BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第30話 条件

「ちょっといいかしら」

 

一緒に演奏をしていたパレオさんから祝福の言葉をかけられていた僕に、真剣な面持ちで声をかけてきた少女に、僕は無言で続きを促す。

 

「あなたの演奏は、最初は他人の顔色をうかがうような演奏だったわ……なのに途中でそれが一気に変わったのはわざと?」

「答えを言うのであれば、No。最初は他の音に合わせようとしていた。でも途中から、それを変えた」

「Why?」

 

おそらく、彼女が聞きたいのは、その理由のほうだ。

目の前の少女のまっすぐな視線から(サングラス越しだけど)目をそらさないよう、僕はその理由を話す。

 

「それが、君の作り上げた曲が求めていたから。あの曲が求めているその形は、後に続いていくのとかじゃなく、自分自身で切り開いていく……そんな感じに思えた。だから、そんな風に演奏をした」

「……曲の雰囲気を理解して、修正をかけたっていうわけね。Excellent! ますます気に行ったわ! あなたのメンバー入りで、ようやく最強のバンドが爆誕するわ!!」

 

(あはは……なんかミイラ取りがミイラになってない?)

 

気づけば自分でも恐ろしいほどにこのバンドにのめりこんでいる自分に、苦笑するしかなかった。

 

「ちょっといいか。立場的におかしな話だが、加入にあたって一つだけ、条件を付けさせてほしい」

「構わないわ! 何でも言ってみなさい」

 

彼女の機嫌がいいうちに、重要なことを言っておこうと思った僕は、その条件を口にする。

 

「ギターのメンバーの募集を続けること」

「……どういうことよ」

 

僕のその言葉にやはりというべきか、それまで上機嫌だったチュチュの表情が一気に変わり、不機嫌なものになった。

 

「そのままの意味だ。君はまだ私というギターリストを知らない。さっきのはいわば表面上にしか過ぎない。途中で、”こんなはずじゃなかった”ということにならないためにも、メンバーは募集し続けるべきだ」

「あなた、馬鹿じゃないの? それに、あなたはさっきの演奏でSWEETでExcellentな演奏をして見せた。あなた以上のギターリストなんているはずがない」

「私のさっきの演奏は、この曲の理想とする形という題名に対して私が出した一つの回答にしか過ぎない。私以上の解を出せるギターリストが出てくる可能性だってあると申し上げている」

 

お互いに一歩も譲らないとは、まさにこのことだろう。

とはいえ、この条件は呑んでもらう必要がある。

それは打算とかではなく、純粋に彼女たちのためにだ。

 

「ならば、試用期間を設けよう。いわば一種のお試し。期間は……10月末まで。その間、もし見つからなければ私はこのバンドのメンバーとして持てるすべての技術を使おう。それでどうだ?」

「……OK。いないと思うけど、それで決まりでいいわ」

 

チュチュが折れたことで、僕の条件を呑ませることができた。

 

(後は、待つだけか)

 

僕以上にふさわしいギターリストが現れるのを、僕は待つことにしたのであった。

 

 

 

 

 

合同文化祭の準備も本格的に始まりだしたこの頃、僕たち生徒会メンバーは文化祭の成功に向けて慌ただしく活動を続けていた。

 

「それでは、失礼します」

 

今日は花女の教師たちと、文化祭当日の出し物などの打ち合わせだ。

僕は会長でもある日菜さんの付き添いでここに来ているが、本来は副会長であるつぐの役割なので僕が行く必要はないのだが、当の本人は日菜さんのお願いによって慌ただしく走り回っているため、僕が代理という形で来ることになったのだ。

とはいえ、そのおかげで当日の見回りのスケジュールの打ち合わせもできたのだから、無駄ではなかったりする。

何せ、別の日にするはずの打ち合わせをまとめてすることができたのだから当然だ。

 

「会長、羽丘に戻るよ」

「その前に、おねーちゃんの教室に行きたい」

 

日菜さんの頼みに、僕は一瞬耳を疑った。

 

「日菜さん。今がどういう時期かわかる? 僕たちに寄り道をする余裕なんてないはずだよ? 現につぐだって今慌ただしく走り回っているのに」

「えぇ~、いいじゃん~」

 

体をねじらせながら食い下がるその様子は、まさに駄々っ子そのものだった。

 

「駄目」

「うぅ……じゃあ、下見! 文化祭当日の見回りのルートを決めるための下見! それならいいでしょ?」

 

何やらひらめいたのか、目を輝かせながら聞いてくるが、既に見回りのルートは紗夜と打ち合わせ済みだ。

 

「ルート決めだったら、もう紗夜と大体決めて……あー、わかったわかった。下見ね、下見」

 

そのことを言おうとした僕に、日菜さんから無言での上目遣いという攻撃を受けた僕は、結局日菜さんの提案を呑んでしまうのであった。

 

「やったぁー! おにーちゃんありがとうっ。大好きっ」

「はいはい……はぁ」

 

色々とツッコミどころ満載だが、今の僕にそんな気力など残っているはずもなく、スルーすることにした。

こうして、紗夜の教室を探す旅……ではなく、見回りルートを決めるための下見をするのであった。

 

 

 

 

 

日菜さんの後に続く形で校内を歩く僕は、文化祭に向けて準備を進めている生徒たちの活気に満ちた声を複雑な気持ちで聞いていた。

 

