「おっじゃましまーす!」
「日菜ちゃん? それに彩ちゃんに美竹君まで」
丸山さんに案内してもらう形で、向かったのは『3年A組』の教室だった。
そこには出し物の準備をしている白鷺さんと花音さんの姿があった。
「いきなりどうしたのよ」
「実はね――――」
ここではかなり不自然な部類に入る顔ぶれなだけに、怪訝そうな表情を浮かべた白鷺さんに、丸山さんがことの経緯を説明した。
「なるほどね。話は分かったわ」
話を聞き終えた白鷺さんは『花咲川の歴史』という本を机に置き、脇腹に手を当てるとこちらのほうに振り向いた。
「それでどうして私たちに?」
「……友達だから」
白鷺さんの様子から見て、明らかに賛成ではなさそうなのが伝わったのか、丸山さんの声も尻すぼみになっていく。
「私もパスパレのメンバーでしょ。日菜ちゃんも」
「ねーねー、おねーちゃんの机はどこー?」
自分の名前が出てきたというのに、当の本人は気にも留めずに紗夜の机の場所を聞いて、花音さんに教えてもらうとぱぁっと目を輝かせて紗夜の席と思わしき場所に駆けて行った。
「おにーちゃんもこっちにおいでよ! 大好きなおねーちゃんの席だよ!」
「……」
こういう時ほど無視が一番だというのは、もうすでに学んでいた。
なんだか白鷺さんたちの視線が痛いけど。
「ひ、日菜ちゃんはプロデューサーなんだ」
そんな痛い空気を変えるべく丸山さんが話しを変えてくれた。
「プロデューサー?」
「バンドの方針を決めたりする人のことよ。メンバーを集めたりバンドを支えたりとビジネスパートナーとして重要な役割を担う人よ」
(本人は、その自覚はないけどね)
とはいえ、メンバーを集めている筆頭は日菜さんなので、プロデューサーとしてはふさわしいのかもしれない。
「花音ちゃんもどう? 彩ちゃんと同じバイトしてるし」
「ふぇ!?」
満足したのか、紗夜の席からこちらのほうに移動してきた日菜さんは花音さんにスカウトの声をかけた。
「か、花音? 嫌なら断ってもいいのよ」
「……何で断る前提?」
慌てた様子で助言する白鷺さんに、小さくはあるけど、思わず口を継いでツッコミの言葉が漏れてしまった。
「うんっ。やろう!」
「本当!?」
だが、当の花音さんは二つ返事で頷いたことで、新バンドのメンバーとなった。
花音さんの目には強い意志のようなものが感じられる。
(本当に変わったんだね、花音さん)
数年前の彼女の姿からは想像がつかないような目をしている花音さんに、僕はどこかうれしさを感じずにはいられなかった。
とはいえ、もう一人の友人はそうでもないようで
「本当にいいの?! 花音、あなた日菜ちゃんか美竹君に何か弱みを握られているんじゃないの!? ねえ、答えて! 花音」
「ふぇ~~、そんなことないよ~~~」
(白鷺さん、僕たちを一体何だと……)
花音さんの両手を握って、必死になって問いただしている白鷺さんに、僕は心の中で疑問を投げかける。
口にしなかったのは、答えを聞くのが怖かったからだけど。
「どんどん行こう! ほら、花音ちゃんも一緒に」
「う、うん。そ、それじゃ行ってくるね千聖ちゃん」
そんな彼女たちのことなど興味がないといわんばかりに、花音さんに声をかけるとぱたぱたと教室の外に出て行った。
「待って! 花音ッ」
まるで姉妹が引き離されるように、片手を伸ばして止めようとする白鷺さんを見ないようにしつつ僕たちも教室を後にするのであった。
「それで、次はどこに行くつもり?」
「ふっふっふ~。それはね……ここだ!」
花女を後にして、電車に乗ったり迷子になりかけた花音さんを救出したりと向かった先は、コンビニだった。
「って、まさか」
そのコンビニにいる人物に見当がついた僕の予想を肯定するように、日菜さんは非的な笑みを浮かべてコンビニの中に入っていく。
「いらっしゃいませー」
「リサちー」
