第19話 始まりの言葉
そろそろ夏の足音も聞こえてきそうな季節。
詳細が一切わからないライブ?に巻き込まれながらも、僕はいつも通りの日々を過ごしていた。
果たして、それを日常と呼べるのかは疑問だけど。
(何だろう、今年は色々と波乱万丈な気がするんだけど)
まだ半年もたっていないにもかかわらず、この現状だ。
そう思わずにはいられなかった。
そんな5月のある日の昼休み、僕は廊下である人物と電話で話していた。
『……お役に立てず、申し訳ありません』
「そうですか……」
電話の相手の言葉に、僕は落胆の色を隠すことができなかった。
電話の相手はマツさん。
その内容は、今月の初めごろに依頼したチュチュと名乗る少女に関する調査結果だった。
(出なかったか)
その結果は、僕にとっては一番残酷なものだった。
なにがしらか爆弾は見つかるのではと、期待していた分落ち込みは大きい
『……差し出がましいですが、一つだけいいですか?』
そんな僕に、マツさんはいつになくきつい雰囲気で声をかけてきた。
「は、はい」
そのあまりの雰囲気に、僕は圧されていた。
『お金持ちや権力者で、彼らのような感じの方はいることにはいますが、それは少数です。全員がそんな感じだと思われているのでしたら、そちらは改めることをお勧めします』
「そう……ですよね。すみません、ちょっと気が動転してました」
マツさんの言うとおりだ。
僕の考えが正しければ、身近なところで言うと、弦巻家も悪事を重ねていることになってしまう。
でも、弦巻家の人は悪人ではない。
弦巻さんの両親に会ったことはないけれど、それでも僕にはそれが分かるのだ。
弦巻さんを見ていれば、何となく。
『ただ、このチュチュという少女、現在スカウトを行っている情報があります』
「スカウト……それってプロデューサーとしてですか?」
それであれば、スカウトをするのは至極当然のことだ。
『いえ、どうもそうではないようです。これは、未確認の情報ですが、実は――――』
そう前置きを置いたうえで、マツさんが僕に伝えてくれたチュチュという人物の動向は、僕にとっては意外なものだった。
『では、これにて失礼いたしやす』
「はい、ありがとうございました」
マツさんから色々と話を聞き終えた僕は、お礼を言って電話を切った。
(進展したというべきか、停滞しているとみるべきか)
僕にとってはかなり微妙な感じになってしまったが、いつまでもうじうじはしていられない。
マツさんの情報をもとに、僕もまた色々と今後の動きを考えて行かなければいけないのだから。
「ん? なんだろう」
そんな時、携帯が着信を告げるように震えだす。
だが、その振動は一瞬で、僕は首を傾げながらも画面を見る。
「メール? 若宮さんからだ」
その相手は、Pastel*Palettesのキーボード担当で花女に通っている若宮さんからだった。
一応メールアドレスは交換しているが、そんなに連絡を取り合うこともないので、彼女から連絡が来るというのはある意味驚きであった。
「……は?」
その内容を見た僕は、今度は首を傾げることになる。
そこに記されていたのは
『賄賂です!』
という一文だった。
BanG Dream!~隣を歩む者~ 第5章『出会いと始まり』
Roselia関連でいろいろと不安要素や問題が山積み状態だが、僕にはもう一つの懸念事項がある。
それが、Pastel*Palettesだ。
同じ事務所に所属するアイドルバンドで、現在色々なところで活動を行っている。
そんな彼女たちに関して、僕や啓介たちの間ではある格言もどきが存在する。
それが『パスパレが下手踏めば、ムングロも下手を踏む』
これは、彼女たちのデビューライブの失敗を受けての物だ。
そのライブは、ある意味トラウマにもなりかかっているレベルだ。
別に、歌詞を間違えたり、下手な演奏をしたというものではない。
もはやそれとは次元が違うのだ。
簡単に言ってしまえば、『アテフリアテレコ』がばれたというものだ。
当初、Pastel*Palettesがデビューする際に、堂々と『生演奏』と謡っていた。
だが、事務所側の方針は『事前収録したプロバンドの演奏に合わせて演奏しているふりをする。ボーカルもまた同様』というものだった。
僕からすればふざけていることこの上ない方針だ。
スタッフの言い分としては、練習をしていては、時間がかかるからというものだった。
そのような方針に、彼女たちが反対することなど実質不可能であり、結局としてその方向でデビューライブに挑んだのだが、結果は見事に観客にばれるという惨状だ。
電源トラブルなどという理由らしかったが、そんなことはどうでもいい。
この時に、楽曲を作曲したことが公になり、こちらにも批判が殺到したのだ。
色々あったが、何とか今の形に持ち直したのは、ひとえに彼女たちの努力の結果なので、そこは純粋にすごいと思っているが、ただ一つだけ気にくわないといえば
(姉妹バンド……ねえ)
勝手にPastel*Palettesが僕たちの姉妹バンドという宣言を、パスパレのスタッフにされたことだ。
彼女たちのバンドが気にくわないとかではなく、僕たちのスタイルと彼女たちのスタイルは全く似て非なるものだからだ。
現在は非公式ではあるが『Roselia』が僕たちの姉妹バンドということにしている。
僕たちがRoseliaが姉妹バンドと言っていても、事務所が”パスパレが姉妹バンド”と言っている以上”非公式”になってしまうわけだけど。
とはいえ、これはこちらにも当てはまるわけで、僕たちが下手を踏めば彼女たちに影響が出てしまうことになるので、もはやお互い様だったりするわけだが。
それはともかくとして、僕は事務所内のある一室のドアの前に立つと、ノックをする。
『はい』
「失礼するよ」
中からの返事を聞いた僕は、ドアを開ける。
「あれ、美竹君? どうかしたんですか?」
「あ、おにーちゃんだ!」
中にいたのは、ドアのそばに立っている大和さんと、日菜さんに丸山さん。
そして、ソファーに腰かけている若宮さんの、四人だった。
「……日菜さん、何度も言ってるよね? 人前でおにーちゃんって呼ぶのはやめて」
「別にいーじゃん」
返ってくる日菜さんの言葉は、大体がこんな感じだ。
もはやあきらめるしかないのだろうか?