(本当は、僕も協力するべきなんだけどね……)

 

クラスの出し物の準備に参加できないというのは、意外にも辛い。

クラスの人達は僕が生徒会のメンバーであることをわかってか、「生徒会だから仕方ない」やら、「文化祭が成功するように頑張って」やら「これは猫カフェじゃない」等々の激励を受けた。

……最後のに関しては、多分文句だと思うけど。

とはいえ、今年で文化祭は最後。

出来れば、クラスのみんなと一緒に準備をしたかったのが本音だが、生徒会の一員としてこの合同文化祭を成功という結果で幕を閉じさせるのも重要なことだというのは分かっている。

 

(まあ、僕にできることをやろう)

 

そう結論付けながら、前のほうで両手を後ろに組んで辺りを見回しながら歩く日菜さんのほうに視線を戻した。

 

「おねーちゃんの教室はどこかなー♪」

 

(本音が出てるよ、本音が)

 

確かに、下見は建前だけどだからと言って本心を思いっきり口にするのは違う気がする。

紗夜に見つかれば間違いなくお説教コースのことを僕たちはしているわけで、紗夜の姿がないかを探すために自然とあたりをきょろきょろと見まわしてしまう。

 

「んー?」

 

階段の前まで移動したとき、日菜さんは足を止めると階段のほうを見て首を傾げる。

 

「どうかした?」

「今、彩ちゃんの声がしたような気がする」

 

足を止めた日菜への疑問に、日菜さんはそう答えるとすたすたと階段を下りていくので、僕もそれに続いていく。

 

(って本当にいたよ)

 

階段を下りた先には階段に腰かけているピンク色の髪の女子学生の姿があった。

後ろ姿ではあるものの、丸山さんで間違いはなかった。

当の丸山さんは、何かに夢中なのか斜め後ろの腰かけた日菜さんとその後ろに立つ僕に気づく様子がない。

 

「―――たいな、ハート」

「うわ、日菜ちゃんに美竹君!? 事務所チェック前だからっ」

 

どうやら、ブログに掲載する文章を書いていたようで、慌ててスマホの画面を隠す丸山さんだったが

 

「もう覚えちゃった」

「僕は見てないけどね」

 

日菜さんはばっちりと文章を読んで覚えたようだ。

僕はそんなに見てなかったので、覚えてすらいないけど。

丸山さん達や僕たちは、公式サイトという形でブログも行っている。

ただ、自分たちが考えた文章をそのままネットに掲載するというのは、リスクが高い。

主に不適切な表現や、まだ出してはいけない情報を出したり等々、生じうるトラブルを未然に防ぐべくブログに掲載する前に必ず事務所のほうに文面をチェックしてもらう必要があるのだ。

 

(そのくらいの危機管理を、他のことにも活かせばいいのに)

 

主にパスパレ関連のごたごたはスタッフ側のミスが原因だったりするので、非常に悔やまれる。

 

「『特別な思い出』って何?」

 

それはともかくとして、腰かけていた日菜さんが丸山さんが打ち込んでいた文面に書かれていた単語のことを尋ねる。

僕も地味に気になったので、丸山さんの答えを待った。

 

「花女でやる文化祭は今年で最後だから、思い出に残るようなことをしたいなって。……本当はパスパレのみんなでライブをしたかったんだけど事務所NGだって」

「そっかー」

 

残念そうな表情を浮かべている丸山さんに、日菜さんは静かに相槌を打つ。

今の僕には時間的な余裕はないけれど、もしそれがあったとしたら丸山さんと同じことを考えていたかもしれない。

とはいえ、事務所側からNGが出た以上、Pastel*Palettesとしてステージに立つことは不可能。

それでもステージに立ちたいのであれば、取るべき手段は一つしかない。

 

「だったら、パスパレじゃなくてただの彩ちゃんだったらいいんじゃない?」

「いっそのこと違うバンドメンバーの人を集めて特別バンドを組んでみるのもいいかもね」

 

日菜さんのアイデアに、僕も乗っかった。

それは、僕たちが前に取っていた手法だ。

ムングロとしてライブに出る許可を得る時間がない場合、編成を入れ替えてバンド名も別の物にしてステージに出たことがある。

自分の担当する楽器とは別の楽器ができる僕たちだからこそできた荒業で、相原さんからも”前代未聞”とまで言われたのは記憶に新しい。

とはいえ、彼女たちにそのようなスキルがないのは百も承知なので、メンバーを一から集めるほうが現実的だ。

 

「うーん……難しそうだけど、面白そうだね」

 

少しの間考えこんだ丸山さんも、意外と乗り気だった。

そのタイミングで階段から立ち上がって下に降りた日菜さんはこちらに振り返ると

 

「るんっ♪ ってきた!」

 

とウインク交じりに僕たちに言うのであった。

 

(あ、これやばいやつだ)

 

僕はこの時、日菜さんの様子から何度目かの嫌な予感を感じるのであった。




ということで、次回は日菜の暴走編です。
公式の予告でネタになっていたりしたものだったりしますが(汗)

この章のタイトルですが、もしかしたら 前後編と分けるかもしれないです。
まだ長さがどのくらいになるのかがわからないので、不明ですが決まりましたらあとがきなどでお知らせいたします。


週一での投稿で、申し訳ありませんが次回も楽しみにしていただけると幸いです。
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