BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第25話 出された答え

「兄さん、良い?」

「どうぞー」

 

その日の夜、蘭が僕の部屋を訪れてきた。

 

「今日の演奏、どうだった?」

「いつも通り、素晴らしい演奏だたよ。とても熱かった」

 

僕は思っていることをそのまま蘭に話す。

それは、一切お世辞などない僕の本心だ。

 

「それじゃ、この間の話はどう?」

「やっぱり、それか」

 

蘭の問いかけに、僕は深いため息交じりに返した。

 

 

 

 

 

それは、去年の12月に、蘭から言われた言葉から始まった。

 

『AfterglowとMoonlight Gloryで合同ライブ?』

『どう?』

 

あの時も、夜に部屋を訪ねてきていきなり提案してきたのが、それだった。

簡単に言えば、Roseliaとの合同ライブと同じ感じのライブをやりたいという申し出だった。

その時僕は

 

『却下』

 

と、問答無用で切り捨てた。

 

『ッ! どうして……』

『あなた達の演奏が、僕達のライブに出るレベルではないから』

 

遠まわしに言っても、伝わらないだろうと思い、直球で理由を言った僕を、蘭は鋭い目で睨みつけてきた。

その目は、怒りに染まっていた。

 

『……じゃあ、演奏がうまくなれば良いって言うこと?』

『まあ、そうだね』

『わかった、絶対にうまくなって、兄さんと同じステージに立って見せる!』

 

あのときは それで話は終わった。

 

(確かに、前よりうまくはなっているけど)

 

全員の演奏は、あの時よりも確実にうまくなっている。

それは確かだ。

でも、それだけではまだ十分ではない。

 

「一ついい? どうしてそんなに僕のライブに出たいんだ?」

「そ、それは……」

 

僕の疑問に、蘭は視線を下に落とすと言葉を詰まらせる。

 

「………まずはそこから、だね」

「………」

 

僕の突き放した言い方に、蘭は何も答えずに部屋を出て行った。

 

(……どうしたものか)

 

蘭が去って行ったドアを見ながら、僕は心の中でつぶやくと考えこんだ。

別にやりたくないというわけではない。

機会があればやりたいのが本音だ。

とはいえ、それができない事情があるのもまた事実。

それを説明すればいいのだが、気を付けないと、Afterglow内がおかしなことにもなりかねない。

 

(様子を見て、必要だったら説明するか)

 

この一件がきっかけで、悪影響を及ぼすのであれば説明するという方向で、僕は一応決着をつけた。

 

 

 

 

 

それからしばらく経った5月27日の夜、僕はこの日行われている大きなイベント『World Idol Festival vol.4』のライブ会場を訪れていた。

目的はもちろん、Pastel*Palettesの演奏を聴くためだ。

 

「ごめんね、わざわざ付き合ってもらあって」

「いえ。私もちょうど気にしてたから」

 

ダメもとで紗夜を誘ってみたのだが、意外なことにあっさりとオーケーを出してくれた紗夜は、そう言ってステージのほうに顔を向ける。

 

(紗夜も紗夜で、姉なんだな)

 

去年の今ぐらいの時から見れば、色々と感慨深かった。

 

「な、何?」

「いや、別に何も」

 

じっと見ていたのがばれたようで、頬を赤くしながら聞く紗夜に僕は誤魔化しながらステージのほうを見る。

 

(お、出てきた……お手並み拝見といこうか)

 

観客たちの歓声を浴びながらステージに上がる彼女たちのライブに、僕は神経を集中させる。

そして始まった彼女たちのライブは、順調に進んでいき、MCで丸山さんが噛むのも含めればいつも通りのことだろう。

 

『次が最後の曲です。聞いてください。”ゆら・ゆらRing-Dong-Dance”』

 

イントロの部分は問題なかった。

丸山さんのボーカルが入り、そこに白鷺さんの歌声も加わる。

 

(うん、良いな感じ)

 

出だしの部分だけで言えば、これまでとは違い一体感のようなものを感じ取れる。

この曲のポイントは、白鷺さんがどれだけ丸山さんと息を合わせられるのかだ。

ステージの上というのは、稀にメンバー同士が言葉を交わしていないにもかかわらず、まるで何を言っているのかが理解できるような、意思の疎通ができることがある不思議な場所なのだ。

それも、良くあるというわけではなく、何らかの条件を満たさなければ起こらないものなのだ。

そして、その発生条件は僕なりの解釈ではあるが導き出せている。

それこそが、”お互いを信じあう気持ち”なのだ。

メンバー同士がお互いに信じ合った時こそ、その現象を起こすカギを手にすることができる。

僕は、この曲を通じてそれを手にしてほしかったのだ。

 

(問題はサビの部分か)

 

曲が一番盛り上がる箇所であるサビの部分でこそ、その真価が問われる。

もし、会得できていなければここでバラバラになる。

それがいつものパターンだった。

そして、ついにサビに突入した。

 

(おぉ……さらに一体感を増したぞ!)

