第33話 目指すもの
合同文化祭の準備もいよいよ佳境だ。
両校の生徒会を含めた色々な人たちの頑張りによって何とか形になりつつあった。
二校での合同文化祭という初の行事による懸念事項は、尽きることなく出続けていた。
例えば、これまた日菜さん発案で立ち上げられたバンド。
ちなみに、名前は『合同文化祭記念バンド』となった。
日菜さんいわく『合同文化祭の記念になってるんってするから』とのことだ。
このバンドが文化祭ライブで演奏する楽曲はおろか、方向性すらも決まっていないという絶望的な状況だ。
結成当日は、あまり腰を据えての話し合いができなかったため、各自で考えてくることとなったのだが、それで出てくれば苦労はしない。
(とはいえ、あまり僕が出しゃばるのもな……)
なんだかんだ言ってこれは丸山さんの気持ちから生まれたバンドのようなものだ。
できる限り僕たち第三者が口を突っ込んでいくのは避け、丸山さんの考えを優先して構築していけるようにしたい。
と言っても、それで間に合わなくなっても本末転倒なので、最悪の場合は僕のほうでも意見を出したりするけど。
そんなバンドと同じくらいの懸念事項が存在する。
「失礼します」
「おはようございます。カメレオンさんっ」
場所は『HEPHAESTUS TOWER』の最上階のスタジオ。
中に入った僕をまばゆいほどの笑みで迎え入れるパレオさん。
そして、
「来たわね}
その横で威厳を示すべく仁王立ちしているチュチュの姿があった。
―――チュチュ。
それは、目の前にいる背の低い少女が名乗っている名前だ。
無論、偽名だろう。
彼女の何が問題なのか、それは
『あんなバンド、ぶっ潰してやるッ!!』
少し前に彼女が口にしたその言葉に尽きる。
彼女がつぶそうとしているバンドはRoselia。
理由はプロデュースを断られた逆恨み。
それを防ぐべく、警戒を強めていたところに、本人からのスカウトが来たことで僕はこれ幸いにと彼女のバンド内に潜り込んだのだ。
もちろん、それだけが理由なわけでもなく、彼女の作った曲を演奏してみたいという気持ちがあったのも事実。
そんなわけで、文化祭の準備をしながら彼女たちの動向を監視しているのだが、この日は一人多かった。
「早速だけど、ニューメンバーを紹介するわ!」
「やっぱりお前か。こいつから話を聞いた時はもしかしてと思ったが……これからよろしくなっ」
「ええ。よろしくお願いします。佐藤さん」
チュチュの言葉に続いて、先ほどまでソファーに腰かけていた佐藤さんは立ち上がると、気さくな感じでそれに応えた。
(ドラム、キーボード、ギター。もうかなりそろってるな)
残すのはベースのみだ。
彼女の真意がわからない時点で、脅威以外の何物でもないがとはいえここで下手に動けばせっかくのチャンスが水の泡だ。
結局のところ、僕は手をこまねいているのだ。
「おはようございます」
「来たわね。紹介するわ、彼女はレイヤ。ワタシの最強のバンドのベーシストよ!」
そんな時、訪れてきたレイヤと紹介された少女は、僕のほうを見ると
「また会いましたね。これからもよろしくお願いします」
「いえいえ。こちらこそ」
少しだけ緊張した面持ちであいさつをしてきたので、僕もそれに倣って挨拶をした。
「これで、メンバーは全員集まったわ!」
「おめでとうございます! チュチュ様っ」
「ところで、このバンドの名前は?」
メンバーがそろったことに喜びを隠せないチュチュに、僕はその横でお祝いの言葉を口にしているパレオさんをしり目に疑問を投げかける。
「……Sorry。もう少しだけ時間を頂戴。最強のバンドにふさわしい最強の名前を考えるわ!」
どうやら、バンド名のことは二の次だったようで、少しだけ考えこむ仕草をしたチュチュは、強い決意を込めるようにそう言うと、話を打ち切った。
「早速だけど、ブースに入って頂戴。今のあなた達の演奏力を見たいわ」
「はい!」
