「では、いつもの場所で」
「はい。お願いします」
目的地でもある『ライブハウスKIKUZU』までトモさんに送ってもらった僕は、降りしきる雨の中、傘を差して中に入っていく。
(ものすごく視線を感じるけど、もう慣れた)
雨の中黒装束に身を包んで傘をさす人間など、間違いなく異様に見えるはずだ。
下手すると青い制服を着た方々のご厄介になることだってあり得る。
……今まではないけど。
ライブハウス内に入り、集合場所のロビーに向かうと、先週知り合った二人の姿があった。
「少しくらい自由にやっても罰は当たらないでしょ」
ちょうどその場を後にするところだったらしく、去り際に佐藤さんに言った言葉は、どこか決意表明のようにも思えた。
「お、また一緒になったな」
「縁でもあるかもしれないですね。今日はよろしくお願いします」
そんな時、僕の姿を見つけたのか、佐藤さんが話しかけてきたので、相槌を打ちつつも挨拶をした。
「ああ、お互い頑張ろうぜ」
佐藤さんの不敵な笑みを見ていたら、僕もつられて口元を緩ませていた。
(今日は、いつも以上に良いライブができそうだ)
それは、予感でも何でもなく、僕にとっては確定した未来のようなものであった。
そして、ついにライブが始まった。
このバンドはカバーバンド。
つまり、カバー楽曲の演奏を主に行うバンドだ。
カバー曲のアレンジも中々上手く、そこそこ名の知れたグループでもあるのだ。
その中で、ライブを行う僕たちは、観客からの歓声や勢いを受けつつも演奏を続ける。
(このボーカル、全然音程が取れてない。こんなんだったら、丸山さんのほうが数倍もうまくできるぞ)
相変わらず不満は際限なく出てくる。
今演奏しているのが、僕たちMoonlight Gloryの楽曲だからなおさらだ。
いつもであれば、ストレスがたまるだけのライブになっているはずだ。
でも、今日のライブはいつもとは違う。
(お、佐藤さんからのパスだ。ならば、これで!)
凄腕のドラマーがいるのだから。
僕は佐藤さんが放った音に自分のギターの音をのせて彼女に返していく。
そうすると再び佐藤さんから音が返ってくるのだ。
(おー、今度はベースもだ!)
そこに和奏さんのベースが加わった。
それは本当の意味で先週のセッションの再現だった。
佐藤さんのドラムの打音に対抗するように、和奏さんのベースの音が乗りそれらを僕のギターの音が彩っていき、会場中に向けて放出する。
ものすごく大雑把だが、僕たちがやっている演奏はそんな感じだった。
僕のやっている演奏スタイルである『そのバンドの音に溶け込んでいく(擬態する)』とは思いっきりかけ離れた演奏スタイルではあるが、そんな設定は今の僕にとってはどうでもいいことだった、
(だって、こんなに楽しいんだもん!)
