花園さんにギターを教えることになったとはいえ、文化祭の準備も佳境となるこの時期につきっきりで教えることなど不可能に近く、放課後の時間は文化祭の準備に費やされることとなっていた。
チュチュには”どうしても抜けられない仕事がある”と言っておいたが、それもどこまで持つのか疑問だ。
そんな放課後、僕と日菜さんに丸山さんとリサさんに花音さんにつぐ、そしてモカさんから構成される合同バンドメンバーは、生徒会室に集まっていた。
その理由は言う稀もなく合同バンドの打ち合わせだ。
「それでは、新曲を作ります!」
『おー!』
席を立って、声を上げる丸山さんに、モカさんたちも声を上げたり手を上げたりして応える。
つまり、そう言うことだ。
現段階で、まだ演奏する曲の案が出てきてないのだ。
「それで、どうすればいいのかな? 美竹君」
「まずは楽曲のテーマから決めたほうがいいと思う。ジャンルとかだとあまりぱっとしないと思うから」
丸山さんに意見を求められた僕の言葉に、みんなはなるほどと感心したような声を漏らす。
この中で、作曲を担当しているのが僕だけなので、僕が口をはさむことになってしまうわけだ。
「うーん……そう言えば、Afterglowってどうやって作曲してるの?」
「えー、いつも通りに蘭が何時も以上にムムーって考えてますね~」
少しでもヒントを得ようと丸山さんはAfterglowやRoseliaの作曲方法を聞いて回るが、どれも個性的なものばかりだ。
祈っていたり、落とし込んでみたりとこれって参考になるのだろうかと思えるようなものがいくつも出てきたけど。
(ん? 戸山さん?)
そんな彼女たちを見ていると、静かに生徒会室に入ってくる戸山さんの姿を捉えた。
おそらくこっちに運んできた段ボールをそっと置くと、空いている席に腰かけてメモ帳とペンを取り出して何やら書き始めた。
(もしかしたら、戸山さんも何かを学ぼうとしてるのかな)
Poppin'Partyの作曲はりみさんと花園さんが担当していた記憶があるが、これもまた成長ということだろうか。
「戸山さん、中に入る時はノックをしてからにするように」
とはいえ、こっそりと生徒会室に入ることはあまりよろしくないので、軽く注意の言葉を彼女にかける。
『え!?』
「香澄ちゃん!?」
「す、すみません。ちょっと作曲の勉強をしたくて」
「それは構わないけどね」
その場にいた全員の驚きのこもった視線に、ペンで頭をつつきながら謝る彼女にそう告げたからか、それとも戸山さんがここにいる理由を知ることができたからか、みんなは戸山さんから視線を外した。
「ムングロはどうやってるの?」
「僕たちはシンプルに浮かび上がったメロディーを記録しているだけだよ……こんなふうに」
そう言って僕はスマホを操作して一枚の写真を表示させると、それをみんなに見えるようにデスクの上に置いた。
「これって、生け花だよね?」
「おぉ~、これはなかなかの代物ですなー」
「へぇ、アタシこういうの初めて見たからちょっと新鮮かも♪」
(あ、これ生け花の作品として見られてる)
全員の反応から見て、間違いない。
これまで、僕の作曲方法を離したときの反応は、大体がこんなふうになって
「これが、楽譜なんだけど」
『え!? これが?!』
そして、これが楽譜であることを教えると今のように驚かれるのが定番の流れになっていた。
「いやいや。これはどう見ても普通の生け花にしか見えないって」
「だよね。みんなからも言われるよ。でも、これが僕にとっては楽譜代わりなんだ。思いついた曲をこういう風に形にして写真にとって保存する。後は、作詞を担当している啓介がこの曲に合う詩を書きあげるのを待つか、詩を書いてもらうかしてできた歌詞を併せて曲の完成」
その前はどうやっていたのかは、もう思い出せそうになかった。
多分、自分なりのやり方を当時はしていたと思うのだが、それも今となっては思い出せるわけでもなく、また思い出そうとすらしていなかったりする。
そのくらい、今のやり方がすんなりといい感じに収まっているのかもしれない。
