そうこうしているうちに、僕たちと日菜さんは別れて、僕たちはRoseliaの練習場所となっているライブハウスCiRCLEに着いた。
「おはようございます。遅れてしまいすみません」
「おはよう、紗夜。大丈夫大丈夫、まだ時間まで余裕があるよ」
CiRCLEのロビーには、僕と紗夜以外のメンバーがそろっていたが、リサさんの言う通りまだ集合時間より少し前だった。
僕たちは彼女たちが座っている席のところに歩み寄る。
「それにしても燐子と紗夜に一樹君は生徒会の仕事があるから大変だよね」
「すみません。ですが、練習には支障が出ないようにしますので、安心してください」
リサさんの言葉に、紗夜は生真面目に力強い口調で返す。
(紗夜がそういうってことは、大丈夫っぽいかな)
「ふっふっふー。さらなる進化を超えた大魔姫、あこ姫ここに降臨っ!」
「あー、あこさん入学おめでとう」
相変わらずと言えばあこさんだろうか。
語彙力は高まったが、相変わらず中二病のようなセリフは、高校になっても健在のようだった。
先ほどの、練習の時間が午後になった理由が、今日が入学式を迎えるメンバーがいたりそれ関連で学校に行く必要がある人がいたからだ。
「……雑誌を広げて何をしてたんですか?」
そんな中、彼女たちが座っている席のテーブルに置かれていた音楽系の雑誌と思われるものに視線を向けながら、紗夜さんが疑問を投げかける。
「あー、これ? これは……」
「美竹君、あなたのことが書いてあるわ」
紗夜の疑問に答えようとするリサさんの言葉を、遮るようにして湊さんは僕のほうを見ながら言うと、僕に見えるように雑誌を移動させた。
紗夜と一緒に雑誌をのぞき込んでみると、そこには『謎のギターリスト、カメレオンの正体に迫る!』という見出しの記事が書かれていた。
雑誌には、今年の冬に突如として現れた性別や年齢が不詳の謎のギターリストで、どのようなバンドでもリハを行っただけで、まるで元からそのバンドのメンバーだったかのようにバンドの音に合わせられることから、体の色を変化させることができる動物である『カメレオン』の名前で呼ばれている。
過去にも同様の名前が愛称のギターリストがいたが関連は不明らしい。
そのようなことが羅列されており、最終的には正体を特定するには至っていない。
尤も、その正体は僕なわけだけど。
「この記事は、どの雑誌よりも、かなり美竹君に迫っていると思うわ」
「うん、これはかなりいい線行ってると思うよ」
湊さんの言葉に、僕は相槌を打つ。
これまで、いくつかの説を僕は見聞きしている。
例えば、プロバンド説。
プロのバンドのギターリストが話題作りのためにやっているというものだけど、これは全く持って見当違いだ。
他にも、幽霊とかオカルトチックな説があげられていたが、この雑誌で提唱されていたのは『HP説』だった。
今回は、黒装束を身に纏っていたのだが、それが数年前に現れたバンド『hyper-Prominence』の特徴と酷似していると指摘している。
仮にそうだとしたら、このカメレオンは順当に考えれば『GK』……つまり僕か『AG』……森本さんのどちらかになるが、この説の真偽及び人物の特定には至っていない。
それがこの記事での最終的な締めくくられ方だったのだ。
「一樹君、本当に大丈夫なの?」
「そもそも、なんで名前とか素顔を隠してるの?」
心配そうにこちらを見てくる紗夜に続くように、リサさんが根本的な疑問をぶつけてきた。
確かに、そうだ。
元から素顔をさらしていれば、苦労することはそうそうないはずだ。
「それはね、リサ姉。そうするとカッコいいからだよ!」
そんなリサさんに、あこさんは自信に満ちた様子で断言してきた。
「あ、あこちゃん。さすがに、それは……」
「まあ、そんなところかな」
「ええ!?」
僕の答えに、リサさんはおろか断言していたあこさんまでもが驚きの声を上げる。
「一樹君……」
そして、そんな僕に注がれる紗夜からの呆れたようなまなざしは、かなりつらかった。
「というのは冗談で、かっこいいからっていうのもあるにはあるけど、面倒だからというのも一つの理由かな」
その視線に耐え切れなくなった僕は、慌てて説明し直す。
素顔をさらしたことで、生じるであろう問題を考えれば、このくらいの手間はどうってことはない。
もちろん、何もかもが謎に包まれているというのは、僕的には男のロマンにも思っているからという理由もあるのが事実だけど。
「そういえば、主催ライブのほうはどう?」
数日前に、湊さんが口にした主催ライブのことが気になっていた僕は、湊さんに聞いてみることにした。
「その件で、あなたに意見を聞こうと思ったのよ。このライブの目標の部分でね」
「そうそう、一樹君からも意見とかほしいかな」
「うーん、そうは言われてもねえ……」
意見を求められるのは僕とすいてはうれしい限りだが、果たしてどうしたものか……
「とりあえず、各々が抱えている問題点を一つでも克服すること。そのうえで、主催ライブを成功させること……かな」
結局僕が癒えたのはそのくらいだった。
彼女たちがレベルアップをしてくれればそれだけでもいいが、今回やろうとしているのは主催ライブ。
主催ライブと言うのは、ライブハウスがバンドを集めて行うライブである『ブッキングライブ』とは違い、そのバンドが開催するライブを言う。
ブッキングライブは、ライブハウスやスケジュールなどは、そのほとんどがライブハウス側で決められているので、ライブの練習に専念できるメリットがある一方で、自分のやりたいようなライブができないというデメリットもある。
逆に、主催ライブではライブをしたい場所やライブの構成等々自分たちで決めることができるので、自由度は増すメリットがある一方で、すべての準備を自分たちでやる必要が出てくるうえに、チケットのノルマといった諸々のことまで考えて行かなければいけないデメリットが存在する。
そういう意味では、主催ライブとは一言でいうが、開催するまでにはとてつもない労力と交渉術が問われるのだ。
僕たちは、事務所に所属しているので、こういった問題については気にする必要がない。
そういう意味では、事務所に所属していることのメリットともいえるだろう。
(まあ、今は完全にデメリットのほうがでかいけど)
自分の置かれている現状に、僕は心の中で苦笑する。
「わかったわ。リサ、あこ、紗夜、燐子。この主催ライブを成功させるわよ」
『おー!』
湊さんの言葉に、みんなが右手を上にあげて声を上げる。
紗夜も顔を赤くしながらではあるものの同じように右手を上げている姿は、なんとも感慨深くもある。
「さあ、練習を始めるわよ」
「はーい!」
練習の開始時間が来たようで、湊さんの号令により僕たちはスタジオに向かっていく。
これが、いつもの僕の日常なのだ。
本作は、基本的にアニメの話の通りに進行していきます。
ところどころオリジナルを入れる予定ですが、本作での5話分が、アニメ1話分になる予定です。