 

サビに入った瞬間、彼女たちの演奏が一つになって僕たちのほうに届いてきた。

それは、観客たちのボルテージも一気に上がっているのを見れば明らかだ。

僕も柄にもなくノッていた。

 

(彼女達は、進化したんだ……)

 

気が付けば、僕は口元が緩んでいた。

きっと僕は笑みを浮かべているのかもしれない。

背中合わせになって歌う二人の姿は、おそらく今までのステージよりも輝いて見えた。

そして、演奏が終わり観客たちからあふれんばかりの歓声と拍手が起こる。

 

『以上、Pastel*Palettesでした!!』

 

こうして、彼女たちのライブは無事に幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

ライブが終わり、関係者しか立ち入りができないエリアに紗夜と一緒に入ってから、紗夜はどこか落ち着きがない。

 

「本当に、ここに入っていいの?」

「うん。というよりここじゃないと変な騒動にも発展するから」

 

本来であれば、ぎりぎり部外者になってしまう紗夜だが、外のエリアで待っていてもらうと日菜さんと勘違いした人や、日菜さんの姉であることを知っている人たちなどで、その場がパニックになることも考えられる。

そんな危険がある場所に彼女を一人にさせておくわけにもいかなかったので、イベントの運営の人にそのことを説明して立ち入りを認めてもらったのだ。

そんな僕たちが向かうのは、パスパレの控室兼楽屋だった。

 

『はーい!』

「うわ!?」

「きゃっ」

 

ノックをすると、中から日菜さんの声が返ってきたのとほぼ同時に楽屋のドアが開かれたため、僕たちは慌てて後ろに飛びのいてこちらに向かって開いたドアを回避した。

 

「あれ? 一君に、おねーちゃんだ! 見に来てくれたんだ!」

 

僕と紗夜の姿を見つけた日菜さんは目をキラキラと輝かせて、はしゃいでいた。

そんな日菜さんの姿に、僕と紗夜は顔を見合わせると苦笑しあう。

日菜さんたちの姿はまだステージ衣装で、着替えている最中ではなさそうだった。

 

(強制的なラッキー何とかにならなくてよかった)

 

前に啓介が言っていた単語だったが、興味がないので記憶にもないが、とりあえず着替え中の彼女たちと鉢合わせにならなくてよかったと、胸をなでおろした。

 

「日菜、騒がしいわよ。それにドアを思いっきり開けるのはやめなさいと前に言ったはずよ」

「だってー」

「……一体何の用?」

 

苦笑したのちに表情を引き締めた紗夜に怒られて、頬を膨らませる日菜さんたちの姿に、白鷺さんは一瞬目を向けるが、すぐに何もなかったようにこちらに向けると用件を尋ねてきた。

とりあえず、僕も現在進行形で怒られている日菜さんは放っておいて、用件を言うことにした。

 

「今日のライブ、見させて貰った」

「感想は?」

 

白鷺さんの問いかけに、楽屋内が静寂に包まれる。

日菜さん達ですら黙り込んで僕のほうを見ている。

 

「とても素晴らしいライブだった。文句のつけようもない……合格だ」

「いやったぁー! やったよ! 千聖ちゃん!」

 

僕の勘そうに、最初に喜びの声を上げたのは丸山さんだった。

 

「あ、彩ちゃん嬉しいのは分かったから、抱きつかないで」

 

口では厳しく注意しているが、その表情は微笑んでいるように見えた。

 

「マヤさん! やりましたー!」

「はい! すごいです! ふへへ」

 

大和さん達も喜びをあらわにしている。

 

「そ、そこまで喜ぶんだ……」

「だって、ずーーーっと一君からOK出なかったんだもん」

 

あまりの喜びように、若干引き気味に言う僕に返ってきたのは、日菜さんからの嫌味だった。

 

「これが、あの曲に関する著作権関連の書類だから、ちゃんとスタッフの人に渡しておいて」

「ええ。確かに、預かったわ」

 

それから逃げるように、僕は白鷺さんに楽曲の著作権をPastel*Palettesに移すことへの同意書などが入った封筒を手渡す。

これで、彼女たちはあの曲を発売させることができるようになるのだ。

尤も、もう一度収録をし直すことを条件にしているけど。

こうして、長い間にわたって続いた一つの問題は、無事に解決するのであった。

 

 

第5章、完。




結局最後のほうでガタガタになってしまい、申し訳ありません。
これにて、本章は完結です。

そして、7月は本作の投稿を中断し、8月より再開させていただきます。
7月はもう一つの新作『青薔薇との物語』を投稿していく予定ですので、よろしければお読みいただけると幸いです。

それでは、次章予告を。

―――

学校生活も落ち着いてきたところで、持ち上がった花女との合同文化祭計画。
一樹たちは計画を成功させるべく、動き出す。
そんな彼のもとに一本の電話がかかってくるのだが……

次回、第6章『合同文化祭』
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