「でも、これを見てムングロのみんなはメロディーを思い浮かべられるんだね」
「無理」
「ば、バッサリ言うんだ」
切り捨てるように答える僕に、花音さんは苦笑を浮かべる。
実際、試してみたことがあるが誰一人、この写真から僕の思い浮かんだメロディーを理解できた者はいなかった。
啓介いわく、『なんとなくわかるんだけど、無理』とのこと。
「じゃあ、どうやって音にしてるの?」
「普通にパソコンに打ち込みで。これはメモ帳のようなものだから。ちなみにこの作品はパスパレの曲だけど」
「えぇ!?」
最後のほうに付け加えるようにして告げた事実に驚きを隠せない丸山さんは、写真をじっと穴が開くくらいの勢いで見つめだした。
「どれどれ……」
そんな丸山さんの横から、その写真を覗き見た日菜さんは、しばらくの間真剣な表情で写真を見続けていると
「わかった! これネギだ!!」
「え? そんな曲の名前あったっけ?」
「……いや、僕もそんな名前の曲は作ってない」
某有名な、メロディーと歌詞を入力することによってできる音声合成技術のソフトウェアで代表されるキャラクターじゃあるまい。
生徒会室内が何とも複雑な雰囲気に包まれていく中、僕と丸山さんは必死に日菜さんの口にした”ネギ”の曲を思い出す。
(駄目だ。全然思い浮かばない)
日菜さんの言うことはなんとなくは分かるようになってきたと思っていたが、どうやらまだまだのようだ。
(そもそも、これって『SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ』って言う曲だし……ん? まさか)
正解を考えたところで、僕はある可能性を日菜さんに確かめてみることにした。
「日菜さんもしかして、『SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ』のことを言ってる?」
「うん、それそれ! 長いからネギって呼んでるんだよね~」
(当たっちゃったよ)
出来ればあてたくなかったが、僕が言いたい言葉は一つしかない。
「「そんな略し方はしないよ(するかっ!)」」
丸山さんと声が重なるが、そんなことなど今はどうでもよかった。
何をどう省略すればネギになるのかが全然わからない。
「そもそも、勝手におかしな略し方をしないで……」
流石に、この曲がファンの人たちにネギと言われるのは複雑すぎる。
「うーん……日菜ちゃん、何かアイデアはない?」
そんなこんなで、脱線した話を丸山さんが戻しつつ、日菜さんにアイデアを聞く。
「テーマはバイトでいいじゃない?」
『あ、それだ』
日菜さんが軽い口調で出したアイデアが、どうやら丸山さん達にはしっくりと来たようで、バイトがテーマとなった。
「だったら、バイトの応援ソング的なものはどう?」
「それすごくいい!」
後はすさまじい勢いだった。
次々に意見が出てきてアッという間に『バイトの応援ソング』というテーマが出来上がった。
「一樹君、こんな感じで作曲できそう?」
「それならいい感じのメロディーがあるよ」
僕は今井さんに答えつつ、その曲のことを思い出した。
それは、少し前に作ったメロディーだったが、曲調的にムングロには合わず、パスパレにも合わないために完全にお蔵入りとなってしまったものだったが、応援ソングという立ち位置であれば、多少の手直しは必要だが十分にぴったりと適合するはずだ。
「それじゃ、一樹先輩が曲を完成させるまで、あたしたちは練習行っときますかー」
「一樹君、曲はどのくらいでできそう?」
「明日には出来上がるよ」
曲のイメージは出来上がってるので、あとはそれをパソコンに打ち込むだけだ。
「あ、あはは……やっぱり一樹君ってすごいね」
そんな僕の返答に、花音さんは複雑そうな表情で声を漏らす。
その時の花音さんの表用に、若干寂しさを感じた僕だったが、何も言うことはできなかった。
「それじゃ、また明日ここに集合ってことで、今日は解散~!」
そんな僕のことなどお構いなしとばかりに、日菜さんはそうまとめるのであった。