「あはは、相変わらずですね」
「でも、いいなー。私も、お兄ちゃんって呼んでみたいな」
「彩ちゃんでも、おにーちゃんは渡さないよっ」
うらやましそうに言葉をこぼした丸山さんに、日菜さんは僕の腕をつかむと小悪魔のようなからかうような目で丸山さんを見て、宣言しだしたのだ。
「……丸山さん、そういう願望でもあるの?」
「じ、冗談だってば~!」
ジト目での僕からの追撃に、丸山さんは慌てふためいて否定するが、そうすればするほどに疑惑は深まっていくのだが……。
もちろん、冗談で言ってるのは分かっているけど、ちょっと日菜さんにのってみただけだ。
「とりあえず、丸山さんのブラコン説とかは、それはおいといて」
「置いておかないでよ!」
日菜さんが丸山さんをからかう理由が、何となくわかるような気がした。
面白いリアクションをしてくれるので、ついつい悪乗りしてしまう。
「若宮さん、昼休みのあの怪文章は何?」
「怪文章?」
僕の言い回しに首を傾げている大和さんに、僕は先ほど届いた彼女からのメールを見せる。
「わ、私は……忍びは口が堅いんですっ」
「でも、知りえた情報を仲間に共有するまでが忍びの務めじゃない?」
(ブシから始まって忍びにまで行ってる)
武士と忍びは果たして同じものなのだろうかという疑問はあるが、とりあえず、今はそれには触れないでおこう。
「実は、私見ちゃったんです。チサトさんが……」
「はっ!? もしかして、スキャンダル!?」
「大問題じゃん」
(おいおい、勘弁してよ)
大和さんの口にした言葉に、僕は思わず頭を抱えたくなってしまった。
「それで、その相手は?」
「タエさんです」
誰なのかを聞くと、彼女が口にしたのはPoppin'Partyでリードギターの花園さんの名前だった。
「……たえちゃん?」
その意外な名前に、丸山さんも思わず素っ頓狂な声で聞き返した。
「チサトさんが、山吹色のお菓子を……あれは賄賂です」
若宮さんが、そう言い切った瞬間だった。
「お疲れ様です」
話題の人物である白鷺さんが部屋に入ってきたのだ。
「おー、本人登場!」
「……??」
「千聖ちゃん」
日菜さんの言葉に、目を丸くする彼女に、丸山さんが声をかける。
「……何かしら?」
ただならぬその雰囲気に、白鷺さんも何かを感じ取ったのか困惑の色を強めた。
「えっと……」
話を切り出しづらかったようで、丸山さんは若宮さんのほうに視線を向ける。
そうなれば、当然全員の視線は若宮さんに注がれるわけで……
「………」
「イヴちゃん?」
挙動不審になり始めた若宮さんに白鷺さんが声をかけた瞬間だった。
「せ、拙者! これにてドロンです!」
「い、イヴさん!?」
とうとう耐えられなくなったのか、忍者のポーズをとったかと思うと、ソファーの下に潜り込もうと……いや、逃げようとし始めた。
「それー!」
「ニンニンニン、あーれーー」
そんな彼女に日菜さんが抱きついて、上半身を起き上がらせると、必死に逃げようともがく若宮さんと、それを阻止する日菜さんという図が出来上がった。
(どうすんの? これ)
僕はその光景を、何とも言えない表情で見ていることしかできなかった。
……というか、あれに割って入りたくない。
(僕、また何かに巻き込まれようとしている?)
そして、今更ではあるが、僕はそのことに気が付くのであった。
結局、若宮さんが落ち着きを取り戻したのは、少ししてからのことだった。
ということで、第19話でした。
さて、本作を投稿し始めた際に、勝手にキャンペーンもどきとして実施していた『1日2話投稿』ですが、これにて終了となります。
実現不可能に近い状況でしたが、こうして無事に実施できたのは、ひとえに本作をお読みいただいた読者の皆様のおかげです。
この場にて、感謝の言葉を述べさせていただきます。
そして、この後ですが通常通り、0時投稿のみとなります。
これからも、本作ともどもよろしくお願いします。
それでは、また明日お会いしましょう。