佐藤さんの演奏スタイルが、田中君と同じだからか、僕には今日のライブはとても楽しく感じられたのだ。
それに、観客の受けもいい。
ならば、このまま最後まで駆け抜けていくまでだ。
こうして、僕は最後まで演奏を楽しんでライブを終えるのであった。
「お前、マジですげえじゃん」
「本当です。和奏さんのベース、とても痺れました」
「あなた達こそ、すごかったよ」
ライブも終わり、ライブハウス前でお互いの演奏をたたえ合う。
いつの間にか降っていた雨はすっかりやんでおり、きれいな夕焼けがそこにはあった。
和奏さんも佐藤さんも笑顔だった。
もちろん、僕も。
「今日は楽しかったぜ! またな」
「はい、ぜひ」
「ええ」
そして、僕たちはバラバラになってその場を去って行く。
(ずっと演奏をしていたいと思ったのは、いつ以来だろう)
ムングロやRoselia等に次いで、このような気持ちを抱いたのは、本当に久しぶりだった。
それでも、出会いもあれば別れもある。
また一緒に組めるかどうかはわからない。
でも、それがこのサポートギターの良さなのかもしれない。
「お疲れ様です。さあ、どうぞ」
「いつもすみません」
そんな感想を抱きながらも、僕はトモさんの運転する車に乗り込むと帰路につくのであった。
「本当に、ここでいいんですか?」
「はい。ちょっと寄りたいところがあるので」
僕が車から降りた場所は、商店街の入り口だった。
お祭りのライブは、おそらくは中止になったのだろうが、この目で確かめておこうと思い、急遽ここで降ろしてもらうようにお願いしたのだ。
(さて、行くか)
トモさんの車を見送った僕は、商店街へと足を踏み入れた時だった。
『ただいまから、ステージでラブを……ライブをやります。皆さん見に来てよねー』
(あ……)
まるで待ってましたと言わんばかりのタイミングで、アナウンスが聞こえてきた。
僕は足早にステージ会場へと向かっていった。
会場の席は先ほどとは違い空きが多かったが、僕は立って見ることにした。
「あれ、一樹君じゃん」
「ん?」
そんな時、よく知っている人物の声が聞こえてきたので、声のしたほうを見ると、隣にリサさんの姿があった。
「リサさん、このライブを見に?」
「まあ、そんなところかな。本当は、たまたま通りかかっただけなんだけどね」
そう言って頬を掻きながら苦笑しているリサさんは、僕のほう……というよりは、少し先にいる誰かを見つけたようで手を振り出した。
「友希那―! こっちこっち」
「……そんなに大きな声を出さなくてもわかってるわ、リサ」
大きな声で呼ばれた湊さんが、少しだけ恥ずかしそうにしながら注意する姿は、なんだか意外だった。
「あら、美竹君もいたのね」
「まあね」
そんなこんな話していると、なんだかよく見知った人物の後姿を見つけたような気がするが、とりあえずは演奏に集中しよう。
そう思って、僕はステージに姿を現した蘭達Afterglowのライブ見ることにした。
始まったのは、少し前にPastel*Palettes用に蘭達が作曲して提供した楽曲でもある『Y.O.L.O!!!!!』だった。
疾走感あふれるこの曲は、蘭達が丸山さん達からパスパレのこれまでの軌跡を聞いて、作り上げたものだ。
一般的にはPastel*Palettesの楽曲とされているが、Afterglowの楽曲として演奏ができるようにしてほしいという僕のお願いが聞き入れられ緋は知らないが、Pastel*Palettesの楽曲でもありAfterglowの楽曲でもあるという扱いにされ、蘭達が好きな時に演奏ができるようになったという背景がある。
そんなこの曲だが、パスパレが演奏するのとAfterglowが演奏するのとでは全く異なり、パスパレの場合は、どこか芯のようなものがあるようにも感じさせる応援ソング的な意味合いを持ち、Afterglowの場合だと、応援ソングという一面に加えてすさまじい熱量も加わる特徴がある。
パスパレの『Y.O.L.O!!!!!』もいいが、彼女たちが演奏するこれも、十分に素晴らしいの一言に尽きる。
疾走感のある曲調に、蘭の力強い歌声は相性抜群であり、この曲の熱量をさらに増幅していく。
(流石だ。また腕を上げたな、蘭)
僕は心の中で、蘭に声をかけるのであった。
『最後に、Poppin'Partyから一つお知らせさせてください』
彼女たちの後にステージに上がった戸山さん達Poppin'Partyの演奏も無事に終わり、盛大な盛り上がりを見せる中、戸山さんが口を開いた。
『Poppin'Partyの主催ライブは、この商店街にあるライブハウス『galaxy』でやります!』
それは、先月のgalaxyのリニューアルライブで告知していた主催ライブの情報だった。
(ついに、箱は見つけたか……)
色々と課題があったはずだが、彼女たちなりに、答えを出してのこの告知だろう。
ライブを行う場所を抑えれたとはいえ、道のりはまだまだ遠いが、それでも大きな一歩だ。
(頑張れ、Poppin'Party)
僕は心の中でエールを送るのであった。