高くから飛び降りればそうなるよ)

 

僕としてはどんなことがあっても味わいたくない恐怖を、ミッシェルは味わったことになる。

ある意味ミッシェル……奥沢さんって弦巻さん達よりもすごい人なんじゃないかと思ってしまったりもする。

 

「薫さん!」

「「え?」」

 

そんな時、少し離れたほうから聞こえてきたりみさんの切実そうな声に、僕とミッシェルは思わず同じタイミングで声を上げるとその方向に顔を向ける。

そこには、地面に仰向けに倒れている彼女の肩を、両手でつかんでいるりみさんの姿があった。

 

「鳥でした! 私、薫さんの背中に白い翼が見えましたっ!!」

「……え?」

 

なんだかりみさんが大きな動きをして叫んでいるが、その内容が僕には意味が分からなかった。

……多分薫さんが何かを言っての言葉だと思うけど。

そんなことを思っていると、薫さんはぐったりと糸の切れた人形のようになった。

おそらくは、意識を失ったのだろ。

 

(薫さんも薫さんで、本当に頑張ったもんね)

 

高所恐怖症にもかかわらず、演奏をしきった彼女に、僕は心の中でねぎらいの言葉をかける。

 

「薫さん!? 目を開けてください! 薫さんっ!!!」

 

とはいえ、意識を失った薫さんにしがみついて、泣いているのか肩を震わせているりみさんの姿は、まるで最愛の人を亡くしたヒロインのようにも見えた。

 

(ナニコレ)

 

それを、僕は呆然と見ることしかできなかった。

 

「ということで……ハロー、ハッピーワールドでしたー」

 

そしてこの状況を強引にまとめるミッシェルもすごいが、彼女もそのまま気を失ってしまった。

 

「ミッシェル! ミッシェル!」

「美咲ちゃん! 美咲ちゃん!」

 

そんなミッシェルを揺さぶりながら名前を呼ぶ北沢さんと、中に入っている奥沢さんの名前を呼びながら揺さぶる花音さん。

ちなみに奥沢さんいわく、北沢さん達三バカは奥沢さんがミッシェルであることを、わかっていないとのこと。

つまりは……

 

「え? みーくん? どこ?」

 

花音さんの言葉に反応して、辺りを見回して奥沢さんを探し始める北沢さんと

 

「ふぇぇぇぇっ」

 

そんな状況に困り果てた花音さんという状況が出来上がってしまった。

 

「薫さぁぁぁん!!」

 

さらに向こうのほうでは、まだりみさんが薫さんにしがみついて名前を叫んでいるし。

 

(カオスだ。これはまさしくカオスだ)

 

もはやこの場はカオスと化していた。

 

「恐るべき弦巻こころ。一瞬にしてカオスを生み出すとは……」

 

僕は、改めて弦巻さんの恐ろしさを思い知らされることになった。

 

「流石薫にミッシェルね! 寝顔まで笑顔だわ!」

「いやいやいや! あれは寝てるんじゃなくて、気を失っているんだって!」

「……?? 寝ているときは気を失うのよ?」

「だ、だめだ……歯が立たない」

 

そんなカオスな状況でも、笑顔で言う弦巻さんにツッコミを入れるが、僕一人では無力だった。

首を傾げて弦巻さんに反論されてしまった。

 

(というより、誰かこの状況を僕に説明してくれ!!)

 

結局、僕がこの状況が生み出されたきっかけが、ものすごく大雑把にまとめて言ってしまうと、Poppin'Partyの皆を笑顔にするためであることが分かったのは、しばらく経ってからだった。

 

 

第4章、完




これにて、本章は完結となります。

2期を見ていて気付いたのですが、これ明らかに時系列がバラバラです。
参考にしている時系列をまとめた考察などを見た結果、このまま原作通りに進行すると、日付が戻ったり進んだりを繰り返すことになることが判明しました。

なので、次章からできる限り日付通りに進むように執筆を行っていく予定です。
……もっと早くに気が付くべきでした(汗)

それでは、次章予告を。

――

サポートギター、カメレオンとして活動を続けている一樹。
前回での演奏ができない状況にフラストレーションがたまりつつある一樹だったが……

次回、第5章『運命』
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