「ああ」
「分かりました」
チュチュの指示に従い、僕たちはブース内に入る。
そこは、前に僕がオーディションを受けた場所だった。
だが、今回はメンバーが全員そろっている。
『それじゃ、初めて』
ブースの外でこちらを見ていたチュチュの言葉により、演奏が始まった。
(これは、中々……)
生演奏だからというのもあるが、前よりもこの曲が生き生きしているように感じられる。
中でもベースとドラムが群を抜いてすごいのだ。
ベースのレイヤさんの力強くも正確なベースと、大人びたクールな歌声は湊さんには及ばないものの、非常に熱いものを感じられる。
ドラムの佐藤さんも同じだ。
狂犬というあだ名。
それはいい意味か悪い意味なのかを問われれば、後者のほうになるであろうその呼び名足る彼女のそれも、この曲にとっては熱量をさらに高めるスパイスのようなものとなっていた。
この場にいる全員の良し悪しがすべていい方向になるようにコントロールされているといても過言ではない。
(これは、上手くすれば三柱の一つになるかも)
今、大ガールズバンド時代と言われているからか、数多のガールズバンドが誕生しつつある。
その中でもトップクラスを言っているのがRoseliaということになるが、それだけだと少々味気ないと感じていたりする。
そこで僕が考えたのが、大ガールズバンド時代を引っ張っていくシンボル的(いわば神のようなものだろうか)存在を作りあげることだった。
その要素は主に、”絶対的な王者”、”完全無敵”、”最強”の三つだ。
前二つはすでにどのバンドが当てはまるかは決まっている。
最初のはもちろんRoseliaだ。
次がPoppin'Party。
演奏技術は高くないが、それでも見ている人たちを楽しませることができるライブをしているのが主たる理由だが、それとは別にもう一つの理由もある。
だが、その理由をうまく説明することができない。
感覚ではわかっているのだが、いざ言葉にしようとするといい言葉が浮かばないのだ。
後は最後の一つのバンドを決めることだったのだが、チュチュ率いるこのバンドはその最後の一ピースになりうる可能性を秘めている。
だが、それにはこのバンドの見極めが不可欠だ。
そんなことを考えながらも、僕は演奏を続けるのであった。
BanG Dream!~隣を歩む者~ 第7章『合同文化祭~予兆編~』
「……つけられてはいないみたいだね」
駅の男子トイレ内に入った僕は、ほっと一息つきながら個室に入る。
そこで今までつけていたサングラスを外せば、謎のサポートギター”カメレオン”から男子学生、美竹一樹に早変わりだ。
(なんだかんだ言って、やっぱりのめりこんでるよね。これ)
美竹一樹に戻った瞬間に感じるこれは、ある種の罪悪感だろうか?
Roseliaに仇なす者たちに、結果的には力を与えてしまっている。
(僕の自由に……と言われても)
思い出すのは、彼女のバンドのメンバーになることを伝えた時の湊さんや紗夜、啓介たちの反応だ。
皆、誤差はあれど行っている内容は同じで『あなたの自由にすればいい』だった。
本当にいい友人や彼女に恵まれたと思うが、それでも罪悪感を感じずにはいられない。
(とにかく、今しばらくは様子見……それしかないか)
結局、現状維持になってしまうが、本当にそれしか僕の取れる方法はなかった。
(とりあえず、潰すプランだけでも立てておこう)
バンド内に同じステージで演奏をしたものが二人もいるのは、こちらにとっても都合がいい。
もし行動を起こすとすれば、あの二人を基軸にするのが効率がいいだろう。
だが、この後チュチュのバンドがきっかけで、僕の知り合いのバンドに不穏な空気を漂わせることになるということをこの時の僕には、想像すらできていなかった。
今回で、今月の投稿は終了となります。
執筆時間の関係で、あまり更新ができませんでしたが、次回の投稿をお待ちいただけると幸いです。