ちょうど売り場にある商品を並べる作業(名前は分からないけど)をしていたリサさんはこちらのほうに視線を向けると、その手を止めた。
「何何? ものすごく珍しい組み合わせじゃん」
「実はね、彩ちゃんが―――」
僕たちの組み合わせがよほど珍しいようで(実際そうなんだけど)興味津々な様子のリサさんに、日菜さんが本日二度目の事情を説明する。
「へぇ、面白そうじゃん。アタシもやってみたいかな」
「ありがとー、リサちー!」
こうして、ベーシストも二つ返事で了承したことで、メンバーを集めることに成功した。
「それじゃ、さっそく新バンド会議しよう!」
「はいはい。みんなの予定を考えてからそれを言おうね」
凄まじい勢いで、新しいバンドの方向性を決める会議を開こうとする日菜さんを、僕が止めた。
なぜなら
「ごめんね。アタシ今、バイト中だから……」
「私も千聖ちゃんと出し物の準備が……」
このように用事があって会議に出られない人がいるのだから。
「それじゃ、明日は?」
「明日だったら大丈夫かな」
「私も、今日で区切りが付けば大丈夫だよ」
「それじゃ、明日の放課後に……羽丘の生徒会室集合ということで」
日菜さんの問いかけに、全員大丈夫そうだったので、僕は最後にそう締めくくった。
花女に話し合いができるスペースがあるかどうかもわからないため、手っ取り早く話し合いの場を設けられそうな場所ということで羽丘の生徒会室にしたのだが、果たしてこれがどういう結果をもたらすのかはまだわからない。
「オーケー。一樹君案内よろしくー」
「あ、あの私も」
とりあえず、異論はないようなので問題はなさそうだ。
とはいえ、羽丘に案内するという仕事が増えてしまったけど。
「おにーちゃん、あたしもー」
「日菜さんは羽丘の生徒で、場所がわからないわけじゃないでしょうがっ! あと、おにーちゃん禁止!」
そんな中、便乗するように手を上げて案内してもらおうとする日菜さんに、僕はまくしたてるようにツッコミを入れた。
「美竹君、なんだかツッコミの切れが良くなってるよ」
「……全然嬉しくないんだけど、喜ぶべき?」
僕の聞き返しに、丸山さんは苦笑いを浮かべるだけだった。
「それじゃ、よろしくー」
そんなわけで、リサさんにお願いしつつ、僕たちはリサさんの邪魔にならないようにと外に出た。
「あ、日菜先輩っ! 美竹先輩!」
外に出た僕たちにかけられたのは、間違いなくつぐの声だった。
「やっと会えました……」
つぐの様子を見るに、僕たちが戻ってこないために色々と探し回っていたらしい。
(なんだかものすごく罪悪感が……)
「ちょうどよかった。つぐちゃんも一緒にやろう!」
「はい!」
当の日菜さんは、新バンドのメンバーにつぐを誘い、それにつぐは条件反射のように頷いていた。
「……って何をですか?」
「それじゃ、彩ちゃん花音ちゃんまた明日ねー!」
「あ、うん。またね」
「う、うん」
つぐの疑問に答えることなく、日菜さんは(おそらくは)学園に向かって歩き始めた。
「あっ!? ま、待ってください、日菜先輩!」
『………』
そんな日菜さんの後を慌てたように走ってついていくつぐに、僕たちは無言で顔を見合わせるしかなかった。
この一連の出来事をまとめるのであれば、まさに”嵐”のような感じだった。
「……とりあえず、僕も行くね」
「うん。明日はよろしくね」
そんなわけで、僕は丸山さん達とその場で別れて、二人の後を追いかけるように学園に向かって駆けだすのであった。
ちなみに、生徒会室に僕が到着した頃には既に日菜さんとつぐは戻ってきており、文化祭に向けての準備を始めていた。
「一君、おそーい」
「……悪かったね」
日菜さんの言葉に相槌を打ちつつ、僕も準備のほうに加わっていく。
結局、この日生徒会活動が終わったのは最終下校時刻になった時だった。
次回で多分本章は終わると思います。