(とりあえず、サングラスくらいしかないけど、いっか)
CiRCLE付近まで来た僕は、変装に使えそうなものとして、紛れ込んでしまったのかサングラスをバックから取り出すとそれを装着した。
(にしても、僕に用がある人って何者なんだろう?)
月島さんいわく、いきなりCiRCLEを訪ねてきたその人物は、『カメレオンを呼んで欲しい』と言ってきたそうだ。
当然、いきなりの訪問ということと、そういった類のものには応じないように打ち合わせをしており、”できない”旨を相手に伝えたのだが、相手は呼んでほしいの一点張りでなかなか帰ろうとしなかったらしい。
普通の人からすれば、知ったこっちゃない話ではあるが、CiRCLEには普段から色々とお世話になっているし、今回のサポートの件も月島さん含めCiRCLEの人たちには 色々と協力をしてもらっている。
僕からすれば、関係ないでは済まないのだ。
(行くか)
意を決して中に入ると、受付で困り果てたような表情をしている月島さんの姿が目に留まった。
そんな彼女は、僕の姿を見つけると、ぱぁっと表情を明るくさせた。
「あ、カメレオンさんっ」
「ご無沙汰してます」
とりあえず、月島さんに挨拶をしてこの場に居座っているであろう人物のほうに視線を向ける。
(この子……まさか)
後ろ姿だったが、茶髪の髪といいその首にかけられている独特な形のヘッドホンといい、見覚えがありまくりだった。
そう、Roseliaをぶっ潰すと公言していた、チュチュという名の少女だった。
「あなたが、”カメレオン”ね?」
「ええ。私がカメレオンです……えっと」
(名前を言ってもいいのだろうか?)
僕は彼女とは初対面。
それなのに名前を知っているというのはいささか不自然だ。
なぜここに彼女が来たのかの理由が不明なこの時点では、そのような言動は慎むべきだろう。
そう言う結論に至った僕は、一瞬名前を言おうとしたのをやめて口を閉ざした。
「失礼、申し遅れました。私、プロデューサーのチュチュと申します」
「これはご丁寧にどうも」
僕の無言を、良いように解釈してくれた彼女は、名前を名乗ると名刺を手渡してくる。
その名刺は、前に湊さんに見せてもらったのと同じものだ。
「カメレオン。あなたのギター力を見込んで、あなたをスカウトしに来たわ」
「………スカウト?」
一体何の用かと思った僕は、予想外のそれに一瞬固まってしまった。
「……立ち話もあれだ……向こうに移動でもしないか?」
「オーケー」
カメレオンとしてのキャラを作って彼女をロビーに置かれたソファーへと誘導する。
これで月島さんには迷惑は掛からないだろう。
「さて、スカウトといったが、本気かい?」
「オフコース! この間、あなたが出演したライブを拝見しました。その時に私はあなたのギター力に心が震えたのです。あなたの奏でる音一つ一つが、ヴィジョンとなって私の頭の中に入ってきました」
「それは、光栄だ」
(さて、どうするか)
このタイミングでのスカウト。
相手はRoseliaに対して危害を加える可能性のある人物だ。
そんな彼女の懐に入る大チャンスでもある。
バンド内に入れば、彼女の動向も把握できるので、先回りして対策を講じることだって可能だ。
おまけに、チュチュに対してカウンター攻撃をするための準備や細工もし放題になるのだ。
だが、少々都合が良すぎるのもある。
これ自体が罠で、ひょいひょい乗ってしまえば窮地に陥る可能性だって捨てきれない。
(それに、ここで二つ返事で頷いたら不自然だしな……)
となれば、僕がとるアクションは一つしかない。
「失礼だが、私は君の名前を聞いた覚えもない。実績のない人のスカウトを受けるわけにはいかないな」
一度否定的な意見を口にするという物しかない。
そんな僕の言葉に、少女は起こるわけでもなく、すっと音楽プレーヤーを差し出す。
「聴けばわかる」
「失礼」
彼女から音楽プレーヤーを受け取った僕は、集まりに向かう道中、電車の中などで音楽を聞くためにと持ち歩いていたイヤホンのプラグを差し込んで、耳に装着すると再生した。
(ッ!?)
その瞬間、僕はまるで雷に打たれたような衝撃を受ける。
流れてきた曲は荒々しい乱暴な曲調であり、それと同時に力強い何かを感じさせるものだった。
それは、僕の好きな曲調でもあった。
(すごい……文句のつけようもない曲だ……)
見た目で判断するのは失礼ではあるが、それでも目の前の少女がこの曲を作り上げたというのはにわかには信じられない。
(いや。これは紛れもなく彼女の曲だ)
目の前の少女の目を見ていればわかる。
この曲が醸し出す雰囲気と少女が同じオーラをまとっているということに。
「素晴らしい……陳腐な言葉だが、これ以上の言葉を私は知らない。久々に痺れる曲を聴いた」
「サンクス。あなたのギターで、この曲をさらに最強の曲にしてみる気はないかしら」
そう言って少女は僕に手を差し伸べる。
「……もちろんだ」
もはや目論見とは関係なく、僕はその手を取った。
それは、彼女のバンドに入ることを意味するものだった。
僕は、純粋にこの曲をやりたいと思ったのだ。
何より、僕のことをあそこまで高く評価をしてくれている彼女のそれを蹴るというのは、僕にはできなかった。
「それじゃ、あなたのギター力を一度見せてもらうわ。この後時間はあるかしら?」
「申し訳ないが、今日は立て込んでいてね……明後日のこの時間なら時間が取れるんだが」
明日はおそらく、生徒会活動のほうが忙しくなるはずだ。
そう考えると、明後日の放課後のほうがこちらにとっては都合がいい。
「オーケー。それじゃ、そこの場所に来て頂戴。あなたが私の見込み通りであることを祈ってるわ」
話は終わりと言わんばかりに、すっと席を立ったチュチュは、そのまますたすたとCiRCLEを後にしていった。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、こちらこそ面倒かけました」
彼女が出ていくのを見計らって、月島さんがほっとした表情を浮かべながら話しかけてきたので、僕は迷惑をかけたことを謝る。
「ううん、気にしないでいいよ。おかげでここのお客さんも増えてきたし」
そうは言うものの、月島さんの表情はどこか疲れているような感じだった。
(やっぱり負担は相当かけてるみたい……でも)
じゃあ、どうするのかと聞かれれば皆無にも等しい。
それこそ、僕がサポートを引退するくらいしかない。
「それじゃ、私はこれで」
申し訳なさを感じつつも、僕は集まりに出るべくCiRCLEを後にするのであった。
(これ、ちょっと急がないとやばいかな)
チュチュとの話し込んでいたこともあり、走らないと間に合わないような感じになっていたため、僕は走って向かうのであった。
白金さんから合同文化祭を行いたいという連絡がきたのは、その日の夜の事だった。
……日菜さん経由だったので、日菜さんの嬉しい気持ちはちゃんと伝わってきた。
(とはいえ、擬音だらけなのは、考え物だけどね)
三年ほど日菜さんとメッセージのやり取りをしていれば、さすがに慣れてくる。
最初のころは何を伝えたいのかがわからずに困惑していたが、今では日菜さんが何を伝えたいのかがなんとなくわかるようになってきたので、そんなに困惑しない。
尤も、的中率は五割ほどだけど。
こうして、明日から文化祭に向けての準備が忙しくなることを確信しながら僕は眠りに就くのであった。
ということで、一樹RASに潜入の巻でした。
チュチュの話し方とか、これでいいのかなという疑問がありますが、とりあえずはkの形でやって行こうと思います。