BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第36話 目処とスカウトと

「当日の見回りはどのように?」

「はい、そちらは―――」

 

数日後、今日も今日とて文化祭の準備のために花女のほうで教師たちとの話のすり合わせを行っていた。

今日の話をもって、見回りのタイムテーブルを組むこともあり、責任重大だ。

 

「では、この内容で決まりということで、羽丘の生徒会長に伝えるように」

「はい。ありがとうございました」

 

内容もまとまり、先生に一礼をして職員室を後にすると、羽丘に戻るべく昇降口に向かって歩き出した

 

「一樹君」

「あ、紗夜」

 

そんな時、僕は紗夜に呼び止められた。

 

「今日も、話し合いだったのね」

「まあね。今日は最終確認といったところかな」

 

ここ数日ほど先生方との話のすり合わせに来ているので、いざ過ぎてしまえば感慨深いところがある。

 

「それよりも、練習見に行けなくてごめんね」

 

文化祭の準備が本格化してからという物の、Roseliaの練習を見に行くことができないでいた。

準備のほうもそうだけど、チュチュのバンドのほうの都合も影響しているのだが。

 

「大丈夫よ。湊さんも、一樹君が文化祭の準備で忙しいことは分かっているから」

 

紗夜は柔らかい笑みを浮かべてそう言うが、最後に”でも”と言葉を区切る。

 

「あなたに会えなくて、寂しい」

「……ッ」

 

頬を赤らめながら上目遣いで付け加えた紗夜に、僕は一瞬鼓動が早くなるのを感じた。

 

(そう言えば、ここ最近ご無沙汰だったもんね)

 

文化祭前までは、一緒に学園に行ったりキスをしたりとしていたが、ここ最近は忙しくてそれができないでいた。

 

(今なら、大丈夫かな)

 

人気のないこの場所なら、軽く唇を触れ合わせる程度なら問題ない。

 

「紗夜」

 

そう自分に言い聞かせるようにして僕は、彼女の名前を口にする。

 

「一樹君」

 

対する紗夜も、僕の意図が伝わったのか、恥ずかしそうに目を閉じて受け入れようとしていた。

そんな彼女の唇に、僕は顔を近づけ―――

 

「「ッ!?」」

 

ようとしたところで、僕の持っている携帯が嫡子の告げるように鳴り響いたため、慌てて僕たちは距離をとった。

 

「ご、ごめん。マナーモードにし忘れてた」

「い、いえ。電話出たほうがいいのでは」

 

顔を赤くして慌てながらも、僕は紗夜の提案に乗る形で、電話に出た。

 

「も、もしもし」

『木漏れ日工房の者だが、今の時間大丈夫かね?』

 

(ッ!!)

 

電話の相手が名乗った名前に、僕は思わず息をのんだ。

 

『木漏れ日工房』

そこは、僕のギターが壊滅的なダメージを折った際に修理を依頼したお店の名前だった。

 

(そう言えば、そろそろ半年が経つけど)

 

思い返すと、時間の流れはあっという間なんだなと、僕はあらためて実感していた。

 

「だ、大丈夫です」

『そうかい。お宅が頼んだギターの修理だが、終わるめどが立った』

 

電話先の店主の言葉に、僕はドキッとした。

 

「ほ、本当ですか!?」

『おうともさ。修理が終わる日になったら受け取りに来な。予定日は一週間後の6月9日だ』

 

店主から教えてもらったその日は文化祭の二日目だった。

 

「朝伺っても平気ですか?」

『こちらは構わないがね。それじゃ、当日ギターを用意して待ってるので』

「ありがとうございました」

 

お礼を言って、僕は電話を切った。

 

「誰から?」

「修理屋から。ギターの修理が完了しそうだって」

 

電話を聞いていた紗夜が、電話を切るタイミングで聞いてきたので、僕は紗夜に先ほどの電話の要件を話した。

 

「良かったわね。ギターが直って」

「ああ。本当に良かったよ」

 

紗夜とのキスはお預けになったけれども、それでもギターが直るという一報は非常にうれしいものだ。

 

「文化祭が終わったら、みんなでセッションさせてほしいな。試運転もかねて」

「湊さん次第だけど、たぶん大丈夫よ。楽しみにしてるわね」

 

そして僕たちはその場で分かれると、僕は花女を後にするのであった。

 

 

 

 

 

(ギターのほうも修理が完了した。後はバンドのほうか)

 

羽丘に戻る電車の中で、僕は考えを巡らせる。

現在、僕たちMoonlight Gloryは活動停止中だ。

それは、僕たちを守るためという理由もあるわけだが、最近になってようやく色々と鎮静化してきたと言こともあり、活動開始も間近であると僕は踏んでいる。

日程が決まり次第連絡をよこしてくるって言ってたけど、そろそろ来る頃かな。

その時、再びスマホが震えだした。

先ほどマナーモードにしたので、今度は音が鳴ることはない。

僕はスマホを確認すると、どうやらメールが届いたらしく未読メールを知らせるメッセージが表示されていた。

 

(相原さんからだ)

 

僕たちのバンドのスタッフでもある相原さんからのメールだった。

 

(……思った通り)

 

そのメールを確認した僕は、一人ほくそ笑む。

そのメールはメールでの連絡を謝罪する文面からは始まっていた。

 

『当事務所では、ムングロの皆さんの安全面を考慮し、活動を停止としておりましたが、安全面が確保されつつあるという状況を考慮し、活動再開を決定いたしました。

つきましては、今月末から月上旬のいずれかでライブを予定しております。詳しい日程に関しては、決まり次第ご連絡いたします』

 

