合同文化祭の案件を花女側が承諾したことにより、今年の文化祭は二校での同時開催となった。
「では、説明いたします」
確定してから二日目の教室で、僕はクラスの人たちの視線がこちらに向けられる中、黒板の前に立って今年の文化祭の件を説明することになった。
本来であれば、先生がするはずなのだが先生がめんどくさ――――僕のほうが適任だと判断したため、生徒会に所属している僕が説明を行うことになったのだ。
(間違いなく面倒に思っただけだろうけど、考えないでおこう)
知らぬが仏というやつだ。
「今年の文化祭では両校が同日程で文化祭を始めます。共同の出し物として一日目を花咲川女子学園で。二日目をここ、羽丘学園にて実施します。出し物に関しては―――」
僕が説明するのは、例年開催されている文化祭との違う点についてだ。
二校合同の出し物は一日目と二日目で開催する場所は異なる。
参加資格を有するのは部活動もしくは、生徒会が承認する集まりであるかの二つだ。
無論、花女及び羽丘の生徒であるという前提条件はあるけど。
現時点では、日程については協議中だが、申請の様子を見て文科系だったり運動系等のジャンルとかで一括りにするのが無難だろうというのが、先日開かれた花女と羽丘による文化祭会議の結論だ。
「以上が今年の文化祭についての説明です」
「美竹君ありがとう。では、このクラスの出し物を決めようか」
僕の説明が終わるのと同時に先生が黒板の前に立ち、話を進めていく。
とは言っても、文化祭実行委員の人を呼ぶだけだけど。
こうして、いつも通りクラスの出し物を決める話し合いが開かれるのであった。
「では、出し物について意見がある人はいますか?」
「………」
(うわ、めっちゃ見られてるんだけど)
ここの出し物を決める方法は、オーソドックスなもので、クラス内から出た出し物を書きだしていき、それを多数決で決めるというものだ。
そんな出し物決めの前に、隣の席の湊さんからある頼みごとをされていた。
(何で僕が、『猫カフェ』の案を出さないといけないんだ……)
『美竹君。あなたに、折り入って頼みがあるわ』
真剣な面持ちで話しかけてきた湊さんが、口にしたのがクラスの出し物で猫カフェの案を出してほしいというものだった。
恥ずかしそうに顔を赤らめてのその頼みごとに、頷いてしまったのだが、よくよく考えてみればそれが誤りであるのは間違いない。
(こんなところに動物を入れられるわけないし)
湊さん的には一般的な猫と触れ合える『猫カフェ』のつもりだろうが、ああいうところは飲食店である以上かなり規制などが厳しかったはずだ。
飲食系の出し物をする場合、保健所に届けを出す必要がある。
その際に保健所から指導を受け、食中毒などのリスクを下げるように対策を講じていくことになる。
もちろん、法律で定められていることではないので、必ずやらなければいけないというものではないが、飲食系の出し物をやるにあたって注意する点を教えてもらえる点からすれば、出しておいて損はない。
それはともかく。
いくら何でも動物を教室内に入れるというのは非現実的だし、生徒会のほうでストップがかかる。
というか、僕がかける。
(いっそのこと、皆に猫耳をつけさせるか)
そうすれば、一般的な喫茶店のレベルになるので、問題はなくなる。
とはいえ、それを湊さんが認める可能性は低い。
しかも、猫耳をつけて……なんてことを言おうものなら女子から反対続出間違いない。
下手すると風紀委員活動にも支障をきたす可能性だって考えられる。
(誰かがやばめな喫茶店の案でも出してくれれば、なんとか行けるんだけど)
「はいっ!」
そんなことを考えていると、一人の男子が自信満々に手を上げた。
「俺は、コスプレ喫茶を提案しますっ!!!」
大きな声で言い切った啓介のそれは、まさに僕が望んでいた展開をさせるものだった。
「何よそれっ」