そこでメールは終わっていた。

ついに活動再開も目前となってきて、再び僕たちの歩みは始まろうとしていた。

 

(今度、みんなとライブのことで相談しないとね)

 

僕はそう考えながら外車窓を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

「着いた……っと、あれ?」

 

学園の最寄り駅に着いた僕が駅を出ると、反対側の路線のホームで電車が来るのを待っている湊さんの姿が見えた。

 

(話しかけておくか)

 

無視するのもなんだかあれなので、声をかけることにした僕は、ホームに向かって足を進める。

 

「今帰り?」

「美竹君。ええ、そういうあなたは今戻ってきたところ?」

「まあ、そんなところかな」

 

相変わらず湊さんの言葉はそっけない感じだが、さすがになれてきたものだ。

 

(もっと表情を柔らかくすればいいのに)

 

そんなことを口にしようものなら二人からの地獄の鉄槌は覚悟しなければいけなくなるので、言いはしないけど。

 

「そう言えば、この間お願いした件だけど、どうかしら?」

 

湊さんや、啓介達には僕がチュチュのバンドにスカウトされ、お試し期間付きではあるが加入したことは話してある。

そうでないと、いずれ分かった時に色々と面倒ごとにもなりかねないからだ。

 

「ああ。あれについては今、潜入して監視してるよ」

「あまり、無茶はしないで。紗夜が悲しむから」

「言われなくても、そのつもりだよ」

 

湊さんの紗夜を気遣った言葉に、僕は当然だと思いながら頷いた。

 

(もう、あんな目に合わせるなんて御免だ)

 

だからこその潜入なのだ。

 

「友希那先輩! 美竹先輩!」

「ん? 戸山さん」

 

僕たちを呼ぶ声がしたと思い、声のほうに顔を向けるとこちらに向かって駆けてくる戸山さんの姿があった。

その手には段ボールが三つほど積まれている。

おそらくは文化祭で使う道具だろう。

 

「文化祭の準備?」

「はい! 私たち、文化祭ライブに出ます」

「……主催ライブは?」

 

段ボールを一度地面に置きながら答える戸山さんの言葉に、自然と湊さんの声も真剣そうな声色になる。

 

「主催ライブもやります。皆で一つずつ頑張って準備を進めているんです」

「……なるほど」

 

戸山さんのいつになく真剣な目がそれが本気であることを告げていた。

二つのライブの準備を並行して行うことの大変さは、彼女達も想像はつくはずだ。

それでも、あえてやろうとするその熱意に、僕は舌を巻いていた。

 

「友希那先輩」

「何かしら?」

 

だが、彼女の話しには続きがあったようで、僕は二人の邪魔にならないようにと一歩後ろに下がり戸山さんと湊さんのやり取りを見ることにした。

 

「友希那先輩と美竹先輩たちにも私たちのライブに一緒に出てほしいです」

「……考えておくわ」

 

戸山さんのまっすぐなその目を見た湊さんは前向きな意味合いの保留という形で返事を出した。

 

きっと、湊さんだったらオファーを受けるだろう。

 

(それはいいんだけど、問題は)

 

「戸山さん。僕の幻聴だと思うんだけど僕の名前を出さなかった?」

「はい! 美竹先輩にも私たちの主催ライブに出てほしいんですっ」

 

今度ははっきりと言われたので、僕の聞き間違いでも幻聴でもない。

湊さんですら驚いているのだ。

僕が驚くのも当然なのだ。

 

「ノリとか冗談で言ってるわけじゃないんだよね?」

「もちろんですっ。あ、でもムングロは活動が……」

 

僕たちがステージに立つというのがどういう意味なのか、戸山さんは理解している……と、捉えることにした。

 

「……もうじき、活動再開だから、そこは問題ない。ただし、二つほど条件を付けさせてほしい」

 

今更僕達の置かれている状況に気づいたのか、はっとした表情を浮かべる戸山さんに僕はフォローしつつ、二つの条件を出すことにした。

 

「一つ。僕たちムングロが参加することは誰にも言わないこと。ポスター類にも名前は一切明記せず、シークレットゲストのような形にすること」

 

それは、戸山さんたちPoppin'Partyと彼女のライブに出演するバンドへの配慮だ。

Poppin'Partyの主催ライブは、おそらく時期的にも、活動再開直後のライブになる可能性は非常に高い。

そんな状況で、僕たちの出演が知られればどうなるかなど、想像するに難くない。

本当に見に行きたい人が見れなくなるのは、僕としても心苦しい。

だからこその配慮だ。

 

「二つ目。主催ライブまでの間、ミュージシャンとしてやってはならないことをしないこと。この二つの条件をのんで貰えるのであれば、前向きに検討させてもらいたいんだけど……どう?」

 

二つ目は一種の試験のようなものだ。

僕たちがライブに出るにあたって、彼女たちがミュージシャンとしての信頼に値するかどうかを見極めるための。

 

「……はい。たぶん大丈夫です」

「わかった。それじゃ、今後の連絡は中井さんを通じて行うという方向でいくとしようか。よろしく頼むよ、戸山さん」

 

そして僕と戸山さんは握手を交わす。

 

「それじゃ、失礼しますっ」

 

話しが終わったのか、戸山さんは段ボールを再び持ち上げると、駆けて行った。

 

「大丈夫なの? あんな安請け合いして」

「まあ……ちょっとばかりもめるだろうけど、納得させるから大丈夫」

 

主にリーダーが反発するのは必至なだけに、気が滅入るが何とかなるだろう。

 

「それじゃ、僕も失礼するよ」

 

そして僕もまた湊さんの前から駆け足で立ち去るのであった。

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