「この変態!」
「っケ! これだから男子は」
「待て待て。コスプレと聞くからそう思うんだ」
たちまち起こる女子たちからの抗議に、啓介は席を立つとみんなを落ち着かせるようにジェスチャーを交えながら口を開いた。
(というより、男子全員が啓介みたいな思考だと思わないでほしい)
口にすると巻き込まれるので、僕は心の中でそう呟いた。
「いいか? コスプレというのはいわば男のロマンだ! それに今の自分から別の自分に変わるという物なんだ! それは新しい自分の発見でもあり! 将来の役に立つこと間違いなし! しかも、来た人は皆がハッピーになるという両者にとってメリットしかない物じゃないか!! さあ、コスプレしてもう一人の自分をさらけ出そうではないか!! 具体的には 着るのはエプロンのみの、は――――」
『ふざけんな、この変態!!』
啓介が具体的なコスプレ姿を口にしようとした瞬間、ついに女子たちの我慢の限界を迎えたようで、罵詈雑言の嵐が沸き上がった。
「うわー、滅茶苦茶だね」
「……自業自得」
そんな状況の中、席を立って僕たちのところまで来たリサさんに、僕はそう切り捨てた。
「一樹君は、フォローしなくていいの?」
「いや、どう見ても無理でしょ」
首を傾げて聞いてくるリサさんに、僕は教室内を見渡しながら答える。
いつもなら、啓介の意見に同調しそうなやつも、今回限りはやばいと察したのか口を閉ざしており、完全に啓介は孤立無援状態に陥っていた。
一番の被害者は、その様子を困惑した様子で見ている、実行委員の人だろう。
「でも、幼馴染だし助けてあげたほうがいいと思うなー」
「……はぁ」
望んでいた展開ではあるけど、ものすごく気が滅入る僕は思わずため息が漏れた。
「ちょっといい?」
そして僕は、自ら混沌の場に身を投じたのだ。
「おぉー! 一樹も仲間になってくれるのか!! さすがは同士!」
「……啓介の出した案を『コスプレ喫茶』ではなく『猫カフェ』に変更を希望します」
なんだか目を輝かせている啓介をしり目に、僕は啓介の案を変更させた。
「こっちのほうが、コスプレ喫茶よりはましだと思いますけど、どうですか?」
「……まあ、それならいいかな」
「そうだね。それに風紀委員長の美竹君だから安心だし」
最初は戸惑っていたクラスの女子たちも、徐々に納得していったようで賛成に回って行った。
「ちょっと待て! 猫カフェじゃ、華やかさが――「啓介、想像してみな。女子たちが猫耳をつけて接客をしている姿を」――………何でもないですぅ」
異論を唱えようとする啓介のもとに、すかさず移動した僕が耳打ちすると、頭の中で想像を巡らせたようで、顔を緩ませながら黙ってくれた。
その後、お化け屋敷などのポピュラーな案が出そろったところで、多数決が行われたが、猫カフェがぎりぎりではあるものの一番多く票が入ったため、僕たちのクラスの出し物は『猫カフェに決まるのであった』
ちなみに、実行委員から『猫カフェ』の案が出されたその場で却下となったことによって、昼休みに動物の猫ではなく、自分たちが猫耳をつけたりねこの置物などを教室内に置くという方向に変更することで許可が出た。
このことで湊さんは不満そうな表情を浮かべていたことを、ここに付け加えておきたい。
こうして、クラスの出し物は無事に決まり、文化祭に向けての準備が始まるのであった。
ちなみに、この混とんとした状況を引き起こした啓介は、生活指導部の先生からありがたい話を聞かされることになるのだが、それはまた別の話である。
啓介いわく、『男のロマンというのは分かり合えるものではないようだ』とのことだが、おそらくは分かり合えたとしても少数だと思ったのはここだけの話だ。
今の高校などの文化祭でそれぞれのクラスで飲食を提供する喫茶店のようなものができるところってあるのかが疑問だったりします。
ちなみに、私の場合は”不可能”でした。